志賀高原バックカントリーツアー
2月16日(土曜日)、志賀高原のバックカントリーツアーに行ってきた。バックカントリーとは、辺境とか奥地とか、田舎などの意味があるが、スキーでは、ゲレンデを離れ、雪原を大自然を楽しみながらツアーすることで、このところ、じわじわと人気が高まっている。今回は、志賀高原から草津への距離にして13キロのツアーに参加した。スキーシーズンになると定番となった「私をスキーに連れてって!」(ワタスキ)の影響もあって、一度は体験しようと思っていたツアーで、志賀高原観光協会が主催している。ツアーの申し込み開始から3日で半数の日が満員となる盛況ぶりで、特に申し込み初日は平日の午後1時からの受付というのに、申し込み殺到でコンピュータがトラブルを起こしたほど。募集は観光協会のホームページでの告知だけというのにこの騒動。ワタスキの知名度もあってか、このツアーの人気ぶりがよくわかる。
われわれ3人は、ツアー初日のコースにエントリー、予約殺到の中、無事受付が終了してからは、連日の打ち合わせ。子供の頃の遠足の気分にも似た高揚感をこの年になって再び体験するとは思わなかった。
ツアーが近づいてくると、持参する食料やランチタイムの楽しみ方などの相談にも熱がこもる。一方で、天気図をにらみ、この週に入って勢力を増した冬型の低気圧の行方がなんとも気になる。予報はどんどん悪くなり、もし中止になったらという想定も現実味を帯びてきた。
前日は、常宿の熊の湯ホテルに夜11時過ぎに到着。早速温泉につかり、雪の降りしきる中、露天風呂で空を見上げながら、ツアーへの期待を話しあう。しかし、衰えない雪の勢いに、半ばあきらめの心境だった。救いは、中止の場合、前日の夜9時までに連絡があるということで、この連絡がなかったこと。16日の朝、7時までに連絡がなければ決行だ。
温泉からあがって、ビール片手にワタスキを鑑賞。早く寝るべきと思いながらついつい全部見てしまう。ツアーへの期待感はいやがうえにも増すが、この時点でも降り続く雪の勢いに中止を覚悟した。
それでも朝6時に睡眠時間3時間あまりで起床。外を見ると雪がやんでいる。青空もところどころにのぞき、これなら決行と、荷物の最終チェックをして、ウエアに着替え7時前には準備完了。昼食用にカップヌードルと燗番娘(日本酒)を確保して、仲間は食堂に熱いお湯をもらいに行く。いつもに比べ、なんという手際のよさ。受付は8時半、宿から受付会場までは車で15分ほどなので、8時過ぎに出ればいいのに、なんとも落ち着かない。午前7時を過ぎても中止の連絡がない。ようやくツアーが現実のものとなる。朝食は7時半から、少し早くあけてもらって、それでも、ものの20分で終了。受付会場には8時15分前には到着してしまった。受付開始時間にはいたるところからスキーを担いで続々集合、ほとんどが定時で受付を終えた。参加の記念に目印となるバンダナが配られる。このあたりは志賀高原らしい、センスの良さで感心した。
それにしても顔ぶれを見ると、自分も含め若者がほとんどいない。ワタスキ世代といえばそういうことだが、どう見ても平均年齢は40歳以上、中には70代後半の方もいる。若者はどこに行ってしまったのだろう。
オリンピック記念の98会館前を出発したのが午前9時、バスは熊の湯に向かう、ちょうど1時間半前に出発した熊の湯ホテル前に戻ってきた。バスはこのあと草津へ向かい、われわれを迎えてくれる。
熊の湯スキー場のリフトで山頂に上がり、ツアーコースで横手山に。さらにリフトを乗り継いで横手山の山頂に到着。そこで記念写真。参加者58名ともなるとさすがに大勢だ。コースの案内人となった協会のインストラクターをはじめリーダーも入れると70人に及ぶ。記念撮影のあと渋峠を滑り降り、渋峠ロッジ前で昼食のパンが配られる。
最終のチェックとトイレ休憩を取って、いざ出発。渋峠のリフト乗り場から志賀草津道路の北側へ150メートルほどのところからコースに入る。
前夜の雪が降り積もり、先頭はまさにラッセル状態。コースはところどころの木に目印となる黄色い布がつけてある。きちんとした看板ではなく、リーダーが案内してくれなければ見落としがちで、このコースは、単独行動はできないことを痛感。ラッセルをしながらリーダーが進むところを60人のグループがついていくが、深い雪が行く手を阻んで、大渋滞。少しずつ、ほとんどボーゲンで進む。途中くぼみのようなところもあり、転倒する人も多いが、少しでもコースを外れると新設の中に突っ込んで容易には起き上がれない。立ち上がれないからとスキーを外そうものなら、もっと深みにはまってしまう。ゲレンデスキーとは違う緊張感も漂う中で、慎重に少しずつ進んでいく。コース自体はほとんど下り。3月になって、雪が落ち着けば滑っていけるというところだけに、いかにスピードを制御するかが課題で、一本道の中で、少し油断すると制御不能になり、人の密度が高い中、よけきれずに、自分も2度ほど頭から1回転した。
1時間ほど進むとこのツアー最大の斜度のある斜面に出る。ツリーランを楽しむには最高のコンディションで、ガイド役のリーダーからも「前の人が行ったところばかりでなく、新設を思う存分楽しんでください」と声がかかる。しかし一歩、新雪に踏み入れれば、雪は膝上にくる。地形もわからない中で、木と木の間をスキー操作するのは至難の業。急斜面の新雪でのツリーランの難しさを痛感した。ワタスキの世界は奥が深い。
急斜面を何とか降りると、景色が開ける。芳ケ平ヒュッテの赤い屋根が見えてくる。ここから少し登りの斜面が続く。滑り降りるよりも一定のリズムで進める。日ごろゲレンデでは一歩でも上りを少なくしようとするが、ここでは、上るのも苦にならないのが不思議だ。程なくして芳ケ平に到着。通年人が住んでいるという芳ケ平ヒュッテでトイレ休憩。辺境の地にどうやって住んでいるのかという興味がわく。
さすがに体力を使って、空腹になってきたころ、一本杉という雪の中の広場に到着。ここで昼食となった。雪の上に自らのスキーを裏返しておいて、その上に座るが、ここも新雪が当然ながら積もっていて、動きが取れない。何せ足を踏み出せば、埋まってしまう。やっとの思いでスペースを確保して座ったところで、スタッフの方からワインをいただく。自然の中でよく冷えた赤ワインは本当にうまかった。なんとも行き届いたツアーだ。自らも、この時間のためにわざわざ運んできたスパークリングワインをおもむろに取り出し、栓を抜く。雪原の中でのスパークリングワインは本当にうまい。パンとカップヌードルとスパークリングワインという奇妙な取り合わせだが、こういう環境では実にうまいのだ。他の参加者もバーナーでお湯を沸かしてコーヒーをつくったり、ビールで乾杯したり、思い思いにランチタイムを楽しんでいる。この時間もバックカントリーツアーの欠かせないひと時なのだと思う。仲間3人でスパークリングワイン1本は、ちょっと多かったようで、少し酔っ払う。もう少し休憩していたかったが、ラッセルしながら進んで、いつもより時間がかかったらしく、あわただしい出発だ。あと残りはどのくらいかわからないが、酔っ払いにはきつい。残りはどのくらいかわからないが、大丈夫か。
再スタート後は、しばらく上りが続き、下り始めたところで常布の滝という凍った滝に出る。70代後半と思しき男性が、もう来れないかもしれないから写真に撮っておかなくてはといわれたのが耳に残る。その後ダムの前を滑り降りたあと、また、集団ができていた。一人ずつゆっくり進んでいく。噂の一本橋だ。少し上り勾配だが、ストックをつくところがないほど狭い。酒の回った身には少々恐怖感もある。それが3箇所もある。なんとか橋を無事渡り終えたら、後は上り、しばらく上ると草津スキー場の駐車場が見えた。国道のガードレールの脇を滑り降りて、途中で道路を渡るとそこは草津スキー場だった。到着だ。13キロでこんなに景色が変わるのかというほど、熊の湯や渋峠のスキー場と雰囲気が違う。マンション群にリフト待ちの列、東京圏のスキー場という印象で、スキーを履いて移動してきたとは思えないほど空気が違う。草津国際スキー場はほんの30秒も滑ったところで全員集合。なんともいえない満足感があった。
このあと草津温泉で一休み。熊の湯ホテルで温泉三昧のあとだけに感激は少なく、むしろ健康ランドのような湯に物足りなさを感じた。あとは、バスで帰るだけ。バスの中では志賀高原ビールも配られた。本当に至れり尽くせり、ガイドの団長の石川さんが志賀高原や草津界隈の由来などを解説してくれる。本当に山が好きなんだろうなあと思う。バスは3時間かけて志賀高原に戻り、午後6時過ぎに解散となった。疲れたが貴重な体験。来年は草津ではなく万座か。やばい、癖になりそうだ。