人間、カラヴァッジョに出会う
- 4.5
- 旅行時期:2019/08(約6年前)
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by しそまきりんごさん(男性)
札幌 クチコミ:1139件
2019年8月10日から10月14日までカラヴァッジョ展が開かれました。2019年8月現在、予定していた41点のうち、8点がイタリアから未着で、展示の目途が立たないということで、到着後の再観覧に備え、入場券にスタンプが押され、再入場できる措置がとられています。未着の作品については、会場の本来、絵が飾られるはずだった場所に小さな絵の写真のみ掲示されていたので、どんな絵かは辛うじて分かるようになっていました。また、他の展覧会に比べ、解説版の掲示が心なしか多めで、絵の解説のほか、作者のエピソードやトリビア解説に加え、映像解説コーナーもあって、よく分かるのは良いのですが、どこか展覧会の水増しをされている感じもありました(絵と絵の間隔があいていて、一部に壁だけや解説板だけの場所もあったので)。
作品は、どれも背景が暗く、そこに暗いままか、あるいは明るくシャープに人物が描かれていて、見えるものしか描かないという作者の強烈な個性が表れています。とにかく変わり者でやっかい者だったようで、世間から鼻つまみ者にされていたフシがありますが、貴族などのパトロンには好まれ、次から次へと彼を支援したいという者が現れたそうです。ただ、自画像などを見ると悪人づらした髭男で、街に従者を連れて繰り出しては、ケンカをするような毎日で、当時、ローマで禁止されていた武器(剣)の携帯もしていたそうです。今で言ったら、先日、あおり運転で人を殴って逮捕された人に似た感じの人で、ナイフ(銃)を隠し持ち、ススキノなどで毎日ケンカをしていたような人だったのかもしれません。
そしてついに、街のケンカで人を殺してしまいます。当然、死刑判決が下されますが、イタリア各地を逃亡し、見つけ次第、殺してもよいという賞金首までかけられてしまいます。そんな中、描き続けた絵には、追っ手(もしかしたらヤクザの鉄砲玉の人かもしれない)から逃げる重圧がにじみ出ているものも感じられました。「ホロフェルネスの首を斬るユディト」「ゴリアテの首を持つダヴィデ」は、悪の退治のために正義の鉄槌と言わんばかりの無心の顏をして、苦しむ相手の首を斬り落としている「正義の味方」に少し違和感を覚えましたが、作者が首を斬り落とされている方に少し自己投影をしている感じもしました(顏が似ていた)。
特に「法悦のマグダラのマリア」は、人間、カラヴァッジョを象徴しているようで、印象深い作品でした。解説には、罪を犯してしまったものが、道義的罪からも解放される幸福に浸る恍惚を描いたものとありましたが、カラヴァッジョも社会的制裁の罪以外に道義的罪にも苦しんでいたのでしょうか。オレはこんな性格に生まれついて、いろいろヤらかしてきたが、人並みに救われたいんだという彼の声が聞こえてきそうですが、果たして同情の余地はありやなしや。
その後、彼はローマ法王に恩赦を願い出ようと、口利きしてくれる貴族への絵の貢ぎ物とともに船に乗り込みますが、出港を前に逮捕されてしまいます。多額の保釈金を払って、すぐ船とともに出港してしまった絵を追いかけようしたそうですが、その途中で彼は熱病にかかり無念の死を迎えたとのことです。
暗い会場を出て、明るい緑の屋外に戻った時、困難な性格という十字架を背負いながらも最後まで幸せを求め、必死に生きようとした男の大河ドラマのような一大叙事詩を観た感じがして、清々しくもどこか切ない気分になりました。彼のその作品価値のために支援する貴族は多々いたでしょうが、彼の父親・母親の結婚の頃から知り、そして彼が子供の頃から逃亡生活に至るまで彼を支援し続けた或る貴族の女性がいたそうですが、その彼女が彼の死を知った時のような気分にちょっと似ているかもしれません。カラヴァッジョは、彼の死から13日後に恩赦されたそうです。
- 施設の満足度
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4.5
- 利用した際の同行者:
- 一人旅
- アクセス:
- 4.0
- コストパフォーマンス:
- 3.0
- 人混みの少なさ:
- 3.5
- 展示内容:
- 4.0
- バリアフリー:
- 3.5
クチコミ投稿日:2019/08/25
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