![氷河をはじめて見たのはカナダであった。その時は特に感慨はなかったように思う。薄汚れた灰褐色の氷の棚田があるだけに思えたのである。氷河は人間の目には凍結した雪か氷の塊に見えるだけである。だが、何億年規模の視点で見れば、それは紛れもなく「河」であり、「流れ」である。轟々と流れているはずなのだ。それを思えば、人間の一生など一瞬であり、今、目にしている現象など一瞬ですらない。<br />アイガーグレッチャーにて、今にも流れ落ちてきそうな河がそこで時間停止したような、そんな氷河を見上げながら、僕は考えた。氷河が止まっているのではない。我々の時間が限りなく微小なのだ。しかし、その微小な時間の中で、喜んだり、悲しんだりして生きることが、自分のすべてなのである。<br />それなのに、一週間や二週間、果ては一日、一分の遅れを気にして、仕事に追われることのなんと無意味なことか。つまり、<br />「つまり、酔っ払ってるのね?」<br />「…うん。」<br />「仕事の愚痴ね?」<br />「…はい。」<br />「もうちょっと休みたいって、そういうオチなわけだ?」<br />「……」](https://cdn.4travel.jp/img/thumbnails/imk/travelogue_album/11/56/97/650x_11569799.jpg?updated_at=1574605952)
2016/10/04 - 2016/10/04
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わになのかさん
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氷河をはじめて見たのはカナダであった。その時は特に感慨はなかったように思う。薄汚れた灰褐色の氷の棚田があるだけに思えたのである。氷河は人間の目には凍結した雪か氷の塊に見えるだけである。だが、何億年規模の視点で見れば、それは紛れもなく「河」であり、「流れ」である。轟々と流れているはずなのだ。それを思えば、人間の一生など一瞬であり、今、目にしている現象など一瞬ですらない。
アイガーグレッチャーにて、今にも流れ落ちてきそうな河がそこで時間停止したような、そんな氷河を見上げながら、僕は考えた。氷河が止まっているのではない。我々の時間が限りなく微小なのだ。しかし、その微小な時間の中で、喜んだり、悲しんだりして生きることが、自分のすべてなのである。
それなのに、一週間や二週間、果ては一日、一分の遅れを気にして、仕事に追われることのなんと無意味なことか。つまり、
「つまり、酔っ払ってるのね?」
「…うん。」
「仕事の愚痴ね?」
「…はい。」
「もうちょっと休みたいって、そういうオチなわけだ?」
「……」
- 旅行の満足度
- 5.0
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午後、初日に行ったものの霧で何も見えなかったアイガーグレッチャーに登ることにした。グリンデルワルトからクライネシャイデックへ電車に乗り、ユングフラウ鉄道へ乗り換えて一駅。車窓からの景色は初日とまるで違う。雪をかぶった勇壮な山々を眺めながらの電車の旅。
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アイガーグレッチャーに着くと、空は雲一つない青。群青を思わせる濃い青だ。白い雪との対比が美しい。プラットフォームから降りて駅舎の裏へ回ってみた。
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イチオシ
視界が途端に開け、目の前に大迫力の絶景が広がった。氷河である。考えてみれば、アイガーグレッチャーとは英語でアイガーグレイシャ。アイガーの氷河の意。つまりこの氷河の目の前にある駅という意味だったのだ。昔、カナダで見た氷河は比較的フラットだったので、流れているといわれてもピンとこなかったが、これは違う。まさに流れ落ちてくる一瞬を切り取ったかのようである。
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あまりの絶景にテンションがあがったので、このままクライネシャイデックまで歩いて降りようと提案してみた。妻は快諾してくれたが、娘は「え~」と不満気。これでハイキングは最後だから、と説得して歩き出した。息子は僕がぶら下げた抱っこ紐のなかですやすやと寝息を立てていた。おーい、この景色は見ておかないと損するぞ。時々振り返っては氷河を眺める。
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クライネシャイデックは遥か遠方。だけど、ずっと下りだから大丈夫。これでユングフラウの山々ともお別れ、そしてハイキングの日々も終わりである。名残を惜しむようにゆっくりと歩いた。
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まあ、ゆっくりと歩くほかない、と言った方がよい。ものすごい傾斜で下っている。足を滑らせると、そのまま雪だるまのように転がっていって、向こうの崖から飛び出しそうなイメージ。そんなわけはないのだが、そんな漫画のようなことを想像してしまうほど、景色はダイナミックである。
下方を見ると、ユングフラウ鉄道の赤い車両が登ってくるのが見えた。おもちゃのようである。 -
急斜面なので、中腹まではあっという間に下りてきた。ここからは比較的平坦で整備された道が続く。
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途中、ハイキングコースはユングフラウ鉄道の線路と交差した。おーい、と娘が手を振ると、乗客の数人が笑顔で手を振ってくれた。ちょうどお昼寝から目覚めた息子はきょとんと赤い車両を見上げている。もう少し大きくなれば、きっと大興奮なんじゃないだろうか。男の子ならば、この情景にぐっとこないわけがない。
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もう一度振り返って、アイガーグレッチャーを仰ぐ。さようなら。悠久の時を刻む氷河は、この先、何世代もきっと、この姿のまま、ここにあるだろう。
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上から見えていた濃紺の湖の脇を抜けていく。これは人口湖だろうか。ここまで下りてくると、クライネシャイデック側から上がってくる人たちもちらほらいた。短距離でも登りはきつそうだ。下りも膝に来るが、やはり登りほどではない。
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ゆっくりと歩いて一時間くらいだろうか、クライネシャイデック駅に到着した。最後にふさわしい、素晴らしいルートだった。グリンデルワルト行きの電車に乗る。席につくやいなや、娘は倒れこんだ。もう足が動かない、と倒れた小鹿のようなポーズである。チョコを口に入れたら復活した。歩かせておいてなんだが、すごい体力である。あっぱれだ。
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これでグリンデルワルトの景色も見納め。初日をのぞけば、天気には最後まで恵まれた。もっと滞在したいところであるが、そうもいかない。日程的にも、あとは物価的にも。ほんとに高いんだね、スイスは。
ホテルに戻って、ロビーで子供たちは簡単にお着換え。車に乗って、出発することにした。旅程を短縮するため、今夜はグリンデルワルトとチューリッヒの間に位置する湖のほとりに宿をとってある。後ろ髪を引かれながらも、グリンデルワルトを後にした。三日近く一か所に滞在して自然を満喫した。ヨーロッパの人々からすればせわしないのかもしれないが、僕らにとっては、十分に贅沢な旅程である。
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