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サンクトペテルブルク滞在中の4月中旬、ゲルギエフが3夜連続でコンサートを指揮した。4月13日(土)には上演時間が休憩をいれて5時間を超える大作、ワーグナー最後の楽劇「パルシファル」をコンサート形式で上演、14日(日)は前半にヴェルディ「運命の力」序曲、ワーグナー「ローエングリン」前奏曲、メシアンの組曲、後半にデニス・マツエフをソリストに迎えてチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、というものだ。ちなみに翌日は聴かなかったが、ストラヴィンスキーのペトルーシュカ、メインはマツエフと同じ曲を演奏した。指揮者や演奏者にとってはもちろんであろうが、聴衆にとってさえ相当きついプログラムだった。<br /><br />ゲルギエフのコンサートは例によって20〜30分は開幕が遅れる。この日も例に漏れずギリギリまでリハーサルをしている音が漏れ聞こえてきた。練習不足のまま連日のコンサートを行うゲルギエフに対して批判の声が聞こえてくる。オペラのカーテンコールでブーが聞かれることもあるという。しかし、これだけの低料金で多くの聴衆に第一級の演奏を提供し続けるゲルギエフの活動は、まさに超人的という他ない。私は肯定的に評価していいと思う。<br /><br />サンクトペテルブルクを往復するようになってこの6年間に、ゲルギエフ指揮のワーグナー上演は、「指輪」の4部作と「オランダ人」の5つを観た。しかし今年に入って、彼は「ラインの黄金」と今回の「パルシファル」をコンサート形式で、いずれもマリインスキーコンサートホールで上演した。彼の意図はあきらかである。コンサート上演はオペラと違って、オケはステージ上で衆目の前で緊張を持続しなくてはならない。オケピットでしばしばみられる、ちょっと居眠りなどということは許されない。また歌手陣にとっても、演技にエネルギーを費やすことなく、楽譜を見ながら歌唱に集中することができるため、演奏上の質を高めることができる。先月の「ラインの黄金」に比べても演奏の精度は向上しており、刺激的な打楽器の打撃音などもなく、小振りのコンサートホールでも安心して聴ける。<br /><br />あえて難を言えば、ここの聴衆は少々いただけない。長大なオペラということもあるが、携帯電話や子供の雑音に加え、演奏中にも関わらず席を立って帰ってしまう人も多く、終演時にはステージ裏の座席はガラガラになってしまった。この神聖なるオペラ演奏中に帰ってしまう、などということはドイツや日本ではまずあり得ないと思う。もっともこれだけの演奏をわずか600ルーブル(約1800円)で聴けるのだから、文句を言ってはいけないが。<br /><br />翌日の運命の力も素晴らしい、の一言だ。彼はヴェルディの中でもこの曲を頻繁に演奏しており、急激なテンポや音量の変化にもオケは食らいついていく。ローエングリンも近いうちに上演をするのだろう、完成度の高い演奏だ。マツエフとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は、恐らく現在望みうる最高の組合せと言ってもいいと思う。強烈なピアノタッチと競うがごとく、オケが自由奔放に鳴らすこの演奏には脱帽である。<br /><br />ゲルギエフとは直接会ってお話ししたことがあるが、その存在感は群を抜いている。先日聴いたヤンソンス、メスト、ヤルヴィ、ティーレマン、ナガノなどと共に目の離せない存在であることは間違いない 。<br /><br />なお、長期に渡る工事と、度重なる延期報道にやきもきさせられたが、新マリインスキー劇場が完成した。ホームページによれば本日5月2日がこけら落としとなっている。残念ながら記念すべき日には居合わせることが出来なかったが、次の滞在時にこの新劇場についてご紹介したい。

サンクトペテルブルクの春-2: 雪をも溶かすゲルギエフのパルシファルとチャイコPコン

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2013/04/10 - 2013/04/15

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ハンク

ハンクさん

サンクトペテルブルク滞在中の4月中旬、ゲルギエフが3夜連続でコンサートを指揮した。4月13日(土)には上演時間が休憩をいれて5時間を超える大作、ワーグナー最後の楽劇「パルシファル」をコンサート形式で上演、14日(日)は前半にヴェルディ「運命の力」序曲、ワーグナー「ローエングリン」前奏曲、メシアンの組曲、後半にデニス・マツエフをソリストに迎えてチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、というものだ。ちなみに翌日は聴かなかったが、ストラヴィンスキーのペトルーシュカ、メインはマツエフと同じ曲を演奏した。指揮者や演奏者にとってはもちろんであろうが、聴衆にとってさえ相当きついプログラムだった。

ゲルギエフのコンサートは例によって20〜30分は開幕が遅れる。この日も例に漏れずギリギリまでリハーサルをしている音が漏れ聞こえてきた。練習不足のまま連日のコンサートを行うゲルギエフに対して批判の声が聞こえてくる。オペラのカーテンコールでブーが聞かれることもあるという。しかし、これだけの低料金で多くの聴衆に第一級の演奏を提供し続けるゲルギエフの活動は、まさに超人的という他ない。私は肯定的に評価していいと思う。

サンクトペテルブルクを往復するようになってこの6年間に、ゲルギエフ指揮のワーグナー上演は、「指輪」の4部作と「オランダ人」の5つを観た。しかし今年に入って、彼は「ラインの黄金」と今回の「パルシファル」をコンサート形式で、いずれもマリインスキーコンサートホールで上演した。彼の意図はあきらかである。コンサート上演はオペラと違って、オケはステージ上で衆目の前で緊張を持続しなくてはならない。オケピットでしばしばみられる、ちょっと居眠りなどということは許されない。また歌手陣にとっても、演技にエネルギーを費やすことなく、楽譜を見ながら歌唱に集中することができるため、演奏上の質を高めることができる。先月の「ラインの黄金」に比べても演奏の精度は向上しており、刺激的な打楽器の打撃音などもなく、小振りのコンサートホールでも安心して聴ける。

あえて難を言えば、ここの聴衆は少々いただけない。長大なオペラということもあるが、携帯電話や子供の雑音に加え、演奏中にも関わらず席を立って帰ってしまう人も多く、終演時にはステージ裏の座席はガラガラになってしまった。この神聖なるオペラ演奏中に帰ってしまう、などということはドイツや日本ではまずあり得ないと思う。もっともこれだけの演奏をわずか600ルーブル(約1800円)で聴けるのだから、文句を言ってはいけないが。

翌日の運命の力も素晴らしい、の一言だ。彼はヴェルディの中でもこの曲を頻繁に演奏しており、急激なテンポや音量の変化にもオケは食らいついていく。ローエングリンも近いうちに上演をするのだろう、完成度の高い演奏だ。マツエフとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は、恐らく現在望みうる最高の組合せと言ってもいいと思う。強烈なピアノタッチと競うがごとく、オケが自由奔放に鳴らすこの演奏には脱帽である。

ゲルギエフとは直接会ってお話ししたことがあるが、その存在感は群を抜いている。先日聴いたヤンソンス、メスト、ヤルヴィ、ティーレマン、ナガノなどと共に目の離せない存在であることは間違いない 。

なお、長期に渡る工事と、度重なる延期報道にやきもきさせられたが、新マリインスキー劇場が完成した。ホームページによれば本日5月2日がこけら落としとなっている。残念ながら記念すべき日には居合わせることが出来なかったが、次の滞在時にこの新劇場についてご紹介したい。

旅行の満足度
5.0
観光
5.0
ホテル
4.0
グルメ
4.0
交通
4.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
30万円 - 50万円
交通手段
高速・路線バス タクシー 徒歩 飛行機
航空会社
ANA
旅行の手配内容
個別手配

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  • 古い歴史的建物を改造して建設されたマリインスキーコンサートホールのファサード、工事中の仮設壁が未だ取り外されていない

    古い歴史的建物を改造して建設されたマリインスキーコンサートホールのファサード、工事中の仮設壁が未だ取り外されていない

  • ロビーで開演を待つ聴衆

    ロビーで開演を待つ聴衆

  • 第1幕のカーテンコール

    第1幕のカーテンコール

  • 第2幕のカーテンコール

    第2幕のカーテンコール

  • 第3幕のカーテンコールで花束を受け取るソリストたち

    第3幕のカーテンコールで花束を受け取るソリストたち

  • 第3幕のカーテンコールで花束を受け取るゲルギエフ

    第3幕のカーテンコールで花束を受け取るゲルギエフ

  • 第3幕のカーテンコールのスタンディングオベーション

    第3幕のカーテンコールのスタンディングオベーション

  • 若き頃のゲルギエフ、髪がフサフサだ

    若き頃のゲルギエフ、髪がフサフサだ

  • この日からは国際ピアノフェスティバルが開幕、今日は初日

    この日からは国際ピアノフェスティバルが開幕、今日は初日

  • この演奏会は完売であったが、運良く連れが来れなくなった紳士から700ルーブルのチケットをこの値段で譲ってくれた。バックサイドの指揮者がよく見える席だ。

    この演奏会は完売であったが、運良く連れが来れなくなった紳士から700ルーブルのチケットをこの値段で譲ってくれた。バックサイドの指揮者がよく見える席だ。

  • 聴衆の喝采を受けるゲルギエフ、この席からはゲルギエフの動きをよく観察できる

    聴衆の喝采を受けるゲルギエフ、この席からはゲルギエフの動きをよく観察できる

  • 聴衆の喝采を受けるゲルギエフ

    聴衆の喝采を受けるゲルギエフ

  • チャイコフスキーピアノ協奏曲第1番演奏後のマツエフを讃えるゲルギエフ

    チャイコフスキーピアノ協奏曲第1番演奏後のマツエフを讃えるゲルギエフ

  • 花束を受け取る両雄

    花束を受け取る両雄

  • 完成間近のマリインスキー新劇場のファサード

    完成間近のマリインスキー新劇場のファサード

  • 完成間近のマリインスキー新劇場のファサード

    完成間近のマリインスキー新劇場のファサード

  • 運河を挟んで旧劇場と隣接する完成間近のマリインスキー新劇場

    運河を挟んで旧劇場と隣接する完成間近のマリインスキー新劇場

  • 旧劇場と隣接する完成間近のマリインスキー新劇場

    旧劇場と隣接する完成間近のマリインスキー新劇場

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