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12/29<br /><br />起きたら5時だった。どこかの駅で停まっている。やがて車掌が来て寝具を回収していった。20分ほど停まってから発車し、5時45分、イスファハンに到着した。<br />外はまだ暗い。かつ小雨が降っていて寒い。冬のイランは意外と寒く、かつイランにしては降水量が多い時期だということを実感する。<br />ガイドに拾ってもらい、市内に向かう。イスファハンに限らず、イランの鉄道の駅は市内からの距離が空港といい勝負である。つまりやたらと不便なところにあるわけで、駅前もだだっ広い広場があるだけで建物もほとんどなさそうである。ハイウェイに乗って15分ほどで街の郊外の新興住宅地といった感じの路地に入る。暗いながらも通りの一方はアパートメントが並び、もう一方は塀が続いているのが分かる。その塀の前で車は止まった。<br />よく見ると塀には扉がある。ガイドは扉の脇のセキュリティーに向かって何やら言う。と、セキュリティが解除されて中に入るよう促される。<br />そこは3~4階建てのアパートメントだった。1階はガレージとなっており、2階はよそ様のお宅なので足音を忍ばせて階段を上り、3階の部屋に入る。<br />玄関に面した居間は部屋は思いがけず広く、天井まで作りつけられた飾り棚がある。カウンター越しに広いダイニングキッチンが見える。ここはガイド氏の自宅らしい。まさかのイランでのお宅訪問である。それにしてもキッチンが広い。冷蔵庫が2台に6口コンロとかオーブンとか、イランの主婦はどんだけ料理するつもりなのだろうか。<br />このガイドは好人物だがやたらと商売熱心でもある。車の中でもイスファハンのガイドブックを売りつけようとするし、イスファハンのカーペットの工房に案内しようとか何やらいろいろと勧めてくるし、家に着いたら着いたで円座型のカーペットをいくつも広げて、これは珍しいものでおみやげにもちょうどいいだろう、なんなら店に案内しようかなどと言ってくる。カーペットの価値など分からないのでノーと言っておくとそれ以上は勧めてこない。而して少し経つとまた別のものをおすすめしてくる。<br /><br />いい機会だからとガイドが6時半のお祈りを見せてくれる。イスラム教徒が一日5回やるというお祈りである。ちなみに6時半のお祈りが一番短いバージョンで、正午や午後のは倍くらい長くなるらしい。<br />床の上に小さい敷物を敷いて、小さい石を置く。まずは立って開いた掌を上に向けて口の中で何やら呟く。それから頭を深く垂れたり、ひざまずいて敷物の上に置いた小石に額をつけたりを繰り返す。お祈りは数分で終了した。ちなみに朝のお祈りは一番短いバージョンで、午後とか夜にはもっと長いのだという。女性はお祈りはやらないらしい。ガイド氏がお祈りしている間、細君はソファにどっかと腰かけてお祈りの様子を見ていた。<br />お祈りの後に朝食。いつもこうなのか、それとも特別バージョンなのか知らないが、テーブルの上は豆のスープに平たいパン、卵、各種のバターやジャムで埋め尽くされている。ひとしきり食べ終える頃には外は明るくなっていた。<br /><br />ホテルに向かうと言うので、細君にお礼を述べて辞去する。ホテルに向かう前にスィー・オ・セ橋に立ち寄る。<br />イスファハンは16世紀末にサファビー朝の首都になってから現在のような壮麗な建築物が立ち並ぶ都市になったということだが、このスィー・オ・セ橋もそのひとつである。スィー・オ・セとはペルシャ語で33という意味で、アーチが33あることからそう呼ばれているのだとか。そもそも乾燥地帯なイラン高原で例外的に水量が豊かなヤーザンデ川に沿って発展したイスファハンらしく、川にかかる橋はこのスィー・オ・セ橋以外にも凝ったものがいくつもある。きっとそれが王権を現すモニュメントになったのだろう。とりあえずホテルに向かうと言うので、朝日を浴びて水面にくっきりと美しい姿を映す橋を写真にとる。この頃には雨は止んでいて、雨上がりらしいすっきりとした青空が広がっていた。<br /><br />ホテルにチェックインして荷物を置いた後、マスジェデ・ジャーメに向かう。イスファハンの街は、ヤーザンデ川の北岸に旧市街が広がっている。旧市街の中心にある有名なイマーム広場の更に北側にはサファビー朝以前からの旧・旧市街ともいうべきエリアがあって、そのなかにマスジェデ・ジャーメがある。訳せば金曜モスクというところで、もっとも古い部分は11世紀に遡るという。このあたりは道も狭く、バザールがあって交通量も多いので、朝イチで訪れた方がいいとガイドが言うので仰せに従う。<br />車が辛うじてすれ違える程度の細い路地を辿った先に車数台が止められる空き地があってそこに車を置く。数分歩いてマスジェデ・ジャーメに着く。古くからの建物を継ぎはぎした建造物らしく、歩いているうちにどこにいるのかさっぱり分からなくなる。ガイドによれば一番古い11世紀の建物に次いで14世紀、15世紀と増築部分がつながっているのだそうだ。高い天井をいくつもの柱とアーチで支えていて、独特の構成美をなしている。<br />通路の途中に緞帳のようなカーテンが下がった戸口がある。ガイドがライブラリだという。中へ案内される。ライブラリは土足厳禁らしい。靴を脱いで中に入る。<br />ライブラリというが、本棚は柱の側に形ばかりある程度である。どちらかというと祈りの場といったほうが正確で、数人の男性が座って何か唱えたりひざまずいたりしている。奥には2~3メートル四方のきらびやかに囲まれた聖廟がある。中には聖人の棺が3つ並んでいる。聖廟の周りには何人もの人が入れ代わり立ち代わり額を押し付けたり頭を垂れたりしている。なんか異教徒が紛れ込んでいいのかと思うような真摯な祈りの空間だが、ガイドはここはいいシャシン・スポットだからどんどん撮れといいと、私を聖廟の前に立たせて記念写真を撮っちゃったりする。いいのかね。なんかお祈りしてる人の冷たい視線を感じるんですけど。<br /><br />ライブラリを出てさらに通路を歩くと、唐突に広い中庭に出た。四方はすべて美しいタイルで彩られたファザードに囲まれている。ガイドブックに「イランの寺院建築の集大成」とあるのも納得である。昔訪れたサマルカンドのレギスタン広場を思い出すが、ここは四方を囲まれているだけ濃密な空間美を感じる。広場の中央にある泉のひとつで黒猫が水を飲んでいた。<br /><br />マスジェデ・ジャーメを出てバザールの中を歩く。ここでいうバザールとは、アーチ形の天井がアーケードとなった通りの両側に店が立ち並ぶ商店街、というイメージである。ガイドが指差したアーケードの一画には黒い石がはめ込まれている。イラン・イラク戦争のとき、イラク軍の空爆を受けた場所をリニューアルした記念碑なのだという。<br />バザールの途中から通路を抜けた先には唐突に広場が現れた。それも、まだ真新しい広場である。ガイドによると、サファビー朝が滅亡したころに破壊された広場を復元したものだそうで、この広場の復元のためにかつて通っていた幹線道路を地下化したのだという。イランもなかなか大胆な都市整備を行うものである。広場を囲む建物の裏は回廊となっていて、将来バザールとなるべく商店スペースの工事中だった。<br />マスジェデ・ジャーメ周辺の見学を終えて車まで戻ると、朝には一台しか停まっていなかったスペースはすでに満杯となっていた。人通りも増えていて、なるほどガイドの判断は正しかったと改めて納得する次第だった。<br /><br />昼食前にイマーム広場に行くという。イマーム広場はイスファハン観光のハイライトともいうべき場所で、広大な長方形の広場をぐるりとアーチ状の回廊が囲み、長辺の中央部あたりでは壮麗な宮殿とモスクが向かい合っている。サファビー朝華やかりしころは「世界の半分」といわれ、広場そのものが世界遺産となっている。<br />宮殿もモスクも明日行くと言っておいたのでガイドがまっすぐ向かったのは回廊の一画にある職人街といわれるエリアだった。回廊は内部に通路があって、通路の両側と広場に面した部分は店が入っている。そうした店の一部は工房も兼ねていて、伝統工芸を扱っている。<br />一軒目のエナメル細工の工房では何も買わなかった私が次に案内されたのは染織の工房だった。この工房の主人は8代目ということで何かとメディアに取り上げられることも多いらしい。私が日本人だと知ると、慣れた手つきでクリアフォルダーに挟んだ朝日新聞や朝日旅行の切り抜きを持ち出した。取り上げられているのは先代で父親だと言っていたが。<br /><br />昼食はラムとチキンの上にサフランライスを盛り上げたこのあたりの伝統料理とやらを食す。幸いなことに油がきつすぎることもなく、日本人の口にも合う。食後、ウエイターがお菓子の入った籠をもって現れる。ギャズというイスファハンの名物菓子でピスタチオ入りのヌガーとでもいうべきお菓子である。<br />さて、このギャズだが、海外で見るお菓子としては珍しく個包装されている。これはみやげにピッタリと思い、このお菓子を売ってるところに行きたいというと、レストランのすぐ近くだという。早速行ってみると、そこはまさに日本の空港かドライブインの売店かと思われるようなおみやげサイズの箱入りギャズが山と積まれている。だいたい20~50個入りで、ピスタチオの含有量が高いほどお値段も高くなるそうだが、高くても千円といったところである。<br />ところでイラン人は酒を飲まない代わりにたいそうな甘党であるらしい。ホテルの部屋にはたいていスニッカーズの小型版みたいなお菓子とかクッキーが置いてある。夜中に口さみしくなったときにつまめるようにとのことなのだろう。あるいはギャズの個包装もそんな用途があるのかもしれない。<br /><br />午後は郊外に出てみることにする。市街地を出ると、遠くに山並みを望む開けた風景のなか、中央分離帯のある片側2車線の道路沿いにはガソリンスタンドや住宅や商店が間隔を置いて立ち並び、いかにも郊外といった風景になる。と、道路沿いに地面から唐突に隆起したような突&#38434;とした岩山がそそり立つ。岩山の上には日干しレンガの壁が見える。アーテシュガーといってササン朝時代のゾロアスター教の神殿というから二千年近く昔の遺跡である。岩山のふもとには料金所があって小さい遊園地まであったりするが、100メートルもなさそうな岩山とはいえあまりに険しいので下から見上げて満足する。<br />帰りは同じ道を戻っても芸がないと思ったのか、ヤーザンデ川に沿った田舎道を行く。ガイドはこの風景がお勧めらしい。川沿いに疎林や畑が交錯する風景は、岩と砂だらけのイランでは貴重なものだろう。冬枯れの単調な景色ではあっても、川岸や中州のあちこちにごみが引っかかっていても、河川敷にはところどころピクニックに訪れている人の姿が見える。<br /><br />市内に戻る。こんどはヤーザンデ川の南岸にあるジョルファー地区に行く。このあたり、路面が石畳でいかにもヨーロッパ的だが、17世紀からアルメニア人の居住区だったエリアで、キリスト教の教会や修道院が集まっている。サファビー朝の首都たるイスファハンはずいぶんコスモポリタンな雰囲気の都市だったらしい。今でもイスファハンには2~3万人ほどキリスト教徒のアルメニア人がジョルファー地区を中心に住んでいるのだとか。<br />案内されたヴァーンク教会はパッと見ドームがあったりしてイスラムの寺院のようだが、中はいかにも正教会らしく壁といい梁といいびっしりと聖書のシーンを描いた装飾で埋め尽くされている。もう年も明けているのだが中庭にはクリスマスツリーが鎮座している。

イスファハン(1)~大帝国の首都の面影~

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2014/12/28 - 2015/01/04

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jsbach

jsbachさん

12/29

起きたら5時だった。どこかの駅で停まっている。やがて車掌が来て寝具を回収していった。20分ほど停まってから発車し、5時45分、イスファハンに到着した。
外はまだ暗い。かつ小雨が降っていて寒い。冬のイランは意外と寒く、かつイランにしては降水量が多い時期だということを実感する。
ガイドに拾ってもらい、市内に向かう。イスファハンに限らず、イランの鉄道の駅は市内からの距離が空港といい勝負である。つまりやたらと不便なところにあるわけで、駅前もだだっ広い広場があるだけで建物もほとんどなさそうである。ハイウェイに乗って15分ほどで街の郊外の新興住宅地といった感じの路地に入る。暗いながらも通りの一方はアパートメントが並び、もう一方は塀が続いているのが分かる。その塀の前で車は止まった。
よく見ると塀には扉がある。ガイドは扉の脇のセキュリティーに向かって何やら言う。と、セキュリティが解除されて中に入るよう促される。
そこは3~4階建てのアパートメントだった。1階はガレージとなっており、2階はよそ様のお宅なので足音を忍ばせて階段を上り、3階の部屋に入る。
玄関に面した居間は部屋は思いがけず広く、天井まで作りつけられた飾り棚がある。カウンター越しに広いダイニングキッチンが見える。ここはガイド氏の自宅らしい。まさかのイランでのお宅訪問である。それにしてもキッチンが広い。冷蔵庫が2台に6口コンロとかオーブンとか、イランの主婦はどんだけ料理するつもりなのだろうか。
このガイドは好人物だがやたらと商売熱心でもある。車の中でもイスファハンのガイドブックを売りつけようとするし、イスファハンのカーペットの工房に案内しようとか何やらいろいろと勧めてくるし、家に着いたら着いたで円座型のカーペットをいくつも広げて、これは珍しいものでおみやげにもちょうどいいだろう、なんなら店に案内しようかなどと言ってくる。カーペットの価値など分からないのでノーと言っておくとそれ以上は勧めてこない。而して少し経つとまた別のものをおすすめしてくる。

いい機会だからとガイドが6時半のお祈りを見せてくれる。イスラム教徒が一日5回やるというお祈りである。ちなみに6時半のお祈りが一番短いバージョンで、正午や午後のは倍くらい長くなるらしい。
床の上に小さい敷物を敷いて、小さい石を置く。まずは立って開いた掌を上に向けて口の中で何やら呟く。それから頭を深く垂れたり、ひざまずいて敷物の上に置いた小石に額をつけたりを繰り返す。お祈りは数分で終了した。ちなみに朝のお祈りは一番短いバージョンで、午後とか夜にはもっと長いのだという。女性はお祈りはやらないらしい。ガイド氏がお祈りしている間、細君はソファにどっかと腰かけてお祈りの様子を見ていた。
お祈りの後に朝食。いつもこうなのか、それとも特別バージョンなのか知らないが、テーブルの上は豆のスープに平たいパン、卵、各種のバターやジャムで埋め尽くされている。ひとしきり食べ終える頃には外は明るくなっていた。

ホテルに向かうと言うので、細君にお礼を述べて辞去する。ホテルに向かう前にスィー・オ・セ橋に立ち寄る。
イスファハンは16世紀末にサファビー朝の首都になってから現在のような壮麗な建築物が立ち並ぶ都市になったということだが、このスィー・オ・セ橋もそのひとつである。スィー・オ・セとはペルシャ語で33という意味で、アーチが33あることからそう呼ばれているのだとか。そもそも乾燥地帯なイラン高原で例外的に水量が豊かなヤーザンデ川に沿って発展したイスファハンらしく、川にかかる橋はこのスィー・オ・セ橋以外にも凝ったものがいくつもある。きっとそれが王権を現すモニュメントになったのだろう。とりあえずホテルに向かうと言うので、朝日を浴びて水面にくっきりと美しい姿を映す橋を写真にとる。この頃には雨は止んでいて、雨上がりらしいすっきりとした青空が広がっていた。

ホテルにチェックインして荷物を置いた後、マスジェデ・ジャーメに向かう。イスファハンの街は、ヤーザンデ川の北岸に旧市街が広がっている。旧市街の中心にある有名なイマーム広場の更に北側にはサファビー朝以前からの旧・旧市街ともいうべきエリアがあって、そのなかにマスジェデ・ジャーメがある。訳せば金曜モスクというところで、もっとも古い部分は11世紀に遡るという。このあたりは道も狭く、バザールがあって交通量も多いので、朝イチで訪れた方がいいとガイドが言うので仰せに従う。
車が辛うじてすれ違える程度の細い路地を辿った先に車数台が止められる空き地があってそこに車を置く。数分歩いてマスジェデ・ジャーメに着く。古くからの建物を継ぎはぎした建造物らしく、歩いているうちにどこにいるのかさっぱり分からなくなる。ガイドによれば一番古い11世紀の建物に次いで14世紀、15世紀と増築部分がつながっているのだそうだ。高い天井をいくつもの柱とアーチで支えていて、独特の構成美をなしている。
通路の途中に緞帳のようなカーテンが下がった戸口がある。ガイドがライブラリだという。中へ案内される。ライブラリは土足厳禁らしい。靴を脱いで中に入る。
ライブラリというが、本棚は柱の側に形ばかりある程度である。どちらかというと祈りの場といったほうが正確で、数人の男性が座って何か唱えたりひざまずいたりしている。奥には2~3メートル四方のきらびやかに囲まれた聖廟がある。中には聖人の棺が3つ並んでいる。聖廟の周りには何人もの人が入れ代わり立ち代わり額を押し付けたり頭を垂れたりしている。なんか異教徒が紛れ込んでいいのかと思うような真摯な祈りの空間だが、ガイドはここはいいシャシン・スポットだからどんどん撮れといいと、私を聖廟の前に立たせて記念写真を撮っちゃったりする。いいのかね。なんかお祈りしてる人の冷たい視線を感じるんですけど。

ライブラリを出てさらに通路を歩くと、唐突に広い中庭に出た。四方はすべて美しいタイルで彩られたファザードに囲まれている。ガイドブックに「イランの寺院建築の集大成」とあるのも納得である。昔訪れたサマルカンドのレギスタン広場を思い出すが、ここは四方を囲まれているだけ濃密な空間美を感じる。広場の中央にある泉のひとつで黒猫が水を飲んでいた。

マスジェデ・ジャーメを出てバザールの中を歩く。ここでいうバザールとは、アーチ形の天井がアーケードとなった通りの両側に店が立ち並ぶ商店街、というイメージである。ガイドが指差したアーケードの一画には黒い石がはめ込まれている。イラン・イラク戦争のとき、イラク軍の空爆を受けた場所をリニューアルした記念碑なのだという。
バザールの途中から通路を抜けた先には唐突に広場が現れた。それも、まだ真新しい広場である。ガイドによると、サファビー朝が滅亡したころに破壊された広場を復元したものだそうで、この広場の復元のためにかつて通っていた幹線道路を地下化したのだという。イランもなかなか大胆な都市整備を行うものである。広場を囲む建物の裏は回廊となっていて、将来バザールとなるべく商店スペースの工事中だった。
マスジェデ・ジャーメ周辺の見学を終えて車まで戻ると、朝には一台しか停まっていなかったスペースはすでに満杯となっていた。人通りも増えていて、なるほどガイドの判断は正しかったと改めて納得する次第だった。

昼食前にイマーム広場に行くという。イマーム広場はイスファハン観光のハイライトともいうべき場所で、広大な長方形の広場をぐるりとアーチ状の回廊が囲み、長辺の中央部あたりでは壮麗な宮殿とモスクが向かい合っている。サファビー朝華やかりしころは「世界の半分」といわれ、広場そのものが世界遺産となっている。
宮殿もモスクも明日行くと言っておいたのでガイドがまっすぐ向かったのは回廊の一画にある職人街といわれるエリアだった。回廊は内部に通路があって、通路の両側と広場に面した部分は店が入っている。そうした店の一部は工房も兼ねていて、伝統工芸を扱っている。
一軒目のエナメル細工の工房では何も買わなかった私が次に案内されたのは染織の工房だった。この工房の主人は8代目ということで何かとメディアに取り上げられることも多いらしい。私が日本人だと知ると、慣れた手つきでクリアフォルダーに挟んだ朝日新聞や朝日旅行の切り抜きを持ち出した。取り上げられているのは先代で父親だと言っていたが。

昼食はラムとチキンの上にサフランライスを盛り上げたこのあたりの伝統料理とやらを食す。幸いなことに油がきつすぎることもなく、日本人の口にも合う。食後、ウエイターがお菓子の入った籠をもって現れる。ギャズというイスファハンの名物菓子でピスタチオ入りのヌガーとでもいうべきお菓子である。
さて、このギャズだが、海外で見るお菓子としては珍しく個包装されている。これはみやげにピッタリと思い、このお菓子を売ってるところに行きたいというと、レストランのすぐ近くだという。早速行ってみると、そこはまさに日本の空港かドライブインの売店かと思われるようなおみやげサイズの箱入りギャズが山と積まれている。だいたい20~50個入りで、ピスタチオの含有量が高いほどお値段も高くなるそうだが、高くても千円といったところである。
ところでイラン人は酒を飲まない代わりにたいそうな甘党であるらしい。ホテルの部屋にはたいていスニッカーズの小型版みたいなお菓子とかクッキーが置いてある。夜中に口さみしくなったときにつまめるようにとのことなのだろう。あるいはギャズの個包装もそんな用途があるのかもしれない。

午後は郊外に出てみることにする。市街地を出ると、遠くに山並みを望む開けた風景のなか、中央分離帯のある片側2車線の道路沿いにはガソリンスタンドや住宅や商店が間隔を置いて立ち並び、いかにも郊外といった風景になる。と、道路沿いに地面から唐突に隆起したような突阢とした岩山がそそり立つ。岩山の上には日干しレンガの壁が見える。アーテシュガーといってササン朝時代のゾロアスター教の神殿というから二千年近く昔の遺跡である。岩山のふもとには料金所があって小さい遊園地まであったりするが、100メートルもなさそうな岩山とはいえあまりに険しいので下から見上げて満足する。
帰りは同じ道を戻っても芸がないと思ったのか、ヤーザンデ川に沿った田舎道を行く。ガイドはこの風景がお勧めらしい。川沿いに疎林や畑が交錯する風景は、岩と砂だらけのイランでは貴重なものだろう。冬枯れの単調な景色ではあっても、川岸や中州のあちこちにごみが引っかかっていても、河川敷にはところどころピクニックに訪れている人の姿が見える。

市内に戻る。こんどはヤーザンデ川の南岸にあるジョルファー地区に行く。このあたり、路面が石畳でいかにもヨーロッパ的だが、17世紀からアルメニア人の居住区だったエリアで、キリスト教の教会や修道院が集まっている。サファビー朝の首都たるイスファハンはずいぶんコスモポリタンな雰囲気の都市だったらしい。今でもイスファハンには2~3万人ほどキリスト教徒のアルメニア人がジョルファー地区を中心に住んでいるのだとか。
案内されたヴァーンク教会はパッと見ドームがあったりしてイスラムの寺院のようだが、中はいかにも正教会らしく壁といい梁といいびっしりと聖書のシーンを描いた装飾で埋め尽くされている。もう年も明けているのだが中庭にはクリスマスツリーが鎮座している。

  • お祈りを見せてくれるガイド。

    お祈りを見せてくれるガイド。

  • ガイドと細君。朝から豪勢な食事をごちそうさまでした。

    ガイドと細君。朝から豪勢な食事をごちそうさまでした。

  • マスジェデ・ジャーメの近く。イスファハンの旧・旧市街ともいうべきこのあたりは、狭い路地と日干しレンガの壁が続いていかにもイスラムの街にいるという感じがします。右側の壁はかつて公衆浴場だったものだとか。

    マスジェデ・ジャーメの近く。イスファハンの旧・旧市街ともいうべきこのあたりは、狭い路地と日干しレンガの壁が続いていかにもイスラムの街にいるという感じがします。右側の壁はかつて公衆浴場だったものだとか。

  • 旧市街地の古い扉。両開きの扉のそれぞれについているノックの形に注意。右側は男性用、左側は女性用で、それぞれ音が違うので、ノックの音で来客が判別できて便利なんだとか。

    旧市街地の古い扉。両開きの扉のそれぞれについているノックの形に注意。右側は男性用、左側は女性用で、それぞれ音が違うので、ノックの音で来客が判別できて便利なんだとか。

  • いかにもイスラム建築と言った感じのドームの交錯する天井

    いかにもイスラム建築と言った感じのドームの交錯する天井

  • 壁の透かし彫りがとても精緻でした。

    壁の透かし彫りがとても精緻でした。

  • マスジェデ・ジャーメの伽藍。青空によく映える壁の装飾がとても壮麗でした。

    マスジェデ・ジャーメの伽藍。青空によく映える壁の装飾がとても壮麗でした。

  • 聖廟に向かって祈る人々。

    聖廟に向かって祈る人々。

  • マスジェデ・ジャーメの外はこんな感じのバザール。

    マスジェデ・ジャーメの外はこんな感じのバザール。

  • バザールの屋根近くにある碑文。イラン・イラク戦争時に空爆で破壊されたのを修復した記念に設置されたのだそうです。

    バザールの屋根近くにある碑文。イラン・イラク戦争時に空爆で破壊されたのを修復した記念に設置されたのだそうです。

  • 店頭に鳥かごを吊るした店も見受けられます。イランの人は小鳥好きらしいです。

    店頭に鳥かごを吊るした店も見受けられます。イランの人は小鳥好きらしいです。

  • イマーム広場で遊ぶ子どもたち。学校はどうしたとガイドに聞いたところ、テスト期間中なんだとか。

    イマーム広場で遊ぶ子どもたち。学校はどうしたとガイドに聞いたところ、テスト期間中なんだとか。

  • 職人街の捺染の職人。彼の父親は朝日新聞にも登場したとのこと。

    職人街の捺染の職人。彼の父親は朝日新聞にも登場したとのこと。

  • 昼食のレストラン。エキゾチックな内装です。地元の人にも愛用されているらしく、引きも切らずにお客さんが訪れていました。

    昼食のレストラン。エキゾチックな内装です。地元の人にも愛用されているらしく、引きも切らずにお客さんが訪れていました。

  • 昼食のメイン。ガイドとシェアして食べましたが、けっこうなボリュームでした。でもおいしかったです。

    昼食のメイン。ガイドとシェアして食べましたが、けっこうなボリュームでした。でもおいしかったです。

  • アーテシュガー。ササン朝時代のゾロアスター教の神殿。右側に登っている人が小さく見えます。

    アーテシュガー。ササン朝時代のゾロアスター教の神殿。右側に登っている人が小さく見えます。

  • アーテシュガー遠望。

    アーテシュガー遠望。

  • 冬枯れのイスファハン郊外。水があるというだけで、なぜかほっとするものを感じました。

    冬枯れのイスファハン郊外。水があるというだけで、なぜかほっとするものを感じました。

  • ジョルファー界隈。石畳の道がヨーロッパ的な雰囲気を漂わせています。

    ジョルファー界隈。石畳の道がヨーロッパ的な雰囲気を漂わせています。

  • ヴァーンク教会

    ヴァーンク教会

  • ドーム内部の圧倒的な装飾。キリスト教会でありながら、なんとなくイスラムの雰囲気も漂っていて、不思議な空間でした。

    ドーム内部の圧倒的な装飾。キリスト教会でありながら、なんとなくイスラムの雰囲気も漂っていて、不思議な空間でした。

  • このクリスマス装飾、いつまで設置するつもりなのでしょうか。

    このクリスマス装飾、いつまで設置するつもりなのでしょうか。

  • 教会の敷地内にある博物館にあった絵。おそらく聖母子なのでしょうが、著しくイラン化してしまったようです。そういえば泊まっているホテルのボーイにも眉がつながっている人、いたな…。

    教会の敷地内にある博物館にあった絵。おそらく聖母子なのでしょうが、著しくイラン化してしまったようです。そういえば泊まっているホテルのボーイにも眉がつながっている人、いたな…。

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