![30歳で家郷をはなれ、48年間を故郷喪失者として旅に暮らした漂泊者、菅江真澄は、天明の飢饉で人口が半減した津軽藩から仙台まで引き返したが、再び北上し、蝦夷地4年・下北2年・津軽4年の後、深浦の豪商に船で土崎まで送られて秋田に落ち着いた。深浦町にはその豪商の末裔がすむ昭和初期の二階家がある(旅行記、太宰の「津軽:西海岸」を歩く(1・2))<br />以後、秋田の各地の知識人と交遊し、また佐竹藩の委嘱をうけて各所を旅して記録を残し、1826年からは仙北郡巡村地誌調査をはじめたが、1829年に角館に没した。<br />200冊をこえる詳細な記録のうち秋田藩の藩校明徳館に納められた89冊は国の重要文化財になっている。<br />旅に生き、旅に逝った菅江真澄が、いちばん長く滞在し、没したのは秋田であった。故郷をうしなって久しい旅人が、なぜ秋田に逗留したのか。その思いの一端でも感じるべく秋田を訪れた。<br /><br />まず、県立博物館。ここには菅江真澄資料センターがあり、重要文化財に指定されている旅の記録帖が複製品とはいえ展示されている。追分駅から近く、900円くらいでタクシーもあり、展示は必見である。軽食ができるカフェもあるので一日を過ごすのも十分に価値がある。<br />徒歩10分足らずのところに菅江真澄が逗留した旧奈良家住宅があり、博物館の分館となっている。国の重要文化財に指定されているこの豪農の家の大黒柱は天然の秋田杉で、全体の姿も内部のしつらえも見事で、あるじの見識の豊かさとあいまって、菅江真澄がわらじを脱いだのもむべなるかなと納得させられる。<br />真澄はこの金足地区を「かなせ」として記録している。邸内には明治天皇が泊まった建物や、美しい味噌倉や米倉もあり、それぞれの時代を感じられる。<br />駅からタクシーで奈良家住宅まで来て、博物館まで歩くのがお勧めの順路。<br /><br />もうひとつは古四王神社。菅江真澄がしばしば訪れて神官の鎌田正家と歓談したところで、故郷をうしなった旅人の真澄が心を開いた数少ない場所だったのだろう。なお、同名の神社で国指定重要文化財が大曲にもあるので、越の王権はこのあたりに及んでいたと思われる。<br />秋田市の古四王神社は旧国幣小社で、県内唯一の国弊社である。社伝によれば四道将軍のひとり大彦命がタケミカヅチノ命を創祀し、斎明天皇の658年に、蝦夷討伐を命じられた越の国主阿部比羅夫が先祖の「こし王」を合祀したとされる。つまり、ここの「古四王神社」はアマツカミを祀った社に、土着のクニツカミ「越(こし)王」を合祀した神社のようですが、伝説の東北王国「日高見国」の立場からみると別の見方があるようです。<br />この地区は、佐竹以前は当社の門前村で秋田村の中心であった。733年に出羽柵をここに移転して秋田城としたがその跡も近い。<br />社域には坂上田村麻呂が創建した?田村神社があり、菅江真澄が詠んだ和歌の碑もある。<br /><br />最後は菅江真澄の墓。1829年、仙北郡の地誌調査の旅先で没した菅江真澄は秋田まで運ばれて埋葬された。<br />古四王神社の前の横断歩道をわたって、向かいの道を下がり、樹齢1200年のケヤキの大樹と、その向かいの湧泉(高清水霊泉)を過ぎ、道標にしたがって石段を右上に登った墓地の中、鎌田家の墓地の一郭に埋葬されている。墓所は秋田市の寺内大小路137。<br />弟子の鳥屋長秋による万葉長歌風の墓碑銘が刻まれた墓は装飾もなく、旅に生きた故郷喪失者にふさわしい。<br /><br />秋田県内には、「菅江真澄の道」などと書いた道標が数百も建てられている。50歳を過ぎてから歩き続けた故郷喪失者、そして書き紡ぎつつ没した稀代の旅人の生の道程を、こんな道標で示されては旅人が可哀想だと、寒い心で帰りました。<br />](https://cdn.4travel.jp/img/thumbnails/imk/travelogue_album/10/58/05/650x_10580546.jpg?updated_at=1462327064)
2011/06/29 - 2011/07/02
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ANZdrifterさん
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30歳で家郷をはなれ、48年間を故郷喪失者として旅に暮らした漂泊者、菅江真澄は、天明の飢饉で人口が半減した津軽藩から仙台まで引き返したが、再び北上し、蝦夷地4年・下北2年・津軽4年の後、深浦の豪商に船で土崎まで送られて秋田に落ち着いた。深浦町にはその豪商の末裔がすむ昭和初期の二階家がある(旅行記、太宰の「津軽:西海岸」を歩く(1・2))
以後、秋田の各地の知識人と交遊し、また佐竹藩の委嘱をうけて各所を旅して記録を残し、1826年からは仙北郡巡村地誌調査をはじめたが、1829年に角館に没した。
200冊をこえる詳細な記録のうち秋田藩の藩校明徳館に納められた89冊は国の重要文化財になっている。
旅に生き、旅に逝った菅江真澄が、いちばん長く滞在し、没したのは秋田であった。故郷をうしなって久しい旅人が、なぜ秋田に逗留したのか。その思いの一端でも感じるべく秋田を訪れた。
まず、県立博物館。ここには菅江真澄資料センターがあり、重要文化財に指定されている旅の記録帖が複製品とはいえ展示されている。追分駅から近く、900円くらいでタクシーもあり、展示は必見である。軽食ができるカフェもあるので一日を過ごすのも十分に価値がある。
徒歩10分足らずのところに菅江真澄が逗留した旧奈良家住宅があり、博物館の分館となっている。国の重要文化財に指定されているこの豪農の家の大黒柱は天然の秋田杉で、全体の姿も内部のしつらえも見事で、あるじの見識の豊かさとあいまって、菅江真澄がわらじを脱いだのもむべなるかなと納得させられる。
真澄はこの金足地区を「かなせ」として記録している。邸内には明治天皇が泊まった建物や、美しい味噌倉や米倉もあり、それぞれの時代を感じられる。
駅からタクシーで奈良家住宅まで来て、博物館まで歩くのがお勧めの順路。
もうひとつは古四王神社。菅江真澄がしばしば訪れて神官の鎌田正家と歓談したところで、故郷をうしなった旅人の真澄が心を開いた数少ない場所だったのだろう。なお、同名の神社で国指定重要文化財が大曲にもあるので、越の王権はこのあたりに及んでいたと思われる。
秋田市の古四王神社は旧国幣小社で、県内唯一の国弊社である。社伝によれば四道将軍のひとり大彦命がタケミカヅチノ命を創祀し、斎明天皇の658年に、蝦夷討伐を命じられた越の国主阿部比羅夫が先祖の「こし王」を合祀したとされる。つまり、ここの「古四王神社」はアマツカミを祀った社に、土着のクニツカミ「越(こし)王」を合祀した神社のようですが、伝説の東北王国「日高見国」の立場からみると別の見方があるようです。
この地区は、佐竹以前は当社の門前村で秋田村の中心であった。733年に出羽柵をここに移転して秋田城としたがその跡も近い。
社域には坂上田村麻呂が創建した?田村神社があり、菅江真澄が詠んだ和歌の碑もある。
最後は菅江真澄の墓。1829年、仙北郡の地誌調査の旅先で没した菅江真澄は秋田まで運ばれて埋葬された。
古四王神社の前の横断歩道をわたって、向かいの道を下がり、樹齢1200年のケヤキの大樹と、その向かいの湧泉(高清水霊泉)を過ぎ、道標にしたがって石段を右上に登った墓地の中、鎌田家の墓地の一郭に埋葬されている。墓所は秋田市の寺内大小路137。
弟子の鳥屋長秋による万葉長歌風の墓碑銘が刻まれた墓は装飾もなく、旅に生きた故郷喪失者にふさわしい。
秋田県内には、「菅江真澄の道」などと書いた道標が数百も建てられている。50歳を過ぎてから歩き続けた故郷喪失者、そして書き紡ぎつつ没した稀代の旅人の生の道程を、こんな道標で示されては旅人が可哀想だと、寒い心で帰りました。
- 同行者
- カップル・夫婦
- 一人あたり費用
- 3万円 - 5万円
- 交通手段
- 新幹線 JRローカル
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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塀の向こうが奈良家住宅。この芝生では目の前3メートルで雉の親子が遊んでいた。
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重厚なつくりの奈良家住宅。屋根の茅葺きの厚さが尋常ではない厚さで、見事だし、全体としても美しかった。
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内部に展示してある昔の生活具。右下は石の鉢と石棒。ひょうたんの容器や臼と杵などが並んでいる。
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美しい味噌蔵。これは新しい建物。
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明治天皇が泊まった建物。
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菅江真澄の研究や資料展示の中心になっている県立博物館では、展示を眺めるのに夢中で 写真を撮りませんでした。
レストランの前で咲いていたヤマボウシです。 -
古四王神社の入り口です。鳥居の右の石柱には国幣小社と書いてあります。
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古四王神社です。
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古四王神社の拝殿の額。
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上の写真の反対側に古い古四王神社の額が掛けてありました。
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坂上田村麻呂を祭った田村神社。
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菅江真澄の短歌の碑ですが よく読めなかった。
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菅江真澄の墓所に登る入り口。
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表紙の写真を別の方向から写しました。
鎌田家の墓地に埋葬されたので 近くのお墓はすべて鎌田一族でした。 -
近くに 鳥屋長秋の長歌が記されていました。
現代語訳の部分を写しました。 -
秋田駅前、アーケードを通っていたら「菅江真澄の道」と」かかれた道標がありました
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