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 秋田市は千秋公園(久保田城跡)に咲くつつじがきれいだった。また琵琶湖に次ぐ広さだった八郎潟が干拓され一面の水田になっている光景も見ることができた。<br />秋田出身の作家では横手市で幼児期をおくった石川達三(1905−1985年)が1968年に「毎日新聞」に連載し、人間の欲望と挫折を描いた「青春の蹉跌」が思い浮かぶ。その当時は連載の展開を知りたくて毎日、新聞を読むのが楽しみだった。「青春の蹉跌」は人気を集め1974年には萩原健一 、桃井かおり、檀ふみらのキャストで映画化もされた。<br /> 太宰治(1909−1948年)の生家で国の重要文化財に指定されている太宰治記念館「斜陽館」は是非訪問したいところだった。<br />太宰治の実家・津島家は、青森県下有数の大地主で父・源右衛門は衆議院議員、貴族院議員をつとめた名門の家系だった。太宰は弘前高校時代には泉鏡花や芥川龍之介の作品に傾倒し作家を志望し、以後生涯井伏鱒二に指導を受けている。太宰は39年の生涯で5回 自殺未遂を図り、6回目となる1948年に東京・三鷹市、玉川上水で愛人・山崎富栄と入水心中、太宰の誕生日である6月19日に亡くなった。 この日は桜桃忌(おうとうき)として知られ、三鷹の禅林寺を多くの愛好家が訪れるが出身地・青森県金木町でも「太宰治生誕祭」を催している。太宰の代表作と言えば「斜陽館」の名前にもなった「斜陽」 (1947年) や入水心中で亡くなった1948年に暗澹たんたる絶望感を描いた「人間失格」など人間の暗い面を抉り出す作品があげられるが私は中学時代に読み、教科書でも多く取り上げられている「走れメロス」(1940年)の印象が最も強い。ドイツの詩人・シラーのギリシャ神話をベースにした詩「人質」(小栗孝則訳)を素材として、太宰が肉付けした作品だ。人を信じることができなくなり反逆者の疑いをかけた国民の処刑を次々と続ける暴君を暗殺しようとするが捕えられ、死刑を宣告されたメロスは妹の結婚式を済ませてから死にたいと3日の猶予を申し出、親友・セリヌンティウスを身代わりにすることを認められる。妹の結婚式を済ませた帰路で洪水などの災難に見舞われ約束の時間に間に合わなかったメロスは親友の身代わり処刑の寸前に刑場に辿りつく。友人同士の深い信頼感に感動した暴君は罪を許し自分の行いを改め国民が国王に大喝采するという太宰には珍しいハッピーエンドの作品だ。「走れメロス」については亀井勝一郎の「友情の理想であり、人間への信頼の完璧な姿を夢見た」などの賞賛の一方「人間不信という暗さを二ヒルに描いた作品」というやはり太宰作品は人間不信だとの評価もある。それは鎌倉での心中未遂事件で女性が死に自分は生き残ったという裏切り意識と、精神の病の治療のため騙されて強制入院させられた裏切られ意識があり、「人間不信」に陥っていた時期だから、という説などからだ。確かに太宰の39年の人生は人間不信と精神的やまいの悩みに終始したかもしれない。だが「走れメロス」では「人間不信」を克服する「信頼関係」があることを信じたかったのだと思う。太宰作品の素晴らしさは常に自分の死を念頭に置き命がけで書いていることが読者に伝わる点だと思うが「走れメロス」は人間を信じて生きたいと願った希望を持った時期であったと思いたい。<br /> 金木の街の芦野公園には太宰の文学碑があり、弘前からは太宰の「津軽」「故郷」に登場する津軽富士・岩木山が美しく見えた。太宰の少年時代を垣間見る旅だった。<br />(写真は斜陽館)    <br />

日本の旅 みちのく文学を辿る【10】 太宰治の「斜陽館」と弘前、秋田

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1993/05/22 - 1993/06/03

7245位(同エリア10756件中)

2

17

さすらいおじさん

さすらいおじさんさん

秋田市は千秋公園(久保田城跡)に咲くつつじがきれいだった。また琵琶湖に次ぐ広さだった八郎潟が干拓され一面の水田になっている光景も見ることができた。
秋田出身の作家では横手市で幼児期をおくった石川達三(1905−1985年)が1968年に「毎日新聞」に連載し、人間の欲望と挫折を描いた「青春の蹉跌」が思い浮かぶ。その当時は連載の展開を知りたくて毎日、新聞を読むのが楽しみだった。「青春の蹉跌」は人気を集め1974年には萩原健一 、桃井かおり、檀ふみらのキャストで映画化もされた。
 太宰治(1909−1948年)の生家で国の重要文化財に指定されている太宰治記念館「斜陽館」は是非訪問したいところだった。
太宰治の実家・津島家は、青森県下有数の大地主で父・源右衛門は衆議院議員、貴族院議員をつとめた名門の家系だった。太宰は弘前高校時代には泉鏡花や芥川龍之介の作品に傾倒し作家を志望し、以後生涯井伏鱒二に指導を受けている。太宰は39年の生涯で5回 自殺未遂を図り、6回目となる1948年に東京・三鷹市、玉川上水で愛人・山崎富栄と入水心中、太宰の誕生日である6月19日に亡くなった。 この日は桜桃忌(おうとうき)として知られ、三鷹の禅林寺を多くの愛好家が訪れるが出身地・青森県金木町でも「太宰治生誕祭」を催している。太宰の代表作と言えば「斜陽館」の名前にもなった「斜陽」 (1947年) や入水心中で亡くなった1948年に暗澹たんたる絶望感を描いた「人間失格」など人間の暗い面を抉り出す作品があげられるが私は中学時代に読み、教科書でも多く取り上げられている「走れメロス」(1940年)の印象が最も強い。ドイツの詩人・シラーのギリシャ神話をベースにした詩「人質」(小栗孝則訳)を素材として、太宰が肉付けした作品だ。人を信じることができなくなり反逆者の疑いをかけた国民の処刑を次々と続ける暴君を暗殺しようとするが捕えられ、死刑を宣告されたメロスは妹の結婚式を済ませてから死にたいと3日の猶予を申し出、親友・セリヌンティウスを身代わりにすることを認められる。妹の結婚式を済ませた帰路で洪水などの災難に見舞われ約束の時間に間に合わなかったメロスは親友の身代わり処刑の寸前に刑場に辿りつく。友人同士の深い信頼感に感動した暴君は罪を許し自分の行いを改め国民が国王に大喝采するという太宰には珍しいハッピーエンドの作品だ。「走れメロス」については亀井勝一郎の「友情の理想であり、人間への信頼の完璧な姿を夢見た」などの賞賛の一方「人間不信という暗さを二ヒルに描いた作品」というやはり太宰作品は人間不信だとの評価もある。それは鎌倉での心中未遂事件で女性が死に自分は生き残ったという裏切り意識と、精神の病の治療のため騙されて強制入院させられた裏切られ意識があり、「人間不信」に陥っていた時期だから、という説などからだ。確かに太宰の39年の人生は人間不信と精神的やまいの悩みに終始したかもしれない。だが「走れメロス」では「人間不信」を克服する「信頼関係」があることを信じたかったのだと思う。太宰作品の素晴らしさは常に自分の死を念頭に置き命がけで書いていることが読者に伝わる点だと思うが「走れメロス」は人間を信じて生きたいと願った希望を持った時期であったと思いたい。
 金木の街の芦野公園には太宰の文学碑があり、弘前からは太宰の「津軽」「故郷」に登場する津軽富士・岩木山が美しく見えた。太宰の少年時代を垣間見る旅だった。
(写真は斜陽館)    

同行者
一人旅
交通手段
JRローカル
  • 弘前城跡の光景。

    弘前城跡の光景。

  • 弘前駅前の光景。

    弘前駅前の光景。

  • 太宰の「津軽」「故郷」に登場する津軽富士・岩木山。

    太宰の「津軽」「故郷」に登場する津軽富士・岩木山。

  • 1948年に太宰治が愛人・山崎富栄と入水心中をした玉川上水。

    1948年に太宰治が愛人・山崎富栄と入水心中をした玉川上水。

  • 東京・三鷹市、禅林寺の太宰治の墓。

    東京・三鷹市、禅林寺の太宰治の墓。

  • 金木の太宰治(1909−1948年)の生家で国の重要文化財に指定されている太宰治記念館「斜陽館」。太宰治の実家・津島家は、青森県下有数の大地主で父・源右衛門は衆議院議員、貴族院議員をつとめた名門の家系だった。

    金木の太宰治(1909−1948年)の生家で国の重要文化財に指定されている太宰治記念館「斜陽館」。太宰治の実家・津島家は、青森県下有数の大地主で父・源右衛門は衆議院議員、貴族院議員をつとめた名門の家系だった。

  • 金木の街の芦野公園。太宰の文学碑がある。

    金木の街の芦野公園。太宰の文学碑がある。

  • 金木の街の芦野公園。太宰の名から付けた「太宰橋」。

    金木の街の芦野公園。太宰の名から付けた「太宰橋」。

  • 金木の街の芦野公園の光景。

    金木の街の芦野公園の光景。

  • 五所川原駅の光景。

    五所川原駅の光景。

  • 秋田市・千秋公園(久保田城跡)の光景。

    秋田市・千秋公園(久保田城跡)の光景。

  • 秋田市・千秋公園(久保田城跡)に咲くつつじ。

    秋田市・千秋公園(久保田城跡)に咲くつつじ。

  • 秋田市・千秋公園(久保田城跡)の光景。

    秋田市・千秋公園(久保田城跡)の光景。

  • 秋田市・千秋公園(久保田城跡)に咲くつつじ。

    秋田市・千秋公園(久保田城跡)に咲くつつじ。

  • 秋田市・千秋公園(久保田城跡)の光景。

    秋田市・千秋公園(久保田城跡)の光景。

  • 秋田駅前の光景。

    秋田駅前の光景。

  • 琵琶湖に次ぐ広さだった八郎潟が干拓され一面の水田になっている光景。

    琵琶湖に次ぐ広さだった八郎潟が干拓され一面の水田になっている光景。

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この旅行記へのコメント (2)

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  • 忘れな草さん 2005/10/02 22:55:31
    弘前〜金木の旅は懐かしいです(^o^)
    さすらいおじさんさん、今晩は〜♪
    いつも、訪問くださり有難うございます^^
    今度は中東へ、ご旅行中ですか? 旅行記が楽しみです。

    弘前、金木、芦野公園は一昨年に行ったので懐かしかったです。
    ちょうど桜の季節で綺麗でした。

    称名滝の旅行記は豪快な滝が凄いですね。
    山の雪が溶けて水しぶきが写真から感じられます。
    以前、7月に行きましたが、あまり水量はありませんでした。
    汗をかきかき見に行き、マイナスイオンをたっぷり浴びた思い出があります。

    さすらいおじさん

    さすらいおじさんさん からの返信 2005/10/09 06:14:43
    RE: 弘前〜金木の旅は懐かしいです(^o^)
    忘れな草さん

    10/8日の夜、中東から帰国しました。見所がたくさんありました。詳しくは旅行記で報告しますのでご覧いただければ嬉しいです。

    みちのくの旅をご覧いただきありがとうございます。

    弘前、金木、芦野公園の桜は綺麗だったでしょうね。私が行ったのは5月で桜は終わっていましたが、芦野公園で家族でお弁当を楽しんでいるたくさんの人達が印象に残っています。

    称名滝は6月初旬で雪解け水で水量が多くラッキーでした。みちのくの旅、また行きたいですね。

さすらいおじさんさんのトラベラーページ

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