2016/07/16 - 2016/07/22
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JIC旅行センターさん
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■魅惑のクゾバ諸島
4日目になっても晴れる兆しのないソロベツキー島。
どんよりとした雲は、今日も雨に降られることを約束していたかのようだった。朝8時半にホテルを出発し、島に点在している船着き場の一つ、ヘタ港へと歩いた。ヘタは日本語では「下手」という意味だよ、と同行者を笑わせながら歩を進めたが、実際に見るヘタ港は日本語の「下手」を見事に表している場所だった。
不揃いの板で作られた桟橋の先には、頑張ればもう少し「上手」にできたはずの小屋が立ち、大きな文字で「ヘタ」と書かれていた。写真を撮らずにいられない。
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ヘタ港で我々を待っていたのは、ソロベツキー島の雰囲気にそぐわない最新型の高速ボートだった。聞けば、島には2隻しかないらしい。前日のアンゼル島行きでの「難民船状態」に懲りた社長が急遽、高速船を手配してくれたのだ。
中年のキャプテンに順序よく船室に案内され、席に着くやいなや、ボートは轟音とともに急発進。びっくりしてコックピットを覗くと、温厚な人に見えたキャプテンは鬼の形相でF1ドライバーなみのスピードを出しながら荒波を睨みつけていた。この日記のタイトル「人を変えてしまう島」をまるで体現している。
クゾバ島に着くまでの45分間は、「浮き沈みが激しい」という日本語の表現がまさしくどういうことを意味しているのか、痛い程分かった。実際に痛かった。数秒の間に宙に浮いた船は、次には思いっきり水面に激突する。その度に脳震盪に近い衝撃を覚える。何かにつかまっていないとすぐに床に投げ飛ばされそうになる。格好よく呼ぶなら、「海のロデオ」だ。それにしてもこのロデオは尻が痛い。 -
地獄の45分間が過ぎて、ようやく目的地に到着。高速船からゴムボートに乗り換え、ついにクゾバ諸島の島に上陸!
周りを見渡すと不思議な風景が広がっていた。なだらかな小島があちらこちらに隆起していて、この厳しい土地に似合わない、かわいいらしい景色を織りなしていた。浜辺にはテント村があり、学生らしい男女が談笑しながら焚火で暖を取っていた。彼らの中に本日の我々のガイドがいるはずだが、声かけても「知らん」の一言が返ってくるだけ。
しばらくたって、我々のグループリーダーがさすがに怒り出したころに、ようやく目当てのガイド、イワン君が登場した。彼はこの島で夏場フィールドワークをしている研究者で、時々ガイドのアルバイトで生計を補っているらしい。 -
イワン君は手際よく説明をしながら我々を島めぐりのトレッキングへと導いていく。しばらく浜沿いに歩いた後、途中から岩場に取り付き、海抜126メートルの山頂まで一気に登る。頂上は広く、そして周辺は見渡す限りかわいい丸い島々が続いている。
クゾバ諸島に学者や観光客が集まる理由は、頂上付近に見られる「セイト」と呼ばれる巨大な石積みにある。ガイドは様々な説を披露してくれたが、最も有力的なのは、サーミ人というフィンランド系の古代先住民族が何らかの儀式に使ったのではないかという説だ。
小雨の中、石の偉大さとそれに気づいた人々の偉大さにしばし思いをはせる。石はこの世の最も古いものといっても過言ではない。一見武骨に見えるが、内面には全世界の今までの記憶が眠っている。石は過去も現在も未来も知っている。人間が地球に現れる前のはるか昔の景色をこれらの石は見てきている。人間が地球から消えた後もこの石たちはきっと静かに見続けるだろう。石の記憶は侮れない。
それに気づいた人間は石を敬い、石の記憶を少しでも呼び覚まそうと、置き方を考えたり、石組みにまとめてみたりしたに違いない。クゾバ諸島の「セイト」にはきっとそういう意味がある。うまく言い表せないが、ここは一種のパワースポットだ。不思議な雰囲気に満ちた空間が頂上付近に広がっているのが感じとれる。 -
今日の一日に深く感謝しよう。周りに広がる島々と白海の雄大な景色はそんな思いをより一層強くする。
島の頂上からの風景を思う存分楽しんだあと、再び浜辺へ降りる。「ロデオ」号が戻ってくるまではまだまだ時間があった。ガイドのイワン君を囲み、雨避けのプレハブの中で質素だがとてもおいしい昼ご飯をいただく。自然に会話も弾む。笑ったり、歌ったり、茂みに生えるブルーベリーの小さな黒い実を摘んで口に入れたり・・・、雨には降られたが、今回の旅の中でおそらく最も幸せな時間を過ごした。 -
そういった意味でも、ここはやっぱりパワースポットだった。
* * *
帰りの高速船に乗り込み、クゾバ諸島の残像に浸った・・・、と書きたいところだが、温厚なキャプテンは再び鬼の形相で船を操り、脳震盪に近い衝撃を我々に容赦なく与えてくれる。船内に流れるキャプテン選曲の音楽は海の唸りすらかき消す大音量だ。クゾバ諸島の残像は一瞬で消え去った。
(つづく)
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