2013/03/27 - 2013/04/10
768位(同エリア1810件中)
ハンクさん
小雪が舞い運河も凍結したままの3月31日、フィルハーモニアは暑い熱気に包まれた。今回のサンクトペテルブルク滞在のハイライト、今最も旬なマエストロであるマリス・ヤンソンスが手兵バイエルン放送交響楽団を引き連れてフィルハーモニーホールで、言わば凱旋公演を行った。この日は多数のテレビカメラが至る所に設置され、チケットを手に入れようとする人々でごった返しており、普段とは雰囲気が違っていた。
チケットの入手のため、当日知人と共に30分前に窓口に並んだ。残券の値段は昨年のムーティ・シカゴ交響楽団と同等で、5000〜7000ルーブル (1ルーブル=約3円)、この町では例外的に高い。運良く数枚の1000ルーブルの立見席の残券があり、こちらを選んだ。このホールの1階席は平土間で、オケを見渡すことはできないが、立見席は2階の中央から全体を眺めることができる。2時間の立ち見はきついが、奏者たちをつぶさに観察できてこの選択は正解であった。
マリス・ヤンソンスについては、昨年11月のミュンヘンのヘルクレスザールでベートーヴェン7番などの演奏会についての旅行記に書いた。繰り返しになるが、2006年と昨年のウィーンフィルのニューイヤーコンサートの指揮台に登場している、現代最高の指揮者の一人である。ラトヴィア出身で、父親はレニングラードフィルで活躍したアルヴィド・ヤンソンス、ムラヴィンスキーのアシスタントを務め、テミルカーノフとは師弟関係にあり、ゲルギエフの先輩にあたる。カラヤンコンクール2位入賞で脚光を浴び、独露の誇る巨匠たちの伝統を引き継いだ古典的な演奏スタイルに、彼の独自のモダンな感性を加えた現代人にアピールする稀有のカリスマ性を持つ。痩身で身のこなしも軽く、とても70歳を迎えているとは信じられない。
この日は、ベートーヴェンの第5交響曲とベルリオーズの幻想交響曲、彼の意気込みを示す豪華なプログラムである。日本でベートーヴェンチクルスを開催したばかり、あえて第5を据えドイツの伝統の響きを披露した。演奏スタイルは極めて正統的で小細工はない。楽譜に書いてあることだけを正確に演奏しながら、これだけの説得力を持っているのは、的確なテンポ設定と微妙な揺れ、弦楽器の絶妙なバランスの上に随所に浮かび上がる木管楽器、圧倒的な金管打楽器のパワーのなせる技であろう。
かたやフランス音楽の傑作である幻想交響曲、1830年の作品で、1808年初演のベートーヴェンの第5とは20数年しか離れていない。この時代にこれほどロマン的な表題交響曲を生み出していたことに驚かされる。当然ベートーヴェンとは異なった演奏スタイルが必要で、テンポもバランスも時には極端な誇張が不可欠だ。ヤンソンスは自信を持って、自分のスタイルの幻想交響曲を堂々と表現し、聴衆に圧倒的な感動をもたらした。鳴り止まない手拍子に応え、ハイドンとショスタコーヴィッチの2曲のアンコールが演奏された。
話は変わるが、4月2日にはこの町の第2のオケ、アカデミー交響楽団が首席のドミトリエフと、ベートーヴェンピアノ協奏曲第4番、チャイコフスキーの交響曲第4番を演奏した。第1のオケに比べ、パワーと繊細な表現力では開きがあるとは言え、特にチャイコフスキーやショスタコーヴィッチを演奏させれば日本のどのオケよりもうまい。まずは安心して聴ける演奏だ。
また、4月7日には井上道義さんがこのオケの指揮台に立ち、ファミリーコンサートとしてチャイコフスキーのロメジュリ、フランチェスカ・ダ・リミニ、ストラヴィンスキーの組曲火の鳥などを演奏した。井上さんとはアマチュアオケ時代から付き合いがあり、ユニークな指揮ぶりは変わりがない。演奏だけを聴くと非常にオーソドックスであるが、指揮台で踊ったり大袈裟な仕草は、巨匠たちが毎晩のように登場するこの町ではやはり違和感がある。ロシアでも、極東の面白い指揮者、と受け取る人は少なくないのではないか。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 4.5
- ホテル
- 4.5
- グルメ
- 4.5
- ショッピング
- 4.0
- 交通
- 4.5
- 同行者
- 一人旅
- 一人あたり費用
- 25万円 - 30万円
- 交通手段
- タクシー 徒歩 飛行機
- 航空会社
- ANA
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
イチオシ
フィルハーモニーホールの前にある芸術家広場のプーシキン像
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フィルハーモニーホールの前にはテレビ局のバスが多数停車し、いつもとは違う雰囲気だ
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2階の立ち見席の横のテレビカメラ
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終演後喝采に答えるヤンソンス
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スタンディングオベーションに応えるヤンソンス
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花束を受け取るヤンソンス
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楽屋でヤンソンスに会うため並ぶ人々
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マエストロ マリス・ヤンソンス、70歳とは思えない若々しさ
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ドミトリエフ指揮サンクトペテルブルクアカデミー交響楽団
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ベートーヴェンピアノ協奏曲4番を演奏したスペインのピアニスト イリアン・ロドリゲス
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喝采に応えるドミトリエフとアカデミーオケ
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喝采に応えるドミトリエフとアカデミーオケ
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喝采に応える井上道義とアカデミーオケ
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花束を受け取る井上道義
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楽屋の井上道義と日本企業で作る商工会の皆さん
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ヴァイオリニストの神尾真由子と井上道義
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この旅行記へのコメント (3)
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- tadさん 2013/04/17 23:43:06
- ヤンソンスとバイエルン放送響
- このコンビ、ロンドンで一昨年聞きました。内田光子がベートーヴェンの協奏曲3番をひき、オケは英雄の生涯でした。ヤンソンスはコンセルトヘボウとの演奏会も2回きき、ピッツバーグとの演奏会も2回聞いているのですが、どうも、私と相性が悪いのか、、、鳴らしすぎの印象が残っています。最初のピッツバーグとの出会いが悪かったのかもしれません。やたら、鳴らすうるさい音で辟易したので、どうもそのイメージが残っているようです。ただ、彼のショスタコーヴィチ全集のCDは好きです。
- ハンクさん からの返信 2013/04/19 01:38:17
- RE: ヤンソンスとバイエルン放送響
- なるほど、鳴らし過ぎる、という印象はありました。ピッツバーグもコンセルトヘボウも聴かれているとのことですので、的確な印象かもしれません。小生もピッツバーグで始めて聴いた時はまさに同感でした。このオケは鳴らし過ぎることで有名ですし、ブロムシュテットの時もマゼールの時もそうでした。しかしヤンソンスのコンセルトヘボウをパリで聴いた時はそのような印象はなく、楽団員の自発性を尊重しているという好感を持ちました。昨年11月にミュンヘンで、今年のサンクトペテルブルクでのBRSOの演奏会は、過去の巨匠と比肩できる円熟の境地に到達している、と感じました。確かに贔屓目に見過ぎているかもしれませんね、、、、。
- tadさん からの返信 2013/04/19 08:42:17
- RE: ヤンソンスとバイエルン放送響
ピッツバーグの印象が非常に悪かったので、私も尾を引いているのかもしれませんが、あのころは、褒められたものではありませんでした。2回連続聞いたので、その印象が強かったのです。ただ、バイエルンと内田の時は、英雄の生涯はそう思いましたが、ベートーヴェンの時は相性の問題だと思いました。内田はおおきくうねるところがありますが、ヤンソンスはぶっきらぼーといった感じでした。協奏曲は難しいですね。NHKが放送したビデオで、ヤンソンスとバイエルンのベートヴェン全曲は、鳴らしすぎという感じは弱まったとは思いますが、一部聞いただけで、全部はまだ聞いていません。また聞いてみます。ただ、彼が若い時、レニングラード・フィルと日本でやったショスタコーヴィチの5番は当時、最高の名演だと思いました。何度も聞いたものです。ショスタコーヴィチの力強さ、あの熱っぽさを最高に表現していたと思います。それで、もしかしたらドイツものが、苦手?と感じる時もあります。だから、ショスタコーヴィチのCD全集は大事なコレクションです。
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