2011/10/21 - 2011/10/27
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おっちゃんさん
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滞在5日目。
旅は楽しすぎて、つい子供のようにはしゃいでしまう。
そのせいで朝は本当に起き上がるのがつらい。
今日はお土産を買うことにしていた。
ランチはラーンガイトーン・プラトゥーナムでカオマンガイを食べると決めてあるだけで、あとは相方の買物につきあうということにしてある。
遅めの朝食は、相変わらず欲の皮のつっぱった取り過ぎによって、朝から動きたくないほど満腹してしまう。
朝から悲しいくらい重いからだを支えながら、昨日行ったO.P.プレイスのサイアム・ブータリーへと向かった。
店内には人影がなく、店主はまだ来ていない様子だった。
ロビーで、往時の面影がしのばれるエレベーターを眺めながら、しばし時間をつぶした。
そして再び、店の前に戻り、ガラス越しに中を覗き込んでいると、怪しげな輩の行動に気づいたのか、店内の明かりがやっと点いた。
店主は昨日、売り逃した客だとすぐにわかったようで、今日はやけに積極的に押してくる。
相方はエルメスのピコタン(によく似た)モデルに 絞り込み、グレイ、オレンジ、パープル、ブルー…どの色にしようか、考え込んでいた。
「明日は、休みよ」
店主は、日本人の旅程の短さやショッピングの行動についてよく知っているようで、今日決めないと明日はもう買えませんよ、というわけだ。
相方はオレンジ色に決め、安心したように微笑んだ。
ちゃんと使ってね、と相方にいうと、「使うよ」と答えるのだが、はなはだ怪しい。
我が家の物入れには、出番のないまま忘れ去られたバッグたちが肩を寄せ合って暮らしている。
画家・詩人のマリー・ローランサンの詩に「死んだ女より悲しいのは、忘れられた女です。」という一行があったけれど、「壊れたバッグより悲しいのは、忘れられたバッグです。」と思わず相方に言ってあげたくなる。
女性とは不思議な生き物で、商品を手に入れるまでのプロセスがすべてで、その間アドレナリンが噴き出し、エンドルフィンが溢れるのだが、一度手に入れると急に熱が冷めてしまうものらしい(最近は男性もそういう人が少なくないが…)。
あるいは、高価なものを手に入れると、汚れたり、傷ついたりするのがもったいなくて、箪笥の肥しになってしまうということもあるのだろう。
以前、ジェーン・バーキンがスマスマに出演し、彼女の名前が冠されたエルメス「バーキン」をSМAPのメンバーにプレゼントしたことがあった。
メンバーの一人が「こんな高価なものを、どう使えばいいのか」とバーキンに質問した。
その時のバーキンの行動が、実に痛快だった。
「バーキン」を踏みつけ、蹴飛ばし、バッグの口をがばっと開けて見せた。
「こうやって使うのよ」
こんなふうに乱暴に扱っても、壊れるバッグではないし、これくらいの覚悟がない人は持ってはいけない、ということなのだろう。
ピコタンはいわゆるトート型で、トート・バッグはもともと水汲み用として誕生した。
いわば働く鞄、生活の道具なのだから、使ってあげる。
使い込むうちに出てくる味を楽しむ。
相方にも、そんなふうにこのバッグを使ってあげてほしいと思うのだが…。
4000bahtをカードで支払い、相方と店を出た。
ホテルの部屋に戻り、バッグを置いて、買物に再び出掛けることにした。
- 同行者
- カップル・夫婦(シニア)
- 交通手段
- 鉄道 船 ヒッチハイク 徒歩
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サパンタクシン駅に隣接する、サートーン船着場が気になり、様子を見に行った。
いつもにぎわっている船着場に、不思議なほど人影はない。
河の水かさが2日前より、さらに増している。
激流と化した流れが河にせり出した艀(はしけ)にぶつかって泡立ち、渦を巻いている。
さすがのチャオプラヤ・エクスプレスもついに運休していた。
サパンタクシン駅から船着場へと続く木道の下は、すでに冠水している。
シャングリラ・ホテルの周辺でも冠水がはじまっていた。
あとは時間の問題だった。
洪水がバンコク中心部へと確実に迫っていた。
せいぜい数日しか滞在しない我々観光客はいいとして、ここで暮らしていかなければならない地元民はどうなってしまうのだろう。
BTSに乗りこんでくるクリーンでおしゃれな若者たちの横顔を見つめながら、この都市にいま起こりつつある現実を彼らはどう考えているのだろう、と思った。
BTSは安価な乗りものではない。
1日に数度、乗り降りするだけで、100bahtはあっという間に消えてなくなる。
(1日乗り放題の1dayパス/120bahtがお得であるというのはそういう理由である。)
BTSに乗る若者たちは比較的裕福な家庭の子弟であることが、身なりや雰囲気からも感じ取ることができる。
彼らと、街中を行き交うドアのないバスに揺られる若者を見較べてみるとよい。
富める者と貧しき者の格差が乗り物に現れ、洪水への危機感となって現れているような気がしてならない。 -
チットロム駅に降り立ち、「セントラル・ワールド」へと通じる高架橋を渡りながら、この街の空気感の違いを感じないわけにはいかない。
「セントラル・ワールド」のエレガントなブランド・ショップの並ぶ清潔で広々とした空間には、下界とは無縁の風が吹いているように感じる。
相方は「NaRaYa(ナラヤ)」で、お土産を買いたいといって、まっすぐにお店へと向かった。
エントランス付近には大きなリボンのついたパステル・カラーのサテンのバッグが並んでいる。 -
中国からの団体客がかまびすしく、バッグを鷲づかみにして、次々とかごに入れていく。
相方もバッグを目の前にかざして、あれこれと想像を巡らせている。
NaRaYaの人気の秘密は、この安さだろう。
100〜300bahtくらいでたいていの商品が買える。
「ジム・トンプソン」はさすがにこの値段では買えない。
お土産でばらまくにはいささか高価である。
NaRaYaなら、かわいい系のバッグやポーチはもちろんだが、ランジェリー入れ、ストッキングの収納用ポーチ、ジュエリー用ケース、シューズ・ケースなど、旅行用の便利グッズ・小物入れのラインアップが充実し、しかもリーズナブルで財布にやさしい。
CAが機内誌でNaRaYaの商品をよく紹介しているのも、旅行に便利でお土産に適した価格帯であるからだろう。
男から見て、気恥ずかしくなるほどかわいらしいデザインが、やはり女性の好みらしい。
相方がショッピングに夢中になるのは、多少恐ろしくもあるが、楽しそうなのだから仕方がない。
相方が気のすむまで買物をしている間、その邪魔をしないよう英国発のストリート系のブランド「TOPМAN」で時間をつぶすことにした。
このブランドはもう日本にも進出している。
海外ブランドは高い、というタイの実情を反映して、ここ「TOPМAN」でも日本で買うのとあまり変わらないプライスがつけられていた。
だが、「TOPМAN」はちょうどセール期間だったため、日本で買う三分の一くらいの値段で買えそうだった。
コールド・プレイのクリス・マーティンが着ていそうなTシャツを3枚とパーカーを買い、ひとり悦に入ってNaRaYaに戻ると、次は「セントラル・ワールド」とつながっている、伊勢丹に行くという。
ワコールのセールがあるらしい。
そういえば、МBKの東急百貨店でも、トリンプとワコールのセールが行われていた。
タイ人と日本人は体型的にそう違わない。
だから、サイズでの失敗も少なくてすみ、安心して買い物ができるというメリットがある。
下着売り場をうろつくのは遠慮して、休憩用のいすで休んで相方を待つことにした。
そろそろガイトーン・プラトゥーナムでカオマンガイを美味しく食べられるくらいに、空腹していた。 -
伊勢丹を出て、ラチャダムリ通りを北に5分ほど行くと、ラーンガイトーン・プラトゥーナムで働くピンクのポロシャツ軍団が目に飛び込んでくる。
午後3時になっていた。
もっと空いているものと思っていたが、予想に反して9割がた席は埋まっていた。
全員カオマンガイを食べているわけではなかった。
麺をすすっているおじさんがいたりして、これはこれでとても美味しそうに見える。
とはいえ我々のテーブルの横に無言で突っ立っている女性に注文したのは、もちろんカオマンガイである。
この店に来て、カオマンガイを食べずに帰ったら、変り者の烙印を押されかねない。
清潔かと聞かれれば、首をかしげざるを得ないが、落ち着いて食事ができないほど不潔でもない。
とんねるずが紹介している「キタナトラン」のレベルだろうか。
まず運ばれてきたスープをひと口飲んで、その美味さに唸った。
上品な鶏だしのすまし汁である。(熱々ならもっと美味しかっただろう…)
最近、東京でも出す店の増えた鶏ラーメン、そのスープは麺とからんでちょうどいい味となるよう塩分が強い。
より正確にいうなら、塩をギリギリまで使わなければ、うま味が立ってこない。
しかし、この店のスープは淡く、しかもうま味が強い。
これほどのスープがとれる力があるなら、このスープで炊かれたカオマンガイのご飯がまずいはずがない。
テーブルに置かれたカオマンガイの鶏肉とご飯をスプーンいっぱいにのせて頬張ると、「鶏」の凝縮したうま味が口中に広がる。
しっとりとした鶏の上に、添えられたソース、カティアムチュウを少しかけて食べると、また違った鶏のうま味が引き立ち、これがまた美味しい。
鶏だけでも充分ビールのつまみになる。
鶏のうま味たっぷりのご飯は、カティアムチュウを少しかけて、それだけで食べても美味しいのではないか。
量は日本の標準的な一人前に較べてやや少量だが、これで30bahtである。
スープをお代わりしたい、という思いをこらえて、店を出た。
ぜひまた来たい店である。(洪水の前に―10/26バンコクその⑪マンゴー・タンゴ~マンゴー・ツリー)
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