2015/08/27 - 2015/08/28
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鯨の味噌汁さん
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タリンの明け方。
強い雨音で目がさめた。
時計を見ると午前5時。中庭に面したホテルの窓はまだ暗い。
雨は強くなったり弱くなったりしながら降り続いている。
タリンは一泊ではもったいないような町だが、現地たった5泊の旅だ。きょうはラトビアに移動しなくてはならない。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 同行者
- カップル・夫婦(シニア)
- 交通手段
- 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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-
煙突掃除のおじさんともお別れだ。
「同じポーズで写真を撮ると、もう一度この町に戻ってこれる」
というから、恥を忍んで一枚撮ってもらう。(うそです) -
ラトビアの首都・リガまでは300キロ、東京ー新潟間くらい。
ネットで予約したバスで4時間30分、料金は18ユーロだ。 -
午前10時、タリン発。新市街を抜け、バスは海岸線に沿って緩やかに南下する。
いつの間にか雨は止んだ。
車内アナウンスはないけれど、wi-fiが車内に飛んでいるから、スマホのGoogle map を起動して現在の位置を確かめることはできる。
国が小ぶりな分だけ、こういったインフラは整えやすいのだろう。 -
平坦な森、それから牧草地帯を抜けて走る。
車内は旅人と出張組が半々くらいだろうか。パソコンを起動してお仕事モードの人もいる。
前の席は若いカップルでどうやらバカンスらしい。
しゃべっている言葉はわからないが、何しろヒマであるから、ぼんやり二人の睦言を聴く。
すると、なんとなく、日本語に聞こえる。 -
エストニア語はウラル語族だ。ワシが学生のころは「ウラル・アルタイ語族」といった。
日本語はアルタイ語族だから、遠い親戚なのかもしれない。
ウラル・アルタイ語族の分布は、スカンジナビア半島から始まり、細い川のようにシベリアを横断し、はるばる海を渡って日本にたどり着き、そこで終わる。
ヒトは何万年かをかけてユーラシア大陸を渡りきり、言葉を極東まで伝えたんだろうな、なんてことをぼんやりと考える。 -
牧草地が目立つようになり、二番草の収穫が終わったロールがあちこちに置かれている。
北海道でおなじみの風景だ。
地平線まで薄いカーテンのような雲が広がっている。
ウトウトしていると、いつの間にか国境を越えたらしい。紫のラトビア国旗が見たと思ったら、午後2時半、バスはリガ郊外のバスステーションに滑り込んだ。
みじかい旅の最終目的地。 -
運河を挟んで、中央市場が建っている。
飛行船の格納庫4棟を市場に転用したものだ、とガイドブックが教えてくれる。 -
一番左に入ると、体育館みたいに天井が高い。
なるほど、「飛行船の格納庫」らしい作り。
壁際に2列、中央に2列。そのすべてがお肉屋さんだった。
こりゃまたものすごい規模だ。
どうやらこの地のメインは豚肉らしい。
あとはソーセージ屋さんが目立つ。 -
4棟の建物の周囲にも、びっしり露店が出ている。
果物屋、雑貨屋、靴屋、下着。
いわゆる「お土産物屋」さん的な店は少なくて、お客さんはほとんどが地元民だ。
まるで巨大なアリの巣に迷い込んだように店が続く。 -
まだホテルへチェックインしていない。それに腹もすいている。
とりあえず、肉屋の並びにあるセルフの食堂に入ってみる。
市場で働いているオバチャンなんぞが先客で、簡素なテーブルでフォークを使っていた。 -
手マネで、チキンの詰め物、お肉にトマトチーズ乗せ、カツレツ、スープ、それに飲み物をオーダーする。
渡されたレシートは二人で6ユーロだった。
フィンランドの物価に洗脳されかけていたので、あまりの違いに二人で顔を見合わせる。
食べてみると、これがまたうまい。 -
ちなみにあとで「地球の歩き方」を見たら、肉屋の棟に
「安い食堂」
とだけ表記があった。大雑把だなぁ。
ワシらの入ったお店は「PERONS Nr.1」という看板が出ていた。
後で意味を調べると「1番線ホーム」。
ちなみにこの店の左奥には、カウンターだけの定食屋があり、2ユーロ台の定食がずらっと並んでいた。
われわれは定食を2ユーロでまかなえる国にたどりついたらしい。 -
運河を越え、トラムを渡ると旧市街が始まる。
この町には2日間滞在の予定だ。慌てることはない。
地図を取り出してホテルの位置を確認していると、カフェのお兄ちゃんが
「迷ったのかい?」
なんて話しかけてくる。
ホテルの名前をいうと
「そこまっすぐ行って、最初のコーナーをライトだ」 -
たどり着いた宿はテラスつきのツインルームだった。
アメニティも一通りそろっている。
「いい部屋じゃない」
彼女はニコニコしている。
--イスタンブールの失敗を踏まえ、最後の宿は慎重に選んだのだよ、とココロにつぶやく鯨の味噌汁。 -
明けて2日目。
翌朝にはリガから飛ばなくてはいけないから、実質旅の最終日だ。
まず旧市街をてくてく歩いて回ることにする。
すぐに、ド派手な建物にぶちあたる。
未婚の商人のギルド「ブラックヘッド・ギルド」だという。
「未婚の商人ってなんだよ。修道士ならともかく、商人は子孫を残してなんぼじゃないか」
ワシがゆうと、彼女が
「・・・青年団みたいなもんじゃないかしら」
あーなるほど。若衆ってヤツだな。
この建物もまた、ドイツの空爆で破壊され、ソ連に解体されたのを、執念で再建した。
今は大統領の官邸になってるから、中には入れない。 -
旧市街から新市街へ向かう。
ハンザ同盟の町はどこもそうなんだろうが、きれいな運河が残っている。 -
新市街の入口に、馬鹿でかい塔が立っていた。
「自由の塔」。 -
ロシア革命のどさくさで、ラトビアはいったん独立する。
そのさいに作られたものらしい。
国自体はすぐにソ連に潰されてしまうのだが、この塔は破壊されなかった。
壊すには大きすぎたんだろう。
そのかわり
「近づいただけで強制収容所にぶち込まれた」
なんて地球の歩き方に書いてある。
目がくらむほどヒドイ目にあってるなー、ここも。 -
てこてこ歩いていくと、銀色の土偶がどどーーーんと屹立していた。地図を調べるとラトビア芸術アカデミー。
おお。これは「ヴィレンドルフのヴィーナス」じゃないか。
先史時代のオーストラリアで作られた、ヨーロッパでもっとも有名な土偶だ。
なぜここに。
フラフラと吸い寄せられるように配偶者が近づく。
で、しげしげと眺めてる。 -
イチオシ
梅原猛は、土偶の正体を
「出産で亡くなった母親と子供の霊を鎮めるためのもの」
と推理したけど、ヨーロッパでもそうなんだろうか。
・・・てなこととは全然関係なく、彼女はなぜかなぜか、このヴィーナスに、3万年の時を越えた友情を感じたらしい。
「これこれ、いっしょのポーズ取りなさいよ」
とゆうと、ちゃんとマネしてみせる。
ううう、オモチロイ。 -
さらに歩いていくと、新市街の一画に「ユーゲントシュティール建築群」なんてのがわらわらと現れる。
20世紀初頭、いわゆるアール・ヌーヴォーの影響下にある建築、なんてガイドブックに書いてある。
が、シミジミ実物を見ると怖い。
こんなところに住みたくないぞよ。 -
「進撃の巨人」にのぞかれてる気分だ〜。
頭から食われそうじゃないですか。 -
イチオシ
あー、これは許す。
これくらいのサイズのほうが、バランスがよろしい。
山高きがゆえに尊からず。チチもでかきがゆえに尊からず。 -
旧市街にとって返し、リガ大聖堂をのぞいてみる。
奥の絵画を修復してる。 -
なおしているのは、さきほどの「ラトビア芸術アカデミー」の学生だろうな。
ウッカリどこぞのおばさんに修理を頼んだら、キリストがフクロウに変身しました、なんて話もあったっけ。
世界遺産の町は維持管理が大変だ。 -
大聖堂の北にある火薬庫。
中は軍事博物館になっている。
ある予感がして、中へ入ってみる。 -
すると、やっぱりありました。
日露戦争、バルチック艦隊の展示。沈められた戦艦のイラストだ。 -
バルチック艦隊は7ヶ月かけて世界を半周し、日本海までやってきた。
その軌跡が、大きな地図で展示されている。
最後、対馬沖に沈没マークが描かれ、航路の破線は途絶えるのである。 -
旧市街のはずれに、立派な国立劇場がある。
オペラ、バレエ、演劇を交互にやっているらしい。
演目を覗きにいった配偶者が戻ってきて、
「今夜は7時開演、バレエで"眠れる森の美女"だって」
うーむ、バレエか。
汚物系のワシにはもっとも似合わないイベントなのは大火事よりも明らかだが、その演目だったらかろうじてわかるぞ。 -
「で、いくらなの」
「10ユーロの席が空いてますって」
彼女は子供のころバレエを習っていたので、珍しくコーフンしている。
夜はどうせヒマだから、ワシもつきあうことにするか。 -
で、午後6時。ホテルから再び出撃。
10ユーロのチケットで案内されたのは、階段をグイグイと登ったどんづまり、天井桟敷に近い席だった。
本劇場において、人類が到達できる最高標高地点と思われる。酸素が薄くならないか心配だ。 -
場内は満員だ。
子供連れのお母さんが多い。どうやら今日は「子供といっしょにデー」みたいな日であるらしい。やるじゃないか国立劇場。
「ひとつだけ、お願いがある」
「なんでしょうか」
「イビキをかいたら、つねってほしい」
「・・・わかりました」 -
だがしかし、2時間半の演目中、つねられたのはたった1回であった。
つまりイビキをかかずに眠るワザを身に着けた。
人間いくつになっても進歩だ進歩。
これで今後の社内会議は無敵と思われる。 -
劇場を出ると10時近かった。とりあえず腹が減っている。
-
宿の近くに、感じのいいカフェを見つけて、花いっぱいのテラス席に座る。
隣の席はの6人づれで、ロシア語をしゃべっていた。
ウエイターにメニューを渡されると、英語・ロシア語が併記されていた。
リガの人口の4割は、今でもロシア人なのだという。
家庭ではロシア語、外ではラトビア語、そして外国人とは英語を使っているんだろう。
ヨーロッパの小国が生きていくのは大変だ。
ドイツに占領されてロシアに占領されて、国がなくなって、それでも民族が滅びなかったのは国の言葉があったからだ。
楽天もユニクロも、社内公用語を英語にします、なんてあほうなことゆってると、そのうち滅びちゃうぞ。会社も国も。
・・・などと全然関係ないことを妄想しつつ、メニューを眺めると、一番目立つところに「ソーセージ」とある。
「50センチ」
「1メートル」
「1.5メートル」
まじか。
メートル単位のメニューって初めて見た。
お隣のロシア人の団体さんは、どうやら1.5メートルに挑戦しているらしい。
長方形の皿にどどーーーーーんとソーセージがのり、それを全員で切り分け、せっせと食べている。
横目で観察すると、長いだけでなく、太い。
むくむくと闘争心が屹立勃起する。
「ではでは、最終日につき、50センチに挑戦しようではないか」
なんてゆってみる。
配偶者が怖い顔で答える。
「やめて。ムチャしないで」
あーだめですか、やっぱり。
というわけで、彼女はトマトスープ、ワシは海鮮スープに日和る。(⇒もう若くないさと君に言い訳したね♪)
が、これが両方とも、ビックリ仰天のうまさである。
トマトスープにはモッツァレラチーズ、海鮮スープにはサーモンとムール貝が大量に投入されていた。
結果、スープだけでお腹がいっぱいになってしまう。50センチに挑戦してたら即死だった。ヨカッタヨカッタ。 -
ロシア人のグループは、1.5メートルを食べきることができず、ギブアップして店を出て行った。
スラブの胃袋をもってしても、この店のソーセージは征服できないのだ。いわんや日本人をや。(⇒反語)
店を出て、ホテルへの道を歩く。夜風がここちいい。
「面白い旅だったね」
ワシがゆうと、彼女も頷いていう。
「そうだね。来てみてわかったこともいっぱいあるしね」
子供のころには地図になくて、名前しか知らなかった国は、「ちょっとだけ知っている国」になり、ワシらの旅は終わったのである。
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この旅行記へのコメント (4)
-
- ことりsweetさん 2019/10/26 23:16:50
- はじめまして
- 鯨の味噌汁さん、こんばんは。
私のNZ~メルボルン旅にいいねをありがとうございました。
数年前ウチもヘルシンキ経由でタリン~リガ~ビリニュスまで
行きました。
その時リガは時間がなくて
夕方あの美しい建物群の入り口ぐらいでホテルに戻ってしまったので
見られずしまいでした。
鯨の味噌汁さんのバレエ観賞体験、うらやましい。
そしてその後のレストランの食事、
おいしそう~
旅先に思いがけずおいしいレストランに
出会えるのは嬉しいですね。
楽しそうなエンディングでこちらも嬉しくなりました。
- 鯨の味噌汁さん からの返信 2019/10/28 13:20:22
- RE: はじめまして
- ことりsweetさん
コメントありがとうございます。
4年前の旅日記にコメントありがとうございます。
ワシも久しぶりに読み返しちゃいました〜。
名古屋で一泊したんで、リトアニアまで行けなかったんだった…(おまぬけ)
そういえばバレエもレストランも街歩きで見つけました。
あんまり事前に調べずにぶらぶらするので、
「あと通り一つ歩けば有名な店だった」
なんてことを後から発見することもあります。
鯨も歩けば棒に当たる、でございます。
鯨は歩かんけど。
-
- mistralさん 2015/09/13 13:34:55
- 良い旅でしたね。
- 鯨の味噌汁さん
mistralです。
夏の終わりの旅、拝見しました。
良い旅でしたね〜
明治村でのコスプレから始まり
思わずクスクスしたり
時にはしんみりとなったり
鯨さん節を堪能しました。
またよろしくお願いします。
mistal
- 鯨の味噌汁さん からの返信 2015/09/14 12:29:36
- RE: 良い旅でしたね。
- mistralさん
ですです。短いわりに面白かった!
現地5日だと、旅に慣れたころに終わりが来ちゃいますもの。
この日程では3つの町でちょうどいいかも。
でもねー、ヘルシンキの物価高がトラウマになりました。
彼女のほうは、自分で買ったと勘違いして、ミニバーの「アップルサイダー」飲んだら7ユーロ。気絶してましたなー。
やっぱり南欧のほうがいいや。(笑)
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旅行記グループ ヘルシンキからリガまで
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