2009/01/12 - 2009/01/14
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JIC旅行センターさん
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【前回までのあらすじ】
この連載も、始めてから丸4年が経ちました。今やほとんどの読者がご存知ないであろう、この旅行記のあらすじを、簡単におさらいしておきましょう。
時は2009年1月のこと、ロシア連邦サハ共和国のヴェルホヤンスクという小さな町に、私たち一行は訪れています。ヴェルホヤンスクは、世界一寒い町のひとつです。どうにかして一度、真冬のこの町へ行ってやろうと飛び出してしまった筆者は、日本の新聞記者さん、現地の旅行会社スタッフ、地元の運転手さんを巻き込んで、旅を続けています。
しかし期待は裏切られっぱなしです。まず、マイナス30℃程度という、世界一には程遠い凡庸な寒さ、もとい暖かさに困惑しました。それから、極限の地には予想外と言うほかない、洗練された文化発信力を見せつけられ、たじろぎました。300人もの子供たちが学ぶ学校、そこで提供されるあまりにも高水準な教育に、ため息が出ました。元気いっぱいの食用馬の群れが暮らす牧場に支えられ、見事に自立した食料供給体制をみて、羨ましく思いました。そうするうちに、自分たちがいつの間にか町中の人から歓迎されていることに気づいて、幸せになりました。そして、ヴェルホヤンスク最後の夜に現れたオーロラ…。オーロラは私に言いました。「お前には本当の寒さだけは体験させてやらないよ。悔しかったらもう一度来なさい。」(以上あらすじ。一部大幅に脚色しています。)
* * *
目を覚ましました。今日は2009年1月15日、ヴェルホヤンスクのホテル「寒極」出迎える最後の朝です。何だか悔しい気持ちで窓の外を見やりました。そう、まだ本当の寒さを経験していないのです。せっかく世界の寒極ヴェルホヤンスクに来たというのに! 時刻は8時台、日は昇っていませんが、十分明るくなっています。階下で人の動く気配がしました。すでに新聞記者のオオノさんは活動を始めているようです。行ってみましょう。
特殊防寒着に身をまとい、フェルトのヴァーレンキを履いて外に出ると、玄関先でオオノさんが温度計を見つめていました。「40℃以下になってますよ。」 急いで私も目盛りを覗き込みます。「本当だ!」 温度計は確かにマイナス44℃を指しているのです。あこがれの50℃台まで、あともうちょっとではないですか。
しかしどうにも、しばらく見つめていても、それより低温になる様子はないのでした。ちなみに皆さんはご存知かもしれませんが念のために言っておきますと、マイナス40℃台というのは一応、それだけでも十分に寒いのです。20分も30分も屋外で温度計を見つめているのはあまり思慮深い行動とは言えませんので、朝食を摂りにホテルへ戻りました。後でもっと寒くなるといいな。
-
では、大変ご無沙汰です。恒例の、そしてこの連載最後の(泣)、メニュー紹介です。
■2009 年1 月15 日の朝食
1. 肉団子の自家製スープ(суп с фрикадельками)
2. ブリヌィ―の肉詰め(блины фаршированные с мясом)
3. ゆでた仔馬肉(мясо жеребятина отварная)
4. 黒パン(хлеб)
5. 紅茶+ミルク(чай с молоком)
6. 紅茶+砂糖(чай с сахалом)
7. コーヒー(кофе)
<お待ちかねのメニュー解説>
1. 透き通ったスープに肉汁がたっぷり溶け込んだ元気のでる一品です。具の肉団子は何の肉か尋ねませんでしたが、おそらくは馬肉です。それは当地で手に入る2種類の肉のうち、ウサギとは明らかに違うから、という消去法で導いた結論です。うまいです。
2. ブリヌィ―は結構有名なロシア料理のひとつなので、ご存知の方も多いことでしょう。ロシア風のクレープです。ただし甘いものばかりではなく、魚やキャビア、イクラなども好んで包んで食べます。今朝のメニューは肉包み。これもおそらくは馬肉です。うまいです。
3. 出ました、肉です。ただひたすらお肉です。お皿に山のように盛られた、仔馬のゆで肉を、お好みで少量塩をつけたりしながらいただきます。これぞヤクート人の主食、最も基本の栄養源です。一般的な日本人の胃袋にはまず食べきれない量がふるまわれます。うまです。
4. ロシア式の黒パンです。ちょっとほっとします。
5. ティーバッグの紅茶か、インスタントコーヒーです。そう言えば、紅茶に入っているミルクは馬の乳なんでしょうか。しまった、聞くのを忘れました。 -
2泊3日お世話になったホテルの食堂には、片隅にずっと馬乳酒のクムィス(ロシア語:КУМЫС ヤクート語:КЫМЫС)が置いてありました。ペットボトルに詰められて、きれいなデザインのラベルが貼ってあります。惜しいことに私はアルコールを摂取すると少々頭の回転が鈍る性質なので、このクムィスには特別の注意を払っていませんでした。しかし、改めてよく観察してぶったまげました。ヴェルホヤンスク製なのです。
ここへ来る前、サハ共和国の首都ヤクーツクでもクムィスを飲みました。ヴェルホヤンスクへ来てからも、学校の儀式でクムィスをいただきました。およそサハ共和国内では、馬を飼い、食しているところにはどこでもクムィスが造られている、との認識で間違いないんだと思います。そしてこれが大都会ヤクーツクなら、ペットボトル入りクムィスが製造されていてもちっとも驚いたりはしません。
でもここは、人口1,300人にも満たないヴェルホヤンスクです。世界一寒い町なのです。そこで醸造されるクムィスはきっと、サマゴン…失礼、どぶろく的な、ラベルも何もない容器に入った妖しげな飲み物であるはずだったんです。だから私は、食堂の片隅にたたずむクムィスを見ても、どうせヤクーツクあたりから購入した大量生産品なんだろうな、なんて勝手に思っていたのです。それがまさかヴェルホヤンスク製だなんて。こんなに小洒落た、使い捨てボトルの商品を世に出す製造業がこの隔絶環境で成立しているだなんて…。ショックで目が回りそうです。だってそうでしょう、このクムィスを安定的に販売するためには、いかに軽量とはいえ、空っぽの新品のペットボトルをはるか遠くから仕入れ続けなければいけないのですから。
類似の例を考えるとき、他地域との隔絶の度合いで比肩しうるものは、私は日本の小笠原諸島くらいしか思いつきません。小笠原諸島の父島では、ラム酒が製造されているのですが、そのボトルは、再使用しないワンウェイびんです。というのも、このラム酒は大半が島外への土産として消費されていくので、再使用できるリターナブルびんを使ったところで、空のボトルが製造元に戻ってくることは、まず期待できないからです。
(他方、沖縄の泡盛は、かなり小規模な離島の醸造所でも、多くはリターナブルびんに詰められています。島内需要が旺盛なので、ボトルがちゃんと循環するのですね。)ただし、父島にはかなり立派な港があることを見落としてはいけません。周囲およそ1,000km前後、外界から隔てられた小笠原であっても、実は大型の船舶で新品のボトルを大量に直接仕入れることができるのです。
ヴェルホヤンスクはどうでしょうか。外界からのアプローチに要する長い長い道のりは、連載初期に触れた通りですね。物流事情はさらに過酷です。どんなルートを駆使しても、この町は立派なインフラなどとは縁がありません。
そんなヴェルホヤンスクで、しかし確かに造られているペットボトル入りクムィス。無駄遣いとも思える労力の影を見てしまうと、気が遠くなりますが、でもおそらく、ヴェルホヤンスクはその程度のことは何とも思っていないのです。きっと大した執念もなく、よし造ろう、と思って造ってるだけなんです。2泊3日の間というもの、物質と都市の概念、距離と空間の感覚、自然と生命の価値観、全てひっくり返すようなことばかり体験させてくれたこの町のことだから、そうとしか考えられないのです。資本主義のコスト意識では決してありえない、かと言って社会主義ソビエト的でもない、もっと別の知性が生み出した、別世界の日常風景がまだまだ底知れず隠されている。何と恐ろしい町でしょう、ここは。
(つづく)
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