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お金はなくても子供は育つ - ロシアの出産、子育て事情 -(1)

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1998/01/01 - 1998/12/31

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 知人が日本から柳美里の「命」と「アエラ」を持ってきてくれた。日本ではこのところ「出産」と「子育て」というテーマがブームらしい。ロシアの出産・子育て事情は日本ではあまり紹介されていないはずなので、少しでも参考になればと思い、筆をとった。

 私は98年に、バルト海に浮かぶ小さな島の産院で男の子を産んだが、妊娠中と産後三ヶ月以降はサンクトペテルブルグ市内で過ごした。制度的には、都市部ならロシア中どこで生んでもあまり大差ないのではないかと思う〔ただ妊娠はデリケートなので、本人にとっては、ちょっとした違いが「大差」に思えるのだが〕。

■「医療は無料」政策のオモテとウラ

 経済的な事なら入ると、ソビエト時代から引き続き、定期健診も妊娠中の治療・入院も、産院も、無料である。外国人でもロシアの健康保険証を持っていれば、ロシア人と同じ扱いになる。私は妊娠が分かってから保険証を作り、無料で出産し、そのひと月後に保険証の期限が切れた。もし保険証がなくても、大きなおなかを抱えた妊婦が救急車で産院に運び込まれると、それに鑑定書を突き付ける医者はいない〔しかし帝王切開などの計画出産の場合は、保険証がないとロシア人でも500ドルという高額を請求されるようだ〕。事実、ペテルブルグには浮浪者の女性が送られる「第16番産院」というのがある。妊娠九ヶ月のころ救急車を呼んだ私は、たまたまその「第16番」につぎ込まれ、10日ほど入院していたが、衛生状態は私の地元の徳島の日赤病院にも劣らない。医者の仕事ぶりにも文句はなかった。食事も私は残さず食べた。

しかし、ロシア人の若い女の子が「こんな冷たいマカロニ、食べられたシロモンじゃない!粘土かよ!」と配膳係のおばさんに暴言を吐いたことと、同室の女の子が、「ここのスープの具が少ないのはね、配膳係のおばさんが具だけ容器に入れてウチに持って帰っているからよ!」といったことが、記憶に残っている。マカロニが冷たいのもスープの具が少ないのも〔病院だから、しかもロシアの!〕当然のように受け入れていた私は、地元の女性たちの要求の高さに少し驚いたのだ。

 「入院無料」という素晴らしい制度のため、病院側にはお金がなく、注射器や注射針、点滴のチューブ、時には薬品までも、持参しなければならない。すべて一階の薬局で売っている。私は救急で夜中にやって来たので薬局が閉まっていた上、そもそも財布を持って来ていなかったので、「注射器?」と聞かれ、「えっ、ありません」と答えると、看護婦はあちこちの病棟に電話をかけまくり、注射器の有無を問い合わせ、見つかると走って取りに行ってくれた。翌日同室の女の子に電話代を借りて、家に電話をしてお金を持ってきてもらった。三度目の入院、そして出産をすることになったクロンシュタット島の病院では、受付で「シーツ持って来た?」と聞かれ、さすがの私も苦笑してしまった。

■サディスティック定期健診

 定期健診は、自分が住んでいる住所によって、その地区の「女性相談所」なるものを指定されるのだが、それは今思い出しても腹立たしいほどの非合理的で、妊婦の健康と安らかな精神状態を願っているとはとても言えないものだった。血液検査、尿検査などの検査の類いは朝8時から10時までなのだが、凍りつく冬の朝、無理して早起きして大きなおなかを抱えてつるつるに凍った道をやっとの思いで8時半ごろにたどりつくと、血液採取室の前はもう長蛇の列で、座るところもない。一時間半立ちっぱなしで待たされ、10時になると、なんと「また明日来てください」となる。どの検査も毎日やっているわけではなく、しかも朝から夕方までやっている検査などないので、一日でいくつかの検査を効率よく回るなどというのは、夢のまた夢だった。

特に口と鼻の粘膜を採取されたときには、「はい、このビーカー持ってこれから言う研究所に持って行ってちょうだい。今日はもう最終の回収の人が帰っちゃったのよ」と両手にビーカーを渡され、事情が飲み込めないでいると、「採取はここでするけど、その分析は別の場所でやってるのよ。5時までだから、今から行けばギリギリ間に合うわよ」と、住所を書いた紙を渡された。それは歩くには遠く、タクシーを拾うには近すぎる距離だった。「あの、明日の朝一番じゃだめですか?」と聞くと「ダメダメ、粘膜が乾いて分析できなくなるから、今から行ってね、」と言う。私は毛皮のコートを着て、マフラーを巻き、帽子をかぶり、ビーカー二つを両手に持ち、雪のつもった道をダッシュした。こんな妊婦は日本にはいないと思うが、ここには山ほどいる。

■どんな医者にあたるかは運次第

 このサディスティック女性相談所の産婦人科医には妊娠中ずっとお世話になるのだが、かれらは出産を請け負わないので、日本のように「定期健診も妊娠中の入院も、そして出産で同じ医者にお世話になる」ことはできない。帝王切開のような計画分娩でない限りは、陣痛が始まったら救急車を呼んで、その当直の産院にかつぎ込まれて出産、という場合がほとんどだ。私立の「婦人科」診療所でも妊婦は診てくれるが、「産科」の領域に踏み出してはいけないことになっている。

診察者が変わった場合でも新たな診察者に今までの検査結果が一目で分かるように、市内統一様式のカルテが支給される。日本の母子手帳なものだが、厚紙の表紙の中に、いろんな検査結果を記した紙切れをその都度ノリで貼っていくという原始的な見た目とはうらはらに、かなり医学的なことがたくさん書き込まれていく。入院中の様子もすべてここに記載される。このカルテを持っていればこそ、初対面の医者に赤ん坊を取り上げてもらうことにも不安がないのだ。カルテは女性相談所でしかもらえないので、いかにサディスティックであろうとも最低2?3回は足を運んでおかなければならない。

(つづく)

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