神の国訪問記ー神在月の出雲旅行　その４

2022/11/07 - 2022/11/09

旧暦十月は神無月。出雲だけは神在月。全国の神様が出雲に集結するので、私も同行して新暦十一月七・八・九日に車にて二泊三日の出雲旅行に出かけた。「その４」は１１月８日後半の出雲大社がメインとなる。神々が出雲大社に集まっている様子を詳報する。お遊びの積もりだったが、豈図らんや出雲大社は本物の神在月だった。
タイトル写真は全国から出雲大社に集まってきた八百万の神々が泊っている『一九社』という名前の宿泊所である。

エリア 島根

• 旅行の満足度: 5.0
• 観光: 5.0

• 同行者: カップル・夫婦（シニア）
• 一人あたり費用: 3万円 - 5万円
• 交通手段: 自家用車
• 旅行の手配内容: 個別手配

一九島湾沿いの県道２３号線を走る計画だったが通行止めの為、大きく迂回して国道４３１号線まで戻り、そして再度北方に向かい、日本海に面している日御碕神社に到着した。

島根半島西端にある神社。
東端は昨日の美保神社である。この半島は東西両端の海岸沿いに大きな神社を持っている。美保は現役の漁港であり、古い旅館街があるえびす神社らしい賑々しい町だった。ここも鮮やかな弁柄色（オレンジ色）に彩色した竜宮城に見紛うほど派手な神社である。しかし、内実は全く相違した。この神社は大変面白かった。

正面にある本殿。祭神は天照大御神。
出雲は大和勢力にて強引に国を奪われた。大和の主神である天照大神を本殿にて祀っているのは如何にも外から来た権力者に媚びているようで見苦しい。
意外だったのは出雲の神社にすれば注連縄が貧弱だったことである。また、弁柄色と麦藁色は色彩的には全くマッチしていない。全体にチグハグな印象があった。

本殿の右横にあった殿舎。
祭神は素戔嗚尊である。
側面にあるのだから主神ではない。
注連縄が本殿よりももっとみすぼらしい。

素戔嗚尊社から見える本殿。
実は素戔嗚尊社は本殿を見下ろす位置にある。本殿の天照大神を斜め上から見下ろす位置関係に殿舎を配置している。
一見、大和の天照大神に敬意を表しているように見えて、実は出雲の素戔嗚尊が上位である構図になっている。
書籍では読んでいた。本当にそのような配置になっているのかを確認するために来たのだが、将にその通りの構成になっていた。
出雲の神社は一筋縄ではいかない。よくその実体を見極める必要がある。

境内社の摂社・末社
独立して単独の祠を持っているのでなく、長屋のような造りで、集合住宅のように見える。
扉は開いておらず、神在月であるが八百万神が訪問している様子はない。

この長屋に祀られている神々の一覧表。
いかにも末社らしい近江国諸神・出雲国諸神は素直に了解できる。しかし天照御大神・仲哀天皇・応神天皇も記載されている。正面に主祭神として祀っているのに何故こんな末席に登場するのか。理解不能である。
日御碕神社は厚化粧を施した派手な神社にみえたが、出雲という長い歴史を誇るその伝統を裏側から忠実に守っている興味深い神社なのかもしれない。

神社から少し走れば日御碕灯台に到着する。
青空にドレスを翻して屹立する貴婦人の姿である。
地図にもエレガントな灯台と書かれている。

灯台も東西を比べてみる。
ずんぐりむっくりの美保関に対し、日御碕はまことにスマートだ。青空に映えるその姿は一幅の絵のように美しい。
完全に日御碕の勝ちである。

灯台の上部に人の姿が見えた。
あの上からは一層素晴らしい眺望だろう。上がってみたい。入口に入って申込んだら、中年のおばさんからぶっきらぼうな声で「歩いて登る。エレベーターは無いよ」と言われた。
多くの申込みがあるが、階段を登るなら止める人が大多数なのだ。不機嫌そうな対応に納得する。私も「止めときま～す」と恐縮して返答した。
灯台にエレベーターがあると考えるほうが非常識だった。

灯台から少し歩くと日御碕である。
樹木の繁茂がないので開放感のある景観が広がる。
美保関とはこの点も異なる。

日本海を一望する。
この日御碕辺りは出雲国の国土造りである［国引き神話］によれば、韓半島の志羅紀の三碕（しらぎのみさき）から引き寄せている。韓半島の新羅にあった余った土地を引き寄せてこの島根半島西部は造られているのである。弥生時代の人々は日本列島と韓半島の区別など無く、壮大な国造り神話を創りあげている。
くっきりした水平線の彼方に古代の夢を追うことが出来る。

柱状節理
昨日から見てきた島根半島の海岸線は地球の内部を露出させている。
ここは人間の歴史と同時に人類誕生以前の地球の歴史さえ感じる事が出来る。

眼下の日本海
空と海と岩と波とが織りなすハーモニー。
素晴らしい景観だった。
日御碕とその神社は今回の旅行でも大変素晴らしい場所だった。

日御碕から出雲大社へ行く途中の景観。
前方は石見の国。
遠くに見える三瓶山は志羅紀の三碕（新羅の岬）から引き寄せて来る時にその綱を括る杭になった。

左奥に写っている稲佐の浜は同じく志羅紀の三碕を引き寄せて来る時の綱だった。
同時に出雲が大和勢力に屈服した場所でもある。
出雲は何処までいっても神話の世界が広がっている。

出雲大社にやってきた。
以前に一度来たことがある。しかし、あまり記憶に残っていない。
昨日から見てきた各所には期待した出雲の神在月らしい風景は無かった。
出雲大社にも特別な発見があるとは思っていなかったが・・・。

参道松並木
中央は松保護のため通行不可となっていた。左右の道を通る。本当に松保護の為に参道中央の歩行を禁止しているのだろうか？
韓国の宗廟の例を何度か述べたが、真中は神様が通る道（神路）として歩行禁止になっている。中央を通ろうが左右を通ろうが、松への影響に大差ないだろう。出雲大社は神路につき通行不可と公言出来ず、松保護を建前として禁止しているのではないだろうか。
韓国では中央道は「神の通る道」が当たり前だが、日本では公然と声に出すことは憚かれているのか。興味深い。

参道の横の広場
春日大社の飛火野の景観に酷似している。鹿が遊んでいると見間違うだろう。
神様が棲まう場所は似てくるのか。

参道にある出雲大社の祭神「大國主命」の神像
日本の神は姿を現さない。否、姿形を持っていない存在である。神の姿を見ることは出来ない。お寺の本堂には必ず仏像がある。しかし、神社の本殿に神像はない。繰り返すが日本の神は姿形がなく、神像を神の象徴とする事は無い。
神をこのように具体的形姿として表現するのは神仏習合により仏像の影響からだが、それでも神像は殆ど作られず、極少ない。
このように主神の像を神社入口に設置することは珍しい例である。しかし、仏像のようにこの大國主命像を本殿に据えて拝むことはあり得ないだろう。

銅鳥居
神社の各社殿・鳥居などはその土地のその時の権力者によって造営される。
この鳥居も勿論そうである。

拝殿
出雲大社の代表的写真である。
単なる拝殿に過ぎないが、出雲の象徴になっている。
いかにも注連縄が重たそう。

何度も書くが、出雲の神社は注連縄が大きく立派だった。（日御碕神社だけは例外）
ズッシリした重量感がある。

八足門
この奥が本殿になる。瑞垣が左右に伸びてこれより内部には入れない。
本殿の姿を望むことも出来ない。
従って、この門より瑞垣に沿って左回りにて一周する。

八足門にあった立て看板
今年の出雲神社の祭祀日程
十一月三日　神迎祭
十一月十日　神等去出祭
本日は１１月８日なので、全国の神様が出雲大社に滞在している期間である。

八足門から左回りで最初にある境社社
日御碕神社にもあった長屋風の細長い社殿である。
末社を纏めて祀ってあるのか？

一九社
説明書きにて納得した。
そうなのだ！！ここがそうなのだ！！！
全国からやって来た神々が滞在する場所である。
出雲に来た神々の宿泊所である。

総ての扉が開けられている。
現在、神々がここに滞在中であることを示しているのだろう。
カーテン様の布が架かっているので内部は見えない。
（前記のように日御碕神社では扉は開いていなかった。）

現在ここに滞在している神様はこの中で休息しているのか、散歩に出掛けているのか、神会議に出席しているのか・・・・・。
参拝者が列をなして来訪した神々に敬意を表して参拝している。

一九社の中央に御供えがあった。林檎・人参・玉葱・キャベツ・お酒？が見える。
八百万神ならその嗜好も各様だろう。食事も大変だ。
全国から集まる神々の宿泊所の建屋があることに感激した。実際に神々が出雲に来てここに滞在している実感がある。

本殿を囲っている瑞垣の隙間から見えるその内部
運動会等に使われるテントが張ってあり、長方形の床机が大量に並べてある。ここで行なわれる祭事に参列する人々の座席だろうと思った。だが、床面は歩行困難と思われる大粒の石が引き詰められ、床机の間隔も人間が座るには狭すぎるようだ。

これはどう見ても参拝者が座る席に見えない。
そうであるならば、この椅子は全国より集まった八百万の神々が列席する座席ではないか。この推測が当たっているならば、なんという演出であろう。宿泊所だけではなく、本殿前に座席まで設えている。出雲大社は本気になって真面目に神々の集結を信じているのだ。
この椅子が本当に神々の座席であるならば、神在月を単なるお遊びとして冷やかすことが出来無くなった。

瑞垣越しに見える内部
奥の高い建物が本殿。
手前に見える白いテント屋根は前述の神々の座席。
右手前に二つの殿舎が並んでいる。説明板があった。

説明板
この本殿横に並んだ殿舎に祀られているのは須勢理毘売命（大國主命の正妃）と大國主命を助けた二女神である。
いずれも古事記神話に登場する女神だ。
瑞垣内は古事記の世界を忠実に再現しているようだ。

瑞垣に沿って裏面に廻る。
広い砂利道になっており、はっきり回遊するための道として作ってある。

本殿の裏側
本殿正面は一般参拝者は見ることが出来ない。当然、撮影できない。
但し、裏に廻ると瑞垣越しに本殿上部裏面ははっきり見通せる。
正面は見せず、裏面だけはっきり見せるのも出雲の法式なのか。
伊勢は本殿一部が僅かに見えるだけ。写真撮影も厳しく禁止されている。

本殿の真後ろにある素鵞社
祭神は素戔鳴尊（スサノウノミコト）。［すさのうのみこと］の漢字表記は各種あり。ここでは出雲大社の参拝案内表記にしている。
多数の人が列をなして参拝している。本殿より多い。素戔鳴尊は出雲においては絶大な人気を誇る神様だと思った。
しかし、後ほどわかったのだが、「お清めの砂」交換の為だった。稲佐浜の砂を持ってきて、この社殿の床下の木箱内に置いてある砂と交換する。すると、その砂は幸運を運んでくることになっている。何処にでもある神社の招福来運のおまじないだった。興醒め。

出雲大社参詣案内に記載されている神統譜
素戔鳴尊は大國主神の父親になっている。古事記にはこのように書かれているが、ほかにも各種の系譜があって、この二神は父子関係とは言い難い。神様の事だから分らない。
何度も書くように素戔鳴尊は出雲では圧倒的存在感を誇る。同時に中国地方から近畿一円でも多くの神社の祭神になっている。素戔鳴尊は人気No１かもしれない。

本殿西面に廻ってくる。
このように樹木がなく、くっきりと視認出来る。
出雲大社自身が西面を重点的に見て欲しいと思っているような構成になっている。

本殿西面の姿
大きくはなく、特別な装飾もないが、背が高い。元の本殿は４０メートル以上の高さがあったらしい。古代にはもっと高い建物だったようだ。その名残か。
今まで見た神社では最も背の高いスマートな形姿だった。

西面本殿側には多くの人が足を止めている。
説明板もあった。

出雲大社本殿は通常通り南面している。
しかし、大國主命は何故か南向きではなく、西向きに座っている。つまりこの面に向かって正対していることになる。正面からでは左側面を拝んでいることになる。本当に大國主命を拝むならここから礼拝するのが正しいのである。
神社側もその旨を説明する表示板を立てている。つまり、出雲大社自身がここを正面であると考えているが、何かの差し障りがあってそうしていないように見える。
大國主命が西面を向いていることは非常に重要な事実であろう。ここに出雲古代の秘密を解く鍵があるのかもしれない。

本殿の手前にあるのは築紫社。
祭神は多紀理比売命（たぎりひめのみこと）
宗像三女神の長女。沖の島に祀られている。大國主命は数多くの女性と関係しているが、その中の一人である。正妃以外の女神の代表か。
ここでは古事記の世界がそのまま成立している。

西面にも一九社があった。
全国の神々が宿泊するなら大規模施設が必要だろう。
沢山の宿舎を用意している。どこまでも本気な出雲大社である。

東側の一九社と同じように扉は全室開けられていた。
現在は東京に全国の代表が集まるように、その時代の中心地に地方から人々は集まるのである。
神々が出雲に集結する神話は「出雲がいつの時代か日本列島の中心であったその名残である。」と思われる。しかし、日本海側の僻地が日本の中心地であったことを認めない大和中心主義者が多い。神在月を冷やかしの対象にすることにより、出雲を貶めたのである。

東側同様中央一箇所だけに御供えがあった。
出雲大社では実際に全国から神々が集結しているその姿を目の当たりに見せてくれた。冗談や冷やかしではない。出雲には本当に神在月が実在していた。

神楽殿
日本一の注連縄。日の光を浴びて金色に光っている。
大きい、大きい、大きい。
凄い、凄い、凄い。

荒垣の外よりみた本殿
韓竈神社と出雲大社は直線距離では４㎞しか離れていない。写真に写っている裏山の奥に韓竈神社があるのだ。如何にも至近距離である。この二つの神社の姿を比較願いたい。これ程近くにあり、同じ神社でありながらその姿は余りにも異なる。
この二つが現在において同列に存在していることが非常に非常に興味深い。

神門通り
大きな神社の門前には門前町が形成される。

車が行交い大勢の参拝客が歩いている。
神様より気の利いたお土産を探すことが大事な同行者はここを一番楽しみにしていた。

ウイークデイの火曜日だというのに老若男女が一杯だった。
立石神社では誰一人もいなかったのに、ここは人波に溢れている。

ごった返していた。

歩行者天国になっておらず、車の通行が頻繁だった。
購入したお土産は以下。

若草
これは単なるお土産ではない。
松江の超一級の和菓子である。
［若草］をお土産に持っていった全員から最大級の賞賛を博した。お茶の師匠は「不昧公好の若草とは懐かしい。」ととびきり喜んでくれた。お茶の世界では有名茶菓のようだ。私も久しぶりに美味しい和菓子を食べた。
出雲（島根）に行けばこれだけは外せない。

出雲ぜんざい
門前にはぜんざい屋が軒を連ねていた。出雲の名物がぜんざいとは知らなかった。
全国の神々が出雲に集結する。その神をもてなしたのが“お餅”だった。出雲は神在月を「かみありづき」とは呼ばず、「じんざいづき」と音読みする。その［じんざい］が訛って「ぜんざい」となり、その餅は“ぜんざい餅”と呼ばれ、餅が入ったお汁粉を「ぜんざい」とよぶようになった。よって、ぜんざいの語源は［神在」である。本当かどうかは知る由もない。
紅白のお餅が入った普通のレトルトぜんざいだった。

唐川茶
ここには売ってなかった。偶々入った食堂のレジに置いてあり、唐川にて購入することが出来なかったので即購入した。少し古かったようで風味が落ちていた。本格的な唐川茶を購入しないと判定出来ない。

今日の宿舎は「平田メイプルホテル」
８月終盤に宿を探したが、出雲大社周辺のホテルは総て満員だった。
少し離れた平田地区のビジネスホテルになった。
通常のビジネスホテルだった。

室内
東横インよりは広い。

６階だった。
西方向に向いた窓があり、西方を望む。
あの山の左下に出雲大社がある。

明日行く加茂岩倉・須佐方面
線路は一畑電車。単線だが、朝早くから夜遅くまで、頻繁に動いていた。
「その５」に続く。