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年末のサンクトペテルブルクではウィンターフェスティバルが開催される。12月14日に開催された開幕コンサートはロシアの誇る巨匠テミルカーノフが珍しくドイツ物のR.シュトラウスの「英雄の生涯」をとりあげた。しかしコントラバス首席のチルコフ氏によれば、この曲は数年毎に演奏しており、決して珍しいことではない。テミルカーノフは国際人であり、レパートリーは広い。また今年の4月22日、ゲルギエフとマリインスキー歌劇場オケがこの曲を演奏しており、その聴き比べを主にここにメモしておきたい。<br /><br />私にとって英雄の生涯は、ブルックナーの交響曲に次いで好んで演奏会で聴く曲だ。記憶の中ではカラヤン、サヴァリッシュ、ハイティンク の超名演が聴こえてくる。これらの巨匠と比較しては、昨年マリインスキー歌劇場オケと聴いたゲルギエフもまだまだ発展途上と言えるだろう。ではテミルカーノフはどうか?<br /><br />まずこの曲の演奏にはオケの性能が必要だ。先の巨匠の率いたベルリン、ハンブルク、ドレスデンはドイツの誇る世界に冠たるオケであるが、サンクトペテルブルクフィルはこれらと肩を並べる性能を持つ。そして円熟の極みに到達したテミルカーノフはこのオケを自在にコントロールし、ゆったりしたテンポで堂々たる説得力ある演奏を聴かせてくれる。そして彼は奏者を選択する権限を持ち、私の親友のコントラバス首席チルコフ氏のように、ロシア中の(世界中ではないが)優秀な奏者を引っ張ってきて、常に最高レヴェルの性能を維持している。<br /><br />これに対し、ゲルギエフの手兵マリインスキー劇場管弦楽団もかなりハイレヴェルな奏者を集めているとはいえ、サンクトペテルブルクフィルと比較することは難しい。若い奏者が多く、ゲルギエフがしばしば激しいアッチェレランドとクレッシェンドを要求する時に、乱れが発生することもある。<br /><br />少し遡るが、11月9日にテミルカーノフの指揮でショスタコーヴィッチの10番の交響曲を聴いた。ショスタコーヴィッチについてもテミルカーノフとゲルギエフの指揮で5番と7番を聴き比べているが、当然ながらどれも素晴らしい。特にテミルカーノフについては問答無用の世界最高の演奏だ。前のシェフで伝説的なカリスマ指揮者ムラヴィンスキーは録音嫌いだったため、実際生で聴いた迫真の演奏を伝えるいいCDは少ないが、彼のショスタコーヴィッチはいつも愛聴している。ソヴィエト時代を反映した、西側のオケとは一線を画した個性的な超名演だ。一方テミルカーノフは国際人であり、オケの昔の個性は失われたとは言え、世界最高の演奏であることは変わりない。80歳を間近にする彼の演奏を、度々聴けるこの町の人々は本当に幸せだ。<br /><br />11月10日には、カザフスタン国立交響楽団がサンサーンスのオルガン付き交響曲と、民族楽器を伴う曲を演奏した珍しい演奏会に出かけた。指揮はカナット・オマロフという人だ。特筆することは少ないが、文化的には後進国と思われている中央アジアの旧ソヴィエトの若い奏者の多い国立交響楽団が、予想以上の高いレヴェルの演奏能力を備えていることは間違いない。<br /><br />翌日の11日には、ボロディン弦楽四重奏団がチャイコフスキーとブラームスの弦楽四重奏曲第1番を演奏した。ロシア一と評判の高い団体であり、ブラームスはロシアの団体とは思えないほど、重厚な深いドイツの音色を奏でていた。サンクトペテルブルクは、いつも幸福な満ち足りた瞬間を与えてくれる素晴らしい町である。

サンクトペテルブルク冬のフェス:テミルカーノフの「英雄の生涯」「ショスタコ10番」など

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2012/12/05 - 2012/12/15

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ハンク

ハンクさん

年末のサンクトペテルブルクではウィンターフェスティバルが開催される。12月14日に開催された開幕コンサートはロシアの誇る巨匠テミルカーノフが珍しくドイツ物のR.シュトラウスの「英雄の生涯」をとりあげた。しかしコントラバス首席のチルコフ氏によれば、この曲は数年毎に演奏しており、決して珍しいことではない。テミルカーノフは国際人であり、レパートリーは広い。また今年の4月22日、ゲルギエフとマリインスキー歌劇場オケがこの曲を演奏しており、その聴き比べを主にここにメモしておきたい。

私にとって英雄の生涯は、ブルックナーの交響曲に次いで好んで演奏会で聴く曲だ。記憶の中ではカラヤン、サヴァリッシュ、ハイティンク の超名演が聴こえてくる。これらの巨匠と比較しては、昨年マリインスキー歌劇場オケと聴いたゲルギエフもまだまだ発展途上と言えるだろう。ではテミルカーノフはどうか?

まずこの曲の演奏にはオケの性能が必要だ。先の巨匠の率いたベルリン、ハンブルク、ドレスデンはドイツの誇る世界に冠たるオケであるが、サンクトペテルブルクフィルはこれらと肩を並べる性能を持つ。そして円熟の極みに到達したテミルカーノフはこのオケを自在にコントロールし、ゆったりしたテンポで堂々たる説得力ある演奏を聴かせてくれる。そして彼は奏者を選択する権限を持ち、私の親友のコントラバス首席チルコフ氏のように、ロシア中の(世界中ではないが)優秀な奏者を引っ張ってきて、常に最高レヴェルの性能を維持している。

これに対し、ゲルギエフの手兵マリインスキー劇場管弦楽団もかなりハイレヴェルな奏者を集めているとはいえ、サンクトペテルブルクフィルと比較することは難しい。若い奏者が多く、ゲルギエフがしばしば激しいアッチェレランドとクレッシェンドを要求する時に、乱れが発生することもある。

少し遡るが、11月9日にテミルカーノフの指揮でショスタコーヴィッチの10番の交響曲を聴いた。ショスタコーヴィッチについてもテミルカーノフとゲルギエフの指揮で5番と7番を聴き比べているが、当然ながらどれも素晴らしい。特にテミルカーノフについては問答無用の世界最高の演奏だ。前のシェフで伝説的なカリスマ指揮者ムラヴィンスキーは録音嫌いだったため、実際生で聴いた迫真の演奏を伝えるいいCDは少ないが、彼のショスタコーヴィッチはいつも愛聴している。ソヴィエト時代を反映した、西側のオケとは一線を画した個性的な超名演だ。一方テミルカーノフは国際人であり、オケの昔の個性は失われたとは言え、世界最高の演奏であることは変わりない。80歳を間近にする彼の演奏を、度々聴けるこの町の人々は本当に幸せだ。

11月10日には、カザフスタン国立交響楽団がサンサーンスのオルガン付き交響曲と、民族楽器を伴う曲を演奏した珍しい演奏会に出かけた。指揮はカナット・オマロフという人だ。特筆することは少ないが、文化的には後進国と思われている中央アジアの旧ソヴィエトの若い奏者の多い国立交響楽団が、予想以上の高いレヴェルの演奏能力を備えていることは間違いない。

翌日の11日には、ボロディン弦楽四重奏団がチャイコフスキーとブラームスの弦楽四重奏曲第1番を演奏した。ロシア一と評判の高い団体であり、ブラームスはロシアの団体とは思えないほど、重厚な深いドイツの音色を奏でていた。サンクトペテルブルクは、いつも幸福な満ち足りた瞬間を与えてくれる素晴らしい町である。

旅行の満足度
4.5
観光
4.5
ホテル
4.0
グルメ
4.0
交通
4.5
同行者
一人旅
一人あたり費用
20万円 - 25万円
交通手段
鉄道 高速・路線バス タクシー 徒歩 飛行機
航空会社
ANA

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  • フィルハーモニーホール前の芸術家広場に立つプーシキン像

    フィルハーモニーホール前の芸術家広場に立つプーシキン像

  • 凍てつく血の上の教会(スパース・ナ・クラーヴィ教会)

    凍てつく血の上の教会(スパース・ナ・クラーヴィ教会)

  • 芸術家広場に立つクリスマス飾り

    芸術家広場に立つクリスマス飾り

  • 凍てつくスパース・ナ・クラーヴィ横の運河

    凍てつくスパース・ナ・クラーヴィ横の運河

  • ミハイロフスキー劇場内ロビーのクリスマスツリー

    ミハイロフスキー劇場内ロビーのクリスマスツリー

  • ミハイロフスキー劇場のクリスマス飾り

    ミハイロフスキー劇場のクリスマス飾り

  • ネフスキー通りのクリスマス飾り

    ネフスキー通りのクリスマス飾り

  • ゴスチーヌイ・ドヴォールデパート前のクリスマスツリー

    ゴスチーヌイ・ドヴォールデパート前のクリスマスツリー

  • ネフスキー通りのクリスマス飾り

    ネフスキー通りのクリスマス飾り

  • フィルハーモニーホールのエントランス

    フィルハーモニーホールのエントランス

  • フィルハーモニーホール内には名チェリストのロストロポーヴィッチのステージ衣装などの展示があった

    フィルハーモニーホール内には名チェリストのロストロポーヴィッチのステージ衣装などの展示があった

  • 生前のロストロポーヴィッチの写真

    生前のロストロポーヴィッチの写真

  • 生前のロストロポーヴィッチの写真

    生前のロストロポーヴィッチの写真

  • フィルハーモニーホール内ロビーにはオペラの衣装の展示もあった

    フィルハーモニーホール内ロビーにはオペラの衣装の展示もあった

  • 英雄の生涯の前プロはモーツァルトのピアノ協奏曲第24番(ピアノ独奏アレッシオ・バックス)

    英雄の生涯の前プロはモーツァルトのピアノ協奏曲第24番(ピアノ独奏アレッシオ・バックス)

  • モーツァルト演奏後に喝采を浴びるバックス

    モーツァルト演奏後に喝采を浴びるバックス

  • 英雄の生涯演奏後のサンクトペテルブルクフィルハーモニーとテミルカーノフ

    英雄の生涯演奏後のサンクトペテルブルクフィルハーモニーとテミルカーノフ

  • ショスタコーヴィッチ交響曲第10番演奏後のサンクトペテルブルクフィルハーモニーとテミルカーノフ

    ショスタコーヴィッチ交響曲第10番演奏後のサンクトペテルブルクフィルハーモニーとテミルカーノフ

  • カザフスタン国立交響楽団の演奏会のカザフスタンの民族楽器の奏者たち

    カザフスタン国立交響楽団の演奏会のカザフスタンの民族楽器の奏者たち

  • サンサーンス交響曲第3番を演奏後のカザフスタン国立交響楽団

    サンサーンス交響曲第3番を演奏後のカザフスタン国立交響楽団

  • ブラームス弦楽四重奏曲第1番演奏後のボロディン弦楽四重奏団

    ブラームス弦楽四重奏曲第1番演奏後のボロディン弦楽四重奏団

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