サンクトペテルブルク旅行記(ブログ) 一覧に戻る
4月19~28日の今年3回目のサンクトペテルブルク滞在中に3つの注目すべきコンサートに出かけた。<br /><br />国際都市サンクトペテルブルクであるから、外来のオーケストラが訪れても驚くことではないが、ムーティ/シカゴ交響楽団となるとかなりレアケースであると言える。これはアメリカ大使館、ロシア連邦文化省、外務省の主催の”American Seasons”の行事の一環で、シカゴ響のモスクワでの2回、サンクトペテルブルクでの1回の初のロシアツアーが実現した。ここサンクトでは4月21日に、ロシアの作曲家ドミトリー・スミルノフの「スペース・オデュッセイ」、R.シュトラウスの「死と変容」、メインはフランクの交響曲である。モスクワではこれに先立って19日に同じプログラムと18日にショスタコーヴィッチ交響曲第5番をメインとする演奏会が開催されている。チケットはさすがに例外的に高く、3,000~10,000ルーブル(1ルーブル=2.8円)で、私はインターネットで4,000ルーブルの席を購入、他のコンサートとは客層もかなり違っていた。(ただしインターネットはロシア語のみ)<br /><br />シカゴ響はアメリカ滞在中に本拠地で何度も聴いた。当時はショルティ引退後で、首席はバレンボイム、ブーレーズ、ハイティンクが頻繁にやってきた。世界でも指折りの演奏能力を誇る超多忙なスーパーオーケストラである。しいて難を言えば、近年改良がされたが、シカゴのオーケストラホールはステージの上部がドーム型で狭く、お世辞にも素晴らしい音響とは言えないホールである。それに比較し、ここサンクトのシューボックスのホールはステージの上が広々として演奏しやすかったのではないかと思う。<br /><br />バレンボイムの後を引き継いだのはリッカルド・ムーティ。スマートで若々しい指揮姿からは、1941年生まれですでに70歳を超えているとはとても信じられない(楽屋で間近で見ると年は隠せないが)。2005年にスカラ座を辞任して以来、ラブコールに応え、2010年シカゴに就任した。彼はフィラデルフィアで12年活躍したが、ドイツ好みの市民には、その成果に賛否両論があった。私は2006年に、ヒューストンでウィーンフィルのアメリカツアーを聴いた。この時はモーツァルトの交響曲と「死と変容」をメインとするプログラム、ムーティはツアーでもあまり大曲をメインとする事が少ない。ちなみにサンクトでのアンコールはヒューストンと同じ「運命の力」序曲、「死と変容」とともに重要レパートリーとしているのだろう。<br /><br />なおメインがフランクの交響曲というのも意外であり、シカゴ響の性能を前面に出す曲ではない。シカゴの持ち歌であるバルトークかR.シュトラウス、またはマーラーかブルックナーを聴きたかった。この翌日にゲルギエフが「英雄の生涯」を振っただけに尚更である。もちろん、「死と変容」もフランクもかつて聴いたことのない完成度で超名演、スタンディングオベーションが何度も続いた。<br /><br />R.シュトラウスで競演することになったゲルギエフ/マリインスキー歌劇場管弦楽団の翌日の演奏会は、ルービンシュタインの「アントニーとクレオパトラ」、プロコフィエフの交響曲第4番、そして「英雄の生涯」というプログラムであった。「英雄の生涯」は過去にカラヤン/ベルリン、ハイティンク/ドレスデン、サヴァリッシュ/ハンブルクという最高峰の演奏を聴いているだけに、比較を楽しみにしていた。なおチケットはインターネットで1,000ルーブルの席を購入した(マリインスキー劇場の方は英語もあり容易である)。<br /><br />ゲルギエフは開始時間がいつも遅くなるが、直前までリハーサルをしているためだと言われる。5月25日~7月15日は白夜祭が開催され、ほぼ毎日ゲルギエフの名が連なる(ダブルヘッダーもある)が、ほとんど音合せのみのリハーサルしかしていないのだろう。この日の「英雄の生涯」は少なくとも3ヶ所、アンサンブルの乱れが発生した。随所にゲルギエフらしい個性が発揮された演奏であったが、上記3つの超名演と同列の比較をすることは難しい。彼の課題を浮き彫りにした演奏会であった。<br /><br />少々長くなるが、4月25日にはイタリアの誇るイ・ムジチ合奏団の「四季」他を聞いた。チケットは1,000ルーブル、3日前に窓口で購入した。このフィルハーモニーでは国際室内楽フェスティバルという企画が続いており、地元サンクトフィル以外にもベルリンフィルやウィーンフィルの室内楽団が訪れており、贅沢極まりない。イ・ムジチの四季と言えば、日本では長年ベストセラーを争っている組合せである。私もフェリックス・アーヨのソロのCDを愛聴している。<br /><br />コンサートマスターは最近就任したアントニオ・アンセルミ、若返ったメンバーの演奏はアーヨの歴史的録音とはまったく違うアプローチで驚かされた。装飾音の多用、リズム音形も自由に変えており、12人全員がソロヴァイオリンに合わせて激しく自在にテンポを揺らす演奏はさすがである。古楽風、と呼んでいいのかわからないが、ヴィヴラートをあまりかけない奏法で、昔の録音とは同じ団体とは思えない。サンクトの聴衆もスタンディングオベーションで歓迎し、3回もアンコールが演奏され最高に盛り上がった。

音楽都市サンクトペテルブルク③:ムーティ/シカゴ響、ゲルギエフ/MTSO、イ・ムジチを聴く

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2012/04/19 - 2012/04/21

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ハンク

ハンクさん

4月19~28日の今年3回目のサンクトペテルブルク滞在中に3つの注目すべきコンサートに出かけた。

国際都市サンクトペテルブルクであるから、外来のオーケストラが訪れても驚くことではないが、ムーティ/シカゴ交響楽団となるとかなりレアケースであると言える。これはアメリカ大使館、ロシア連邦文化省、外務省の主催の”American Seasons”の行事の一環で、シカゴ響のモスクワでの2回、サンクトペテルブルクでの1回の初のロシアツアーが実現した。ここサンクトでは4月21日に、ロシアの作曲家ドミトリー・スミルノフの「スペース・オデュッセイ」、R.シュトラウスの「死と変容」、メインはフランクの交響曲である。モスクワではこれに先立って19日に同じプログラムと18日にショスタコーヴィッチ交響曲第5番をメインとする演奏会が開催されている。チケットはさすがに例外的に高く、3,000~10,000ルーブル(1ルーブル=2.8円)で、私はインターネットで4,000ルーブルの席を購入、他のコンサートとは客層もかなり違っていた。(ただしインターネットはロシア語のみ)

シカゴ響はアメリカ滞在中に本拠地で何度も聴いた。当時はショルティ引退後で、首席はバレンボイム、ブーレーズ、ハイティンクが頻繁にやってきた。世界でも指折りの演奏能力を誇る超多忙なスーパーオーケストラである。しいて難を言えば、近年改良がされたが、シカゴのオーケストラホールはステージの上部がドーム型で狭く、お世辞にも素晴らしい音響とは言えないホールである。それに比較し、ここサンクトのシューボックスのホールはステージの上が広々として演奏しやすかったのではないかと思う。

バレンボイムの後を引き継いだのはリッカルド・ムーティ。スマートで若々しい指揮姿からは、1941年生まれですでに70歳を超えているとはとても信じられない(楽屋で間近で見ると年は隠せないが)。2005年にスカラ座を辞任して以来、ラブコールに応え、2010年シカゴに就任した。彼はフィラデルフィアで12年活躍したが、ドイツ好みの市民には、その成果に賛否両論があった。私は2006年に、ヒューストンでウィーンフィルのアメリカツアーを聴いた。この時はモーツァルトの交響曲と「死と変容」をメインとするプログラム、ムーティはツアーでもあまり大曲をメインとする事が少ない。ちなみにサンクトでのアンコールはヒューストンと同じ「運命の力」序曲、「死と変容」とともに重要レパートリーとしているのだろう。

なおメインがフランクの交響曲というのも意外であり、シカゴ響の性能を前面に出す曲ではない。シカゴの持ち歌であるバルトークかR.シュトラウス、またはマーラーかブルックナーを聴きたかった。この翌日にゲルギエフが「英雄の生涯」を振っただけに尚更である。もちろん、「死と変容」もフランクもかつて聴いたことのない完成度で超名演、スタンディングオベーションが何度も続いた。

R.シュトラウスで競演することになったゲルギエフ/マリインスキー歌劇場管弦楽団の翌日の演奏会は、ルービンシュタインの「アントニーとクレオパトラ」、プロコフィエフの交響曲第4番、そして「英雄の生涯」というプログラムであった。「英雄の生涯」は過去にカラヤン/ベルリン、ハイティンク/ドレスデン、サヴァリッシュ/ハンブルクという最高峰の演奏を聴いているだけに、比較を楽しみにしていた。なおチケットはインターネットで1,000ルーブルの席を購入した(マリインスキー劇場の方は英語もあり容易である)。

ゲルギエフは開始時間がいつも遅くなるが、直前までリハーサルをしているためだと言われる。5月25日~7月15日は白夜祭が開催され、ほぼ毎日ゲルギエフの名が連なる(ダブルヘッダーもある)が、ほとんど音合せのみのリハーサルしかしていないのだろう。この日の「英雄の生涯」は少なくとも3ヶ所、アンサンブルの乱れが発生した。随所にゲルギエフらしい個性が発揮された演奏であったが、上記3つの超名演と同列の比較をすることは難しい。彼の課題を浮き彫りにした演奏会であった。

少々長くなるが、4月25日にはイタリアの誇るイ・ムジチ合奏団の「四季」他を聞いた。チケットは1,000ルーブル、3日前に窓口で購入した。このフィルハーモニーでは国際室内楽フェスティバルという企画が続いており、地元サンクトフィル以外にもベルリンフィルやウィーンフィルの室内楽団が訪れており、贅沢極まりない。イ・ムジチの四季と言えば、日本では長年ベストセラーを争っている組合せである。私もフェリックス・アーヨのソロのCDを愛聴している。

コンサートマスターは最近就任したアントニオ・アンセルミ、若返ったメンバーの演奏はアーヨの歴史的録音とはまったく違うアプローチで驚かされた。装飾音の多用、リズム音形も自由に変えており、12人全員がソロヴァイオリンに合わせて激しく自在にテンポを揺らす演奏はさすがである。古楽風、と呼んでいいのかわからないが、ヴィヴラートをあまりかけない奏法で、昔の録音とは同じ団体とは思えない。サンクトの聴衆もスタンディングオベーションで歓迎し、3回もアンコールが演奏され最高に盛り上がった。

旅行の満足度
5.0
観光
5.0
ホテル
4.5
グルメ
4.0
ショッピング
4.0
交通
4.5
一人あたり費用
30万円 - 50万円
交通手段
タクシー 徒歩 飛行機
航空会社
フィンランド航空
旅行の手配内容
個別手配

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  • フィルハーモニーホールに面する芸術家広場のプーシキン像とロシア博物館

    フィルハーモニーホールに面する芸術家広場のプーシキン像とロシア博物館

  • フィルハーモニーホールの外観

    フィルハーモニーホールの外観

  • フィルハーモニーホールの向いにあるホテル・ヨーロッパ、チャイコフスキーなど著名人も滞在した名門

    フィルハーモニーホールの向いにあるホテル・ヨーロッパ、チャイコフスキーなど著名人も滞在した名門

  • フィルハーモニーホールチケット売り場横にある巨匠ムラヴィンスキーのレリーフ

    フィルハーモニーホールチケット売り場横にある巨匠ムラヴィンスキーのレリーフ

  • フィルハーモニーホール内のショスタコーヴィッチの胸像

    フィルハーモニーホール内のショスタコーヴィッチの胸像

  • フィルハーモニーホール内のショスタコーヴィッチ像

    フィルハーモニーホール内のショスタコーヴィッチ像

  • フィルハーモニーホールで開演を待つシカゴ交響楽団

    フィルハーモニーホールで開演を待つシカゴ交響楽団

  • 喝采を浴びるリッカルド・ムーティとシカゴ交響楽団

    喝采を浴びるリッカルド・ムーティとシカゴ交響楽団

  • 喝采を浴びるリッカルド・ムーティとシカゴ交響楽団

    喝采を浴びるリッカルド・ムーティとシカゴ交響楽団

  • 楽屋のリッカルド・ムーティ

    楽屋のリッカルド・ムーティ

  • フィルハーモニーホールのイ・ムジチ合奏団

    フィルハーモニーホールのイ・ムジチ合奏団

  • マリインスキーコンサートホールのクルト・マズアの巨大な看板

    マリインスキーコンサートホールのクルト・マズアの巨大な看板

  • マリインスキーコンサートホールの全景

    マリインスキーコンサートホールの全景

  • マリインスキーコンサートホールのステージ

    マリインスキーコンサートホールのステージ

  • 喝采を浴びるゲルギエフとマリインスキー歌劇場管弦楽団

    喝采を浴びるゲルギエフとマリインスキー歌劇場管弦楽団

  • 喝采を浴びるゲルギエフとマリインスキー歌劇場管弦楽団

    喝采を浴びるゲルギエフとマリインスキー歌劇場管弦楽団

  • マリインスキー歌劇場の内部

    マリインスキー歌劇場の内部

  • マリインスキー歌劇場の「イーゴリ公」のダッタン人の踊り

    マリインスキー歌劇場の「イーゴリ公」のダッタン人の踊り

  • 建物の詳細が見えてきた建設中の新マリインスキー歌劇場

    建物の詳細が見えてきた建設中の新マリインスキー歌劇場

  • 建物の詳細が見えてきた建設中の新マリインスキー歌劇場

    建物の詳細が見えてきた建設中の新マリインスキー歌劇場

  • マリインスキー歌劇場前のグリンカ像

    マリインスキー歌劇場前のグリンカ像

  • マリインスキー歌劇場に近いニコライ大聖堂の鐘楼

    マリインスキー歌劇場に近いニコライ大聖堂の鐘楼

  • マリインスキー歌劇場に近いニコライ大聖堂

    マリインスキー歌劇場に近いニコライ大聖堂

  • マリインスキー歌劇場に近いニコライ大聖堂の内部

    マリインスキー歌劇場に近いニコライ大聖堂の内部

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