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<br />1962年2月8日(木)<br /><br />外が暗くなり始めてしばらくすると、一階のバーが次第にガヤガヤして来た。<br /><br />のぞいてみると、野良着を着た村の百姓さんらしい人が集まって、賑やかに酒を飲み合っている。<br /><br />椅子席はすでに埋まって、多くの人は立ち飲みをしている。<br /><br />皆の様子はいかにも親しげで、取り残されている人は一人も見つからない。<br /><br /><br />恐らく、この村で生まれ、この村で育ち、この村で老い行く人たちばかりなのだろう。<br /><br />固い結束が感じられて、よそ者の私が入ってゆく緩やかさが残っていない感じがする。<br /><br />男ばかりなのは、女性は野良仕事の後に家に戻り、夕餉の支度をしているからとのことだ。<br /><br />やがて誰かが、ミュージックボックスにコインを入れたのだろう。<br /><br />陽気でリズミカルなジャズが、辺りに満ちる。<br /><br />近くのコーナーでは、ゲーム機も鳴り始めた。<br /><br /><br />この場は一日の疲れを休めると同時に、お互いに情報を交換し、時にはちょっとした決めごともなされるのかも知れない。<br /><br />村人にとっては、生きるためになくてはならない、大切な場だろう。<br /><br />しかし女性に与えられる、これに代わった場はあるのだろうか。<br /><br />フランスで女子に投票権が与えられたのは1944年と、イギリスやドイツなどに比べ比較的遅かった。<br /><br />あるいは、ヴァンデーなど封建色が強いところでは、男女差が残っているのかも知れない。<br /><br /><br />夕食の時間が近づき、バーがそろそろ静かになり始めたころ、食堂に行った。<br /><br />食堂はバーとは完全に切り離され、バーの賑やかさは持ち込まれていない。<br /><br />泊り客は私一人らしいが、食堂には十名を超える客が来ていた。<br /><br />恐らく村の人が、何らかの事情でやって来たのだろう。<br /><br /><br />最初に出されたのは、パンを入れたコンソメだった。<br /><br />パン粥と言ってもいいのかも知れないが、フランスに来て初めて出会った御馳走で、なかなか美味しい。<br /><br />次に出されたハムは、自家製のようで、コクがあってこれまた美味しい。<br /><br />そしてメインディッシュのプーレ・ロティ(丸焼の鶏)も、香ばしくてなかなかの味である。<br /><br />しかし最後のデザートは、掌に隠れるほど小さいオレンジで、わびしかった。<br /><br /><br />私は一人異質な存在だが、周囲の人たちはみな好意的に眺めてくれている。<br /><br />積極的に近づこうとはしないが・・・。<br /><br />

1962年のパリだより【781】田舎の人たちは私を温かく見守ってくれる

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1962/02/08 - 1962/02/08

38位(同エリア70件中)

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ソフィ

ソフィさん


1962年2月8日(木)

外が暗くなり始めてしばらくすると、一階のバーが次第にガヤガヤして来た。

のぞいてみると、野良着を着た村の百姓さんらしい人が集まって、賑やかに酒を飲み合っている。

椅子席はすでに埋まって、多くの人は立ち飲みをしている。

皆の様子はいかにも親しげで、取り残されている人は一人も見つからない。


恐らく、この村で生まれ、この村で育ち、この村で老い行く人たちばかりなのだろう。

固い結束が感じられて、よそ者の私が入ってゆく緩やかさが残っていない感じがする。

男ばかりなのは、女性は野良仕事の後に家に戻り、夕餉の支度をしているからとのことだ。

やがて誰かが、ミュージックボックスにコインを入れたのだろう。

陽気でリズミカルなジャズが、辺りに満ちる。

近くのコーナーでは、ゲーム機も鳴り始めた。


この場は一日の疲れを休めると同時に、お互いに情報を交換し、時にはちょっとした決めごともなされるのかも知れない。

村人にとっては、生きるためになくてはならない、大切な場だろう。

しかし女性に与えられる、これに代わった場はあるのだろうか。

フランスで女子に投票権が与えられたのは1944年と、イギリスやドイツなどに比べ比較的遅かった。

あるいは、ヴァンデーなど封建色が強いところでは、男女差が残っているのかも知れない。


夕食の時間が近づき、バーがそろそろ静かになり始めたころ、食堂に行った。

食堂はバーとは完全に切り離され、バーの賑やかさは持ち込まれていない。

泊り客は私一人らしいが、食堂には十名を超える客が来ていた。

恐らく村の人が、何らかの事情でやって来たのだろう。


最初に出されたのは、パンを入れたコンソメだった。

パン粥と言ってもいいのかも知れないが、フランスに来て初めて出会った御馳走で、なかなか美味しい。

次に出されたハムは、自家製のようで、コクがあってこれまた美味しい。

そしてメインディッシュのプーレ・ロティ(丸焼の鶏)も、香ばしくてなかなかの味である。

しかし最後のデザートは、掌に隠れるほど小さいオレンジで、わびしかった。


私は一人異質な存在だが、周囲の人たちはみな好意的に眺めてくれている。

積極的に近づこうとはしないが・・・。

  • フランスの田舎<br />(ミディ・ピレネー)

    フランスの田舎
    (ミディ・ピレネー)

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