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 馬、馬、ウマですよウマ!…すみません冒頭から取り乱してしまいました。皆さんは馬と聞いたら何を想像なさいますか。日高の牧場でしょうか、ロバのパン屋でしょうか、服部緑地の乗馬センターでしょうか。それとも松風ですか、黒王号ですか。ん、仁川?府中?まあ、趣味は人それぞれであります。<br /><br /> いずれにしても、日本人にとって、馬は乗用や牽引用の動物として真っ先に思い浮かぶのが普通ではないでしょうか。しかしヤクート人にとっては違います。馬といえば栄養源なのです。それはもう、もりもり食べます。というか主食です、馬は。エキゾチックでしょ。<br /><br /> およそ食べ物のことほど、誰にも明解なカルチャーショックを喚起するものもないでしょう。日本人は食事全般をごく自然に「ごはん」と呼びますね。メシにしよう、と言ったその口でスパゲティを食べても平然としています。それほどまでに、我々の食卓は根本からコメ(=飯)を心柱にしていて、あまりにも完成しきっているので、ほかの食品の付け入る隙は全くありません。主食ってすごい!<br /><br /> ヤクート人にとって、このコメに相当するところにがっつり住みついているのが馬なんです。もっとも、彼らが食事全般を「馬」とまで呼んでいるかどうかは知りません。

エクメネの最果てへ ―サハ共和国 冬の旅― (22)

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2009/01/12 - 2009/01/14

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 馬、馬、ウマですよウマ!…すみません冒頭から取り乱してしまいました。皆さんは馬と聞いたら何を想像なさいますか。日高の牧場でしょうか、ロバのパン屋でしょうか、服部緑地の乗馬センターでしょうか。それとも松風ですか、黒王号ですか。ん、仁川?府中?まあ、趣味は人それぞれであります。

 いずれにしても、日本人にとって、馬は乗用や牽引用の動物として真っ先に思い浮かぶのが普通ではないでしょうか。しかしヤクート人にとっては違います。馬といえば栄養源なのです。それはもう、もりもり食べます。というか主食です、馬は。エキゾチックでしょ。

 およそ食べ物のことほど、誰にも明解なカルチャーショックを喚起するものもないでしょう。日本人は食事全般をごく自然に「ごはん」と呼びますね。メシにしよう、と言ったその口でスパゲティを食べても平然としています。それほどまでに、我々の食卓は根本からコメ(=飯)を心柱にしていて、あまりにも完成しきっているので、ほかの食品の付け入る隙は全くありません。主食ってすごい!

 ヤクート人にとって、このコメに相当するところにがっつり住みついているのが馬なんです。もっとも、彼らが食事全般を「馬」とまで呼んでいるかどうかは知りません。

  •  さて、私たち一行は、ヴェルホヤンスクの町から凍ったヤーナ川を車で渡ってボロヌークにやって来たところですが(連載第9回参照)、実はドライブの本当の目的地はさらに先にある牧場なのです。ヤクート人のお腹を充たし、心を満たす食べ物の生産現場の最前線を、とくと見せてもらいましょう。<br /><br /> 熟練ドライバー、アナトリーさんの運転するウアズ(УАЗ)は、ボロヌークを抜けると変な路面を走り始めました。何となく道のようで、あまり道らしくない、はっきりしない轍です。おそらくは冬にだけ使える自由なルートなのでしょう。どう舵を切れば、どこへ行けるのか、全てはアナトリーさん次第です。夏はどうなっているのでしょうか。<br /><br />この辺りの衛星写真をよーく見ると、地面が奇妙な多角形のパターンをなしていることに気づきます。これは構造土といって、地面が凍ったり融けたりしているうちに地表面に規則的な凹凸が生じた地形です。何か思い出しませんか、凍ったり融けたりしてできる地形といえば…そう、構造土は周氷河地形(連載第5回参照)の一種なんですね。今は雪が被っていて見えませんが、夏ならばこの構造土の風景が見事に広がっているはずです。<br /><br /> 車は疎林に突入しました。相変わらず、道なのかどうかよくわからない、怪しい路面ですが、気にせずぐいぐい走ります。さすがウアズ、踏破性能にかけては世界的に評価の高い四輪駆動車だけのことはあります。ふと、林の中、達人ニコライさんの合図で車が停まりました。全員、車を降りて藪の中へと案内されます。牧場へ行く前に何か見せてくれるようです。<br /><br /> それは罠でした。(と書くと何やら意味深ですが、)ウサギ捕り用の罠です。仕組みは単純で、1本の丸太をシーソーのように用います。丸太の支点を偏らせておいて、軽い方の一端には針金の輪っかをつけます。その一端を地面近くまで引き寄せて、外れやすいようにほかの木にひっかけます。これだけ。

     さて、私たち一行は、ヴェルホヤンスクの町から凍ったヤーナ川を車で渡ってボロヌークにやって来たところですが(連載第9回参照)、実はドライブの本当の目的地はさらに先にある牧場なのです。ヤクート人のお腹を充たし、心を満たす食べ物の生産現場の最前線を、とくと見せてもらいましょう。

     熟練ドライバー、アナトリーさんの運転するウアズ(УАЗ)は、ボロヌークを抜けると変な路面を走り始めました。何となく道のようで、あまり道らしくない、はっきりしない轍です。おそらくは冬にだけ使える自由なルートなのでしょう。どう舵を切れば、どこへ行けるのか、全てはアナトリーさん次第です。夏はどうなっているのでしょうか。

    この辺りの衛星写真をよーく見ると、地面が奇妙な多角形のパターンをなしていることに気づきます。これは構造土といって、地面が凍ったり融けたりしているうちに地表面に規則的な凹凸が生じた地形です。何か思い出しませんか、凍ったり融けたりしてできる地形といえば…そう、構造土は周氷河地形(連載第5回参照)の一種なんですね。今は雪が被っていて見えませんが、夏ならばこの構造土の風景が見事に広がっているはずです。

     車は疎林に突入しました。相変わらず、道なのかどうかよくわからない、怪しい路面ですが、気にせずぐいぐい走ります。さすがウアズ、踏破性能にかけては世界的に評価の高い四輪駆動車だけのことはあります。ふと、林の中、達人ニコライさんの合図で車が停まりました。全員、車を降りて藪の中へと案内されます。牧場へ行く前に何か見せてくれるようです。

     それは罠でした。(と書くと何やら意味深ですが、)ウサギ捕り用の罠です。仕組みは単純で、1本の丸太をシーソーのように用います。丸太の支点を偏らせておいて、軽い方の一端には針金の輪っかをつけます。その一端を地面近くまで引き寄せて、外れやすいようにほかの木にひっかけます。これだけ。

  •  針金の輪っかにウサギの脚がかかると、丸太が外れてシーソーのバランスが戻り、一方で針金はキリキリ締まり、あわれなウサギはあえなく宙吊りとなります。やがて絶命したウサギは、その場であっという間に冷凍肉に。なるほどー、よくできています。でも、そんなにうまくいくんでしょうか。ニコライさんの説明を聞いているうちに、私の頭の中にはだんだん「待ちぼうけ」のメロディが流れてきて水を差すんですが。だってこれ、歌にある「兎ぶつかれ木の根っこ」、の構図そのものですよ?<br /><br /> ニコライさんによると、ここはウサギの通り道なので大丈夫、獲物はちゃんとかかるそうです。確かに1羽2羽くらいなら、わかります。ホテルの食事にもウサギ料理がありましたしね。でも、同じ道を使い続けて捕まってしまうほど、ウサギも間抜けじゃないような気がしますけど。ほら、罠の横を素通りした足跡があちこちに…。しかし、本当にウサギは間抜けなのでした。後になって、私は自分の浅はかさを決定的に思い知ることとなります。<br /><br /> 疎林を抜けると、大きく視界が開けました。なだらかな丘陵を遠景に、薄く雪をかぶった地面が漠と広がっています。これが牧場です。車を降りると、数頭の馬が立っているのが目に飛び込んできました。初めて見る、ヤクート馬の姿です。馬たちは皆、何やら口をもぐもぐさせています。雪の下の草をほじくって食べているのです。それにしてもどうですか、このまんまるに太った短足の肉体は。彼らを正面から見ると、その特異さがさらに際立ちます。およそ馬とは思えない、コッペパンのようにつぶれた幅広の胴体の断面形!食べるための馬とは、こういうものなのか…。<br /><br /> 遠くから馬に乗った人影が一騎、近づいてきました。馬上の人はニコライさんの息子さんです。おや、乗用の馬は見た目が違いますね。ちょっとスマートです。まあ、ヤクート馬である以上、ずんぐり短足なのはもうDNAで決まっていることみたいですけど。それにしても周りの異様にまるっこい馬達は、やっぱり食用という、それなりの意図でもって太らされた結果なのでしょう。<br /><br /><つづく><br />

     針金の輪っかにウサギの脚がかかると、丸太が外れてシーソーのバランスが戻り、一方で針金はキリキリ締まり、あわれなウサギはあえなく宙吊りとなります。やがて絶命したウサギは、その場であっという間に冷凍肉に。なるほどー、よくできています。でも、そんなにうまくいくんでしょうか。ニコライさんの説明を聞いているうちに、私の頭の中にはだんだん「待ちぼうけ」のメロディが流れてきて水を差すんですが。だってこれ、歌にある「兎ぶつかれ木の根っこ」、の構図そのものですよ?

     ニコライさんによると、ここはウサギの通り道なので大丈夫、獲物はちゃんとかかるそうです。確かに1羽2羽くらいなら、わかります。ホテルの食事にもウサギ料理がありましたしね。でも、同じ道を使い続けて捕まってしまうほど、ウサギも間抜けじゃないような気がしますけど。ほら、罠の横を素通りした足跡があちこちに…。しかし、本当にウサギは間抜けなのでした。後になって、私は自分の浅はかさを決定的に思い知ることとなります。

     疎林を抜けると、大きく視界が開けました。なだらかな丘陵を遠景に、薄く雪をかぶった地面が漠と広がっています。これが牧場です。車を降りると、数頭の馬が立っているのが目に飛び込んできました。初めて見る、ヤクート馬の姿です。馬たちは皆、何やら口をもぐもぐさせています。雪の下の草をほじくって食べているのです。それにしてもどうですか、このまんまるに太った短足の肉体は。彼らを正面から見ると、その特異さがさらに際立ちます。およそ馬とは思えない、コッペパンのようにつぶれた幅広の胴体の断面形!食べるための馬とは、こういうものなのか…。

     遠くから馬に乗った人影が一騎、近づいてきました。馬上の人はニコライさんの息子さんです。おや、乗用の馬は見た目が違いますね。ちょっとスマートです。まあ、ヤクート馬である以上、ずんぐり短足なのはもうDNAで決まっていることみたいですけど。それにしても周りの異様にまるっこい馬達は、やっぱり食用という、それなりの意図でもって太らされた結果なのでしょう。

    <つづく>

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