上野上泉　新陰流を広める全国武者修行の為敗戦武将の立場ながら敵将信玄の手厚い誘いを断った剣聖上泉信綱居城の『上泉城』訪問

2015/01/10 - 2015/01/10

上毛電鉄上泉駅から徒歩約１０分、桃ノ木川の河岸段丘に沿った上泉城（かみいずみじょう、群馬県前橋市上泉町）は天文年間、大胡城主大胡氏の一族である上泉氏によって築かれたと伝えられています。

上泉城二の丸跡に立てられた説明板によれば次の略記が載っています。

「上泉城

戦国時代の赤城南麓地帯は、その大半が大胡領と言われており大胡領は「大胡氏」によって領有されていた。
上泉城は、大胡城の支城として築かれ、一族の「上泉氏」が在城していた。
城域は、東西６００メートル、南北４００メートルに達し、県指定の「郷蔵」付近に、本丸と二の丸の跡が残っている。また、西林寺付近は一の郭玉泉寺付近は出丸跡と推定されている。
中世の末期、剣道史に名を残した上泉伊勢守信綱（かみいずみ・いせのかみ・のぶつな）は永正５年（１５０８）「上泉城」で誕生し、居住していたと伝えられている。
信綱は「新陰流」の祖で日本剣道史上の最高峰として、また「剣聖」ともうたわれ、その名は広く知られている。
新陰流の理と技は、柳生但馬守宗巌（石舟斎）らに伝えられ現在も脈々といきている。　　　　　上泉伊勢守顕彰・生誕５００年実行委員会　」


更に上泉伊勢守について同委員会作成パンフレットには次の通り記載されています。

「『剣聖』と呼ばれた上州人
■新陰流を号す
新陰流の祖、上泉伊勢守は永正５年（１５０８）、上泉城主・武蔵守義綱の二男として生まれた。幼名を源五郎、後に伊勢守秀綱、さらに武蔵守信綱と改名する。

祖先は大胡氏の親戚にあたる京都の一色家、衰亡していた名門大胡家を再興した一色五郎義秀は大胡城を地元の大胡氏に譲り、康正元年（１４５５）、自ら約５キロ西の上泉に城を造り移り住んだ。これが上泉城であり義秀はその後、上泉姓を名乗った。上泉家初代であり伊勢守の曾祖父になる。

伊勢守は１３歳で鹿島に赴き、松本備前守に入門。４年後に『鹿嶋神（傳）流』を伝授され第二世となった。

『中古、念流、新当流またまた院流あり、その外は計るに耐えず、予は諸流の奥源を究め陰流において別に奇妙を抽出して新陰流を号す』と自ら書いている。伊勢守が生み出した新陰流は、載りあいを理論付け体系化したもので、当寺としては画期的なものであった。陰流を誰に学んだかについては何もふれていないが、愛洲伊香斎に学んだとみられており、新陰流の源流は愛洲陰流とされる。

■箕輪城・武田との攻防
当時の上州は北から長尾氏、西から武田、南から北条が進攻していた。藤岡には関東管領上杉氏が約１２０年間在城していたが、勢力の衰退とともに在住の勢力はそれぞれ新興勢力と通じるようになっていった。

伊勢守は公式には平井城の関東管領上杉氏の被官だった。最後の管領だった上杉憲正が越後に移住した後は、上杉方の三輪城主、長野業政と連携をした。その一方で、伊勢守の夫人が小田原北条氏にゆかりがあることから北条方とも連携をとっていた。

長野業政は約７年間の長い間にわたり数度に及ぶ武田勢の進攻を食い止めていた。だが、永禄４年（１５６１）１１月に業政が没すると武田の攻撃は激しさを増し、ついに落城。業政の子業盛は１９歳で自刃し家臣らも後を追った。落城の年代については永禄６年（１５６３）と同９年の二説がある。『箕輪町史』も両論を併記して落城の年代を結論づけていない。

箕輪城の攻防で伊勢守の武勇を知った武田信玄は再三にわたり伊勢守を招請した。しかし伊勢守は信玄の要請を固辞した。新陰流兵法をさらに修行し広めたいという気持ちがあった。同時にまた、武田に仕えれば新規召し抱えになるため、戦いになれば常に最前線で戦わされることも危惧したのではないか。

■『新陰流』弘流の度
伊勢守の武将としての人生はここで終わったが、他家に仕えないことを条件に武田信玄から新陰流弘流の旅に出ることを許された伊勢守は、兵法求道者として京に向けて新たな旅立ちをした。５５、５６歳のころだったと推定されている。伊勢守は伊勢の国国主で太の御所北畠具教卿から、畿内有数の兵法者として大和・柳生の庄の柳生石舟斎宗巌の名前を知る。３日にわたる３度の試合に手もなく敗れた柳生石舟斎は伊勢守に師事。永禄７年（１５６４）、宗厳に請われ、柳生館で新陰流を教えていた伊勢守は嫡子秀胤が討ち死にしたとの報を受けた。いったん柳生谷を離れるが、翌年、再び柳生を訪ね同８年卯月、柳生石舟斎に新陰流を印可相伝、さらに同年８月には宝蔵院胤栄、同１２年には丸目蔵人佐にも院可を与えた。」(一部抜粋）

エリア 前橋(群馬)

• 旅行の満足度: 3.5

• 交通手段: JRローカル 私鉄

上毛電鉄上泉駅

一日乗車券￥１３００を買い求め上毛電鉄中央前橋駅を出発し、４番目の駅「上泉」駅で下車し、剣聖として名高い上泉伊勢守の墓所を訪ねます。

上泉伊勢守墓所石標

上泉駅下車し浪華橋を渡って約１０分、墓所のある西林寺（さいりんじ、群馬県前橋市上泉町）に到着、道路から見る石垣の上に「上泉伊勢守墓所」の石標が見えます。

「剣聖　上泉伊勢守藤原信綱顕彰之碑」石標

墓所の前には顕彰の碑と共に信綱の偉業を語る石碑が建っています。

剣聖上泉信綱公略譜





「　剣聖上泉信綱公略譜

永正５年（１５０８）上泉城主　上泉義綱次男として出生　初名源五郎後伊勢守秀綱更に武蔵守信綱と称す　遠祖は源氏にして一色氏なり　享徳年間一色義秀　足利将軍の命により大胡氏再興のため関東に下向　功なりて後　藤原姓を承けこの地に築城　上泉城主となる　義秀　京兵法諸流の達人なりと伝う　以来義秀　時秀　義綱と伝えて信綱に至る　祖父時秀　父義綱共に上州名代の兵法者として剣名高し　信綱の幼少より兵法　兵術に志厚く加うるに天泉の才あり　修行数年その剣技父祖を凌駕す　更に鹿島に遊学剛勇松本備前に師事して鹿島神伝兵法の奥義を承く　その頂上泉城に来遊せる剣仙あり　愛州移番と称す陰流兵法の始祖なり　名人の位にして技　神に入る　信綱この剣仙に入門　日夜工夫鍛錬ついに尊天の感応を蒙りその？奥を極む 即ち兵法諸流の奥源を採長補短して兵法一流を創始新陰流を号す　その剣理心法深遠にして極めて合理的なり　現代の科学者これを究明　その精妙にして完璧なるに驚嘆す　これ稀有の事というべし　また竹刀を発明これにより武技の進歩従前に倍加す　門に学ぶ者甚だ多し　鹿島の兵法者塚原卜伝　信綱に参じ兵法の必要を得と古書は伝う　上泉信綱の剣名関八州に震う　また戦場を縦横に馳せ勇名高し　世人上野国一本槍としてこれを嘆賞す

永禄六年（１５６３）二月　上泉信綱の与力したる上州の名族長野業盛の陣せる箕輪城悲運にして落城す　即ち信綱浪人となる　敵将武田信玄　三顧の礼をもってこの勇将を己の旗下に参ぜん事を希う　信綱新陰流兵法を天下に出して伝授せしめんためと称してこれに応せず　同年秋高弟疋田　神後の両名と共に？然　生国上州を去って諸州に遊ぶ　入洛するやその剣名　人徳を慕い忽ち上方数百人の弟子集まる
傑出したる者に柳生　宝蔵院　丸目　奥山　松田等あり　後にそれぞれ日本を代表する兵法者与えたる影響甚大なるものあり　偉大なるかな信綱の指導力や将軍足利義輝　信綱らのへ兵法台覧　上泉信綱兵法天下一と激賞せる感状を与う　またこの時代第一級の貴紳にして文化人たる山科言継大納言との交流深し　これ信綱一介の武弁にあらざるの証なり

時の帝正親町天皇　信綱の兵法を天覧あらせられ叡感斜めならず　即日従四位に叙任御前机を賜う　この恩賜の机当寺の秘宝として今なお金色？然として信綱の武勲を永久に伝う　剣人として兵法者としてかかる栄誉古今にその比を見ず

上泉信綱創始の新陰流は和　それも大和の兵法として柳生宗矩らによって徳川三百年の治政に流れ生生脈脈として平成の現代に至る　更に尾張柳生新陰流の正統伝承者柳生延春氏らの懸命の努力により　アメリカ　イギリス　フランスにと弘流の波は拡がる　ある科学者はいう　この上泉信綱兵法をもって来る二十一世紀の政治に対処する所あらんか　確実に世界人類平和の大道につながるべしと

嗚呼　上泉信綱　あの戦国争乱の世に　和の兵法新陰流無殺他生の剣をもって普く天下を往来す　正にこれ神人と言うべし　古来剣の道に名人達人多しといえども　この上泉信綱の右に出ずる者無し　世人この人をして古今無比の剣聖なりと　また宣なるかな

　　　　　平成十年八月吉日　　前橋表町之住人　　戸山流居合道
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　範士　　諸田政治　」
　　　　　　　　　　

上泉伊勢守之墓所全景

墓石

本堂

正式には恵雲山西林寺という漕洞宗の寺院で、天正５年（１５７７）に嫡子秀胤（ひでたね、１５３０～１５６４）の十三回忌法要を行った上泉伊勢守信綱の寄進により開基されたそうです。

（西林寺から北東方向に在る上泉城跡に移動）

二の丸跡

上泉城の二の丸跡は今では上泉町自治会館となっており、その一角には上泉城に関する説明板が立っています。

二の丸跡

上泉伊勢守立像

上泉城説明板

上泉城跡図

城跡図を見れば桃木川（東西）と藤沢川（南北）に囲まれた河岸段丘部に造られた城郭と思われます。

「上泉伊勢守　生誕５００年記念碑」石碑

上泉郷蔵説明

寛政８年（１７９６）、年貢を一時的に貯蔵するために創建された土蔵でこの辺りにかつての上泉城の本丸跡といわれています。