2008/12/23 - 2009/01/07
7927位(同エリア8925件中)
ちゃおさん
先年、中国太湖を徐州、無錫の付近で遊覧し、その湖の大きさに驚き、更にはガイドの、ダルマ船を引っ張って端から端まで行くのに3日間はかかる、との説明に、改めて中国の大陸湖の広さ、大きさに驚嘆したが、このトンレサップ湖はそれよりも更に大きい。洞庭湖の大きさは未だ嘗て経験していないが、このトンレサップは多分それよりも大きいだろう。多分、アジア一の大きさに違いない。
聖地「ブノーン・クレーン」を源とするシェリムアップ川は、町のほぼ真ん中を貫通して、このトンレサップへ注いでいるが、川自体はそれ程大きくない。水量も少ない。
御朱印船時代の森本右近太夫の貿易船がこの細い流れを遡り、アンコールの王舎まで船で来たとは考えられないので、多分、河口のどこか、今バイクでやってきたトンレサップ湖の突堤のこの近くに湊があったに違いない。そこから約15キロの川沿いの道を歩いて来たと思われる。
それから400−500年経った今でも、この突堤には数百隻を越える遊覧船、遊漁船が係留されている。中には100人、200人乗りの中型観光船もあるが、大半は10トン未満の船外エンジン船で、皆、細長い鞘のような形をしている。こんなに沢山の船が繋留されていて、そんなに多くの観光客が集まるのかと、いぶかしく思う。まあ、この内の何割かは日中は遊覧船で、夜は漁船に早変わりするのかも知れないが・・・
トンレサップ・クルーズは湊の周辺を一周するのに30ドルとはこの国の物価を考えたら馬鹿に高いが、船を一人で一艘貸しきることを思えば、船頭代としてもやむを得ないか。バイクのドライバー(名前をノートに控えたが、盗まれたショルダーの中にノートも入れてあって、今は名前は分らない)も一緒に乗ってきて、ボートの上で写真を撮ってくれたりしてくれる。
貸切のボートはマングローブの生える浅瀬をフルスピードで沖合いに向って走り出す。沖合いから大小様々なボートが行き違いに帰ってくる。賑やかなオンパレード。
ベトナムから魚を追って移住してきた水上集落を通りぬけ、湖の真っ只中に出る。西方、右手に波間の上にちょこっと顔を出している山脈が見えるが、それ以外は全くの水面。海と見まごうばかりの湖。波静かで本当に広い。
日中の曇りも晴れ、今は虹も出ている。夕陽がその山の蔭に沈みつつある。雲が赤らみ湖面に映える。トンレサップの夕焼け。びわ湖の七夕とは全く違った雄大な光景。思い切り写真を撮る。
太湖が揚子江の忘れ形見とすれば、このトンレサップはメコンの隠し子のようなもので、太湖が既に単独の淡水湖になっているの比べ、トンレサップは未だ尚、メコンと繋がっていて、4月から10月にかけての雨季、メコンの水量は急激に増水し、その溢れた川水はこの湖に逆流して入り込み、湖は今の冬の乾季の3倍もの大きさに膨らむという、全く得体の知れない程の怪物のような湖ではある。
しかし今見ている湖は静かで、湖上を多くの鳥が舞っている。何箇所か纏まって湖面に降り立っているところを見ると、その辺りには魚も集まってきているのだろう。
水中を見ると、いつかの明け方、ワットアルンの前のチャオプラヤー川で見たと同じ様な大きさの黒っぽい、鱸(スズキ)に似た魚が群れを成して泳いでいる。水中に指を入れると、喰らい付かれそうな勢いである。
魚を追ってメコンを遡り、この湖に移住してきたベトナム漁労民は約2万人いると言われるが、到底そんな数の漁労者では獲り切れない程の魚の数。湖が3倍に膨らむと共に、豊富な栄養がもたらされ、更に倍する魚の増加。毎年、毎年何百年と繰り返されてきた、湖の膨張と魚の豊漁。ここは正に彼らに取っての豊饒の海でもあった。
夕闇迫る中、水上部落にも夕餉の支度が始まっている。香港の蛋民船と同じ様な形の屋形を持ったその居住区画からは煙も立ち上っている。屋形の中では海洋民族の女房が甲斐甲斐しく働いている。子供達は外でまだタライ舟に乗って遊んでいる。その間を売店船が行き来している。駄菓子を積んだり、炭を積んだり、缶詰なども見える。呼び止められて、横付けし、値段交渉しているようだ。あ、学校船も見える。これは大きい。30人教室がすっぽり入る位の箱型の屋形を持っている。白十字の病院船もあるようだ。
ランプの中でのこれから家族揃っての夕食が始まるのだろう。母親が大声を出して、誰かを呼んでいる。全く平和な情景。人間の幸の原点。豊饒の海の作者三嶋が求めていたものは案外こんな程度の小さな幸せだったのかも知れない。
夕焼けも既に終わり、日没近くの夕暮れ、湊に急ぐボートの正面に小山が黒々と浮かんでいる。高さ100m位か。この山の形、位置は450年前と変わらないだろう。森本右近が見たと同じ小山を今見ている。450年の時空を超えて。
「夕焼けに染まる湖人の幸」
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