2016/07/16 - 2016/07/22
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JIC旅行センターさん
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ソロベツキー諸島滞在の最終日も天候に恵まれず、どんよりとした灰色の空が我々の上に重くのしかかっていた。
この日の午前中は島の象徴的存在であるソロベツキー修道院を見学することになっていた。ホテルから徒歩10分ほど歩いたところにある修道院の正門前で女性ガイドと合流し、レクチャーを受ける。
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ソロベツキー諸島で出会ったロシアのガイドさんたちはみんなとても優秀で、話は深くて面白い。話し方、表情、立ち居振る舞いなど、日本でガイドとして働く機会が多い自分にとっては非常に勉強になる。
ソロベツキー修道院の歴史についてはここでは敢えて触れない。知りたい人はネットで探せば詳細な資料がたくさんある。ガイドさんの説明で、個人的には14世紀から変わらず残っている城壁の一部が一番記憶に残った。昔の島民がレンガの強度を高めるためにウォッカと卵を土に混ぜ合わせてレンガを作ったという話が面白かった。それに城壁の上にそびえる巨大な櫓というか塔。2段から4段まで構成されていて、当時の建築技術に感服してしまう。修道士たちが住んでいた僧房も一見の価値ありだ。修行目的で作られた居間が、時代と共に質素なものから快適な空間へと変わっていく様子が見て取れる。修道院の牢獄は恐ろしく、特にソ連時代(1930年代)にここで行われた拷問の話は耳を疑うほど残酷なものだった。
修道院の歴史だけでなく、島全体の歴史についての展示物が多く、特に興味深かったのは人の手で掘られたダムの仕組み。島民たちの想像を絶する努力のおかげで飲み水はこの島で絶えることなく常に飲めるようになったようだ。
しかし、修道院は現在修復中で、あちらこちらに作業員がいて、工事なのか発掘作業なのかわからないが、雑然とした雰囲気と騒音があたりに漂っていた。 -
一通り見学を終え、正門を出た僕は目いっぱいソロベツキーの空気を吸ってみた。陰気な湿気と何とも言えない哀愁の後味が消えない。ソロベツキーの空気は、他の世界遺産でよく味わうワクワク、ドキドキの空気ではない。ここの空気には偉大さはなかった。そう遠くない、忌まわしい過去の鼠色の影たちは、この空気にひっそりと潜んでいる。人の苦しみや死の影は確かにだいぶ薄れてはいるが、しかし消えてはいない。島中、どこへ行ってもこの影たちは確実に存在する。修道院の城壁にも、島民がいまだに住み続けている半壊の建物にも、道路とはとても呼べない泥んこ道の水たまりにも、過去の影たちはひそかに存在していた。
自分にとってのソロベツキー諸島は、そういう空気が漂う場所だった。 -
帰りの飛行機は大幅に遅れているという情報で、しばらくホテルのレストランでだらだらと時間をつぶしていた我々はようやく空港へ向かった。
島に上陸した初日はあまり気に留めなかったが、最終日に時間がたっぷりあったので改めて「空港ビル」のいろんな意味でのすごさを実感。奇抜な色に塗られた長屋のような木造建物は紛れもなく「空港ビル」だった。スーツケースを必ず載せるように指示された床置式重量計は1950年代の代物だった。おそらく30年後も現役で頑張っているであろう。スタッフのおばちゃんも50年代から変わらない不愛想な表情を浮かべていた。こちらもきっとこの先も変わらないであろう。
「空港ビル」で厳重な検査を受け、建物の前のベンチに腰を下ろす。はるか遠く飛行機が強風に煽られながらこちらに向かって飛んで来る。着陸した飛行機に今度は我々が乗り込む。
30分後、どんどん小さくなっていくソロベツキー諸島に機上から最後の一瞥を投げ、今までと少し違う自分がいることに気づく。
(了)
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