2007/06/24 - 2007/06/24
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フーテンの若さんさん
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パリの日本人宿「白い門」。パリに来てから、僕はここにずっとお世話になっている。
リリン、リリン。新しい宿泊者からの電話が鳴る。誰かが駅まで迎えにいかなくてはならない。ここ最近、オーナーのLEEさんは引越しの準備で忙しい。台所で疲れた表情のLEEさんの顔を見て、思わず声が出た。「僕、行ってきますから」と。
駅で待っていた人を見て驚いた。なんと3ヶ月前にイースター島で一緒だったYさんではないか!いやあ懐かしい。彼も僕と同じく会社を辞めて長期で旅している系。中米、北米を経て、ヨーロッパを回っている最中だという。
Yさんを連れ、宿に戻るとLEEさんは機嫌悪そうに寝ていた。よっぽどお疲れなんだろう。現在の「白い門」はマンションの一室を宿泊者のために開放していて、4つあるベット以外は全員雑魚寝をしていた。住んでいるのはLEEさんとメス猫4匹。布団の上を飛び跳ねたり、カバンで爪とぎしたりとなかなか元気な猫たちであった。
LEEさんは韓国人だけど、宿泊者は日本人ばかりで、韓国人を泊めていない。韓国人は旅慣れしていない人間が多く、宿泊日数が短いため、手間が掛かるからだという。また、日本人とのコミュニケーションは、少し壁を持てるので、距離感がちょうどよいのだともLEEさんは語っていた。
宿に到着したYさんは、猫アレルギーだったようで、目が少し赤くなっていた。久しぶりの再会を祝して、次の日に二人でヴェルサイユ宮殿まで行くことになった。
当日はあいにくの雨。さらにヴェルサイユ宮殿周辺は、花粉が飛び捲くっているようで、僕はクシャミが止まらない。Yさんもアレルギー体質で、鼻がムズムズするという。体調はイマイチ、大雨が来そうな黒い雨雲も迫っていたため、庭園の見学を適当に切り上げ、僕らはさっさと市内に戻ることにした。滞在時間1時間弱。ちなみにYさんは、後日ルーブル美術館の外まで行って中に入らなかったという。彼も僕もアカデミックなものには、ほとんど興味がないのだ。
宿に戻るとLEEさんは外出していた。引越しの準備で新しい宿のほうへ出かけているらしい。新しい宿は一軒家で広く、画家の卵たちのためにアトリエまで設置されているのだという。まもなく帰ってきたLEEさんにお疲れですねと声を掛ける。「ほんと、疲れた」彼女は日に日にやつれている。ほとんど一人で引越し作業をしているようだった。
「ワタシ、なんでこんな苦労しているだろうってたまに思うね。でも人生、動けるうちに一所懸命働かないとダメね。死んでしまったら何もできない。だからワタシはできるうちにできることをやっておきたいと思うね。」
一見、取っ付きにくく無愛想に見えるLEEさん。でも彼女の話を聞いて、少し応援したい気持ちになった。たぶん皆に手伝ってと言いたいのだが、面と向かって言えないシャイなところがある。1週間近く滞在して、ようやく彼女の性格がわかってきた。
数日前にこんな事件があったことも絡んでいる。ある日本人女性が宿泊代をチョロまかして、LEEさんが気付く前に宿を後にしたというのだ。僕はその彼女と面識があったのだが、そんなことをするような子ではなかった。何かの勘違いではなかろうか。真相を問いただすべく、彼女の後を追ったのだが、時既に遅しで出会うことはできなかった。LEEさんは「こういう日本人もいるからイヤになる」と機嫌を害していた。ここは日本人として名誉挽回をしなければならない。
Yさんにも事情を説明して、僕らはちょっとだけLEEさんの引越しを手伝うことになった(といっても大したことはしていない。電話番や留守番、荷物の運搬など)。
最後日の夜(僕が寝た後)、LEEさんがむっくり起きてきて、まだ起きていたYさんたちと談笑したらしい。そのときに僕の話が出たそうだ。
「あの人は昔ながらのいい人。昔はああいう人がいっぱいいた。最近少なくなったけど珍しいね」とLEEさんは僕のことを評価してくれたらしい。人から褒められて悪い気持ちになる人はいない。気持ちいい締めくくりで、僕はパリから離れることができそうだ。
Yさんも同じ日に出発だったので、空港まで一緒に行くことになった。彼の次の目的地はバルセロナ。僕はブタペストに旅立つ。空港行きの電車のなかで彼は思い出したかのように財布を取り出した。ハンガリーのお札が残っているから両替して欲しいという。お安い御用だとばかり、僕はユーロを手渡した。
その両替してもらったお札が実はチェコのお札だったことに気付くのは、ブタペストに到着した後だった。空港バスのカウンターで冷たくはじかれたのだ。
おいおい、Yさん。これは確信犯?何だか「白い門」での宿代事件とリンクしているような気がしてならないのだけど。次に会ったら、ビールでも奢って頂戴。もしくは帰国後の僕の引越し手伝ってね。
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