2022/06/05 - 2022/06/06
62位(同エリア745件中)
ひらしまさん
6月5日。アムステルダム中央駅10時28分発のICで、降ったりやんだりの空の下を隣国ベルギーのアントウェルペンに向かう。
この旅では、密を避けるために従来の2等車でなく基本的に1等車を予約していた。けれどきょうの車両は、なぜか2等車並みに混んでいて、しかもいかにも2等車的雰囲気の人たちが多いなあと不思議に思っていたら、検札が来て、乗客はたちまち半分以下に減った。
静かになった車内でありあわせの昼食を済ませ、12時過ぎ、アントウェルペン中央駅に降りた。
- 同行者
- カップル・夫婦(シニア)
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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降り立ったホームからエスカレータでずいぶん上がって地上に出た。とりあえず目の前にある宿のハンプトンで荷物を預かってもらい、駅に戻る。
アントウェルペン中央駅は1905年竣工。その美しい駅舎を見るのを楽しみにしてきた。 -
このプラットフォーム棟は、当時最新の鉄とガラスの組み合わせで建てられ、その後ガラス部分をポリカーボネートに変えているという。
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その内部も、今や地上2階、地下2階の4層構造につくり変えられていた。
だから、アントウェルペンは古い駅だと思っていたわたしは、着いたのが地下2階で驚いたのだ。 -
そして、変わっていないのは、列車を降りた人がみな目を見張るに違いない石造りのホール棟のファサード。
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3日後にブリュッセルの世紀末美術館で偶然見つけたのがこの写真。1905年の開業時のアントウェルペン中央駅。列車は蒸気機関車で、2階はまだ存在しない。
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2階コンコースから上。
石造りの棟と鉄・ガラスづくりの棟とはそれぞれ別の建築家が設計していて、外から見ると木に竹を接いだように感じたのだけれど、こうして見ると見事に調和しているではないか。美しい! -
2階に上がってみると、そこには銀色の鳥のオブジェが。この鳥、右から見るとあら不思議、人間の手に変わるのだ。これはアントウェルペンの名の由来といわれる「手」にちなんでのことかな。
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あまりに華麗な駅舎に圧倒された我々だったが、実はこれだけではまだアントウェルペン中央駅の半分しか見ていなかったのだ。でも、ここまでで満足しきった我々は、市内観光に向かうことにした。
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フランドル地方のトラム・地下鉄・バスに共通で使える10回券(17ユーロ)を買おうと駅内の観光案内所に行ったが、あいにく昼休み。それではとプレメトロの駅に行くと、券売機がなぜか“Out of Work”。きょうは日曜日だからか。ずいぶん人間的な機械だ。
しかたなく案内所の前で開くのを待っていたら、休憩の途中に戻ってきた職員が新聞の店で売っていると教えてくれて、ようやく入手。 -
フルン広場でプレメトロから地上に出て、雨の中をまずプランタン・モレトゥス博物館へ。
ここは16世紀ヨーロッパを代表する印刷業者クリストフ・プランタンの工房であり住居だった。木の床は人が歩くときしむが、それがまた歴史を感じさせる。 -
その前世紀にグーテンベルクが発展させた活版印刷術は世界の歴史を変えたと言われる。それまで人が手で書き写していた文書が、一気にその千倍の広がりを見せ、知識や思想が容易に世界に広まるようになったのだから。
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コロンブスが愛読していたマルコ・ポーロの東方見聞録は、ここアントウェルペンで印刷されたものだったという。
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この工房で印刷された本あるいはその複製が多数展示されているが、その鮮明さは現代の本にまったく引けを取らないのに驚いた。
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工房の機械でプレス印刷を実演しているコーナーがあった。
活字を組んだ後… -
プレスする工程に妻がトライ。小柄な妻にはかなり力が要ったようで、懸命に引っ張る姿が周囲に受けていた。
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刷り上がったフランス語の詩は記念にいただいた。
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当時の作業場も残っている。
かつて謄写版にお世話になった我々には、それほど時間の隔たりを感じないプランタン・モレトゥス博物館だった。 -
雨の中、大聖堂に行く。
明るくきれいなチケットオフィスはまるで美術館のよう。入場料はシニア割引でなお10ユーロする。 -
この大聖堂の人気の理由は、アントウェルペン、いやベルギーを代表する画家ルーベンスの傑作祭壇画が並んでいることだ。
その一つ、「キリストの昇架」。
キリストの顔のあたりが帯状に白っぽくなっているのは気になるけれど、躍動感あふれる表現が魅力的だった。ルネサンスとバロックの違いってこういうことか。
それにしても、録音された音楽が常に流されているあたり、立派なチケットオフィスも含め、どうも大聖堂というよりルーベンス美術館というほうが合っているような気もする。 -
グローテマルクトにやってきた。
市庁舎を背景に立つブラボーの像。 -
しかし、雨脚はいよいよ強く、広場の出店もどんどん撤退作業中。
スヘルデ川の舟運によるヨーロッパ各地との交易で非常に繁栄し、アルプス以北で最大の都市だったというアントウェルペンの面影をちらっとだけ見て、我々もホテルに撤退した。 -
中央駅の写真の下で眠る。
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6月6日。
きょうは晴れている。さっそく中央駅を撮りに行こう。 -
西側から見た重厚なホール棟と機能美のプラットフォーム棟。
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上から下まで凝ったつくりだ。当時のアントウェルペンはどれだけ豊かだったのだろうか。
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エントランスホールにはいる。内部も優雅だ。
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プラットフォーム棟方向。
エルキュール・ポワロが現れそうな気がする。 -
にぎやかなプラットフォームと対照的に静かだ。
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階段を上ってみよう(実は、この棟の北側に正面ファサードがあることに気づかず、結局見逃してしまった)。
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ホールは吹き抜けになっている。
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天井はドーム型。
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時計の下のライオンはなんだろうとあとで調べてみたら、ベルギーの国章だった。「団結は力なり」という標語はフランス語。オランダ語が話されるこの地域でも、20世紀初めの時点ではまだフランス語が政治的に優位にあったらしい。
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2階にあるロイヤルカフェは写真だけ撮らせてもらった。
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2階から4層のプラットフォームを見る。
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さあ、我々も出発の時間だ。きょうはヘントに向かう。
ところで、高校の地理の授業で教わって覚えているのはたった一つ、地名は現地の呼び方を尊重すべし、だ。先生は、四川省はシセン省じゃなくてスーチュワン省だよと力説されていた。
そうは言われても日本風中国語のシセン省くらいは大目に見てもらいたい気もするが、しかし、どこの国の地名だろうと構わずになんでも英語風に呼んで済ませてしまう傾向は、さすがに乱暴に感じられる。英語をコミュニケーション・ツールとして利用はしても、それは世界の文化を英語一色に塗りつぶすことではないはずだ。やはり、その土地の名前を大事にしてあげたい。
かつて英語風にヴェニスと呼んでいた街はすっかりヴェネツィアに落ち着いたし、他方でロシア語風にキエフと呼んでいた街は最近キーフとなった。
というわけで、そろそろ現地語が尊重されるようになると思うし、そうなってほしいので、英語風のアントワープじゃなくて現地語風のアントウェルペンを、同じくゲントじゃなくてヘントを、この旅行記では使っていきたい。
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この旅行記へのコメント (4)
-
- sanaboさん 2022/07/19 01:07:13
- (アントワープではなく)アントウェルペン
- ひらしまさん、こんばんは
アントウェルペン旅行記、楽しみにお待ちしておりました。
旅行記を拝見し始めて、あら、私はこの美しいえんじ色の
プラットフォーム棟の外観を見た記憶が無い(見ていない)と思ったのでした。
ひらしまさんと私の二人の記憶を合わせると完璧になりますね(笑)
そうそう、私はロイヤルカフェも見落としましたのでご安心(?)下さい(笑笑)
プランタン・モレトゥス博物館は私は行ってないのですが
アントウェルペンの輝かしい歴史の1ページを物語る場所ですね。
マルコ・ポーロの東方見聞録もアントウェルペンで印刷されたそうで
当時の隆盛ぶりが窺えるようです。
奥様が奮闘されて刷り上がったフランス語の詩を額に入れて
飾られたら味わいがあって素敵かもしれませんね。
大聖堂の入場料がシニア割引で10ユーロと仰ってらしたので、2017年の
自分の旅行記を見たら6ユーロ(シニア割で5ユーロくらい?)でしたので
毎年1ユーロずつ値上がりしているのでしょうか。
とはいえ、ルーベンス美術館というに相応しく、大聖堂は本当に見応えがあって
素晴らしかったですね。私の訪問時も音楽が流れていたか考えてみましたが
全く記憶にゴザイマセン(^^ゞ
ひらしまさんの現地語を尊重すべきというご意見には私も賛同します。
というわけで、次のヘント編も楽しみにしております♪
sanabo
- ひらしまさん からの返信 2022/07/19 23:20:31
- Re: (アントワープではなく)アントウェルペン
- sanaboさん、こんばんは。
ご訪問、ありがとうございます。
> ひらしまさんと私の二人の記憶を合わせると完璧になりますね(笑)
素晴らしい完璧なフォローをありがとうございます。
あのときはもう隅から隅まで見たつもりだったんですよ。
でもアントウェルペン中央駅の豪華さが僕の想像力をはるかに超えていたんです。
もっとも、あの過剰な豪華さはいったいなんなんだろうと気になって今調べてみたら、なんと、コンゴの人たちを残酷な暴力で支配してのゴム栽培で大儲けした王の財力によるものだったと知ってしまい、できれば知りたくなかったという気分です。
僕にとってのアントウェルペンは、中央駅とプランタン・モレトゥス博物館がほぼすべてなんですから。
プランタンとモレトゥスはsanaboさんの旅行記で知り、興味を持ったんでした。
ちょうど今読んでいる本が印刷技術の発展が歴史に与えた影響について説いているんですが、具体的イメージをもって読むことができ、本当によかったです。
知りたいこともあり、知りたくないこともあり、その全部が旅なんですね。
> ひらしまさんの現地語を尊重すべきというご意見には私も賛同します。
sanaboさんにそう言っていただけてとてもうれしいです。
ひらしま
-
- mistralさん 2022/07/16 19:36:11
- アントウェルペン
- ひらしまさん
こんばんは。
そうだったんですね!
途中から、アントウェルペンがアントワープ?と遅まきながら気がついてきました。
常に英語風の読みでなく、現地語での読み方が本当は尊重されるべきなのでしょうね。
昔、ツアーに参加してオランダ、ベルギーを回ったことがありました。
その折の記憶が徐々に蘇ってきました。
駅舎はさっと見ただけでしたので、今回の旅行記から多くのお写真を拝見して
重厚かつ壮麗な駅舎ということが改めて分かりました。
4層構造のプラットフォームも、素晴らしいですね。
ガラスは今ではポリカーボネートに代えられているとのこと、納得です。
巨大な駅舎、充分見学したと思っても、更に見落としがあるんですね。
迷子になってしまいそうですね。
mistral
- ひらしまさん からの返信 2022/07/16 23:13:51
- Re: アントウェルペン
- mistralさん、こんばんは。
早速のご訪問とメッセージ、ありがとうございます。
mistralさんもオランダとベルギーを同時に回られたんですね。
地続きだし言葉も主要観光地は共通しているし、うっかりしていると一つの国のように思っちゃいますね。
> 巨大な駅舎、充分見学したと思っても、更に見落としがあるんですね。
> 迷子になってしまいそうですね。
そうなんです。
あとでsanaboさんの旅行記を読み返して、まだファサードがあったのか、しまったと思ったのです。
でも、mistralさんのおっしゃる通りの重厚かつ壮麗な駅舎に十分満足し、アントウェルペンに行った甲斐がありました。
> 途中から、アントウェルペンがアントワープ?と遅まきながら気がついてきました。
> 常に英語風の読みでなく、現地語での読み方が本当は尊重されるべきなのでしょうね。
ちょっと偉そうなことを書いちゃって気がひけるので告白すると、実は今回の旅では英語しか使ってないんです。
いつも挨拶くらいはカタコトの現地語でできるようにして行ってたんですが、オランダ語が全然頭にはいりませんでした。
コロナに気をとられてとか、年のせいもあるんでしょうが、やっぱり反省点です。
ひらしま
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