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<br />1962年2月8日(木)<br /><br />ホテルとバーとは違った入口になっていて、目立たないホテルの入口には、脇に小さなレセプションテーブルが置かれている。<br /><br />そっとドアを開けて入ったが、静まり返っていて人気がない。<br /><br />二度、三度、声をかけたら、ようやく奥の方から女将さんのような人が出てきて、私の顔を見ると表情少なく、すぐに二階の部屋に案内してくれた。<br /><br />あらかじめグリモーさんから、私の到着が知らされていて、用意はされていたらしい。<br /><br /><br />建物は、一階が広いバーになっていて、人が泊まれる客室は二階に二部屋あるだけらしい。<br /><br />要するに建物の目的は村人の娯楽室兼集会所で、旅の人はごく限られているようだ。<br /><br />部屋にはトイレどころか暖房もなく、水道水の蛇口もなく、手水鉢に用意されている水が飲料と雑用を兼ねている。<br /><br />床に置かれた壺は、はじめは用途が分からなくて頭をひねったが、排尿入れに違いない。<br /><br />手洗いは中庭を横断したところにしかなく、客室からかなり不便だから、こういった壺が置かれているのだろう。<br /><br /><br />パリのマンションなども、100年ほど前には各戸に手洗いがなく、窓から街路に向けて、排泄物を捨てたと聞いている。<br /><br />そのころのパリは、悪臭に満ちていたらしい。<br /><br />だからホテルの客室に尿瓶が置いてあることは、そんなに驚くことではないらしい。<br /><br /><br />窓から外を眺めれば、ひっそりと人影がない広場である。<br /><br />「時間が止まったとは、こんな状態なんだなぁ」<br /><br />やがて先ほど部屋を案内してくれた女将さんがやってくる。<br /><br />「田舎だから良い待遇は出来ませんが・・・」<br /><br />と、しきりに謙遜している。<br /><br /><br />料金は、パンション・コンプレート(三食付き)で12.5フラン(900円)と、信じられない安さである。<br /><br />第一印象では愛想の悪い人と見たが、ゆっくり接すると、とても深い優しさを秘めているように感じる。<br /><br />訊いてみないが、風呂はないだろう。<br /><br />もしあっても、狭苦しくて入りにくい風呂には、入りたくない。<br /><br />1月始めに、スペインのトレドで入ってから、風呂には縁はないが、こちらに人にとってはそれが普通らしい。<br /><br />

1962年のパリだより【781】これまで泊ったことのないほどの田舎のホテル

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1962/02/08 - 1962/02/08

38位(同エリア70件中)

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ソフィ

ソフィさん


1962年2月8日(木)

ホテルとバーとは違った入口になっていて、目立たないホテルの入口には、脇に小さなレセプションテーブルが置かれている。

そっとドアを開けて入ったが、静まり返っていて人気がない。

二度、三度、声をかけたら、ようやく奥の方から女将さんのような人が出てきて、私の顔を見ると表情少なく、すぐに二階の部屋に案内してくれた。

あらかじめグリモーさんから、私の到着が知らされていて、用意はされていたらしい。


建物は、一階が広いバーになっていて、人が泊まれる客室は二階に二部屋あるだけらしい。

要するに建物の目的は村人の娯楽室兼集会所で、旅の人はごく限られているようだ。

部屋にはトイレどころか暖房もなく、水道水の蛇口もなく、手水鉢に用意されている水が飲料と雑用を兼ねている。

床に置かれた壺は、はじめは用途が分からなくて頭をひねったが、排尿入れに違いない。

手洗いは中庭を横断したところにしかなく、客室からかなり不便だから、こういった壺が置かれているのだろう。


パリのマンションなども、100年ほど前には各戸に手洗いがなく、窓から街路に向けて、排泄物を捨てたと聞いている。

そのころのパリは、悪臭に満ちていたらしい。

だからホテルの客室に尿瓶が置いてあることは、そんなに驚くことではないらしい。


窓から外を眺めれば、ひっそりと人影がない広場である。

「時間が止まったとは、こんな状態なんだなぁ」

やがて先ほど部屋を案内してくれた女将さんがやってくる。

「田舎だから良い待遇は出来ませんが・・・」

と、しきりに謙遜している。


料金は、パンション・コンプレート(三食付き)で12.5フラン(900円)と、信じられない安さである。

第一印象では愛想の悪い人と見たが、ゆっくり接すると、とても深い優しさを秘めているように感じる。

訊いてみないが、風呂はないだろう。

もしあっても、狭苦しくて入りにくい風呂には、入りたくない。

1月始めに、スペインのトレドで入ってから、風呂には縁はないが、こちらに人にとってはそれが普通らしい。

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