エクメネの最果てへ　―サハ共和国　冬の旅―　（２８）

2009/01/12 - 2009/01/14

　オーロラ！エキゾチックですね。オーロラ！かっこいいですね。オーロラ！憧れますね。

　とうとうヴェルホヤンスクにオーロラが出ました。話の盛り上がりの都合上、今まで黙っていましたが、実はここ、オーロラが出る町なのです。

　みなさん、オーロラがどうして現れるかご存知ですか。もしかして、オーロラは寒いから出てくるんだ、なんて思っていませんか。オーロラはですね、太陽の磁気と地球の磁気がバッチリの条件で出会ったところに、なんやかんやの作用が働いて現れるのです。

　…今ちょっとごまかしましたが、ともかく、オーロラの出現と気温は関係がないんですね。私が訪れている北半球の寒極(の一つ)、ヴェルホヤンスクにはオーロラが出ますが、それはここが寒い町だから、ではありません。

　オーロラ帯というものをご存知でしょうか。オーロラ帯とは地磁気極を中心とした半径2,500kmくらいのドーナツ状の地帯で、まさにこの辺りの上空が、地球で最もオーロラの現れやすいところ、とされています。なぜかと言えば、それは先ほどの磁気のなんやかんやの加減でそうなっているので、メカニズムを深く知りたい方は調べてみてください。ともかく、オーロラ帯上空では、なんと年間200日ほどもオーロラが出るって言われているんです。単純な話、2晩以上滞在すれば、1回くらいはオーロラが見られることになります。

エリア その他の都市(ロシア)

　日本人相手の、よくあるオーロラ観賞ツアーは、フィンランドとかカナダとかアラスカだとかを行き先にして販売されていますが、あれはみんなオーロラ帯にあるんですね。確かに全部寒いところですが、それは、たまたまです。

　さっき、オーロラ帯は地磁気極を中心としたドーナツ状と言いました。地磁気極は、地球を巨大な磁石とみたときの極の位置であって、地球の自転軸の極点とは一致していません。どこにあるかというと、カナダの北部です。ということは、北米大陸であれば比較的低緯度でもオーロラが観察しやすいわけです。一方、その裏側にあたるユーラシア大陸では、かなり高緯度でないと、オーロラが出現する条件はよくならない、ということになります。実際、カナダの名所イエローナイフは北緯62度ですが、ノルウェーのトロムソになると北緯69度と、だいぶ北になります。

　ヴェルホヤンスクの位置する東経133度付近ではオーロラ帯は北緯70度から80度付近にあるようです。ヴェルホヤンスクは北緯67度にある町なので、オーロラ帯からは結構南に外れています。だから年間200日は無理ですが、でも一週間くらい待っていれば、いっぺんくらいはオーロラが出現しないこともない。ヴェルホヤンスクは、まあそんな感じの位置です。

　ふー、そろそろ前置きもやめにしましょう。前回の連載で、私たちは一般家庭に招かれて夕食をいただいていたところです。途中、オオノさんが外のお手洗いに出かけたら空が光っていることに気がついたのでした。

　発光の正体を確かめようと、私とサルダナさんも外に出てみました。そうしたら出ていたのです、北の空に長々と。それは紛れもない、緑色をした帯状の、静かなオーロラでした。

　でもちょっと、出ている位置が低いですね。周囲の家並が視界を遮っています。もっとよく見えるところはないかと周囲を見やれば、好都合なことに、住宅の裏手が広大な細長い空き地になっています。後で気付いたのですが、ここはヤーナ川の旧河道に無数にある河跡湖のひとつでした。凍結した湖面に薄く雪が被って、空き地のように見えていたのです。どこかで聞いたような話…と思った方は鋭い！ヴェルホヤンスクのど真ん中にある「バイカル湖」と同じ地形です(以前の連載参照)。

　湖面に降りてみました。広い空、暗い大地、私たちはその隙間にもぐり込んできました。なかなかいい環境。オーロラは相変わらず、北の方角の低いところに、のびのびと横たわっています。よーく見ていると、だんだん光が強くなってきました。形もちょっとずつ変わっています。

　オーロラは、天球を走るんです。それもいきなり、思い切って離れたところへサラサラっと。一度これを見てしまったら、オーロラはあなたの心に住みつきます。オーロラの魅力の大部分は、光ることよりも、その動きにあるのです。

　ヴェルホヤンスクはちょっとオーロラ帯から離れているせいか、オーロラが真上まで来ません。心なしか、動きものんびりしている気がします。もっと大胆な動きが見たいなあ。

（つづく）