2009/01/12 - 2009/01/14
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JIC旅行センターさん
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朝食を終えると、地元の運転手のアナトリーさんが迎えに来ました。ヤクーツクから同行している旅行会社スタッフのサルダナさんの説明によると、今日最初の予定は、町長表敬訪問です。
そうです、ヴェルホヤンスクは「町」、すなわちロシア語で「ゴーラド(город)」で、町制が敷かれていましたね(以前の連載参照)。人口わずか1,300人未満だというのに、立派に一個の自治体で、ちゃんと町長さんがいるのです。では、さっそく町庁舎へとまいりましょう。
アナトリーさんの運転するウアズ(ロシア製四輪駆動車)は、10秒ほどのドライブで目的地に着きました。それもそのはず、町庁舎はホテルから3軒目のご近所だったのです。1軒目が学校、3軒目が町庁舎、ちなみに4軒目は郵便局(以前の連載に詳述)です。もう全く、歩いて来てもよかったのですが、「表敬訪問」という言葉には、徒歩では何となく恰好がつかない見栄っ張りなところがあります。それに何よりも、もうアナトリーさんを手持ち無沙汰にするわけにはいかないのです。私達4人(筆者、オオノさん、サルダナさん、アナトリーさん)はいまや分けがたいカンパニヤ(仲間)になったのですから。
町庁舎は一戸建て住宅サイズの平屋の木造建築で、外壁はきれいにペンキが塗られています。中に入ると、数人の女性職員がお仕事中。よく見るとここはロシア貯蓄銀行(スベルバンク)の出張所も兼ねているようです(ただしATMはありません)。私達はそのままずっと奥の部屋に通されました。そこで出迎えて下さった初老の男性は普段着に身を包んだ気さくな雰囲気です。この方こそが、ロシア連邦内の首長の中でもぶっちぎり最少の人口単位を率いる、ヴェルホヤンスク町長、チリコフさん(Чириков, Дмитрий Павлович)でした。
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「どうしてこの町へ来ましたか。」
のっけからチリコフ町長にこう言われて一瞬うろたえてしまいました。この人は、世界一寒い町へようこそ、みたいなつまらぬ歓迎の台詞は一言も口にするつもりはないのです。気に入りました。これこそリーダーの気概というものです。でも、やりにくい。
「世界の寒極へ行きたかったからです。」
初めに牽制されてしまったので、正直にこう答えるのが気恥ずかしくてなりません。だいたい、しゃくではありませんか。どうせそうに違いないと見透かされているのです。それでついつい、こんな言い訳を追加してしまいました。
「日本では、ヴェルホヤンスクは、ただ寒いところ、という一点でのみ、知られています。寒さ以外の情報は何もありません。だから、そこにどんな町があって、どんな人々が、どのように生活しているか、直接見たかったのです。」
すると当然、チリコフ町長はこう聞いてきます。
「それで、ヴェルホヤンスクに実際に来て、どう思いましたか。」
「寒極らしい寒さは残念ながら体験できませんでしたが、文化や教育や人々の生活がこれほど豊かだとは知らなかったので驚きました。」
ああ、我ながら何て月並みな返事。もっと気の利いたことが言えるようになりたい。
「あなたは旅行会社の社員だそうですね。これから日本人の旅行客がヴェルホヤンスクに来るようになると思いますか。」
「なると思います。世界一寒いところ、というだけでも興味を持つ人はいるのです。しかもヴェルホヤンスクはただ寒いだけの町ではありません。そのことは全く知られていませんが、うまく宣伝できれば、実際に来ようという人はきっと増えると思います。」 -
■町長のチリコフさんから証明書をもらう
チリコフさん、私を一介の観光客としてあしらう気はまったくありません。次から次に手加減なしの質問が飛んでくるので、私はもう冷や汗ダラダラ。ロシア語もだんだん怪しくなってきて、見かねたサルダナさんが助け船を出してくれる場面が何度もありました。でも、それほどまでにこの町長は、私達のことを、ヴェルホヤンスクの将来を一緒に考える仲間と真剣にみなしてくれているのです。うれしいじゃないですか。
事実、私は感動したのです。この町の、寒さ以外のあらゆることがすばらしかった。そしてこの町のリーダーの態度にも敬服しました。彼は「寒極」というそれなりの(そして外部から見れば唯一の)ネームバリューにも一切頼ろうとせず、この町の観光資源に価値を見出してもらおうとしています。あ、もしかして昨夜、オーロラのふりをして夢枕に立ったのはチリコフ町長だったのかな。まさかね(笑)。
それでも最後に町長は、「一応」世界一寒い町の代表者らしきサ
ービス精神を発揮しました。きれいな「寒極訪問証明書」を発行してくれたのです。ふんだんに写真が使われていて、旅情たっぷりのデザインに、ロシア語と英語でこう書かれています。
■証明書
2009年1月14日オカモトタケヒロ君は北半球の寒極、ヴェルホヤンスク町を訪れたことを証明する。当地は1892年2月5日から7日にかけて、マイナス67.8℃を記録した。
サハ(ヤクーチア)共和国ヴェルホヤンスク町
ヴェルホヤンスク町長 D. P. チリコフ <署名、スタンプ>
私はこのとき決意を新たにしました。日本に帰ったらきっと、ヴェルホヤンスクをなるべく広く国内に紹介しよう。やるからにはせめて、日本語では世界一詳しい(マニアックな?)水準のヴェルホヤンスク情報を発信しよう。それが、この愛すべき町と、この旅行に協力してくれた方々への私なりの義理の通し方なんだと。そんなわけで、今もだらだら続けているこの連載は、読者のどなたかが、将来いずれサハ共和国やヴェルホヤンスクへの旅行者となってくれることで、報われます!
町長さんとお別れして、とうとう、ヴェルホヤンスクを離れる時が迫っています。それは寒冷地ならではの特殊な道を行く旅になる予定です。そう、覚えておいででしょうか、ここへ来る時は「山の道」を使いましたが、他にも「川の道」があったのを(以前の連載参照)。
では、次回、モノクロに彩られたヤーナ川の上でお会いしましょう。
(つづく)
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