⊥　古レールの刻印を巡る旅　⊥　その１

2022/10/01 - 2022/10/01

　今まであちこちの橋を旅してきましたが、その際にたまたま見つけた刻印付きの古レールを集めて一つの旅行記にまとめてみました。国産レールだけでなくイギリスやアメリカ、ドイツ、ベルギー、フランス等のレールもあり、橋梁以上に国際色豊かです。新川橋梁のカーネギーや由良川橋梁のイリノイ、越知橋のプロビデンス等、橋梁にも登場する鋼材メーカーの名もあり、橋梁マニアとしては親近感が湧いてきます。
　その１ではその歴史的な意義も考慮して、イギリス・アメリカ両国のレールを、日本やその他の諸国についてはその２で取り上げる事にします。

登場するレール
イギリス製・Barrow Hematite Steel Co. Ltd.
　　　・Bolckow, Vaughan & Co. Ld.
　　　・Charles Cammell & Co.
　　　・Darington Iron Co. Limtd.
　　　・Cargo Fleet Iron Co. Ltd.
アメリカ製・CARNEGIE STEEL
　　　・ILLINOIS STEEL Co.
　　　・TENNESSEE, US Steel
　　　・CAMBRIA STEEL Co.
　　　・B.S.CO. STEELTON
　　　・LORAIN STEEL Co.
　　　・LACKAWANNA Iron & Steel Co.
　　　・Albany & Rensselaer Iron & Steel Co.

参考資料　・古レールのページ
　https://homepage-nifty.com/arashi/
　　　　　・日本における鉄道用レールの変遷／土木学会
　　　　　・レールの趣味的研究序説／西野・淵上

エリア 北川・奈半利・田野(高知)

• 旅行の満足度: 4.0
• 観光: 4.0

• 同行者: 一人旅
• 一人あたり費用: 5万円 - 10万円
• 交通手段: レンタカー 新幹線 JR特急 JRローカル 徒歩

敦賀鉄道資料館　カーネギー／米
CARNEGIE　1911　E T　IIIIIIIIII

レール側面には１本１本、メーカー名・工場名・レールの重量・断面規格・製造年月等が刻まれています。このレールでは1911は製造年、Iはギリシャ数字で製造月、ＥＴはエドカートムソン工場製を示しています。
このレールは資料館の展示品ですが、一般の施設でカーネギーは輸入レールとしては最も多く見つける事ができるレールと言っていいと思います。

旧敦賀港駅舎(敦賀鉄道資料館) 美術館・博物館

北陸本線旧線 湯尾跨線水路橋　カーネギー／米
CARNEGIE　1905　ＥＴ　IIIII　【横向きＩ】　ＮＴＫ

ＮＴＫは発注者の略称で、東北本線や高崎線の前身、日本鉄道と思われます。東日本で使われていた米国製レールが、こんな所で今も頑張っています。
【横向きＩ】の意味はよく分かっていないようです。

名鉄岐阜駅　カーネギー／米
CARNEGIE　1913　E T　IIII　50A

50Aは５０ポンド／ヤード、断面形状はＡとの意、ASCE(米国土木学会)の頭文字と言われています。ASCE規格のレールは重量に関わらず、高さと底部の幅が変わらないのが特徴で、締結装置の統一や重軌条化の促進等の効果を狙った物と思われます。

名鉄岐阜駅 駅

天竜浜名湖鉄道天竜二俣駅　カーネギー／米
CARNEGIE　1911　ET　IIII　？

天竜二俣駅 駅

南海本線 紀の川橋梁架線柱　カーネギー／米
上　CARNEGIE . 1897 ET. IIIIIIIIIIII NANKAI
下　CARNEGIE STEEL CO L T D ET 96

宇治神社　 寺・神社・教会

長良川鉄道 美濃市駅　カーネギー／米
CARNEGIE 1911 E T IIII

もう少し右に「60 A」等の文字もあったかも…

近鉄生駒鋼索線 鳥居前第１号踏切道付近　カーネギー／米
CARNEGIE 1912 ET IIIIIIIIIIII 7020 O E R

OERは大阪電気軌道の略。重量・断面形状を表す「7020」はASCE(米国土木学会)ではなくARA(米国鉄道協会)の規格で、中々見掛けない珍品!! 継目板が制動靴に当たらないよう、背の高いこの規格を採用したのでしょうか、或いは普通鉄道の古レールを使用したものでしょうか。

名鉄名古屋本線 栄生駅　カーネギー／米
CARNEGIE　1897　ＥＴ　IIIIII

栄生駅 駅

名鉄枇杷島デルタ付近　カーネギー／米
CARNEGIE 1911 E T II　60 R 【横向きＩ】

60Rは60ポンド第5種と同一形状だそうです。

継目板にもカーネギーの刻印！

近鉄 伊勢中川駅　エドガー・トムソン製鋼／米
E T　88　76

左側に「CARNEGIE」とあるかと思って余計に撮りましたが、見当たりません。「古レールのページ」によると1880～1890年頃に改称したそうなので、改称以前のエドガー・トムソン製鋼時代の物ではないかと推測。

伊勢中川駅 駅

名鉄名古屋本線 吉野架道橋（ホーム桁橋脚）　テネシー／米
OH　TENNESSEE　7540　ASCE　1　1922

テネシーの刻印は角張った独特のフォントなので、素人でも判りやすいです。
7540は75ポンド、40は断面形状を指しています。

東武伊勢崎線 浅草駅付近　テネシー／米
OH TENNESSEE-7540-ASCE-7-1922

がんこ職人 松屋浅草店 グルメ・レストラン

近鉄 鶴橋駅　テネシー／米
OH TENNESSEE-7040-ASCE-7 1925

TENNESSEEのレールで『7040』というのは比較的珍しいですが、近鉄生駒鋼索線でも見掛けました。

鶴橋駅 駅

近鉄名古屋線 鶴橋駅　テネシー／米
OH　TENNESSEE　？

鶴橋駅 駅

あいの風とやま鉄道 越中大門駅　テネシー／米
　TENNESSEE ｰ 7540 ｰ ASCE - 6 - 1922　エ

左側に「ＯＨ」もあると思いますが、写っていません…

越中大門駅 駅

富山地方鉄道 新魚津駅　テネシー／米
OH TENNESSEE-6040-ASCE-?-1922

新魚津駅 駅

JR関西本線 四日市駅跨線橋　テネシー／米
OH TENNESSEE-7540-ASCE-12-1921 工

四日市駅 駅

近鉄生駒鋼索線 鳥居前第３号踏切道付近　テネシー／米
OH TENNESSEE-7040-ASCE-7-192?

静岡鉄道 新清水駅　テネシー／米
OH TENNESSEE-6040-ASCE-11-192?

1923年の同社のレールが見られるので、同年かもしれません。

新清水駅 駅

京福電鉄嵐山本線 四条大宮４号踏切付近　テネシー／米
OH TENNESSEE-6040-ASCE-10-1930

テネシーで1930年物は見つかっていないので、1920か。

富山地方鉄道 新魚津駅　イリノイ／米
　SOUTH WKS II 190?

左側に「ILLINOIS STEELCo」と続いていたと思われます。

九州鉄道記念館
イリノイ／米　7506 ILLINOIS STEEL Co SOUTH WKS II 1902
アルゴマ製鋼／加　ALGOMA STEEL -60 LBS -IIIIIIIIIIII 1905
コッケリル／ベルギー　COCKERILL - 1924
ヴァンデル／仏　H-WENDEL IX 1925-75LBS-ASCE-TB 　工←

色んな国のレールが展示されています。おすすめ！

近鉄名古屋線 鶴橋駅　イリノイ／米
ASCE OH　7040　ILLINOIS G IIIIIIIII　　1920　U S A 　工

イリノイは1901年にUSスチールの子会社になりました。
ILLINOISの後の「G」はゲーリー工場を意味し、南工場の物は「S」や「SOUTH WKS」と刻印されているようです。鶴橋駅には色んなメーカーのレールがあって、お勧めの駅です。

琴平電鉄琴平駅　イリノイ／米
ILLINOIS STEEL CO JOLIET WORKS　　1890　VII

元はJOLIET Iron and Steelという会社でしたが、1889年にイリノイに買収され、後にUSスチールの子会社に。こちらはUSスチールの傘下に入る前の物です。

琴電琴平駅 駅

近鉄生駒鋼索線 鳥居前第３号踏切道付近　イリノイ／米
IIIIIIIIII 1920 USA

肝心な所が切断されて不明ですが、この独特の斜体はイリノイかと思われます。左側に「ASCE OH　7040　ILLINOIS G」等と続いていた物と思われます。

大池遊園 アーチ橋　スチールトン／米
？CO STEELT？N IIIIIIIIII？

ベスレヘム製鉄会社スチールトンの物か。他所のスチールトンのレールでは
　60-A.S.B.S.CO STEELTON IIIIIIIIII 1920 O.H.I.G.R.
というような刻印があるので、この中央付近だけ見えているものと思われます。

大池カフェ セントゼファー グルメ・レストラン

JR東海道線 興津駅　スチールトン／米
75-A B.S.CO. 工 STEELTON　IIIII 1919 OH. 75LBS A.S.C.E.

真っ白な写真でしたが、トーンカーブをいじったら文字がくっきりと浮かび上がりました。下のレールも全く同一の刻印と思われます。

興津駅 駅

JR東海道線 豊橋駅　カンブリア／米
CAMBRIA.　STEEL.　75.　IIIIIIIIII

豊橋駅 駅

千寿ヶ原2号公園　スクラントン製鉄／米
上　SCRANTON 2 79 STEEL　

スクラントンは「Lackawanna Steel Scranton」なのか「Scranton Steel」なのか、よく判っていないようです。

関西本線伊賀上野駅　ラッカワンナ鉄鋼／米
LACKA　I & C Co　SCRANTON　2　91

不鮮明で分かりにくいですが、LACKの後の「Ａ」は上付き文字のようです。

伊賀上野駅 駅

近鉄名古屋線 鶴橋駅　ラッカワンナ鉄鋼／米
OH LACKAWANNA　700　8　1921

近鉄鶴橋駅4号売店 専門店

竹田橋　ロレイン／米
LORAIN STEEL CO．MADE IN USA C 92 358 1930 IIIIII OH KSD

路面電車の溝付レールです！
KSDは京都市電気局の略、京都市電で使われていたレールと言われています。

半田市鉄道博物館　オールバニー＆レンスラー／米
A & RI & S Co　TROY STEEL 1880 cP　

「cP」は発注者の略称と思われますが、該当する会社が国内に見当たらないことから、「レールの趣味的研究序説」では海外鉄道の発注したものが何らかの事情で輸入されたものと推測しています。セントラル・パシフィック鉄道でしょうか？
上はCAMMELLと思われます。

半田市鉄道資料館 美術館・博物館

西濃鉄道市橋線 本町踏切　キャンメル／英
CAMMELL SHEFFIELD TOUGHENED STEEL W 1888 SEC131

SHEFFIELDは地名、TOUGHENED STEELは商品名で、強化鉄を意味しています。

JR阪和線 紀伊中ノ島駅　キャンメル／英
CAMMELL・S TOUGHENEDSTEEL.W.1888 SEC351 K.T.K.

K.T.K.は1888年設立の関西鉄道株式会社の略か。関西鉄道(1888～)は後に和歌山線五条～和歌山間を建設した紀和鉄道(1896～)を吸収しているので、鉄道省が本駅を開業した際に、関西鉄道由来の和歌山線古レールを使用したものかもしれません。
SEC351は断面形状を区別するものです。

紀伊中ノ島駅 駅

JR大和路線 王寺駅　バーロウ／英
BARROW　STEEL　1899　SEC380

SECのE以降は良く判りません。多分非常停止ボタンがあるのだと思いますが、もう少し右まで撮っておくべきでした。

王寺駅 駅

長良川鉄道 美濃市駅　バーロウ／英
BARROW　STEEL　11MO　1889 166　I R J

166は断面形状、ＩＲＪは発注者のImperial Railway of Japan（日本帝国鉄道）の意。MOはmonth（月）の略か。

近江鉄道 豊郷駅　バーロウ／英
BARROW　STEEL　1899　SEC 380　O M

右にＩの文字があったようです。OMIで近江鉄道なのに…

豊郷駅 駅

環状線京橋駅　バーロウ／英
BARROW　STEEL　SEC 166　1894　？

よく見えませんが、非常ボタンの裏に「ＩＲＪ」と続いていると思います。

京橋駅 (大阪府) 駅

JR東海道線 西小坂井駅　ボルコウ・ボーン／英
BV& COLD 1893 N T K

西小坂井駅 駅

関西本線木津駅　ボルコウ・ボーン／英
BV& COLD 1893 N T K

ＮＴＫは奈良線・桜井線の前身の奈良鉄道か。1893年には設立していたので、1895年の開業を目指して設立年に購入したものか、或いは日本鉄道由来もしれません。

木津駅 駅

JR奈良線 一条通踏切道付近　ボルコウ・ボーン／英
BV& CoLD 1895. I. R. J.

JR奈良線 桜井駅　ボルコウ・ボーン／英
BV& CoLD 1895 K T K

KTKは関西鉄道と思われます。

桜井駅 (奈良県) 駅

天竜浜名湖鉄道天竜二俣駅資料館　ダーリントン／英
＋DARLINGTON IRO？

双頭レールです！
右側に　IRON CO70 IGJR　というような文字が続いているようですが、撮っていません…

京都鉄道博物館　プロビデンス／仏
R △ 60LBS. 6040. A.S.C.E. VIII.1926
ヴァンデル／仏
H-WENDEL IX 1925 75LBS-ASCE-TB 工 ←
ウニオン／独
UNION 1905. ／Ｘ＼.
？
ダーリントン／英
+ DARLINGTON IRON CO70 IGJR

ダーリントンのレールはこちらも双頭レール。

京都鉄道博物館 美術館・博物館

半田市鉄道博物館　ダーリントン／英
★DARLINGTON IRON CO LIMD .74 IRJ

白く塗られていますが、特に「tD18」の辺りは間違って塗られている可能性大だと思われます。

坂本比叡山口駅　カーゴフリート／英
C.F.I CO MBRO V/09 K.D.T.K.K. 60LBS

K.D.T.K.K.は京阪電気鉄道株式会社の略。京阪開業時に本線で使われたレールだそうです。

坂本比叡山口駅 駅

坂本比叡山口駅　カーゴフリート／英
C.F.I CO MBRO Ⅵ/09 K.D.T.K.K. 60LBS

こちらは前の写真の後ろに展示されている今井さん作のモニュメント。同じCFIのレールが使われています。

その２に続きます。⇒https://4travel.jp/travelogue/11841000