黄不動明王像 里帰り特別公開
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- 旅行時期:2023/05(約3年前)
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by たびたびさん(男性)
下鴨・宝ヶ池・平安神宮 クチコミ:196件
「黄不動明王像 里帰り特別公開」を拝見してきました。黄不動は実質的にこれが見納めとなるようですからね。
ただ、当初の予想通り、これを見て素晴らしい感動があるかというとそういうことではないですね。美しさや荘厳さ、神秘性や精神性もそこまでではない。これを見て、予備知識もなくて何かを感じろと言われても正直難しいというのが本当のところではないでしょうか。
ところで、この黄不動は三井寺の黄不動を模写したもの。三井寺の黄不動は秘仏であり国宝なのですが、それを模写したものまで国宝になっているのは稀有な例です。まあ、それは枝葉。。そもそも黄不動は天台宗の第5代座主、円珍が修行中に感得した金色の不動明王を写しとらせたものと伝わります。今ではすっかりお馴染みとなった不動明王ですが、その始まりはこの円珍の感得した黄不動からと言われているのですね。不動明王はすべてを焼き尽くすような憤怒の形相が慈悲の心と表裏一体。憤怒が激しければ激しいほどありがたみも増すといった感覚でしょうか。つまり、そういう感覚からすると、黄不動は大きく目を見開いていますが、憤怒というよりは威嚇のレベル。円珍を陰から守護する守護神としての匂いもあって、やはり今の感覚とは違いますね。ちなみに、東大寺法華堂の執金剛神立像は仁王像の原型と言われているのですが、それと同様に、現在の不動明王の原型はこの黄不動と捉えればその違いはその後の進化や変容の証なのかも。そう思うとかなり見方も変わってくるのではないかと思います。
ここからは蛇足ですが、天台宗は比叡山の山門派と三井寺を中心とする寺門派の対立があって、円珍は寺門派の始祖という存在。最澄が弱点とした密教を補完する以上に台密の隆盛をもたらし、さらには密教の優位性も説いていて、天台宗の最高の経典は法華経なのに、それを否定しかねないきわどいものがあると感じるのは当然かもしれません。ただ、第3代天台座主、円仁も台密を補完することに熱心でしたから、大きく見れば同じ流れではあるんですけどね。私は、天台宗が最澄亡き後、密教の弱点を補うことに汲々としたことで、本来の天台宗の発展が削がれてしまった面があるのではないかと思っています。一方で、そのことが比叡山から鎌倉仏教の諸宗が生まれた側面もあるので、その辺はまた面白いところなんですが。そういう意味でいうと円珍は私的にはちょっとネガティブな評価となります。ただ、敢えて、前向きに評価すると、円珍は仏教というかそのルーツであるインド哲学の基本、知と行の重要性に気が付いていたのかも。鎌倉仏教の諸宗はそれまでの官営の仏教から大衆仏教への道を開いたのですが、キーは広く大衆に馴染める行を柱にしたこと。念仏や題目を唱えたり、精神統一の禅も同じですね。それは知を極めるための修行ではなくて、行のための行。空海が攻撃した顕教の限界は結果として間違ってはいなかったとも言えるかもしれません。諸宗が生まれたのは比叡山ですが、空海や密教もしっかり影響を与えている。そんなことではないかと思います。
参考まで(https://4travel.jp/travelogue/11008018)
- 施設の満足度
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4.0
- 利用した際の同行者:
- 一人旅
- アクセス:
- 4.0
- 人混みの少なさ:
- 4.0
- バリアフリー:
- 4.0
- 見ごたえ:
- 4.0
クチコミ投稿日:2023/05/16
いいね!:3票
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