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午前1時半、寝床の廻りの人間がごそごそ動き出し、こちらも寝ているわけには行かなくなった。結局殆ど寝ていない。睡眠不足がかなりの不安材料である。午前2時、食堂に向かう。そこは大変な人でごった返しており、自分たちの席を確保するにも難渋した。皆、早立ちするのである。<br /> 午前2時半、冬山用完全装備を整え、小屋を出発。月もない真っ暗な空であるが、星だけは無尽蔵に見える。風もなく穏やかな夜だ。小屋を出発して数分雪山を登ると、そこにはテント村があった。この先にエギュイ・ド・グーテ(3863m)の小ピークがある。<br /> 暫く雪面をまっすぐ歩いていたが、だんだん傾斜が厳しくなり、ジグザク登攀になってくる。高度障害はないものの、とにかく体が重く感じる。とてもではないが、景色を見ながらは歩けない。前を行くジャンポールの足元ばかりを見て歩く。時々小休止を入れるが、下を見ると点々とヘッドランプの明かりが続いている。かなりのパーティーがモンブランを目指しているようである。<br /> ジャンポールも我々の体力維持を図って、それほど高速では歩いていないようだ。その証拠に、いくつものパーティーに我々のパーティーは追い抜かれていった。だが、我々のペースでも相当早い時間にピークに到着しそう<br /> 漸くにして、最後の小屋、ヴァロ小屋付近に到着。ここで、今まで使用してきたストックを収納し、ついにピッケル装備に切り替えである。このヴァロ小屋の雪原から先が最もきつい雪面の登りとなる。<br /> この先、いくつもの小ピークを越えながらモンブラン山頂を目指すことになる。最初の難関はグラン・ボスのピークである。グラン・ボスまでは正に雪面の急登、心臓破りである。この登りがもう少しで終わりかけるかというとき、前方に人だかりが出来ている。近づいて見ると、クレバスが発生している。本来この時期にはないものだが、ここ暫く続いている猛暑の影響で氷河の流れ出す速度が速まり、モンブラン山域のあちこちにクレバスが発生しているとのことである。<br /> ともかく、幅は1メートルちょっとなのだが、向こう岸とは2メートルほどの段差がある。一カ所だけ、人が飛び移れるようなステップが掘ってある。さて、クレバスに近づき中をのぞき込むと、そこは漆黒の闇であった。目測では測れないくらい深い。勿論、落ちたら一環の終わりであろう。<br /> ジャンポールがまず先にクレバスを飛び越した。着地と同時にピッケルのブレードを雪面に刺して体を固定している。私も彼に倣い、下を見ないように勢いを付けてバっとクレバスを飛び越え、着地と同時にブレードを突き刺して体を固定。何とかうまくいった。<br /> プチ・ボスの小ピークを越えるともはやその先にはモンブランのピークしかない。エギュ・ド・ミディから見た山容とは全く異なり、イタリア側に深く切れ落ちた細い雪稜の上を歩く。<br /> 午前7時半、漸くにして頂上到着。頂上の標識もないただ緩やかなだけのピークであった。ともかく、アルプスにはここより高いところはない。私の友人とジャンポールと握手して登頂を喜ぶ。が、ジャンポール曰く、もう降りるぞ、である。そそくさと登頂成功写真を撮るが、慌てて撮ったのでろくな写真がない。<br /> 頂上にいること10分弱、すぐに山を降り始める。登りに比べると降りはまだ楽である。スカスカと降りていくと、途中で昨日列車の中で一緒になった老夫婦のうち奥さんだけがガイドさんと一緒に必死の形相で登ってくる。旦那さんは小屋待機のようである(女性は強い)。<br /> 下山の難関はやはりあのクレバスであった。飛び降りる地点を見極め、これまた勢いをつけて飛び越える。ここを越えるともうすぐヴァロ小屋である。<br /> ヴァロ小屋で装備をピッケルからストックに再交換する。登山時には見えなかった景色が今度はよく見える。行きは暗がりでよく見えなかったのだが、帰りにこうして見ると結構な傾斜の斜面である。<br /> エギュイ・ド・グーテは実はかなり切り立った断崖の上を歩いていたことを下山で認識した。登りでは気が付かなかったが、日中こうやってみると、相当な高度感がある。<br /> 3時間弱でグーテ小屋に帰還。装備を雪から岩に替える。食堂でお茶を飲んで一息ついたら、再度出発である。また落石地帯を抜けるので、ヘルメットを装着する。<br /> パイヨ岩稜を降りていくと、突然ガラガラとグラン・クーロワールから落石の音。登山者が警告音を発する。ジャンポールも瞬間的に反応し我々を引っ張って岩陰に隠れる。落石の方を見ると、次々と人間の頭大の岩が飛んでいるのが見える。落ちる、ではない。隕石のように次々と岩が空中を舞っている。確かにとんでもない落石地帯である。<br /> 数度このような落石を目撃しては岩陰に避難することを繰り返し、グラン・クーロワールを走り抜ける。ここが最後の危険箇所である。テートルース氷河を渡り切ると、漸くにしてアンザイレンを解放。各自自由の身である。<br /> 山頂出発から6時間、ついにニデーグル駅に到着。出発時とは異なり、すさまじい数の観光客であふれかえっている。駅の売店でジャンポールが飲み物をご馳走してくれた。これがガイドを無事終えた儀式なのだそうだ。列車の時間までまだ一時間ほどあるので、ゆっくり飲み物を飲み、ジャンポールと談笑した。彼はモンブランのガイドは今年これで3回目だが、それ以外にもいろいろやっており、明日はロッククライミングのガイドがあると言っていた。また来週からはシャモニーのガイド祭があるので、これから暫く大忙しなのだそうだ。彼のヴァカンスは一般人のヴァカンスが終わった9月からだそうで、今度は南米最高峰アコンカグア(6950m)に行く予定があるとか。<br /> ルズーシュの部屋に戻って荷を解くと、シャモニーの繁華街に繰り出した。登頂成功を祝って日本料理店「さつき」で乾杯しようということになったのである。マガリたちは今日はエルブロンネルの山小屋に泊まっているはずである。<br /> ソシュール広場から見上げるモンブランは相変わらず高い。ともかく、今日あの頂点に立ったかと思うと感慨深いものがある。この晩飲んだビールがうまかったのは言うまでもない。

モンブランに登る(その4)

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2003/07/30 - 2003/08/06

404位(同エリア346件中)

2

6

覇王樹

覇王樹さん

午前1時半、寝床の廻りの人間がごそごそ動き出し、こちらも寝ているわけには行かなくなった。結局殆ど寝ていない。睡眠不足がかなりの不安材料である。午前2時、食堂に向かう。そこは大変な人でごった返しており、自分たちの席を確保するにも難渋した。皆、早立ちするのである。
 午前2時半、冬山用完全装備を整え、小屋を出発。月もない真っ暗な空であるが、星だけは無尽蔵に見える。風もなく穏やかな夜だ。小屋を出発して数分雪山を登ると、そこにはテント村があった。この先にエギュイ・ド・グーテ(3863m)の小ピークがある。
 暫く雪面をまっすぐ歩いていたが、だんだん傾斜が厳しくなり、ジグザク登攀になってくる。高度障害はないものの、とにかく体が重く感じる。とてもではないが、景色を見ながらは歩けない。前を行くジャンポールの足元ばかりを見て歩く。時々小休止を入れるが、下を見ると点々とヘッドランプの明かりが続いている。かなりのパーティーがモンブランを目指しているようである。
 ジャンポールも我々の体力維持を図って、それほど高速では歩いていないようだ。その証拠に、いくつものパーティーに我々のパーティーは追い抜かれていった。だが、我々のペースでも相当早い時間にピークに到着しそう
 漸くにして、最後の小屋、ヴァロ小屋付近に到着。ここで、今まで使用してきたストックを収納し、ついにピッケル装備に切り替えである。このヴァロ小屋の雪原から先が最もきつい雪面の登りとなる。
 この先、いくつもの小ピークを越えながらモンブラン山頂を目指すことになる。最初の難関はグラン・ボスのピークである。グラン・ボスまでは正に雪面の急登、心臓破りである。この登りがもう少しで終わりかけるかというとき、前方に人だかりが出来ている。近づいて見ると、クレバスが発生している。本来この時期にはないものだが、ここ暫く続いている猛暑の影響で氷河の流れ出す速度が速まり、モンブラン山域のあちこちにクレバスが発生しているとのことである。
 ともかく、幅は1メートルちょっとなのだが、向こう岸とは2メートルほどの段差がある。一カ所だけ、人が飛び移れるようなステップが掘ってある。さて、クレバスに近づき中をのぞき込むと、そこは漆黒の闇であった。目測では測れないくらい深い。勿論、落ちたら一環の終わりであろう。
 ジャンポールがまず先にクレバスを飛び越した。着地と同時にピッケルのブレードを雪面に刺して体を固定している。私も彼に倣い、下を見ないように勢いを付けてバっとクレバスを飛び越え、着地と同時にブレードを突き刺して体を固定。何とかうまくいった。
 プチ・ボスの小ピークを越えるともはやその先にはモンブランのピークしかない。エギュ・ド・ミディから見た山容とは全く異なり、イタリア側に深く切れ落ちた細い雪稜の上を歩く。
 午前7時半、漸くにして頂上到着。頂上の標識もないただ緩やかなだけのピークであった。ともかく、アルプスにはここより高いところはない。私の友人とジャンポールと握手して登頂を喜ぶ。が、ジャンポール曰く、もう降りるぞ、である。そそくさと登頂成功写真を撮るが、慌てて撮ったのでろくな写真がない。
 頂上にいること10分弱、すぐに山を降り始める。登りに比べると降りはまだ楽である。スカスカと降りていくと、途中で昨日列車の中で一緒になった老夫婦のうち奥さんだけがガイドさんと一緒に必死の形相で登ってくる。旦那さんは小屋待機のようである(女性は強い)。
 下山の難関はやはりあのクレバスであった。飛び降りる地点を見極め、これまた勢いをつけて飛び越える。ここを越えるともうすぐヴァロ小屋である。
 ヴァロ小屋で装備をピッケルからストックに再交換する。登山時には見えなかった景色が今度はよく見える。行きは暗がりでよく見えなかったのだが、帰りにこうして見ると結構な傾斜の斜面である。
 エギュイ・ド・グーテは実はかなり切り立った断崖の上を歩いていたことを下山で認識した。登りでは気が付かなかったが、日中こうやってみると、相当な高度感がある。
 3時間弱でグーテ小屋に帰還。装備を雪から岩に替える。食堂でお茶を飲んで一息ついたら、再度出発である。また落石地帯を抜けるので、ヘルメットを装着する。
 パイヨ岩稜を降りていくと、突然ガラガラとグラン・クーロワールから落石の音。登山者が警告音を発する。ジャンポールも瞬間的に反応し我々を引っ張って岩陰に隠れる。落石の方を見ると、次々と人間の頭大の岩が飛んでいるのが見える。落ちる、ではない。隕石のように次々と岩が空中を舞っている。確かにとんでもない落石地帯である。
 数度このような落石を目撃しては岩陰に避難することを繰り返し、グラン・クーロワールを走り抜ける。ここが最後の危険箇所である。テートルース氷河を渡り切ると、漸くにしてアンザイレンを解放。各自自由の身である。
 山頂出発から6時間、ついにニデーグル駅に到着。出発時とは異なり、すさまじい数の観光客であふれかえっている。駅の売店でジャンポールが飲み物をご馳走してくれた。これがガイドを無事終えた儀式なのだそうだ。列車の時間までまだ一時間ほどあるので、ゆっくり飲み物を飲み、ジャンポールと談笑した。彼はモンブランのガイドは今年これで3回目だが、それ以外にもいろいろやっており、明日はロッククライミングのガイドがあると言っていた。また来週からはシャモニーのガイド祭があるので、これから暫く大忙しなのだそうだ。彼のヴァカンスは一般人のヴァカンスが終わった9月からだそうで、今度は南米最高峰アコンカグア(6950m)に行く予定があるとか。
 ルズーシュの部屋に戻って荷を解くと、シャモニーの繁華街に繰り出した。登頂成功を祝って日本料理店「さつき」で乾杯しようということになったのである。マガリたちは今日はエルブロンネルの山小屋に泊まっているはずである。
 ソシュール広場から見上げるモンブランは相変わらず高い。ともかく、今日あの頂点に立ったかと思うと感慨深いものがある。この晩飲んだビールがうまかったのは言うまでもない。

  • モンブランの夜明け。

    モンブランの夜明け。

  • プティ・ボスを登ってくる登山者達。

    プティ・ボスを登ってくる登山者達。

  • 間近から見上げるモンブランのピーク。あと少し。

    間近から見上げるモンブランのピーク。あと少し。

  • 頂上からの風景。シャモニーの谷を見下ろす。

    頂上からの風景。シャモニーの谷を見下ろす。

  • 頂上からイタリア側を見下ろす。

    頂上からイタリア側を見下ろす。

  • ニデーグル駅前まで下りてきた。観光客でごった返しているが、日本人は誰も見かけず。

    ニデーグル駅前まで下りてきた。観光客でごった返しているが、日本人は誰も見かけず。

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この旅行記へのコメント (2)

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  • kyokosa-nさん 2005/07/01 06:50:08
    モンブランの登頂おめでとうございます。
    はじめまして。
    素晴らしい登頂記拝見しました。
    まさに体験。文章の中から伝わってきます。
    わくわく、どきどきしながら読みました。
    3年前にシャモニーにスキーに行った際にモンブランを
    写真で撮りました。展望台からモンブランに登頂する登山者の
    姿が豆粒のように見えたものです。針峰群も素晴らしい。
    すごいですね。眺めるだけの山でしたが、挑戦してみたい気持ちにも
    なりました。
    おめでとうございます。
    楽しい旅を。

    覇王樹

    覇王樹さん からの返信 2005/07/02 10:23:11
    RE: モンブランの登頂おめでとうございます。
    メッセージ有り難うございます。kyokosa-nはヒマラヤに行っておられるのですね。機会があれば是非行ってみたいところです。さすがに登山では無理でしょうけど、ヒマラヤトレッキングぐらいなら出来そうですし。
     今年は隊長の関係で海外登山には行けませんが、来年行ければ行きたいなと考えております。それでは。

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