2009/01/12 - 2009/01/14
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JIC旅行センターさん
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読者のみなさま、本連載はこれで丸3年を迎えました。応援してくださっている方にも、そうでない方にも、ひとしくお礼申し上げます。長らくのお付き合いありがとうございます。
時は2009年1月上旬、私たち一行はいま、世界で最も寒い町のひとつ、ヴェルホヤンスクを訪れ、そこから北に少しドライブに出ているところです。一行とはすなわち、
熟練ドライバー アナトリーさん
達人牧場経営者 ニコライさん
有能現地旅行会社スタッフ サルダナさん
敏腕新聞記者 オオノさん
筆者 オカモト
の5名のことでしたね。では、ここから前回の続きを書き進めましょうか。
アナトリーさんの運転するウアズは、突然、疎林の中で立ち往生してしまいました。ここはどこでしょう。ヴェルホヤンスクからの方角と距離くらいは大体わかりますが、さて、いざとなったら歩いて帰れるかしら。でも、途中で暗くなっちゃうのもいやだなあ…。さっき昇ったばかりの太陽は、もう傾きかけています。沈むのはもうすぐのはず。そんな状況下でも、熟練ドライバーのアナトリーさんはさすがです。慌てず騒がず、悠々とウアズのボンネットを開けに降りて行きました。
静かです。さっきまで強力なエンジン付きの船に乗って大海へぐいぐい切り込んでいたのに、動力を失った途端、周囲の空間が一変しました。それはただ広いばかりの水面に、はしけでじーっと浮き続けているような、安らかで、美しくて、恐ろしい世界です。
アナトリーさんは、外でしばらくごそごそやっていましたが、案外とすぐに戻ってきました。そしてエンジンがかかります。お見事!
「ウアズはすぐ故障するけど、すぐ直せるんだ。これは大事なことだよ。もし冬道で故障が修理できなかったら…フショー(それまで)。」アナトリーさんはそう言ってニヤリとしました。フショーとはロシア語で、「全部」とか「以上」というくらいの意味ですが、生命を全うすることまでも、こんなふうにフショーで片づけてしまうと、どうも怖さや緊張感が全然なくなってしまうような気がします。逃れられない運命にいちいち身構えるのがアホらしくなってくるというか、むしろあっけらかんとして小気味良いくらいです。そうか、死ぬって簡単なことなのかもしれない…。
こんな考えに取り憑かれると、名誉ある死とか、恥多き人生とか一切どうでもよくなるので危険です。ロシア語話者はきっと、本来は深い苦悩と絶望を抱えるあまり、悟りの境地でこのフショーを会得したに違いない、と思うことにしましょう。
-
そうそう、アナトリーさんの言葉には続きがあって、「だから、我々はウアズかトヨタしか乗らない。簡単に直せる車か、絶対に故障しない車のどっちかだ。」ですって。ちょっとトヨタ、すごくないですか?いやかなりすごいですって!
ウアズは無事に疎林を脱し、何事もなかったようにもう一度ボロヌークの集落を通り抜けて、凍結したヤーナ川を渡っています。ヴェルホヤンスクはもうすぐです。
サルダナさんが「町でどこか行ってみたいところはありませんか。」と訊ねてきました。ちょうど、2箇所ほど、立ち寄りたいと思っていたところがあったので、リクエストするとすんなりOKしてもらえました。後ほど向かうことにしましょう。
ヴェルホヤンスクの町並みにさしかかってすぐ、ここまで案内をしてくれた牧場経営者のニコライさんの家がありました。ニコライさんとはここでお別れです。おや、辺りはもうほとんど暗くなっているではないですか。あけぼのと黄昏をいっぺんに持ってきて、すぐに去っていった今年最初のヴェルホヤンスクの太陽さん、また明日。そしてニコライさんも、さようなら。貴重な体験をありがとうございました。
さーて、私がサルダナさんにリクエストした行き先の1箇所目は、商店です。何といってもここは、世界で最も寒い町ヴェルホヤンスク、ここでは生活消費財がどのように供給されているのか、大いに興味をそそりますよね。だから連れて行ってもらうことにしたのです。 -
商店はニコライさんの家からすぐのところでした。周囲の家並みと溶け込む、一戸建て住宅サイズの木造建築です。
店舗の中に入ると、広くはないスペースに食料品から医薬品、生活雑貨まで幅広く網羅した商品群が目に飛び込んできます。その品揃えの無節操なことと言ったら、小さいものは小麦粉から、大きいものは陶製の洋式便器まで置いてあるくらいです。ジャンル問わず何でも売るけど、ただ、さすがに物量は豊富ではないようです。値段も都市部より高い。
店番は、この町ではちょっと珍しい、ロシア系の顔立ちのお姉さんが一人でこなしていました。ちょっと質問してみましょう。
「ここの商品はどこから運ばれてくるのですか。」
「ヤクーツクよ。」
「飛行機で?」
「違うわ、トラックよ。」
「トラック!ということは、ジムニックを走ってくるのですね。」
「そうよ。」
ジムニックというのは、冬道のことです。このヴェルホヤンスクは、ヤクーツク方面とつながる道路がなく、陸の孤島のようになっている、と以前に書きましたね。確かに「一年中つながる道路」はないのですが、冬は事情が違ってきます。橋のない川も、タイヤを飲み込む湿地帯も、寒さが全てを凍結させ、強固な路面に変えてくれるのです。おかげで、北部ユーラシアの広大な領域には、冬の間だけ使える道、ジムニックが縦横に出現するのです。
「ヴェルホヤンスクにつながるジムニックは、どこを通っているのですか。バタガイ経由ですか?」
「知らないわ。私は通ったことがないもの。でも多分、ヤーナ川の上流方向だと思う。バタガイを経由しないで、直接届くのよ。」
惜しむらくはこのお姉さんが、もう少し物流に詳しい人だったらよかったのですが、それでも十分、面白い話が聞けました。ひとつも買い物しない冷やかし客としては、これ以上を望むのは欲張りというものです。
何かちょっとくらい買い物するべきなんじゃないか、という迷いもあったのですが、せっかく遠路はるばる最終消費地まで届いた商品を、数日滞在するだけの旅行者が買い取ってしまっていいのだろうか、と考えたとき、それもできない気がしました。例え些細なものでも、全部命がけでとどいた物資なのです。さっきのウアズの故障体験で身にしみましたね。値段が高いのも当然なんです。
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