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水中で自分の危機を自分で救えたことは、この後の自分自身に強い自信をもたらすことになった。<br />バディを全く当てにしなかったことが100%良いことだったのかどうかは疑問だとしても、悪魔のささやきをねじ伏せることができたのは弱い自分に勝てたことでもあり、今までにない爽快な気分だった。<br /><br />そんな気分と安堵感の中、すっかり打ち解けたボートクルー、そしてガイド君と一緒に眺めた、メナド・トゥア島の横に沈む美しい夕日にはもはや異国の空々しさはなく暖かな桃色をしており、<br />私達みんなを優しく包み込んで宵闇に溶け込ませようとしてくれているみたいだった。<br /><br />夕闇がおりたらナイトダイブの時間。<br />オイルのように暗く光る水面からまだ温かい水中に体を潜りこませていく。中学生のころ学校の教科書で読んだ「夜の海」の光景そのもののような気がした。水がやわらかく感じられる。<br /><br />水中ライトを照らして珊瑚礁の壁を見たら、壁から極彩色の無数の花が咲きこぼれているような風景に圧倒される。昼間とは全くの別世界、ライトに反射して光るエビの目があちこちにちらばり、人の顔くらい大きな赤いカニやゴシキエビが壁を闊歩している光景に出くわす。<br /><br />珊瑚礁の壁穴で寝ている魚たちは目を閉じる事がなく、蝋人形のように動かないかわりに、マンガのキャラクターが鼻ちょうちんをおもいきり膨らませて寝ている姿同様、大きな風船のような膜に包まれて眠っているものもいる。自己防衛のためなんだそうだが、どこかいじらしく見えてカワイイ。イヌのように、眠っている彼らの頭を撫でることができたらイイのに。<br /><br />見えるのは自分がライトで照らしている部分のみ。思い出してふと足元も照らして見ると、さあっとブラックティップシャークが10メートルほど下を音も無く通過していった。<br /><br />後ろは闇がひろがるのみ。ガイド君は獲物を探すかのごとくどんどん壁の先へと進み、時々彼のライトの光さえ見えなくなる。<br />海に入った時にはダイバーがもっといたと思うが、ここにいるのはガイド君と私の二人だけのようだ。世界に取り残されたのは私達だけのような気がしてちょっと心細くなり、慌ててガイド君の後を追う。<br /><br />夜の珊瑚礁の浅瀬も、カイメンスポンジ(海綿)を背負った大きなカニたちが歩き回ったり、昼間隠れるところがあるのかとこちらが心配するほど、水中ダイナマイトのような形をした大きなパイプウニたちもそこらじゅうゴロゴロ這い出して来ており、かなり賑やか。<br /><br />浮上直前、水中から空を見上げると月が浮かんでいた。水中下から見た月はゆらゆらしていて、でもとても透き通っていた。どこかの池の水面に写っていた月よりももっと透き通っていた。<br /><br />ダイビングセンターに帰るあいだ中、ボートの屋根の上に乗って、そのガイド君と月を見上げながら、彼も知ってる”上を向いて歩こう”を一緒に大合唱。<br />その月夜の晩、彼に完全に恋をした。<br /><br />水中では、彼の呼吸が私の呼吸であるような気がした。ダイビング以外ではなんだか頼りない彼でも、水中では私を青い深みに導く海神のように思えた。<br /><br />帰国後も冬の夜の冷たく透き通った月を見上げては、水中から見た月を重ね、彼を恋しく思った。受話器から電波にのって聞こえてくるとぎれとぎれの彼の声は、その透き通った月からのように遠く、小さく聞こえた。<br /><br />彼はメナドの海そのもの、それ以上に、裸電球の店先、暗がりに集まってカードにふける男達、通りに点在する夜の屋台、店先に吊るされた色とりどりのビーチサンダル、なま温かいビンタンビール、パサール45の賑やかな雑踏、これら全てにおいてのシンボルだった。<br /><br />どこか懐かしささえ覚えるメナドに完全に恋をしていた。<br />

住めば都?ブナケン島移住記 第五話 <月夜の晩の恋>

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1996/10 - 1996/10

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ブナケン島島民

ブナケン島島民さん

水中で自分の危機を自分で救えたことは、この後の自分自身に強い自信をもたらすことになった。
バディを全く当てにしなかったことが100%良いことだったのかどうかは疑問だとしても、悪魔のささやきをねじ伏せることができたのは弱い自分に勝てたことでもあり、今までにない爽快な気分だった。

そんな気分と安堵感の中、すっかり打ち解けたボートクルー、そしてガイド君と一緒に眺めた、メナド・トゥア島の横に沈む美しい夕日にはもはや異国の空々しさはなく暖かな桃色をしており、
私達みんなを優しく包み込んで宵闇に溶け込ませようとしてくれているみたいだった。

夕闇がおりたらナイトダイブの時間。
オイルのように暗く光る水面からまだ温かい水中に体を潜りこませていく。中学生のころ学校の教科書で読んだ「夜の海」の光景そのもののような気がした。水がやわらかく感じられる。

水中ライトを照らして珊瑚礁の壁を見たら、壁から極彩色の無数の花が咲きこぼれているような風景に圧倒される。昼間とは全くの別世界、ライトに反射して光るエビの目があちこちにちらばり、人の顔くらい大きな赤いカニやゴシキエビが壁を闊歩している光景に出くわす。

珊瑚礁の壁穴で寝ている魚たちは目を閉じる事がなく、蝋人形のように動かないかわりに、マンガのキャラクターが鼻ちょうちんをおもいきり膨らませて寝ている姿同様、大きな風船のような膜に包まれて眠っているものもいる。自己防衛のためなんだそうだが、どこかいじらしく見えてカワイイ。イヌのように、眠っている彼らの頭を撫でることができたらイイのに。

見えるのは自分がライトで照らしている部分のみ。思い出してふと足元も照らして見ると、さあっとブラックティップシャークが10メートルほど下を音も無く通過していった。

後ろは闇がひろがるのみ。ガイド君は獲物を探すかのごとくどんどん壁の先へと進み、時々彼のライトの光さえ見えなくなる。
海に入った時にはダイバーがもっといたと思うが、ここにいるのはガイド君と私の二人だけのようだ。世界に取り残されたのは私達だけのような気がしてちょっと心細くなり、慌ててガイド君の後を追う。

夜の珊瑚礁の浅瀬も、カイメンスポンジ(海綿)を背負った大きなカニたちが歩き回ったり、昼間隠れるところがあるのかとこちらが心配するほど、水中ダイナマイトのような形をした大きなパイプウニたちもそこらじゅうゴロゴロ這い出して来ており、かなり賑やか。

浮上直前、水中から空を見上げると月が浮かんでいた。水中下から見た月はゆらゆらしていて、でもとても透き通っていた。どこかの池の水面に写っていた月よりももっと透き通っていた。

ダイビングセンターに帰るあいだ中、ボートの屋根の上に乗って、そのガイド君と月を見上げながら、彼も知ってる”上を向いて歩こう”を一緒に大合唱。
その月夜の晩、彼に完全に恋をした。

水中では、彼の呼吸が私の呼吸であるような気がした。ダイビング以外ではなんだか頼りない彼でも、水中では私を青い深みに導く海神のように思えた。

帰国後も冬の夜の冷たく透き通った月を見上げては、水中から見た月を重ね、彼を恋しく思った。受話器から電波にのって聞こえてくるとぎれとぎれの彼の声は、その透き通った月からのように遠く、小さく聞こえた。

彼はメナドの海そのもの、それ以上に、裸電球の店先、暗がりに集まってカードにふける男達、通りに点在する夜の屋台、店先に吊るされた色とりどりのビーチサンダル、なま温かいビンタンビール、パサール45の賑やかな雑踏、これら全てにおいてのシンボルだった。

どこか懐かしささえ覚えるメナドに完全に恋をしていた。

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