【函館建築散歩】元町周辺の歴史的建造物

2012/09/01 - 2012/09/08

函館の元町とその周辺は多くの歴史的建造物がひしめいており、異国情緒を感じさせる空間となっています。

その大部分は明治40年の函館の大火の後で建てられたものであり、そのため建築年代も比較的似通っていることも、味のある雰囲気を出すのに一役買っているのかもしれません。

このエリアにはカトリック元町教会や函館ハリストス正教会など、超有名な教会堂のほか、旧函館区公会堂のような函館を代表する歴史的建築などもありますが、ここではそれら以外の建築を簡単に概観してみたいと思います。


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エリア 函館(北海道)

• 同行者: 友人
• 交通手段: 自家用車
• 旅行の手配内容: 個別手配

旧函館博物館一号館。

これは現在の市立函館博物館の近くにある、明治12年に開場した博物館の建物です。開拓使函館支庁が建てたもので、北海道で発掘された考古資料やアイヌ民族資料、動植物などを展示する博物館でした。

博物館というものが、市民に対する教育機関であるにとどまらず、研究機関であるとすると、この博物館も開拓のための技術開発や開拓後の産業振興などのために北海道を研究していた機関だったように思われます。

建築的にはアメリカから導入された「下見板張り」の壁面と石造の洋風建築の様式と同じような縦長の「上げ下げ窓」などは洋風の要素ですが、屋根は瓦葺で和風になっているのが面白いです。



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旧函館博物館一号館。

正面の車受けの上部には、開拓使のマークである五陵星があります。

柱頭の装飾は雰囲気的には洋風ですが、アカンサスなどの様式化されたものではないようです。まだ洋風建築が本格的に導入される前のものだからでしょうか？


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旧函館博物館二号館。

こちらは一号館の隣にあり、明治17年に博物館として建てられたものです。開拓使廃止後に設置された函館県が建てたものです。

現存する建築としては数少ない明治初期の洋風建築で、文化的な意義も大きな建物です。


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旧函館博物館二号館。

二号館も下見板張りの壁と縦長の上げ下げ窓を持っている点では一号館と共通ですが、入口の装飾などは一号館とは異なっています。アーチ型のデザインを採用したり、柱頭の装飾を植物文様にしている点のほか、壁面にも水平方向に植物柄の装飾を施すなど、洋風建築の装飾的な要素がより一層多く導入されています。

こうしたことから当時の技術者（建築家）は、5年間という短い期間にも多くの要素を吸収していったことが見て取れるように思われます。（ちなみに、辰野金吾ら工部大学校の造家学科の一期生が卒業したのは明治12年であり、ちょうど一号館が建てられた年にあたります。）

なお、屋根は元々は杉厚柾葺屋根でしたが、現在はトタン屋根に変えられています。


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遺愛幼稚園。

明治28年に創立された遺愛女学校に併設された幼稚園。ここも明治40年の大火で建物が焼けてしまいましたが、大正2年に再建されたものです。

下見板張りの壁と上げ下げ窓はアメリカの木造建築の様式で北海道の木造洋風建築に典型的なスタイルですが、入口付近のポルティコは正面がガラス張りになっており、かなりモダンなデザインという印象です。建物だけで見ると立派で堅い感じがしますが、白とピンクの組合せとなっている壁からは幼稚園らしい可愛らしさが感じられます。

この幼稚園を含む遺愛学院の起源は、アメリカの宣教師M.C.ハリスが明治7年に函館に来た際に始めたDay school（付近の子女を集めて教育を行った）に求められます。なお、ハリスは、同じ元町にある日本基督教団函館教会をも創始した人物で、内村鑑三や新渡戸稲造などに洗礼を施した人物でもあります。


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旧北海道庁函館支庁庁舎。

旧函館区公会堂のすぐ下に広がる元町公園内にある明治42年（1909年）竣工の木造洋風建築です。現在は1階が観光案内所となっており、函館とその周辺の地域の地図や観光案内のパンフレットなどを配布しており、2階は「写真歴史館」という博物館として公開されています。

函館はアメリカのペリー来航を契機として日本で最初の開港場の一つとなったため、欧米の風俗や文化の流入も他の地域より早かったのですが、幕末から明治初期に函館に写真やカメラが入ってきたということは、そうした文化流入を象徴していると言えるでしょう。

歴史的建造物としてこの建物を見ると、まずファサード中央のギリシア神殿風のコリント式の柱頭装飾と中央に膨らみを持つ柱とそれに支えられた屋根、三角形の破風などが目に付きます。こうした要素は18世紀から20世紀初めころまで欧米でも公的機関の権威ある建物などでよく使われているように思います。

下見板張りと上げ下げ窓は明治の北海道の木造建築の多くに見られる一般的なものですが、屋根の上にドーマー窓があることには少し注目しておきたいです。明治末頃の日本の洋風建築では多くの建物にこのドーマー窓が採用されているからです。そうだとすると、この建物も当時の日本の洋風建築の流行を取り入れていると言えるでしょう。


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元町公園の片隅にある赤レンガ造の建物は、1880（明治13）年に建造された旧開拓使函館支庁書籍庫です。

外壁はフランス積み煉瓦壁で、外部の四隅には隅石が組まれています。屋根は桟瓦葺で小屋組は杵束式木造トラスです。


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旧相馬邸。

幕末から明治にかけて活躍した豪商・相馬哲平の邸宅で、元町公園のすぐ近隣にあります。相馬哲平は1861年に越後から函館に渡り、箱館戦争の際にコメの騰貴を見越して旧幕府軍と新政府軍の両方に米を売りつけるなどして巨万の富を得ていた商人（後に鰊漁にも投資）で、そうした富を旧函館区公会堂の建設の際に多額の寄付をしたことでも知られています。

この邸宅も明治40年の大火の後、明治41年に建てられたもので、建坪205坪、敷地面積570坪の和洋折衷の歴史的建造物です。北海道では、明治末から昭和初期に建てられた豪邸のほとんどが和洋折衷のスタイルで建てられていますが、ここもその点は同じです。

玄関の車寄せは和風ですが、そこに隣接する部分は明らかに洋室となっています。洋室部分の外側の装飾が美しいほか、内部もヴィクトリアン・スタイルの暖炉など様々な見どころがあります。残念ながら内部は撮影禁止だったため、写真では紹介できませんが…。

ここ数年の間に公開が開始されたばかりの比較的新しい観光スポットですが、一見の価値はあります。



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旧イギリス領事館。

イギリス領事館は函館が開港した1859年に設置されました。建物は何度か火災で焼失していますが、現在の建物は1907年（明治7年）の大火での焼失後、1913年（大正2年）にイギリス政府工務省上海工事局の設計によって竣工したものです。領事館としては1934年（昭和2年）に閉鎖していますが、1992（平成4）年に復元され、以後は開港記念館として公開されており、中にはカフェなどもあります。

煉瓦造で外壁に漆喰を塗った耐火建築で、様式的にはコロニアル・スタイルの建築とされていますが、東南アジアなどにあるコロニアル・スタイルの建築とは異なりバルコニーはありません。瓦屋根や石垣など和風のデザインも取り入れられた和洋折衷の建築です。


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旧イギリス領事館。

第3代領事リチャード・ユースデンが使用していた当時を再現した執務室。この建物は元町公園のすぐ向かいにあり、海が渡せるところにあります。台湾の淡水や高雄（打狗）の英国領事館も同じように水辺が見える高台にあり、それらとも共通している立地条件であると思いました。


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旧イギリス領事館。

暖炉やお茶（紅茶）などいかにもイギリスっぽい感じです。


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明治40年の大火（図は市立函館博物館の資料）。

函館の歴史的建造物のほとんどが明治40年以後のものであることについては既に別の個所でも折に触れて書いてきましたが、その原因となっているのが「明治40年の大火」です。

元町やベイエリアに残る歴史的建造物も、明治大正期に建てられたものはほとんどがこの火災で焼けた建物に代わって建てられたものであり、建てられた年もかなり似通っているのは、この火災により同時に焼けたという事情が深く関わっています。

この地図の赤の斜線部分が明治40年の大火で被害を受けた範囲です。左側が函館山のある方で上方の海は現在の金森倉庫などが面しているところです。こうして見ると、いかに火災が大きかったかわかりますね。


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