「フンザの山に向ひて言ふことなし・・・ 」（1）　旅の準備＆タイからパキスタンのカリマバードまで（Day１～Day６）

2019/07/19 - 2019/08/24

久々ですが、パキスタンに行ってきました。初めての訪問からちょうど25年、９度目の訪問となる今回は、ギルギット・バルティスタン地域の３か所でトレッキング＆登山を楽しみました。 本当は、還暦の記念にと温めていた計画ですが、待ちきれませんでした。長期の旅なので、いくつかに分けて投稿します。
旅程　Day 1～ 6（7/19～7/24）自宅→ラーワルピンディ→ナラーン→フンザ（カリマバード）
　　　Day 7～11（7/25～7/29）カリマバード→トレッキング①→カリマバード
　　　Day12～17（7/30～8/4） カリマバード→パスー→グルミット→カリマバード
　　　Day18～21（8/5～8/8） カリマバード→トレッキング②→カリマバード
　　　Day22～25（8/9～8/12） カリマバード→デオサイ高原→スカルド
　　　Day26～31（8/13～8/18）スカルド→トレッキング③→スカルド
　　　Day32～37（8/19～8/24）スカルド→ラーワルピンディ→自宅

エリア フンザ(パキスタン)

• 旅行の満足度: 4.5
• 観光: 5.0
• ホテル: 4.0
• グルメ: 4.0
• 交通: 5.0

• 同行者: 一人旅
• 一人あたり費用: 50万円 - 100万円
• 交通手段: 高速・路線バス タクシー 徒歩 飛行機
• 航空会社: パキスタン航空 タイ国際航空
• 旅行の手配内容: その他

現在、私はタイの田舎町に住んでいます。この４月にパキスタンビザは、オンライン申請、アライバルでの取得ができるようになりましたが、６月にトレッキングに必要な物の買い出しも兼ねて日本に行き、東京でビザを取得してきました。
今回の旅行は、フンザの古い友人に現地での必要な手配を頼んだのですが、現地のインターネットを含めた通信事情は相変わらず悪くて、連絡を取るのに大変苦労しました。エアメール、国際電話、E-mail、無料通話アプリを使い分けながら日程の調整等を進めてきましたが、さて、予定どおりの旅はできるでしょうか。そして、もう一つの心配事は、雪と天候です。昨年に引き続き、今年も記録的な大雪に見舞われたフンザです。高所の残雪と降雪を避けるために８月を中心とした日程を組みましたが、実際に登ってみないと分かりません。また、この時期は雨に降られたり、天気がスッキリせず山々の山頂が望めない日も多いです。

なお、今回はパキスタンに36日間滞在しましたが、ＷＨＯの緊急勧告に伴い、パキスタンに４週間以上滞在した人は、旅行者も含めポリオ予防接種が義務化され、パキスタンからの出国時に接種（過去１年以内かつ出国から4週間以上前の接種）記録の確認が行われるとの情報があったので、地元の病院でワクチンの接種を受け、所要の接種証明書を持っていきました。この件について、長期渡航予定の方は、最新状況を確認して下さい。さらに予防接種については、ＭＭＲ（麻疹、おたふくかぜ、風疹の三種混合）と日本に一時帰国の際、バンコクのQueen Saovabha Memorial Institute内のトラベルクリニック（有名なスネークファームと同じ敷地内にあります。）で腸チフス(Typhoid)も受けました。ここでは、日本と比べてかなり安い料金で各種予防接種を効率的に受けることができます。また、高山病の予防薬として、ダイアモックスを持っていきました。タイでは処方箋なしで購入できます。

タイからパキスタンのフンザ（カリマバード）まで（Day１～Day６）Day１

　自宅→バンコク(ＴＧ349便、19:10発)→イスラマバード空港（21:40着）→ラーワルピンディ（23:10着）　　

旅の始まりは、こちらの空港から。暮らし始めて14年目ですが、気候が良く人も穏やかな住みやすい町です。ここから、首都バンコクを経由して、タイ航空でイスラマバードに向かいます。

今年の２月にはカシミール情勢が悪化し、それに伴いパキスタン領空内の飛行制限措置が取られました。この措置は延長を重ね、今回利用したタイ国際航空のバンコク－イスラマバード便は欠航状態が継続していましたが、出発の直前の７月16日にようやく運行が再開されました。ただし、予約していた土曜日の便がなくなったので、前日の金曜日の便に変更しました。
友人の従弟が空港まで迎えに来てくれました。イスラマバードでＩＴ関係の仕事をしている彼が私たちの連絡のサポートをずっとしてくれました。彼も夏休みを取ったので、ラシュファリピークへのトレッキングに同行します。友人は、バルトロ氷河トレッキングのガイド中で、カリマバードで落ち合うことになっています。

Grace Crown Hotel（全部で４泊）

Day２　ラーワルピンディ（11:30発）→ナラーン（22:15着）

便の変更で1日早くパキスタンに到着しましたが、今日、フンザに向けて出発することにしました。
道中いろいろな場所で風景だけではなく子供たちの写真もたくさん撮りました。純朴でかわいらしい子供たちの姿を見つけると、自然とカメラを向けてしまいます。本当はアップロードしたいのですが、特に子供を含む女性の写真については、フンザ以外で撮ったものは全く載せていません。フンザで撮ったものも少しだけにしました。もちろん子供でも断ってから撮るようにしていますが、インターネットにアップロードされ、不特定多数の人の目に触れてしまうことまでは、子供には考えが及ばないでしょう。また、親もそこまでは、了承しないかもしれません。フンザに至るカラコルムハイウエイは、イスラム教の教えや伝統に則った生活を送る人々が多く暮らす地域を通っています。フンザのように比較的開放的で寛容な地域は少ないでしょう。そして、パキスタンでは、名誉殺人という慣習が未だに根強く残っています。部族の慣習が法律より優先されている結果です。７年前に来た時も、以前撮った女の子の写真を渡しに行きたいとガイドに言ったところ、自宅の場所を知らないなら行かない方がいいと言われました。彼も村に入るのをためらっているようでした。丁度その２か月前に、携帯電話で撮られた一つの動画が問題となり、この地域（コヒスタン）の別の村で名誉殺人により５人の少女とその復讐で３人の男性が殺害されたばかりで、村の中で写真を見せながらその子たちを探すのは危ないということでした。考え過ぎと思われるかも知れませんが、一介の旅行者には想像もつかない現実がここにはあります。

先ずは、イスラマバード市内で両替を済ませます。レートは、１ドル/158ルピーです。

夏休みでフンザに帰省する従弟の友人を拾い、3人で一路ナラーンへ向け出発です。何度となく通った道、車窓には懐かしい風景が広がります。今の気分は、まさにこの曲です。 “～On the road again Goin’ places that I’ve never been Seein’ things that I may never see again And I can’t wait to get on the road again ～?” （曲:On The Road Again/作詞: Willie Nelson）
さて、今回は、どんな新しい風景や人々に出会えるでしょうか。そして、今回が見納めになるかもしれないパキスタンをしっかりと目に焼き付けてきたいと思います。（家内から我が家へのRe-entry permitは、パキスタンについては今回が最後との厳しいお達しがありましたので。）

途中、ハッサンアブダルから新しくできた片側３車線の高速道路Hazara Motorwayに乗ります。現在は、ハリプールの先、Shah Maqsoodまでが供用開始されています。将来的には、カラコルムハイウエイ（ＫＫＨ）沿いの町ターコットまで延びるそうです。移動は実に快適ですが、いつも使っていた道の方が私は好きです。遺跡で有名なタキシラを抜け、ハリプールの町を過ぎ、アボタバードヘと続いていく道で、無秩序な人と車の往来の中、飛び交うド派手なクラクションに緊張しながらも、沿道の人々の生活を垣間見られる旅情溢れる道です。高速道路やバイパスの利用はとても便利ですが、旅を味気ないものに変えてしまいます。チキンカライが最高においしくて、いつも立ち寄っていたハリプールの食堂にも残念ながら寄れません。

高速を降りると道路沿いにライチ売りの露店がいくつも出ています。地元ハリプールで採れたもので1キロ350ルピーです。私の好きな果物ですがタイでは季節はもう終わっています。２キロ買いホテルの部屋でおいしくいただきました。

ハーベリアンの町で遅い昼食をとった後、隣町のアボッタバードでここに寄ります。

　昨年12月にアボッタバードにできたばかりです。ビンラディンが殺害された町にアメリカのファーストフード店が・・・。何と大胆不敵な。高い壁に囲まれ、入口には堅牢な門と厳重なセキュリティチェックがあると思いきや、そんなものは一切ありません。銃を持った警備員が３、４人立っていますが、店内は家族連れで賑わっています。実に平和な休日の光景ですが、のんびりとする気にはとてもなれません。店の外に神経を尖らせます。いつ自爆車両がドライブスルーに突っ込んでくるかわかりません。入ってくる強面のお客もテロリストに見えてきます（失礼）。長居は無用と飲み物だけをテイクアウトし、さっさと店を出ます。
　アボタバードの先、マンセーラでカラコルムハイウェーを離れ、カガーン谷方面に進みます。高速を降りてからここまでずっと道が車で込み合い、かなり時間がかかりました。ようやく渋滞を抜けカガーン谷に入ると今度は、どんどん道は悪路となり、目的地のナラーンに着いた時には、夜の10時を回っていました。

Fircrest Lodge Naran　新しいホテルですが、町の中心からは少し離れています。
すぐに食事に出ます。

　ここの名物のニジマス料理です。値段は高いですが、見た目も味も残念です。

　こんな遅い時間ですが、通りやレストランは人であふれています。

　ナラーンはカガーン谷の中心の町で標高約2,400ｍ、パキスタン人の避暑地として夏は大変な賑わいで、車もあちらこちらで渋滞します。宿泊施設の不足を補うためのテントモーテルが、まるで難民キャンプのように広がっています。
　この町の周辺にもトレッキングを楽しめる場所がたくさんあります。このように風光明媚で観光客が押し寄せるカガーン谷ですが、山を越えたすぐ東側は、インドとパキスタンが領有権を争い紛争が続くカシミール地方の一部で、パキスタンが実効支配していてるアーザード・カシミールです。

Day３　ナラーン（６:30発）→カリマバード（21:30着）

今日は、バブサール峠を越えてフンザのカリマバードに向かいます。　
バタクンディという村で朝食。景色の良い場所です。

　ナラーンから50ｋｍほどでルルサール湖（標高約3,400m）に到着。

　タイヤがパンクしていました。スペアタイヤに交換します。
　７年前にも帰路にここを通りましたが、私が通ったちょうど１週間後、この湖付近でパキスタン・タリバーン運動の武装グループにバスが襲撃され、20人以上のシーア派の乗客が殺害されるという恐ろしい事件が起こっています。その年の初めにもカラコルムハイウエイで同様な事件が起きていて、当時カラコルムハイウエイは、警備が厳重でした。危険な場所だということで、同乗の武装警官の指示で猛スピードで走り抜けた集落もありました。その翌年には、ナンガパルバットのＢＣ をテロリストが襲撃し、多くの外国人クライマーが殺害されています。

ＫＫＨ沿いの町にて（７年前）
　最近はこうした物騒なニュースも聞こえてきませんが、この辺りからチラース先の最初のチェックポイントまでは、このように微妙な地域を通ります。

　バブサール峠(4,173ｍ)には10時35分に到着、峠付近も観光客と車がいっぱいです。お店もたくさん出ています。どこまで行けば静かなパキスタンにまた会えるのでしょか。

7年前の静かな峠

　ここで高度順化のため少しの間滞在します。目の前に手頃な山が見えるので登ってみます。

　一人で登るつもりでしたが、警察官が同行することになりました。ザヒール・アフターブ氏（右）。銃は携行していないので、護衛と言うより登山ガイドといった感じです。

寝不足もたたり、かなりきつい登山でした。

　１時間で標高約4,330ｍの頂上に着きました。ここまで登ってくるパキスタン人観光客はいません。峠の喧騒が嘘のようです。

頂上から望むバブサールトップ　

　峠を一気に下り、カラコルムハイウエイに合流します。ここから先ギルギットまでの間、３か所のチェックポイントでパスポートのコピー（ビザの頁のコピーも）を提出しましたが、手続きが終わるとコピーは返却されました。ギルギット・バルティスタン地域へ入る際の外国人登録もなくなっています。

　ヒマラヤ山脈最西端の8,000ｍ峰ナンガパルバット（8,126ｍ）の眺め。タリチの有名なビューポイントですが、山に雲がかかっていることが多く、このようにはっきりと見えるのは久しぶりです。

　山頂をズームアップ
　さて、フンザへ向けて最後のドライブです。大分フンザが近づいてきました。

　途中、ラカポシ(7,788m)のビューポイントで暫し休憩。ここは、よく知られているラカポシビューポイントよりギルギット側にあります。ラカポシの西壁にちょうど夕日が当たっています。

　山頂をズームアップ

　こちらは、別の日に撮ったものです。圧倒的な存在感でそそり立っています。こんなに巨大で峻険な山を３週間前の７月２日に平出和也氏と中島健朗氏が未踏の南壁から新ルートで登頂されたそうです。ここから見えるのは北壁なので、この裏側からということですね。私には全く想像も及ばない世界です。素晴らしいの一言に尽きます。おめででとうございます。
　

　山頂をズームアップ
　途中、交通事故でカラコルムハイウエイが一時不通になっていたため、カリマバード到着は21時半。本当に長い一日でした。

　Mountain Inn 知り合いの宿です。外観はこの通りですが、部屋は新しくきれいです。レストランがないので、朝食は外で食べました。

残念ながら、友人はトレッキングガイドの仕事からまだ戻っていないようです。

Day４～６　カリマバード　

今日も天気に恵まれ快晴です。碧天を突くがごとく屹立する白き峰々に囲まれ、美しく広がるフンザの風景。まさに「フンザの山に向ひて言ふことなし・・・ 」です。
　私を魅了し、この地へといざない続けた大自然は、昔のまま、また私を迎えてくれました。今も僻遠の地であることには変わりありませんが、時を経て目に映る町の様子は、大分変ってしましまいました。町は観光客であふれています。そのほとんどはパキスタン人ですが、タイからの観光客にも会いました。そして、押し寄せる観光客にあわせ、宿もレストランも大分増えました。ピークシーズンには、ウォークインでは希望に沿った部屋の確保は難しいそうです。宿泊料金や食事代も大変高騰しています。フンザは一大観光地と化してしまいました。故郷のあまりの変貌ぶりに、１年ぶりに帰省した２人も「知らない街に帰ってきたみたいだ。」と始終興奮気味に話していました。もう「あの頃のフンザ」には、薄れゆく記憶と古い写真の中でしか会うことができないのでしょうか。
　この３日間は、風景や子供たちの写真を撮りながら散策をしてのんびりと過ごします。

アルティットフォート

　翌日は、イーグルネスト（ドゥイカル村）と呼ばれる高台（約2,800ｍ）のビューポイントにある宿に移り1泊します。
　Embassy Vantage Resort　急な崖の斜面に建っているホテルで大きな岩の上にレストランがあります。最高のロケーションです。部屋に居ながらにして、フンザ渓谷を一望することができます。

夜のレストラン

ただ、ここに泊まるには、急な300段の階段を上り下りしなくてはなりません。そのためか宿泊客は、私の他には１家族しかいません。

夕暮れ時を待って、多くの観光客が登って来ます。

フンザ渓谷とラカポシ

ナガール（ホーパル村）方面

もうすぐ登るラシュファリピーク（○の山）が見えます。高い山は左からチョコタン、ギルギンディール、スパンティーク。

その次に登るコルピーク（○の山）も見えます。

コルピーク（手前の雪山）

翌朝も早起きをして、日の出を待ちます。パキスタン人は、早起きが苦手なようで夕方に比べ、人はかなり少なめです。
ラカポシ、スパンティーク・・・と高い山から順に朝日が当たって行きます。

　午後は、カリマバードに戻ります。
　途中、アルティット村に立ち寄り、女性の自立支援のための工房「Mohkam Furnishers」を見学。

　家具の製作から家の建築まで請け負っています。アルティットフォートの修復も手掛けたそうです。ホテルの建設ラッシュが続く中、事業は拡大しているそうです。

　昼食は、アルティットフォートの敷地内にあるフンザ料理の店で取ります。フンザ料理は、滞在中、何度も食べました。
ダウド（平打ち麺と香草、野菜、鶏肉などが入ったスープ）、チャプシュロ（フンザのミートパイで鶏の挽肉に玉ねぎなどが入っています。マトンやビーフのもあります。）チャムス（アンズのジュースです。ドライあんずを一度水で戻してから作るので時間がかかります。）、生のアンズはお店のサービスです。

　Baltit Heritage Inn（２泊） バルティットフォートへの道が分かれるフォートチョークというとても便利なところにあります。

　翌日は、先ずクルミケーキで有名なCafé De Hunzaへ。隣席の２人のパキスタン人と話が弾みます。フンザでの観光についていろいろと聞かれたので、簡単な地図を描き、観光スポットを紹介しました。彼らは先に店を出ましたが、知らないうちに私の勘定まで払ってくれていました。ラーワルピンディでも乗り物代やお茶代を払ってくれたり、村を歩いていれば、よくお茶を呼ばれたりします。「写真を撮ってくれ。」とか「一緒の写真を撮らせてほしい。」とか良く声を掛けられます。パキスタンの人はとても親しみやすく、旅行中に不快な思いをすることは、いつもほとんどありません。

　ケーキを食べたばかりなので、昼食は軽めにします。バルティットフォートに上がる坂の途中にあるHunza Food Pavilionと言う小さなお店です。

　今日もまたダウドを食べます。ダウドは、お昼は出さないそうですが、特別に作ってくれました。

ディラムピティ。おばさんが自分が食べているのを分けてくれました。原料は麦。アンズオイルを混ぜたほんのり甘いデザートです。

　古い知り合いの店に寄ります。彼が昨年の春に獲ったアイベックスの剥製が飾ってあります。
　早めの夕食をとって、宿に戻ります。明日はいよいよ最初のトレッキングです。