2007/06/29 - 2007/06/30
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フーテンの若さんさん
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学の同期にスミエちゃんという女友達がいた。
彼女は僕の友達の彼女だったのけれど、とにかくお酒が好きな子だった。毎日のように呑み歩き、ほとんど朝まで深酒をし、よく暴れたりで、お酒の女王と呼ばれる存在だった。
当時は僕もお酒好きだったので、よく彼女とは一緒に呑んだ記憶がある。僕もお酒に慣れていなかったため、よく二人が中心になって羽目を外した。路上で女装して呑んで補導されたり、花見の席で隣の学生と喧嘩したり、加茂川で溺れかけたり、友人が急性アルコールで救急車で運ばれたりした際には、必ず僕ら二人が絡んでいたものだった。
ある晩、夜中の2時過ぎだっただろうか。僕のアパートのインターフォンを鳴らす音。こんな時間に誰やねんとドアを開けると、チョーヤの梅酒ボトルを抱えたスミエちゃんが立っていた。「こんばんわぁ、一緒に呑も〜!」と明るく大声で叫ぶ。
いくらなんでも遅すぎやろ。しかも、彼女はすでにベロンベロン状態でロレツもうまく回っていない。彼女の顔をふと見ると、頬に涙の後があった。ははーん、彼氏と喧嘩してそれで僕のところに来たんだな。このまま追い返すのもかわいそうだし、少しだけ付き合ってやるか。
そう思い、一杯だけという約束で乾杯をする。しかし、今日のスミエちゃんはいつもと違って何だか元気がない。うん、どうしたんや?
「実は・・・ずっと言えんかったけどな。うち、あんたのことがほんまは好きやねんかぁ〜」
おいおい、あんたは僕の友人と付きあっとる身分やろ。何ゆーとんねん。喧嘩した直後で頭が動転しとるんちゃう。
「ちゃうねん、ずっとほんまにそう思っててん」とにっこり笑って彼女は答える。
彼氏との相談事かと思いきや、話の展開が面倒くさいことになってきた。もし彼女と僕が付き合えば、三角関係となってしまう。しかし、彼女は酔っ払うと、突如奇妙な行動を取ることがある。この日もかなり呑んでいるようだし、言葉を丸呑みする訳にはいかん。至って冷静さを保とう。と思っていたはずなのに、いつの間にやら僕の部屋にあったビールやら焼酎の鬼殺しも開けて、二人でガンガン呑みまくっていた。
「うち、原付乗りたいねんかあ。」
明け方の5時過ぎ。彼女は突然そう言って、むっくり立ち上がった。あかん、あかん。彼女は免許も持っていない。酔っ払っているから尚更危険だ。しかし、止めるはずの僕の足元はふら付いていた。やばい、今日は酔っ払い二人を止めてくれる仲間がいないのだ。
結局、アクセルを吹かすだけという約束で彼女に鍵を渡してしまった。僕の原付は先月買ったばかり。絶対こかさないでという何度も口うるさく言っておく。「だいひょうぶやって」と言って、いきなりアクセル全開で前の植木に突っ込んだ。これはいかん。僕が後ろから付いてやってやらねば。そう思って僕は後ろの席に座り、彼女の助手をした。これなら問題ない。「なんか気持ちいいし、このまま遠くまでいっちゃおうか」「うん、行ってみよか。でもちょっとだけやで」酔っ払い二人は加茂川を目指して、ツーリングの旅に出ることにした。原付のカゴにはちゃっかり残りの焼酎鬼殺しが入っていた。
予想したとおりスミエちゃんの運転はめちゃくちゃだった。蛇行に逆行に信号無視。あげくに歩行者道路を走ったり。今思えば事故らなかったのが奇跡だったと思う。
加茂川沿いを、僕たちはミスチルの「シーソーゲーム」を唄いながら走った。辺りが少しづつ明るくなり、1日の始まる瞬間を感じていた。空気が変わる。草木も起き出す。目の前に誰か人影が見える。「やっほー、おはようございまーひゅ」とスミエちゃんが陽気に声を掛ける。よく見るとその人影はパトロール中の巡査官ではないか。
『無免、逆行、スピード違反、ニ人乗り、ノーヘル、飲酒』。
スミエちゃんは、まだ無免許だったにも関わらず、いきなり6個の交通違反となった。僕が運転していましたと取調べで主張したのだけど、何せ現行犯だから受け入れてもらえない。「君、彼氏なのに何しとんねん」と長々と説教を受ける始末となってしまった。
幸いだったのは、彼女はまだ未成年で、家庭裁判所行きでおさまったということだ。当然のことだが、この事件は彼女の両親にもばれ、僕の友人の彼氏にもばれてしまった。
この事件以来、僕らは何となく会いにくくなってしまった。その後、彼氏とも別れ、彼女は学校にほとんど来なくなってしまった。夜の仕事を始めて、忙しくて来れなくなったという噂を聞いたが真相は定かではない。大学4年のとある授業で一瞬見かけたのが最後。その姿に昔の面影はなく、派手な化粧で立派な夜の女に変わってしまっていた。卒業名簿に彼女の名前がないので、留年したか中退したか、いずれにせよ彼女の連絡先はもうわからない。そんな彼女のことを思い出すこともほとんどなく、あれから15年が経った。
スミエちゃんは、東欧系の美人顔でちょっと日本人離れしているところがあった。すっと伸びた鼻に、ぱっちり切れ長の目、サラサラの長髪。ブタペストの街行く女性を見ると、確かにスミエちゃんに似ているような気がする。それで、久しぶりに彼女のことを思い出したのだ、この東欧ブタペストの町で。
彼女は今、元気でやっているのだろうか。
-
僕がブタペストを訪れたのは、「温泉に入りたい」というただそれだけのためであった。何でもハンガリーは、ヨーロッパ一の温泉大国なのだそうだ。最近の僕のテーマは「癒し」。旅で疲れた体を温泉でゆっくり癒したい(ならばとっとと日本へ帰れよと思うが)。
宿に到着するなり僕は、ゲッレールト温泉なる施設へ向かった。そこは歴史ある温泉ホテルで、宿泊者でなくても入ることが出来るらしい。
入場料は3000Ft(1900円くらい)と物価の安いハンガリーでは結構なお値段。個室のロッカーで着替え、早速温泉へ向かう。ハンガリーでは日本のように裸で温泉に入れるところもあるようだが、ここは水着着用。そして男女混浴だった。期待したけど、若いお客よりも年配客が圧倒的に多い。まあ、そりゃそうか。シャワー室を抜けると、36度と38度の大きな浴室が二つ。日本人にはもう少し熱いほうが嬉しいのだが仕方がない。水は無臭透明で、普通のお湯のような気もする。どんな効果があるかよくわからん。保温効果はほとんどなかった。
通常のサウナとスチームサウナも奥にあって、設備は日本のものに近い。ただシャワーやトイレが旧式で垢が溜まっていたりして、あまり綺麗でないのが残念だった。
2時間近くの長風呂を楽しみ、ロッカールームのあるロビーに戻ると「→スイミングプール」という張り紙が目に入った。気が付かなかったが、ここには温水プールと屋外プールも併設されていたのだった。特に屋外プールの方は波立つプールとなっていて、老若男女大勢のお客さんが波を求めて賑わっていた。
先ほどの温泉ですっかりのぼせ上っていた僕は、テラスに座って本を読むことにした。本は、先日パリのBOOKOFFで購入した北尾トロの「君は他人に鼻毛が出てますよと言えるか」。何とも軽い本だが、これが予想以上に面白い。
テラスで1時間ほど読書を楽しみ、そろそろ帰ろうかと思い、ロッカールームに戻って鏡を見る。すると思いっきり僕の鼻から鼻毛が3本出ていた。見事にオバケのQちゃんのように3本ズバ抜けている。おそらく温泉の影響で鼻毛が伸びて、飛び出てきたに違いない。
このまま外へ出て歩けば、ハンガリー人は「鼻毛でてますよ」と声を掛けてくれるだろうか。ハンガリー版「僕は他人に鼻毛が出てますよと言ってもらえるか」実験だ。声を掛けられたら、掛けられたでショックなのだが、実験としては面白い。いや待てよ、こっちの人はそもそも鼻毛なんて小さなことを気にしないのではなかろうか。何より日本人に会ったらこんな顔、恥ずかしい。
そう思って僕はその場でブチっと鼻毛を引き抜いた。
鼻毛は風に吹かれてすぐにわからなくなった。僕の鼻毛は今頃何処を飛びまわっているのだろう。そういえば、ハンガリー語で鼻毛はなんて言うのかな?ちょっぴり惜しいことをしたなと思う今日この頃。 -
先日パリで一緒になった日本人旅行者から今、日本で「どんだけ〜」というギャグが流行っているのだと聞いた。実際テレビで見たことがないので、その「どんだけ〜」をどんな場面で使うのかがわからない。でも流行り言葉に敏感な僕は、そう聞いて使ってみないことには気がすまないのだ。
*
今日はハンガリーの世界遺産であるホッロークーという村まで足を運ぶことにしていた。ブダペストから北東へ100km。ガイドブックには電車とバスを乗り継いでいけるとある。
どの電車かわからないので、駅の係員に聞いてみる。すると面倒くさそうにインフォメーションがあるからそこへ行けとジェスチャーで答えられた。
「どんだけ〜」
対応悪いねん。あんた駅員やろ。外国人だからって差別せず、ちゃんと教えてよ!ぶつぶつ文句言いながら、駅のインフォメーションに行くと思いっきり閉まっていた。
「どんだけ〜」
やっと親切そうなお爺さんをつかまえ、行き方を教えてもらい、電車に乗って約2時間。バス乗り継ぎポイントのペーストー駅まで辿り着いた。見渡す限り何にもない田舎町。駅前に停まっているバスに乗り込み、ホッロークーまで行きたいというと、これまた邪魔くさそうに「ないない」みたいなジェスチャーをされる。
「どんだけ〜」
仕方がないのでバスを降り、目の前の時刻表を確認すると、ホッロークー行きの午前中2便までしか書いてなかった。今日はもう直行便はナイ!
「どんだけ〜」
とりあえず町を歩いて、他に行く手段を探すことに。ヒッチハイクしようかと思ったが車もほとんど走ってない。歩いている人すらほとんどいないほどの田舎だった。
「どんだけ〜」
教会そばに別のバス停があったので、停まったバスに乗り込み、「ホッロークーに行きたいの」と運転手に叫ぶ。その運転手は親切な人で、メモに行き方を細かく書いてくれた。それによるとあるバスに乗って、乗り換えればホッロークーまで行けるらしい。よかった、これで何とか辿りつけるぞ!
で、次のバスはいつ来るの?16時15分と運転手は書いた。おいおい、あと3時間30分もあるやんけ!
「どんだけ〜」
結局、ホッロークー行きを諦め、僕は来た電車に乗り、またブダペストに戻っている。思い出したくもない。今日は最悪の、
「どんだけ〜」
な一日だった。はて使い方はあっているのだろうか。 -
列車でクロアチアの首都ザグレブへ向かうことにした。
当初は北上してウィーンやプラハにも行く考えだったけど、綺麗な町並みの所はもういいかなと思って、予定を変更することにしたのだ。真っ青なアドレア海と真珠のように美しい島々。そこで僕は出会うのだ、穏やかな波をずっと眺めている白いワンピースを着たうら若き女性に。そよ風で彼女の麦わら帽子が飛び、後ろにいた僕が偶然拾う。ドラマはそこから始まる。そんな淡い予感めいたものを感じ、僕は西へ向かう列車へ飛び乗った。
ブダペストからザグレブまでは約6時間。2等列車は案外空いていて、コンパーチネントの席には僕しかいなかった。ブダペストからものの30分で車窓の景色は、田舎そのものに変わる。草木が生い茂り、時おり満開の向日葵畑がこちらを向いて挨拶する。
同じ風景を延々と繰り返すので、いつしか車窓を眺めることに飽き始めていた。そうだ、ブダペストの同じ宿で出会った旅行者から日本の本を貰った。それを読もうではないか。
1冊は雑誌で「日経ビジネス」。もう1冊は文庫で「懲戒解雇」。なんでこんな重たい本を東欧まで来て、彼は読んでいたのだろうか?とはいっても、日本の本は貴重なので贅沢は言ってられない。時間は充分にある。じっくり丁寧に読んでいこう。
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まずは「日経ビジネス」を手に取った。特集は「正社員はもう必要ない?」。現在、無職の僕にとって、表紙にある特集の言葉だけで頭が痛い。なになに。請負と派遣の違いで云々・・・、正社員採用による雇用コスト増が云々・・・。
いやー、さっぱり頭に入らない。もうビジネスから離れて1年。僕の頭は仕事思考へと簡単には切り替わらない。ダメだ、今はこんな本読めねぇ〜。
「日経ビジネス」を放り投げ、「懲戒解雇」に挑戦してみた。なになに。エリート社員の課長が会社の上層部を相手取って裁判を起こす物語で、役員による闇金不正が云々・・・、取締役会での決済が云々・・・。
うぐぐ、これもダメだ。昔を思い出して吐き気がしてきた。こんな本を読んだら、日本に社会復帰できるか心配で、旅に没頭できないではないか。
また、僕は車窓の風景を見ることに戻った。雑念(不安?)を打ち消すため、ipodで音楽を聴くことに専念した。これなら余計なことを考えなくていい。
僕は現実社会のサラリーマンというレールからは外れ、未知の列車に乗っている。何処へ向かうのか、僕自身もよく分からない。でもレールは自分でひいて行くもの。人生には決して一本のレールしかないわけではない。自分で選んだ道だもの。不安はあるが後悔はない。とにかく選んだレールの向こうへ前を向いて進んでいこうではないか。
そう自分に言い聞かせていたそのとき、列車が突然止まった。何事だ???
係員に聞いても、英語があまり通じずよくわからない。どうやら列車に何らかのトラブルが発生したようだ。しばらく動きそうな気配はない。これが僕の選んだ道なのか?現実逃避している旅のなかですら、前途多難な状態が続いている。
やっぱり僕は道を誤ったのかなあ。列車が停まっている間、僕は放り投げた「日経ビジネス」を再び手に取っていたりした。帰国後のことをそろそろ真剣に考えなくては。旅の終わりがうっすら近づいてきているのかもしれない。
そのとき、白いワンピースを着たうら若き女性の姿は頭からすっかり消えてしまっていた。
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