2014/01/25 - 2014/01/25
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ちびのぱぱさん
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大阪から、鈍行を乗り継いで博多まで行ってみようと下関まで来たものの
「関門海峡を歩いて渡る」
というのを思いつき、人道トンネルを抜けて、徒歩で九州に至る。
トンネルの出口を出ると、匂いが変わりました。
九州、の匂いだろうか。
鬱蒼と茂る照葉樹の甘い木の香りがあたりを包み、体の凝りが溶けてゆきます。
- 旅行の満足度
- 4.0
- 交通手段
- JRローカル 徒歩
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関門トンネル人道。
1937年から試掘が開始されましたが、太平洋戦争を挟んで、完成されたのは、なんと21年後の1958年3月9日。
海底部分780m(全体で1km?)のトンネル内には、ウォーキングを楽しむ地元の人たちも、かなり歩いています。
人々の生活にとけ込んでいるんだなあ。
歩いた証のスタンプを、妻が嬉々として押しています。
一種のスタンプマニアです。
わたしは、こういうのには全く興味なし。 -
これで、山口側と福岡側の割り符が完成。
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北九州側のエレベーター口を外に出ると、一瞬戸惑いを覚えました。
まるで山口側に逆戻りしてきたかのように、目の前には同じ海峡、頭上に関門大橋という、先ほどまで見ていた景色と同じに見える。
そういうシンメトリックな光景が現れて、あたまが混乱します。
あたりまえなのかも知れないですが、出口建物も山口側と、まったく同じデザインのよう。
「あれ、もどってきちゃった?」
と、妻がきょろきょろしています。
すでにトリックを見破ったわたしは落ち着いて、
「いや、ちゃんと九州に渡っているよ。」
と、静かに答えます。
たぶん、ここを通った人のかなりの割合で、そのような感覚を抱くのではないだろうか。
いぶかしがる妻をなだめて、
「ほら、あのキッチュなおでん屋さんをごらん。あんなのは、さっきなかったでしょ。」
「そうか……。」
それにしても、入り口の建物があっちとそっくり。
最近、ひさしの部分が赤く塗られたようですが、下関側も同じ色で塗ったから、区別するためでないことは一目瞭然。
ここを設計した人は、どのような意図でこのようなことをしたのか、あるいは何も考えなかったからこうなったのか。 -
「これは、なにかのトリックに使えそうだ。」
と、思いましたが、このおでん屋さんを見て、すぐにその考えは捨てました。
おでん屋さんの中では、四角いナベの中で美味しそうなおでんがぐつぐつ煮え、その湯気の向こうに、年配のご夫婦と一人のおじさんがおしゃべりをしていました。
周囲には、鬱蒼とした木が茂っており、九州に来たのだということを実感します。 -
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再度関門大橋をくぐって、門司港のあると思われる方向に歩き出すと、ほほにぽつりと雨のしずくが。
雨具を持参しておりません。
一週間にもわたる旅程、この日本を雨具なしで歩くというのは、考えてみればうかつな話。
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プロムナードは遙か彼方に伸びて、その先に門司港とおぼしき町並みが見えます。
今まで何とかなってきたから、これからも何とかなる、と言う安易な考えをこの年になるまで直せないのは、致命的と思う。
あそこまで、保つのだろうか。 -
壇ノ浦の合戦で敗れた平家の侍が、この辺りに泳ぎ着き、一杯の水を飲んだという話が伝わっています。
「平家の一杯水」
侍が息絶える前に、一口水を含むと美味しい真水だったが、もう一度口に含むと塩水に変わっていたという、哀れをさそう話です。 -
1キロほど進んで、門司港の市街地の端に達します。
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いよいよ雨脚は強まり、ダウンジャケットのフードから水がしたたって、店屋の軒先で雨宿りをしているかのよう。
この辺り、雨宿りするような施設が見あたりません。
側溝には雨水が勢いよく流れ、これはたまらんと、目の前に現れた「門司港レトロ展望室」なる高層ビルに駆け込む。
外観は、どう見ても「レトロ」ではないのですが。門司港レトロ展望室 名所・史跡
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入場料一人300円。
入り口に、制服のお嬢さんが、びしょ濡れの二人組にとまどいつつも、引きつった笑顔を作り歓迎してくださる。
ここは、ジーンケリーのような笑顔で何とか乗り切る。
われわれも必死です。
なんだったら歌ったっていい。
31階の展望室で、互いの水をタオルで拭き、ようやくひと心地着いて見回すと、なかなか快適そうな空間。 -
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水仙の花がやさしい香りを放っていました。
もう、この辺りは咲いているのだろうか。
札幌には、1mもの雪が積もっているというのに。
それとも、温室ものだろうか。 -
雨にかすむ関門海峡に、霧笛を響かせて船が行き来しています。
霧笛を聞いたのは、何年ぶりだろうか。
浪淘沙(ろうとうさ)
ながくも声をふるはせて
うたうがごとき旅なりしかな
石川啄木の「一握の砂」に収められている詩です。
浪淘沙は、波が砂を洗う様子を差すようですが、今日はこの霧笛がそれのようです。
犬も歩かぬような雨の中を、妻と笑いながら小走りにやってきた、門司港レトロ地区。
旅は道連れ、一人旅でなくて良かった。 -
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先ほど展望室から見た可動橋。
このあたりで、ふたたび雨脚が強まりました。 -
警報音がなって、橋が開くようです。
ちょっと見ていたい気がしますが、雨が強くなってきましたから先を急ぐ。 -
旧税関の建物は、改装工事中なので素通りし、旧大阪商船の前に来ました。
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アインシュタインが宿泊したことで知られる三井倶楽部と隣り合っています。
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ここで一息。
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わたせせいぞうさんの、作品展示会が開かれていました。
おしゃれなイラストをたくさん見ることができました。
北九州で青春時代を送られたということです。 -
おとなりの、三井倶楽部。
ああ、ようやく雨が上がってきた。 -
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アインシュタインが日本を訪れたのは大正11年のことで、ちょうど日本に向かう船の中で、ノーベル賞の受賞を知るという想い出の旅になったようです。
日本各地で、講演会を行ったり観光をしたり。
そして、最後はこの門司港からパレスチナに向かう船「榛名丸」で日本を発つことになっていました。
かの天才物理学者が乗ろうとした船の出発が遅れ、三日の足止めを食っている間に、この三井倶楽部に投宿し、辺りを観光したといいます。
アインシュタイン流にいえば「神はサイコロをふらない」ので、この足止めにも、なにがしかの力が作用したのかも知れません。 -
今から100年ほど前に、ここに泊まった天才物理学者は、時間とか、光とか、そういう美しくも悲しげなものを、あるいは「物」という想像上の現実を、
手品のように壊して見せたのですが、結果として人類を絶滅の危機に追い詰めることになりました。
覗いてはいけない舞台装置の裏を覗いてしまった代償はなんだったのでしょう。
アインシュタインの大正11年のノーベル賞受賞の喜びは、昭和20年に悲しみに変えられてしまったのだなあ、と、広島で見たドームを思い出す。
アインシュタインの晩年は、平和運動に捧げられました。
「ねんねこさっしゃりま〜せ〜。」
どこからともなく美しい歌声が聞こえてきました。 -
ねんねこさっしゃりませ
寝た子の可愛さ
起きて泣く子の ねんころろん
つら憎さ ねんころろん ねんころろん
中国地方の子守歌、と呼ばれているものです。
どこから聞こえるのか、声のする方に。 -
奥のホール。
夕方開かれるコンサートのリハーサルだったのか。
歌声の響く三井倶楽部を出ると、すっかり雨が上がっていました。 -
ちょうど今から100年前、大正3年に開業した二代目の門司港駅舎。
重要文化財ですが、外枠は折しも改装工事中。
内部は独特の存在感を放って、今なお当時の面影をとどめております。
アインシュタインも、この駅に着き、そして門司港から旅立ったのでしょう。 -
中国大陸からの引き揚げ者にとって、玄関口でもありました。
多くの人にとって命からがら戻ってきて、ここで飲む祖国の水はひとしおだったのではないかと、想像します。
誰ともなく「帰り水」と呼ばれるようになったとか。 -
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かつての関門連絡線の船着き場跡。
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この覗き窓から、暗い目が、通行客を監視していたという。
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わたしの持っている大阪博多間のJR乗車券では、門司駅と門司港駅の間は含まれていないですから、別途購入する必要があります。
しかし結果として、下関ー門司駅間はJRに乗らなかったことになりますから、
「もったいないことをしたか。」
と、門司港ー門司間の200円のJR切符を購入しながら、みみっちい考えが頭をよぎるのでした。
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この旅行記へのコメント (2)
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- fuzzさん 2014/04/07 15:25:30
- ジーン・ケリー(´艸`*)
- ひねってますねぇ、
I'm singing in the rain
Just singing in the rain
「雨に唄えば」ですか(*^^)v
あ、多分・・・
手洗い所の鏡に映ってるの
「ちびのぱぱさん」ご本人ですね(#^.^#)
むふふ。
fuzz
- ちびのぱぱさん からの返信 2014/04/07 20:03:55
- RE: ジーン・ケリー(´艸`*)
ほんとうに、ほんぶりの雨になってしまいました。
昨冬の旅の時も暴風雨にみまわれて、コンビニで買ったビニール傘が吹っ飛ばされました。
歌なんか歌っている場合ではないです、ほんとうは。
備えなければ憂いあり……。
転んでからも杖なし……。
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