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ロシア生活 不思議体験(その5) 『国境を超えると世界は変わる』(2)

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1994/09/14 - 1994/12/15

1784位(同エリア1811件中)

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 しばらくすると、AY073便成田行きの搭乗手続きが始まった。振り返ると、日本人観光客はまだサンタクロースと記念撮影をしていた。そして予定離陸時間よりも僅か1時間遅れで離陸に至った素早さもフィンランド人のなせる業。流石です!

 機内ではフィンランドのオリジナルビール「ラッピンクルタ」通称ハチミツビールが飲み放題のフィンランド航空。日本ではめったに手に入らないので、貧乏根性丸出しで7缶は頂いてしまった。そして成田空港到着時にはパーサーが僕に寄ってきて、ウィンクをしながら僕のバックの上にラッピンクルタを3缶置いていった。

 やはり何かしらフィンランド人を素敵に思ってしまうのは僕だけだろうか?

 野暮用を終えて、ペテルブルグへ帰るときもフィンエアー。ヘルシンキまでの機内では食事も美味しく快適。全てが予定通りで白銀のヘルシンキに滑るように着陸したMD11型機は優雅だった。

 帰国する時と同様に空港内の照明は適度に落され聞き覚えのあるメロディーが心地よい。ペテルブルグへの乗り継ぎで再びヴァンター空港内を移動。改めて、自分の乗る飛行機を確認しようとチケット見ると…、何故か航空機コードがAYではなくFVだった。

「ん?FV?なんじゃこれ?」

慌てて構内にある到着便・離陸便のリアルタイムモニターで確認すると、FVというコードはプルコボエアと判明。ペテルブルグ-プルコボ空港が所有している航空会社だ。何か…グレーな予感が…。

予感は的中。

飛行機は機内整備に時間がかかり1時間遅れでヴァンター空港にやってきた。ヴァンター空港の窓越しにボーディングブリッジに近づいてくる飛行機が見えた。これまた…予想通り。機銃が取り外されているとはいえ銃座付の民間旅客機TU134型機。なんて恐ろしい…。どこの戦地から…、そして何処の戦場へ僕を空輸しようとしているのだろう…。

 さらにグレーな予感は重なり、乗客よりもいち早くゲートを出てきたのは銃座付き旅客機の女性搭乗員。彼女の行き先はあろうことにデューティーフリーショップ。僕は拳に汗をかいた。

グレー予感は続きがございまして…。

搭乗手続きが開始されると一番前にならんでいた酔っ払いロシア人客が搭乗券を紛失していることが発覚。他の乗客を先に流せばよいものの、何か訳の解らない押し問答が始まる始末。無駄に時間がつぶされていく。後ろに立っていた明らかにフィンランドバリバリビジネスマン風の男性と目があった時、彼は肩をすぼめて手のひらを返し困っている様子を僕に見せた。きっとロシア式搭乗手続きに慣れていないんだろう。

 10分以上の格闘の末、酔っ払い客は何処かに連れて行かれた。恐らく、極端な泥酔状態だったため搭乗拒否されたものと判断。一件落着。

 ようやく、機内に入り着座。防護ベルトを腰に巻き、定刻より1時間20分遅れで戦闘旅客機はエプロンから滑走路へ移動。耳に残る甲高いエンジン音を轟かせヴァンター空港の滑走路を這いつくばり夜のヘルシンキ上空へと発射されたのはもちろんTU134型機。

 離陸して水平飛行まで15分。水平飛行30分。着陸態勢に入り着陸まで15分。飛行時間は約1時間。我慢すれば良いだけ。「the忍耐」を習得している僕は自分に改めて言い聞かせた。

 ところが!民間軍用機が着陸態勢に入り高度を下げながら旋回を始めた時、グレーな予感のミラクルが始まった。

 ヴァンター空港で乗客よりも先に出てきてデューティーフリーショップへ駆け込んだ女性搭乗員が唐突にコーヒーを僕にお持ちしてくれたのだ。すでに着陸態勢だし、「要らない」という客の懇願に反して、「この状況下、持ってきてやったんだから早く飲め!」とその眼差しから女性戦闘員の揺らぎない意志を読み取らせて頂きました。しかも、このコーヒー…何処の『炉』から持ってきたのだろうか?と思うほど超HOT。着陸までの15分弱でこのコーヒーを飲み干すのは至難の業。さらに悪いことに、機体は緩く旋回しながら高度を下げている。同一の慣性系にいるものの、カップに入っているコーヒーの面はあくまでも地球の重力に対し常に垂直。機体と同一の傾きを持ちつつ軽い遠心力を感じる自分の身体に対し超熱いコーヒーの入ったカップをバランスを保ちながら口元に運ぶ訓練など受けたことが無い僕にとっては涙ぐましい体験になった。いや。本当に涙しながら飲んだ。

 そして、銃座付き民間軍用機は無事に基地へ帰投。

 エプロンでは迷彩服を着た誘導員。

 自動小銃を肩にぶら下げる警備兵。

 パスポートコントロールでは菊の紋章の入ったパスポートを叩き返され何とか通過。荷物を受け取り、到着ロビーに出ると四方八方から低いトーンで「TAXI?」と黒いジャケットを身に纏うおっさん達からお声掛け。

 ヘルシンキでのグレー予感はお釣りまで頂きました。

「やれやれ…帰ってきちまったなぁ。。。」星も見えない夜空を見上げ僕はつぶやいた。

 あれから20年以上経つ。

 今ではかなり変化したと思いたい。

 時々思い出す。

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