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サンクトペテルブルクと言えば、ウィーンと並ぶ音楽の聖地、私にとっては、幻の指揮者と言われたエウゲニー・ムラヴィンスキーが、当時はレニングラードフィルハーモニーと呼ばれていたオーケストラと栄光の時代を築いた憧れの町、そしてそのムラヴィンスキーを引き継いだのがユーリ・テミルカーノフである。<br /><br />テミルカーノフ(74)と言えば現代最高の指揮者の一人、そして名前こそ変わったが、サンクトペテルブルクフィルハーモニーはもちろんロシア最高、世界でも屈指の優秀なオーケストラだ。そのリハーサルを聴く機会に恵まれた。しかも演奏されたのは、この地で生まれ育った作曲家ショスタコーヴィッチの傑作交響曲第7番「レニングラード」。この組合せでリハーサルを聴く、という稀有な体験を持つことができた。<br /><br />19日の本番のプログラムはブラームスのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリンソロはベルギー国籍ロシア人のボリス・ベルキン氏)、メインは現代ロシアの誇る作曲家ショスタコーヴィッチの交響曲第5番「革命」である。以前に旅行記でご紹介したように、このオケのコントラバス首席奏者のアルテム・チルコフ氏と同じ飛行機に乗り合わせて以来、この町を訪れるたびに演奏会にご招待いただいている。18日(日)は朝11時からテミルカーノフの指揮のリハにお誘いいただいたので、疲労がたまってはいたが寝ているわけにはいかない。<br /><br />11時に少し遅れてテミルカーノフは登場し、何やら小声で弦の首席奏者と会話を交わした後、棒を振り始めた(彼はいつも小声で、練習時にも決して声を荒げるようなことはない)。当然ショスタコーヴィッチの第5番の冒頭の二短調のテーマが鳴り始めると思っていたが、鳴り出したのは交響曲第7番「レニングラード」!一瞬耳を疑ってしまった。しかもその音響の素晴らしいこと。リハとは言え、何度も繰り返し演奏している曲のはずである。テミルカーノフはほとんど止めることはせず、淡々と進めていく。ところどころ難所は、両手と顔の合図で、楽員に指示を思い出させるようにサインを出すだけだ。しかし、なぜ「レニングラード」を?<br /><br />後からアルテムに聞いてわかった。彼らはこの明後日から約3週間、アラブ首長国連邦、イギリス、ロシア国内の3週間の演奏旅行に出るという。この演奏旅行で演奏する中で最も大曲で、難曲である「レニングラード」の完成度を高めておこう、という訳だ。指揮者の本領が発揮されるのは本番よりもリハである。「二流の指揮者は自分が興奮する、一流の指揮者は自分は冷静でオケを興奮させる、そして超一流の指揮者は自分もオケも興奮せず聴衆を興奮させる」、と聞いたことがある。テミルカーノフはまさに超一流、冷静な演奏から聴衆の、とてつもない興奮を引き出す現代最高のマエストロの一人である。<br /><br />翌日19日の本番は完璧な演奏、と思いきやブラームスの方はトランペットが、ショスタコーヴィッチの方はホルンが少々出が合わず、テミルカーノフににらまれていた。しかしこれこそ本番、圧倒的な説得力をもつ名演であった。特に我が親友アルテム率いるコントラバスパートはすべての楽器の底から床を伝わって響いてくる。オーボエやクラリネットの美しい音色もホールの音響の良さもあって、言葉では表現できない感動をもたらす演奏会であった。<br /><br />演奏会終了後は楽屋でテミルカーノフにご挨拶して記念撮影、その後アルテム、ニコライとともにホールにほど近いアート・カフェに出かける。彼らは明日アブダビへ向けて出発することもあり、夕食は軽くすませることに。ここは著名な音楽家たちが訪れ壁に落書きをしており、テミルカーフのサイン入りの似顔絵もあった。そしてお開きの記念撮影、充実感に満たされた1日が終わった。

音楽都市サンクトペテルブルク②:フィルハーモニーでテミルカーノフのリハーサルを聴く

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2012/03/18 - 2012/03/19

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ハンク

ハンクさん

サンクトペテルブルクと言えば、ウィーンと並ぶ音楽の聖地、私にとっては、幻の指揮者と言われたエウゲニー・ムラヴィンスキーが、当時はレニングラードフィルハーモニーと呼ばれていたオーケストラと栄光の時代を築いた憧れの町、そしてそのムラヴィンスキーを引き継いだのがユーリ・テミルカーノフである。

テミルカーノフ(74)と言えば現代最高の指揮者の一人、そして名前こそ変わったが、サンクトペテルブルクフィルハーモニーはもちろんロシア最高、世界でも屈指の優秀なオーケストラだ。そのリハーサルを聴く機会に恵まれた。しかも演奏されたのは、この地で生まれ育った作曲家ショスタコーヴィッチの傑作交響曲第7番「レニングラード」。この組合せでリハーサルを聴く、という稀有な体験を持つことができた。

19日の本番のプログラムはブラームスのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリンソロはベルギー国籍ロシア人のボリス・ベルキン氏)、メインは現代ロシアの誇る作曲家ショスタコーヴィッチの交響曲第5番「革命」である。以前に旅行記でご紹介したように、このオケのコントラバス首席奏者のアルテム・チルコフ氏と同じ飛行機に乗り合わせて以来、この町を訪れるたびに演奏会にご招待いただいている。18日(日)は朝11時からテミルカーノフの指揮のリハにお誘いいただいたので、疲労がたまってはいたが寝ているわけにはいかない。

11時に少し遅れてテミルカーノフは登場し、何やら小声で弦の首席奏者と会話を交わした後、棒を振り始めた(彼はいつも小声で、練習時にも決して声を荒げるようなことはない)。当然ショスタコーヴィッチの第5番の冒頭の二短調のテーマが鳴り始めると思っていたが、鳴り出したのは交響曲第7番「レニングラード」!一瞬耳を疑ってしまった。しかもその音響の素晴らしいこと。リハとは言え、何度も繰り返し演奏している曲のはずである。テミルカーノフはほとんど止めることはせず、淡々と進めていく。ところどころ難所は、両手と顔の合図で、楽員に指示を思い出させるようにサインを出すだけだ。しかし、なぜ「レニングラード」を?

後からアルテムに聞いてわかった。彼らはこの明後日から約3週間、アラブ首長国連邦、イギリス、ロシア国内の3週間の演奏旅行に出るという。この演奏旅行で演奏する中で最も大曲で、難曲である「レニングラード」の完成度を高めておこう、という訳だ。指揮者の本領が発揮されるのは本番よりもリハである。「二流の指揮者は自分が興奮する、一流の指揮者は自分は冷静でオケを興奮させる、そして超一流の指揮者は自分もオケも興奮せず聴衆を興奮させる」、と聞いたことがある。テミルカーノフはまさに超一流、冷静な演奏から聴衆の、とてつもない興奮を引き出す現代最高のマエストロの一人である。

翌日19日の本番は完璧な演奏、と思いきやブラームスの方はトランペットが、ショスタコーヴィッチの方はホルンが少々出が合わず、テミルカーノフににらまれていた。しかしこれこそ本番、圧倒的な説得力をもつ名演であった。特に我が親友アルテム率いるコントラバスパートはすべての楽器の底から床を伝わって響いてくる。オーボエやクラリネットの美しい音色もホールの音響の良さもあって、言葉では表現できない感動をもたらす演奏会であった。

演奏会終了後は楽屋でテミルカーノフにご挨拶して記念撮影、その後アルテム、ニコライとともにホールにほど近いアート・カフェに出かける。彼らは明日アブダビへ向けて出発することもあり、夕食は軽くすませることに。ここは著名な音楽家たちが訪れ壁に落書きをしており、テミルカーフのサイン入りの似顔絵もあった。そしてお開きの記念撮影、充実感に満たされた1日が終わった。

同行者
一人旅
一人あたり費用
30万円 - 50万円
交通手段
タクシー 徒歩 飛行機
航空会社
フィンランド航空
旅行の手配内容
個別手配

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  • サンクトペテルブルクのフィルハーモニーホールの外観

    サンクトペテルブルクのフィルハーモニーホールの外観

  • 芸術家広場のプーシキン像

    イチオシ

    芸術家広場のプーシキン像

  • フィルハーモニーホールのステージ

    フィルハーモニーホールのステージ

  • ショスタコーヴィッチ交響曲第7番のリハーサル

    ショスタコーヴィッチ交響曲第7番のリハーサル

  • ショスタコーヴィッチ交響曲第7番を指揮するマエストロ テミルカーノフ

    ショスタコーヴィッチ交響曲第7番を指揮するマエストロ テミルカーノフ

  • ショスタコーヴィッチ交響曲第7番を指揮するマエストロ テミルカーノフ、右横に見えるのがチェロのニコライ氏

    ショスタコーヴィッチ交響曲第7番を指揮するマエストロ テミルカーノフ、右横に見えるのがチェロのニコライ氏

  • ショスタコーヴィッチ交響曲第7番を指揮するマエストロ テミルカーノフ

    ショスタコーヴィッチ交響曲第7番を指揮するマエストロ テミルカーノフ

  • ショスタコーヴィッチ交響曲第7番を指揮するマエストロ テミルカーノフ

    ショスタコーヴィッチ交響曲第7番を指揮するマエストロ テミルカーノフ

  • ショスタコーヴィッチ交響曲第7番のリハーサル、コントラバス首席のアルテム・チルコフ氏

    ショスタコーヴィッチ交響曲第7番のリハーサル、コントラバス首席のアルテム・チルコフ氏

  • ブラームスのヴァイオリン協奏曲のリハーサル、ヴァイオリン独奏はボリス・ベルキン氏

    ブラームスのヴァイオリン協奏曲のリハーサル、ヴァイオリン独奏はボリス・ベルキン氏

  • サンクトペテルブルクフィルハーモニーのコントラバス

    サンクトペテルブルクフィルハーモニーのコントラバス

  • アルテム・チルコフ氏のコントラバス

    アルテム・チルコフ氏のコントラバス

  • ピアノの上に置かれたヴァイオリン

    ピアノの上に置かれたヴァイオリン

  • ピアノの上に置かれたチェロ

    ピアノの上に置かれたチェロ

  • マエストロ テミルカーノフと記念撮影

    マエストロ テミルカーノフと記念撮影

  • 演奏会終了後に訪れたアート・カフェ

    演奏会終了後に訪れたアート・カフェ

  • アート・カフェのテミルカーノフ氏のサイン入り落書き

    アート・カフェのテミルカーノフ氏のサイン入り落書き

  • アート・カフェを訪れた芸術家たちの落書き

    アート・カフェを訪れた芸術家たちの落書き

  • アート・カフェを訪れた芸術家たちの落書き

    アート・カフェを訪れた芸術家たちの落書き

  • フィルハーモニーのアルテム氏、ニコライ氏達と記念撮影

    フィルハーモニーのアルテム氏、ニコライ氏達と記念撮影

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