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「昔、ユングフラウに行ったときにさ、頂上で日本人に会ったわけだ」<br />エドウィンはコーヒーを片手に話しだした。<br />休憩に立ち寄ったコーヒーメーカの前にちょうど彼がいたのだ。<br />「で、その日本人が明日にはパリに行くって言うんだ。じゃあ、ここでの滞在が長いのかと聞いたら、昨日来たばかりだって言う。」<br />エドウィンは大きく目を見開いて、肩をめいっぱい竦めた。信じられない、というジェスチャだろう。<br />「スイスの大自然に訪れて1日だぞ?一日で次はパリだって?何のために来たんだこいつは、って思ったね」<br />既になにかしらに憤っているエドウィン。マシンのボタンを押しつつ、僕は答えた。<br />「それ、ツアーでしょう?」<br />「そう、そう言ってた。」<br />「日本からのツアーは大体そんなもんだよ。一週間で何か国も回るんだ」<br />「なぜ?」<br />「だって期間が短いから。」<br />「なぜ?!」<br />「みんな、そんなに休みがとれないから」<br />「だから、なぜ?!」<br />「んー?仕事が休めないから、かな」<br />「有給休暇は少なくとも十数日あるんだろ?」<br />「そうだけど、日本で一週間も休むのはかなり難しいんだよ」<br />「なにが、むずかしいんだ?だって契約上の権利だろうが」<br />「それは…ほかの人の迷惑になるから…いや違うな。休むと迷惑になるぞ、っていう雰囲気があるし、人によってはそれをして自分の評価が下がるのを気にするんだ」<br />「ばかじゃないのか。じゃあ、誰も休めないじゃないか」<br />「うん、まあ、日本はそうだよ。だからたくさん祝日を作って、国は強制的に休ませようとするわけ。別に祝日はセレブレーションじゃあないんだよ。ああ、なんか言ってて悲しくなってきた、もうやめよう、この話は」<br />話が聞こえていたのか、そこにケビンがやってきた。<br />「日本人が写真を好きなのも、そこに理由があるって聞いたことがあるよ」<br />「そうなの?」<br />それは初耳だ。<br />「うん。旅程に余裕がないから、とにかく写真を撮りまくって、帰国してから写真を楽しむって」<br />「…そうなの?そうかな?うーん、そうかもなあ…」<br />エドウィンが両手を挙げて首を振った。<br />「ばかじゃないのか。」

秋のスイス4 グリンデルワルト -遠望のグローセシャイデック-

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2016/10/04 - 2016/10/04

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わになのか

わになのかさん

「昔、ユングフラウに行ったときにさ、頂上で日本人に会ったわけだ」
エドウィンはコーヒーを片手に話しだした。
休憩に立ち寄ったコーヒーメーカの前にちょうど彼がいたのだ。
「で、その日本人が明日にはパリに行くって言うんだ。じゃあ、ここでの滞在が長いのかと聞いたら、昨日来たばかりだって言う。」
エドウィンは大きく目を見開いて、肩をめいっぱい竦めた。信じられない、というジェスチャだろう。
「スイスの大自然に訪れて1日だぞ?一日で次はパリだって?何のために来たんだこいつは、って思ったね」
既になにかしらに憤っているエドウィン。マシンのボタンを押しつつ、僕は答えた。
「それ、ツアーでしょう?」
「そう、そう言ってた。」
「日本からのツアーは大体そんなもんだよ。一週間で何か国も回るんだ」
「なぜ?」
「だって期間が短いから。」
「なぜ?!」
「みんな、そんなに休みがとれないから」
「だから、なぜ?!」
「んー?仕事が休めないから、かな」
「有給休暇は少なくとも十数日あるんだろ?」
「そうだけど、日本で一週間も休むのはかなり難しいんだよ」
「なにが、むずかしいんだ?だって契約上の権利だろうが」
「それは…ほかの人の迷惑になるから…いや違うな。休むと迷惑になるぞ、っていう雰囲気があるし、人によってはそれをして自分の評価が下がるのを気にするんだ」
「ばかじゃないのか。じゃあ、誰も休めないじゃないか」
「うん、まあ、日本はそうだよ。だからたくさん祝日を作って、国は強制的に休ませようとするわけ。別に祝日はセレブレーションじゃあないんだよ。ああ、なんか言ってて悲しくなってきた、もうやめよう、この話は」
話が聞こえていたのか、そこにケビンがやってきた。
「日本人が写真を好きなのも、そこに理由があるって聞いたことがあるよ」
「そうなの?」
それは初耳だ。
「うん。旅程に余裕がないから、とにかく写真を撮りまくって、帰国してから写真を楽しむって」
「…そうなの?そうかな?うーん、そうかもなあ…」
エドウィンが両手を挙げて首を振った。
「ばかじゃないのか。」

旅行の満足度
4.5
同行者
乳幼児連れ家族旅行
旅行の手配内容
個別手配
  • 今日もハイキング日和になりそうな快晴。今日はフィルスト~グローセシャイデックのルートを歩くことにしていた。フィルストから出発するのか、グローセシャイデックから出発するのか、昨夜までずいぶんと悩んだが、最終的にはフィルストから歩くことに決めた。それほど高低差のないコースのようだが、グローセシャイデックから出発すると、最後のフィルスト手前で急激な登りがある。最後の最後に疲れるのは嫌だ、という判断である。

    今日もハイキング日和になりそうな快晴。今日はフィルスト~グローセシャイデックのルートを歩くことにしていた。フィルストから出発するのか、グローセシャイデックから出発するのか、昨夜までずいぶんと悩んだが、最終的にはフィルストから歩くことに決めた。それほど高低差のないコースのようだが、グローセシャイデックから出発すると、最後のフィルスト手前で急激な登りがある。最後の最後に疲れるのは嫌だ、という判断である。

  • この判断はおそらく正しかったと思う。フィルスト頂上のゴンドラ基地から、ものすごい下り坂になっており、ひとしきり下ってから平坦なコースが開始する感じだった。これを逆に辿るのは考えただけで疲れてしまう。

    この判断はおそらく正しかったと思う。フィルスト頂上のゴンドラ基地から、ものすごい下り坂になっており、ひとしきり下ってから平坦なコースが開始する感じだった。これを逆に辿るのは考えただけで疲れてしまう。

  • 山の裾野をずっと歩いていく、のんびりとしたコースだった。道はこれまでのコースの中では一番整備されていない、山道といった感じだ。<br />振り返るとアイガーの北壁が見える。この角度だと尾根がシャープに切り立っているのがよく分かった。

    山の裾野をずっと歩いていく、のんびりとしたコースだった。道はこれまでのコースの中では一番整備されていない、山道といった感じだ。
    振り返るとアイガーの北壁が見える。この角度だと尾根がシャープに切り立っているのがよく分かった。

  • 時々、沢のようなものも行く手に現れる。鉄板を渡しただけの簡素な橋がかかっていたりして、なんとなく冒険心をくすぐられた。

    時々、沢のようなものも行く手に現れる。鉄板を渡しただけの簡素な橋がかかっていたりして、なんとなく冒険心をくすぐられた。

  • 「いやー、雄大な景色だ」<br />「ほんとに。空気も澄んでるし。」<br />「あのアイガーの尖り具合が凄いな。まさにナイフエッジだね。というか、向こうの山が壮大すぎて、距離感が掴めん。なんかCGを見てるみたいじゃない?」<br />「いや、気持ちはわからんでもないけど、その例えはどうなの。」<br />「うーん、こんなところで暮らすってのもいいよな。せわしない仕事とか、もう遠い世界のようだよ。」<br />「…それはいいけど、ゴールも遠い世界のようなんだけど。」<br />「どゆこと?」<br />「あの、CGみたいに見えるあたりにある山小屋がグローセシャイデックみたいよ」<br />「うそだろ。」<br />「あと、この子のお菓子もきれそうよ…」<br />「まずいね。」

    「いやー、雄大な景色だ」
    「ほんとに。空気も澄んでるし。」
    「あのアイガーの尖り具合が凄いな。まさにナイフエッジだね。というか、向こうの山が壮大すぎて、距離感が掴めん。なんかCGを見てるみたいじゃない?」
    「いや、気持ちはわからんでもないけど、その例えはどうなの。」
    「うーん、こんなところで暮らすってのもいいよな。せわしない仕事とか、もう遠い世界のようだよ。」
    「…それはいいけど、ゴールも遠い世界のようなんだけど。」
    「どゆこと?」
    「あの、CGみたいに見えるあたりにある山小屋がグローセシャイデックみたいよ」
    「うそだろ。」
    「あと、この子のお菓子もきれそうよ…」
    「まずいね。」

  • グローセシャイデックを目視確認してからが、かなり長かった。時々お菓子を口に放り込みながら頑張っていた娘もブツブツ言い始めていた。しかし、このあたりから道なき道を行くことも多々あって、これが良い気分転換になった。まさに冒険。RPGの世界のようだ。テンションが上がって、僕と娘でアルプス一万尺を熱唱しながら歩いた。誰もいないのをいいことに振り付けつきで踊りながら歩いてみたりした。楽しかった。が、疲れた。妻が理解に苦しんでいた。

    グローセシャイデックを目視確認してからが、かなり長かった。時々お菓子を口に放り込みながら頑張っていた娘もブツブツ言い始めていた。しかし、このあたりから道なき道を行くことも多々あって、これが良い気分転換になった。まさに冒険。RPGの世界のようだ。テンションが上がって、僕と娘でアルプス一万尺を熱唱しながら歩いた。誰もいないのをいいことに振り付けつきで踊りながら歩いてみたりした。楽しかった。が、疲れた。妻が理解に苦しんでいた。

  • フィルストを出てからどれくらい歩いただろう。少なくとも二時間は経過していた。振り返れば遥か遠くにフィルストが見える。山麓は秋の気配。ハイキングのシーズンはもう終わりに近いらしい。冬に入れば、このあたりは厳しい雪の世界になるのだろう。

    イチオシ

    フィルストを出てからどれくらい歩いただろう。少なくとも二時間は経過していた。振り返れば遥か遠くにフィルストが見える。山麓は秋の気配。ハイキングのシーズンはもう終わりに近いらしい。冬に入れば、このあたりは厳しい雪の世界になるのだろう。

  • さて、ここからがまた長かった。<br />山腹を這う平坦な道がグローセシャイデックまで続く。<br /><br />終点はレストラン兼ホテルになっている山小屋だった。グリンデルワルトへ行くバス停がすぐそばにある。見ると一時間に一本だった。山の影になっているここはかなり冷えたので、レストランに入ってトマトスープを頼んだ。スパイスの効いた濃厚で熱いスープが疲れた体に染みた。<br /><br />バスは定刻通りに来た。ホテルに戻ってとりあえずチェックアウトを済ませる。<br />たくさん歩いたが、まだ昼前。<br /><br />健康的な旅である。<br />なるほど、ヨーロッパの人々はこういう場所に数週間も滞在して、気ままに過ごすのだ。朝から散歩をし、ハイキングをし、帰ってきて一杯のビール。昼からは少し寝てもいい。夕方は夕日に染まる山々を見ながらのんびりと外で食事をするのもいいだろう。そんな生活をして心身ともにリフレッシュするのだ。<br />なんて…<br />なんて……<br />なんて、うらやましいんだ!<br />日本人な僕は、とりあえず写真を撮りまくった。

    さて、ここからがまた長かった。
    山腹を這う平坦な道がグローセシャイデックまで続く。

    終点はレストラン兼ホテルになっている山小屋だった。グリンデルワルトへ行くバス停がすぐそばにある。見ると一時間に一本だった。山の影になっているここはかなり冷えたので、レストランに入ってトマトスープを頼んだ。スパイスの効いた濃厚で熱いスープが疲れた体に染みた。

    バスは定刻通りに来た。ホテルに戻ってとりあえずチェックアウトを済ませる。
    たくさん歩いたが、まだ昼前。

    健康的な旅である。
    なるほど、ヨーロッパの人々はこういう場所に数週間も滞在して、気ままに過ごすのだ。朝から散歩をし、ハイキングをし、帰ってきて一杯のビール。昼からは少し寝てもいい。夕方は夕日に染まる山々を見ながらのんびりと外で食事をするのもいいだろう。そんな生活をして心身ともにリフレッシュするのだ。
    なんて…
    なんて……
    なんて、うらやましいんだ!
    日本人な僕は、とりあえず写真を撮りまくった。

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