明知鉄道と保古の湖2020～日本一急勾配の飯沼駅と東濃の軽井沢～（岐阜）

2020/03/15 - 2020/03/16

「明知鉄道（あけちてつどう）」は、岐阜県南部の恵那駅と明智駅25.1kmを結ぶ路線で、国鉄明知線から引き継いだ第三セクターの鉄道です。
2つの峠を越える急勾配と急カーブの連続する路線は、途中に女城主ゆかりの城下町「岩村」があります。
急坂に停車する「飯沼駅」は、勾配33‰の「日本一急勾配の駅」です。

「保古の湖（ほこのこ）」は、恵那市東野と中津川市にまたがる根の上高原（ねのうえこうげん）にあり、大正14年（1925）に完成した灌漑用の人工湖です。
標高850mにある周囲5km、最大水深16mの保古の湖は、ルアーフィッシングやワカサギ釣りなどが楽しめ、夏は涼しく、秋には湖面に映る紅葉が美しく、東濃の軽井沢とも呼ばれています。
かつてはユースホステル・旅館が各々2軒あり、恵那駅から東濃鉄道バス、中津川駅から国鉄バスが根の上高原まで走り、冬になると厚い氷に覆われるスケートリンクに訪れる人で賑わいました。
現在は昭和55年（1980）開業した国民宿舎恵那山荘とキャンプ場へと変わり、大自然を求める一般客だけでなく地元の林間学校や合宿などにも利用されています。

今日の午後は恵那駅から明知鉄道に乗り、急勾配の飯沼駅から宿の送迎車で国民宿舎「恵那山荘」へ行き泊まります。
宿の周辺に「保古の湖」があり、夕食には飛騨牛会席を味わいます。
翌日は飯沼駅から終点の明智駅まで往復し、途中の岩村で女城主ゆかりの城下町を散策します。

＜岩村電気軌道、国鉄明知線のルーツ＞
国鉄明知線の開通より前に「岩村電気軌道（通称岩村電車）」が存在していたことを知りました。
地元の庄屋であり政治家の浅見与市右エ門は、鉄道省中央本線名古屋～中津川間が開通し、岩村町がルートから外れたのを契機に、明治39年（1906）中央本線大井（現在の恵那）から岩村まで独自に路面電車を走らせたのです。
電気鉄道の開業順位は全国で15番目、岐阜県で電車の第１号が走る画期的な出来事でした。
動力源は岩村川を利用した小澤水力発電所を建設し、余った電力は岩村町をはじめ近隣に供給しました。

一方、国鉄明知線は、明治29年（1896）に計画された駿河湾沿いの相良港から掛川、天竜、引佐、三河大野、稲武を経て、恵那に至る「遠美線」の一部区間にあたります。
明知線は昭和8年（1933）から翌年にかけて、大井（恵那）～岩村～明知間が開業。
この開通で岩村電気軌道は収入が激減し、昭和10年（1935）に開業以来約29年間の運転を廃止しました。
明知線は岩村電気軌道の経由しなかった阿木村を経由したため、大井～飯羽間間においてルートが岩村電気軌道に比べ東側に大きく迂回し、急勾配、急カーブ、トンネルが生じることになりました。

＜明知と明智の違い＞
現在の明知鉄道の終点が明智駅。「明知と明智」の文字の違いはその由来を調べてみると納得します。
昭和9年（1934）国鉄明知線が開業した当時、終点の町名が「明知町」だったので、路線名が「明知線」、終点駅が「明知駅」となりました。
その後、昭和29年（1954）に明知町と静波村が合併し「明智町」となりました。
昭和60年（1985）国鉄明知線が第三セクターに移管時、会社名はそのまま継承して「明知鉄道」、明知駅は新町名に合わせて「明智駅」に改称したのです。

なお、旅行記は下記資料を参考にしました。
・明知鉄道HP、明鉄小旅リーフレット
・朝日新聞デジタル「明知鉄道極楽駅リニューアル完成式」、2019年12月24日
・山岡駅かんてんかんHP
・マイナビニュース「明知鉄道、蒸気機関車C12形224号機が42年ぶり走行へ! 明智駅構内で8/9実施」、2015年7月12日
・日本大正村HP
・中部のエネルギーを築いた人々「福沢桃介二世・駒吉のパイオニア精神～その2：岩村電気軌道の設立・矢作水力との合併から廃止まで～」
・ゆうぜんの電子日記「5522の眼－幻の遠美線」
・国民宿舎恵那山荘HP、パンフレット
・るるぶトラベル「国民宿舎恵那山荘」
・えな自慢「保古の湖」、恵那市広報えなNo.150、2011年
・ユース・ホステルハンドブック「保古の湖YH」、昭和58年
・交通公社の新日本ガイド「名古屋 美濃 三河湾」、昭和54年
・ウィキペディア「明知鉄道」「明知鉄道明知線」「明智町」「明智駅 (岐阜県恵那市)」「根の上高原」「阿木川ダム」「明知鉄道アケチ1形・10形・100形気動車」「分岐器：発条転轍器」

エリア 恵那(岐阜)

• 旅行の満足度: 5.0
• 観光: 5.0
• グルメ: 5.0
• 交通: 5.0

• 同行者: カップル・夫婦（シニア）
• 交通手段: 私鉄 徒歩
• 旅行の手配内容: 個別手配

「てつじぃ」と「エーナ」ちゃんのお出迎え（恵那駅）

明知鉄道恵那駅の待合室に来ています。

明知鉄道公式キャラクターの「てつじぃ」と恵那市公式キャラクターの「エーナ」です。

「てつじぃ」の本名は「明知 鉄道（あけち てつみち）」。2020年に86歳を迎えた、元気なじいちゃん。
明知鉄道のことなら何でも知っている生き字引です。

明智行きの「春うらら」号（恵那駅）

2017年から導入した気動車「アケチ100形」2両のうちの1両。

当初はレールバス的な車両でしたが、アケチ100形は全長18m級の最新の車両です。

「春うらら」のヘッドマークには、ツクシ畑の「てつじぃ」だけでなく、孫の「てっちゃん」がてんとう虫に乗って遊んでいます。

明知鉄道の路線図

恵那から明智までの路線です。

途中には急勾配の飯沼、シクラメンの産地阿木、岩村城址の岩村、細寒天日本一の山岡、急勾配2番目の野志があります。

恵那駅を出発（明知鉄道）

明知鉄道は右側に曲がって南下し、中央本線は中津川方面へ左側に曲がります。

隣の東野駅（明知鉄道）

無人駅の「東野（ひがしの）」。

ホームに隣接した介護施設の1階が待合室になっています。

３３パーミルの急勾配（明知鉄道）

東野を過ぎると鉄道の勾配標があり、これから急勾配を登り始めます。

３３パーミル（‰）は、水平方向に1000m進むと33m上がるという意味です。

沿線の白梅が見頃（明知鉄道）

まもなく急勾配の「飯沼駅」（明知鉄道）

1両編成の列車はゆっくりゆっくり登っています。

飯沼駅（明知鉄道）

恵那駅から15分で到着。

列車のお見送り（飯沼駅）

これから駅に迎えに来てくれた宿の車で国民宿舎へ向かいます。

ここは標高467m。「根の上高原」にある宿は標高891mにあるので、険しい山道を上がっていきます。

根の上高原マップ

「根の上高原」は、中津川市と恵那市にまたがる高原です。

「保古の湖」とそれよりも高い位置にある「根の上湖」は、いずれも灌漑用の人工湖です。

「保古の湖」の周辺に国民宿舎「恵那山荘」とキャンプ場があります。

国民宿舎「恵那山荘」に到着

昭和55年（1980）に開業した公営国民宿舎です。

保古の湖周辺の案内図

まだ明るかったので、散歩に出かけます。

湖畔1周3km、約60分です。

「保古の湖」が築造された由来の説明があります。
『恵那市東野地区では、以前は農業用水の不足からたびたび水争いが起きていました。
　そこで水不足を解消するため、V字状の袋地となっており、周囲から水の集まるこの地に、大正14年に農業用ため池「保古の湖」が造られました。』

あっリスが出てきた（保古の湖）

と思ったら、陶製のリスでした。

夕陽を浴びる「保古の湖」

時刻は17:00前。

周遊コースの散策路（保古の湖）

歩き始めたら、段々と暗くなってきたので一周するのをあきらめます。

ここはボート乗り場（保古の湖）

左側に湖を堰き止めた堰堤があります。

綺麗な青空の映る湖面（堰堤からの眺め）

波が立たず、綺麗です。

湖の反対側斜面（堰堤からの眺め）

昔は下流の谷だったところ。

頂上が雲に隠れる恵那山（保古の湖）

標高2,191mの恵那山は百名山のひとつ。

保古の湖と雄大な恵那山（中日新聞記事）

晴れるとこんな感じ。

夕食「飛騨牛会席」（恵那山荘）

お風呂に入り、待ちに待った夕食はちょっと贅沢にグレードアップした「飛騨牛会席」。

Ａ５等級の飛騨牛（夕食）

岐阜県が誇るブランド牛「飛騨牛」をしゃぶしゃぶでいただきます。

お肉が口の中でとろけます。

とり西京焼（夕食）

タケノコは旬の味。

熱々の手羽先（夕食）

デザートの苺ムース（夕食）

最後は甘くてあっさりしたムースで仕上げ。

夕食に十分満足しました。

翌朝は何と雪だるまがお出迎え（玄関）

朝起きて外を見たら雪景色。

夜中にしんしんと雪が降っていたのです。

雪景色の林と保古の湖（恵那山荘）

輝く屋根に積もった雪（恵那山荘）

雪化粧した樹木（恵那山荘）

国民宿舎風の朝食（恵那山荘）

朴葉味噌が美味い（朝食）

ご飯に載せて、お替りしてしまいました。

朝の清々しい「保古の湖」

宿の車で駅へ送ってもらう途中、一旦停車。

飯沼駅に到着

暖かくなり、雪が溶けてきています。

ホームから見下ろす急坂の線路（飯沼駅）

「勾配日本一の駅」の看板（飯沼駅）

線路の近くから勾配を眺めます（飯沼駅）

ここなら勾配の度合いがよくわかります（飯沼駅）

水平の待合室の端とホームとの間に段差ができています。

勾配を登ってくる気動車（飯沼駅）

これから乗る明智行きの列車です。

ゆっくりゆっくり登ってきます（飯沼駅）

終点の明智駅までの路線図（飯沼駅）

列車に乗ります。

峠を越えると集落が見えてきます（明知鉄道）

阿木（あぎ）集落です。

千鳥式ホームの阿木駅（明知鉄道）

昔、列車の交換をしていた面影が残っています。

近くに平成2年（1990）に完成した阿木川ダムとダム湖があります。

ダム湖の湖底は、かつて岩村電気軌道が走っていました。

引退したアケチ1形1号（阿木駅）

貨物の留置線に置かれています。

ガスボンベみたいな「発条転てつ機」（阿木駅）

スプリングポイントとも呼ばれる「発条転てつ機」。

常時使う進路は原則的に定位に固定されています。（手前左から前方への進路）

反位側（手前右）から前方へ進む場合、列車は車輪によってトングレールを押し広げて通過し、通過後は内蔵されたスプリングと油緩衝器によって自動的に定位へ戻ります。

極楽感のある「極楽駅」（明知鉄道）

極楽駅という駅名は国内でひとつ。

西遊記の「筋斗雲（きんとうん）」をホームや待合室屋根に置き、極楽感満載の駅です。

ドラゴンボールの悟空みたいに、筋斗雲に乗ってどこかへ飛んでいきたいです。

昨年（2019年）12月23日、極楽駅にピッタリの駅にリニューアルオープンしました。

列車交換する「岩村駅」（明知鉄道）

乗車している列車は、対向列車とほぼ同時に到着します。

列車交換設備のある典型的な駅で、乗車している列車は左のホームに、対向列車は右側のホームに入ります。

踏切動作反応灯（明知鉄道）

右上のＸ字表示灯は、中央の白色灯が点滅すると踏切の遮断機が閉まったことを知らせています。

ローカル線の鉄道標識は、都会とは違う素朴さを感じます。

まもなく山岡駅（明知鉄道）

山岡町は全国シェア8割を誇る細寒天の名産地。

緑の屋根の建物は「山岡駅かんてんかん」で、寒天資料館と寒天カフェ＆レストランなど楽しめます。

引退したアケチ1形2号の車両は、「森の列車のカフェ」になっています。

雪景色の残る風景（明知鉄道）

次の峠、野志（のし）付近。

下り坂の野志駅（明知鉄道）

この駅は日本で2番目の急勾配にある駅です。

明智駅に到着（明知鉄道）

アケチ10形車両が停車しています。

初期のアケチ1形老朽化に伴う代替車両として、平成10-11年（1998-1999）に製造した気動車です。

導入費用の削減を目的に、第三セクター鉄道協議会が制定した標準型車両を採用します。

終着駅の明智駅

「てつじぃ」のヘッドマーク（明智駅）

顔になっているSLのC12-244は、昭和15年（1940）に製造され、昭和48年（1973）に廃車となるまで国鉄明知線をはじめ各路線を走っていました。

廃車後、明智小学校校庭で保存展示されていましたが、平成25年（2013）12月に明智駅構内に移され復元。

現在、コンプレッサーによる圧縮空気で走行させ、明智駅構内でSL乗車体験ができるようになりました。

アケチ1形6号（明智駅）

明知鉄道当初から走るアケチ1形は、富士重工製のレールバスと呼ばれるもの。

ドアや窓がバスにそっくりです。

アケチ6は2017年に引退し、アケチ100形にバトンを渡しました。

大正娘のいる改札口（明智駅）

近くに日本大正村があり、大正時代にタイムスリップできます。

駅の玄関（明智駅）

玄関右側の黒い入れ物で「駅長さんの焼き芋」を蒸かしています。

1個買って車内で食べてみると、甘くてホクホク、蜜もたっぷりでした。

山岡駅のかかし（明知鉄道）

明智駅で折り返し、岩村へ向かいます。

行きの列車では気が付かなかったのですが、可愛い女の子のかかしを見つけます。

ロングシートの車両（明知鉄道）

窓が大きく外の景色がよく見えます。

絵画のような車窓（明知鉄道）

まもなく岩村駅（明知鉄道）

兄弟のアケチ100形（岩村駅）

停車しているアケチ101の外部塗装は、クリーム色に朱色の3本の帯。

出発したアケチ102は塗装が反転し、朱色にクリーム色の3本の帯。

青空に映える「腕木式信号機」（岩村駅）

平成16年まで使われていた「腕木式信号機」。

転轍機のてこ（岩村駅）

「腕木式信号機」とポイントは、この「てこ」を手動で手前に引き、ワイヤーが連動して作動させていました。

現在は電気信号を使用して自動化されています。

岩村城女城主「おつや」のお出迎え（岩村駅）

では、これから城下町の町並みの散策に出かけます。