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巡礼5日目。<br />寝覚めの良い朝だ。外は快晴、霞のような雲が鐘楼の向こうに漂っている。予報では最高気温17度、巡礼日和である。今日の行程は大きな宿場町オーモンオーブラックまでの16キロ。スローペースで歩ける距離だ。出発前、教会に立ち寄り燈明を灯す。<br />ホテル前に一頭のロバが引かれてきた。昔ながらのロバを連れた巡礼のうわさは聞いていたが、それに出会うとは思わなかった。初日の吹雪のなか、遠くの巡礼者の横に馬のような影を見たが見間違いではなかった。これはレンタルドンキーで、2週間、ふたりの女の子を連れた家族のお供をしている。登り道や悪路では子供たちも乗る。先日の悪天候では家族を先に送り、父親一人でロバを引いていたようだ。子供たちにはこのおとなしいロバが可愛くてしかたない。午前中はこの家族と相前後しながら山路を登る。ロバは道草を食うわりには意外と足が早い。<br />昼食は山腹の村のレストランでクロックムッシュを食べる。昨晩の食卓で隣り合わせた若いカップルも同じものを食べていた。一日の行程で食事ができる村はいくつもないので、皆同じところで休憩が入る。<br />午後は谷あいの美しい牧草地が続く。見渡す限りの草原に吹き抜ける風が心地よい。巡礼路では顔見知りが増えていく。健脚の人を除き、ペースはほぼ同じで、同じ宿場町に泊まることも多いからだ。抜きつ抜かれつ、同じ人と何度も声を掛けあう。今日の初顔ではバチカンの二人連れが追い抜いていった。ザックに国旗を立てている。カソリックかと聞かれたので、違うと答えた。3時過ぎには目的地に着く。教会の横の建物では巡礼者にお茶が振舞われていた。インフォメーションで今夜の宿も決まる。教会でこれまでの無事を感謝する。<br />そろそろパリへの帰り方を考えなければならない。予定ではあと一日歩けるが、この先の巡礼路には小さな村ばかりで、鉄道駅があるこの町に引き返すことになりそうだ。結局、初回の巡礼はここで終了することにする。わずか5日間の巡礼、ようやくペースがつかめ、足の痛みも気にならなくなったのに残念だ。ひたすら西を目指し無心に歩くことの歓び、情報と準備不足を助けてくれた他の巡礼者への感謝、心に得ることの多い道中であった。<br />町外れの小さな駅に明日のパリ行きのチケットを買いにいく。窓口で隣りの椅子に女の子を遊ばせた女性が発券してくれた。念のためどちらのホームで待つのか聞くと、乗り換え駅までは長距離バスで、待つのは駅反対側の道路とのこと、危ないところであった。<br />最後の夕食は個々のテーブル席である。レストランが少ないのか、他の宿の客も多く、賑わっている。顔見知りのテーブルを回り、別れの挨拶を交わす。ほんのわずかの期間であったが、励まし合いながら同じ路を歩いた仲間だ。もう会うことはないだろう。来年、ここに戻り、みんなのあとを追うと伝える。それぞれの巡礼の目的は違えど、ゴールは同じ。遙か西方スペインガリシアの地サン・ジャックだ。このコンポステラ(星の野)にいる者はだれもがそこを目指す。ぼくらはその序についたばかりだ。残す距離は1400キロあまり。全ての巡礼者が無事に旅を終えることを祈りたい。

2013 サン・ジャックへの道(巡礼5日目)

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2013/04/26 - 2013/05/06

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25

fumio0102

fumio0102さん

巡礼5日目。
寝覚めの良い朝だ。外は快晴、霞のような雲が鐘楼の向こうに漂っている。予報では最高気温17度、巡礼日和である。今日の行程は大きな宿場町オーモンオーブラックまでの16キロ。スローペースで歩ける距離だ。出発前、教会に立ち寄り燈明を灯す。
ホテル前に一頭のロバが引かれてきた。昔ながらのロバを連れた巡礼のうわさは聞いていたが、それに出会うとは思わなかった。初日の吹雪のなか、遠くの巡礼者の横に馬のような影を見たが見間違いではなかった。これはレンタルドンキーで、2週間、ふたりの女の子を連れた家族のお供をしている。登り道や悪路では子供たちも乗る。先日の悪天候では家族を先に送り、父親一人でロバを引いていたようだ。子供たちにはこのおとなしいロバが可愛くてしかたない。午前中はこの家族と相前後しながら山路を登る。ロバは道草を食うわりには意外と足が早い。
昼食は山腹の村のレストランでクロックムッシュを食べる。昨晩の食卓で隣り合わせた若いカップルも同じものを食べていた。一日の行程で食事ができる村はいくつもないので、皆同じところで休憩が入る。
午後は谷あいの美しい牧草地が続く。見渡す限りの草原に吹き抜ける風が心地よい。巡礼路では顔見知りが増えていく。健脚の人を除き、ペースはほぼ同じで、同じ宿場町に泊まることも多いからだ。抜きつ抜かれつ、同じ人と何度も声を掛けあう。今日の初顔ではバチカンの二人連れが追い抜いていった。ザックに国旗を立てている。カソリックかと聞かれたので、違うと答えた。3時過ぎには目的地に着く。教会の横の建物では巡礼者にお茶が振舞われていた。インフォメーションで今夜の宿も決まる。教会でこれまでの無事を感謝する。
そろそろパリへの帰り方を考えなければならない。予定ではあと一日歩けるが、この先の巡礼路には小さな村ばかりで、鉄道駅があるこの町に引き返すことになりそうだ。結局、初回の巡礼はここで終了することにする。わずか5日間の巡礼、ようやくペースがつかめ、足の痛みも気にならなくなったのに残念だ。ひたすら西を目指し無心に歩くことの歓び、情報と準備不足を助けてくれた他の巡礼者への感謝、心に得ることの多い道中であった。
町外れの小さな駅に明日のパリ行きのチケットを買いにいく。窓口で隣りの椅子に女の子を遊ばせた女性が発券してくれた。念のためどちらのホームで待つのか聞くと、乗り換え駅までは長距離バスで、待つのは駅反対側の道路とのこと、危ないところであった。
最後の夕食は個々のテーブル席である。レストランが少ないのか、他の宿の客も多く、賑わっている。顔見知りのテーブルを回り、別れの挨拶を交わす。ほんのわずかの期間であったが、励まし合いながら同じ路を歩いた仲間だ。もう会うことはないだろう。来年、ここに戻り、みんなのあとを追うと伝える。それぞれの巡礼の目的は違えど、ゴールは同じ。遙か西方スペインガリシアの地サン・ジャックだ。このコンポステラ(星の野)にいる者はだれもがそこを目指す。ぼくらはその序についたばかりだ。残す距離は1400キロあまり。全ての巡礼者が無事に旅を終えることを祈りたい。

  • サンタルバンの朝。<br />初めて快晴の朝を迎えた。

    サンタルバンの朝。
    初めて快晴の朝を迎えた。

  • 雲は教会の鐘より低い。

    雲は教会の鐘より低い。

  • ホテルの窓から。

    ホテルの窓から。

  • 泊まった宿。<br />メーンストリートである。

    泊まった宿。
    メーンストリートである。

  • 重たい荷物に、二人の子を乗せても、平気なロバ。

    重たい荷物に、二人の子を乗せても、平気なロバ。

  • 峠のクロス(十字架)。

    峠のクロス(十字架)。

  • 先を行くバチカンの二人。

    先を行くバチカンの二人。

  • 谷あいの道を行く。

    谷あいの道を行く。

  • こんななだらかな道ばかりが続いてくれれば、楽なんだけど。

    こんななだらかな道ばかりが続いてくれれば、楽なんだけど。

  • 天気が良いと足も軽い。

    天気が良いと足も軽い。

  • いくつもの丘を越える。<br />頂上の度にひと休み。

    いくつもの丘を越える。
    頂上の度にひと休み。

  • 小さな村を通り過ぎる。

    小さな村を通り過ぎる。

  • オーモンオーブラックの教会。<br />右隅にぼくが写ってる。

    オーモンオーブラックの教会。
    右隅にぼくが写ってる。

  • 旅の無事を感謝し、

    旅の無事を感謝し、

  • 蝋燭を灯す。

    蝋燭を灯す。

  • パリにもどり、一日余ったので、<br />翌日、フォンテーヌブロー城を訪れる。

    パリにもどり、一日余ったので、
    翌日、フォンテーヌブロー城を訪れる。

  • こちらはバルビゾン村。

    こちらはバルビゾン村。

  • 素朴な教会。

    素朴な教会。

  • ミレーのアトリエ。<br />質素な暮らしだったのですね。

    ミレーのアトリエ。
    質素な暮らしだったのですね。

  • ガンヌの旅籠屋。<br />画家たちが宿屋代に引き換えに描いた絵が残ってる。

    ガンヌの旅籠屋。
    画家たちが宿屋代に引き換えに描いた絵が残ってる。

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この旅行記へのコメント (4)

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  • mistralさん 2013/05/19 19:55:52
    素敵な写真の数々!
    fumio01102さん

    こんばんわ。
    mistralと申します。ご訪問,そして投票をありがとうございます。

    サン・ジャックへの道,拝見いたしました。
    どのお写真もとても澄みきったイメージの写真ばかりで・・・
    これはfumioさんご夫妻の心を写しだしているせい?と思っていました。

    巡礼者同士がいたわり合いながら旅を続ける様子が感動的です。

    私も「星の巡礼」を読んで,いつの日か自らの足で辿ってみたいと
    思っていました。
    一部づつでも目的の地に近づいているのは
    とても素敵なことですね。
    応援しております。

    fumio0102

    fumio0102さん からの返信 2013/05/20 11:12:39
    RE: 素敵な写真の数々!
    こんにちは。
    コメントありがとうございます。

    今回の巡礼は、ほんのわずかの期間で、
    あまり自慢できるものではないんですが、
    まだまだ歩いてる方たちがいて、
    今でもときどき、がんばれって心の中で応援してるんですよ。
    それだけ、強い思い出になったんだと思います。

    昨年のパリでは、アラン・ジュカスの店にしようか迷ったんですよ。
    mistralさんの写真をみて、やっぱりここにすればよかったと…。
    美味しそうだし、眺めも良いし、次はここに決めました。
    余裕があったらですが…。

    地方都市の綺麗な写真ばかりで、見ててたのしくなります。
    これからも、楽しく拝見させていただきます。
  • パルファンさん 2013/05/18 23:59:48
    何年かかっても・・
    fumio0102さん お久しぶりです!

    サン・ジャックの道、ほんとに歩きはじめたのですね!
    出発の旅行記の時は車でかと思ってました〜

    4日目、5日目でお天気もよくなり、ペースも出来てきて・・
    読んでいてもホッとさせられてきたのに・・今回はもう終わりなんですね!
    何年かかっても是非続けられることを願っております〜

    それにしても、道中、人々の交わりは素晴らしいですね!
    何よりも得難いもの!感動ものです〜〜

    ロマネスク教会に目覚めさせてくださったfumio0102さんの旅行記
    これからも楽しみにしています。

    パルファン

    fumio0102

    fumio0102さん からの返信 2013/05/19 10:03:03
    RE: 何年かかっても・・
    おしさしぶりです。
    昨年から、また休みがとれるようになりました。
    でも、長期は無理なんです。リタイアできればいいんですが。
    はやく行かないと思いながら、ようやく一歩目が踏み出せました。
    だから今回は、巡礼体験みたいな感じです。
    もう少し長ければ、もっと余裕のある旅になっていたのでしょうけど。
    来年はもっと準備をしていきます。

    パルファンさんのドライブ旅行、写真を見させていただきうっとりです。
    やっぱり田舎のまちや村を巡るのはいいですよね〜。
    パリから外にでるとホッとしますよね!
    スケッチしながらなんて、普通の人にはまねできないし、羨ましいです。
    また綺麗な写真と絵を期待してます。

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