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パリはカーレース場<br /><br />  パリ生活で毎日の神経をすり減らすものに、車の運転がある。ここでは車同士が芋を洗うようにひしめき合い、せめぎ合う。運転はまさに、競争社会そのものの具現と言えるだろう。<br />  ようやくフランス免許を取り一人前になっても、パリのドライブは「優先権を狙って1センチでも相手に先行」の争いだ。それは楽しむ限りスポーツであるが、楽しむだけの心のゆとりがなければ、苦痛と修業の場。神経をすり減らし、毎日が緊張の連続となる。<br />  まさに「セ・ラ・ヴィ(それが人生と言うものさ)」。深刻に考えれば命がけの生存競争、人生経験の修羅場である。<br /><br /> そうしたドライバーの行動に輪をかけて、パリの運転を一層難しくしている原因に、道路網の複雑さがある。<br />  地図を見る限り、パリの道路は迷路のように入り組んでいるわけではない。むしろ整然としていて、都市計画の立派なお手本ともいえる。<br />  だが、放射線を基本とした道路網は、大きな目標にまっすぐ向かうには良いが、いったん迷い出すと切りがない。道路同士が直交せず、常にある角度で交わっているので、よほど注意していても方向感覚を失ってしまう。<br />  その上一方通行が多い。そのため、いったん道を間違えても引き返すことができない。いくつかの交差点を曲がっているうちに方向感覚が麻痺して、つい迷ってしまうはめになる。<br /><br />  しかし運転者と共に、同乗客も方向感覚を失っていて、道に迷ったことに気づかない。そこで私は迷っても、客が気づくまで黙っていようと考えた。ただでさえ私の運転に不安げな客を、一層不安におちいらせることはないのだ。<br />  考え方を変えれば、こんなことができるのも、パリの道路の良さなのかもしれない。<br />  道が分らなくなった時に慌てることは禁物である。「お陰で新しい街に出くわした」と気楽に考えるのが良い。パリの街はそれぞれが個性豊かで、異なった味わいがあるのだ。もちろんその分行動時間にゆとりが必要ではある。                                  <br />  また、いかに道に迷っても、そのうち必ず見知りの広場に出ることができる。これは放射状道路網の良い点である。<br />  しかし何と言っても迷わないに越したことはない。そこで慣れない間は、毎日曜日が道路下見の日となる。その週に行かねばならない事務所やホテルまでの道を、あらかじめ運転して覚えておく配慮である。<br /><br />  アメリカのベストセラー『ヨーロッパ5ドルの旅』にも「パリに入る時には車を市外に預けなさい」と書かれている。パリはそれほど世界に名高い、運転の難所なのだ。<br />  だが「パリは運転マナーが悪い」と単純に割切る説には、すぐさま賛成はできない。いささか問題は複雑で、それなりに合理的と思われる考え方が、その背景に入り交じっているからである。<br /><br />  第一に、ここの人は自動車を普段履きの下駄程度に考えていて、多少接触し合って傷ができても余り意に介さない。<br />  好対照なのはドイツで、ドイツ人はちょっとした傷や汚れに異常と思われるほど神経質だ。車は自分の分身であり、あるいは全生活のシンボルなのだろう。<br />  外国からやって来る人は、パリの自動車の凹んだり傷だらけの姿に驚きかつ軽蔑する。だがフランス人は全く平気。ドイツの車を見て「彼らは乗るためでなく、磨くために車を買うのだ」と、馬鹿にする。<br />  パリで路上で駐車する場合、すでに駐車している車のわずかな隙間をねらって、前後の車に当てながら、次第に自分のスペースを生み出して行く。こんなことをドイツでやったら大変だ。<br />  つまりパリジャンは、「バンパーは、車を接触し合うための道具」と、その存在理由を前向き(?)に捕らえている。そのために駐車時にハンドブレーキを掛けたり、ギヤを入れっぱなしにすることは厳禁である。<br /><br />  街の中のプライオリティー(優先)は、極めてシンプルに「右優先」である。(最近優先のはっきりした交差点が生まれた)道路の太い細いや、交通量の多い少ないは関係ない。<br />「それでうまく治まっているのがフランスの良さだ」<br />と、フランス贔屓は言う。そして<br />「ドイツならばトラブルが絶えないだろう」<br />と、つけ加える。ドイツは交差点ごとに優先が明快に決まっているのだ。<br />  一般にフランスでは<br />「フランス人は現実的で実利を尊重する。あるいは思考が柔らかくて融通性に富む」<br />「それに反してドイツ人はたてまえを重んじ、かたくなである」<br />と言われている。<br />

パリはカーレース場 1

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ソフィ

ソフィさん

パリはカーレース場

パリ生活で毎日の神経をすり減らすものに、車の運転がある。ここでは車同士が芋を洗うようにひしめき合い、せめぎ合う。運転はまさに、競争社会そのものの具現と言えるだろう。
ようやくフランス免許を取り一人前になっても、パリのドライブは「優先権を狙って1センチでも相手に先行」の争いだ。それは楽しむ限りスポーツであるが、楽しむだけの心のゆとりがなければ、苦痛と修業の場。神経をすり減らし、毎日が緊張の連続となる。
まさに「セ・ラ・ヴィ(それが人生と言うものさ)」。深刻に考えれば命がけの生存競争、人生経験の修羅場である。

 そうしたドライバーの行動に輪をかけて、パリの運転を一層難しくしている原因に、道路網の複雑さがある。
地図を見る限り、パリの道路は迷路のように入り組んでいるわけではない。むしろ整然としていて、都市計画の立派なお手本ともいえる。
だが、放射線を基本とした道路網は、大きな目標にまっすぐ向かうには良いが、いったん迷い出すと切りがない。道路同士が直交せず、常にある角度で交わっているので、よほど注意していても方向感覚を失ってしまう。
その上一方通行が多い。そのため、いったん道を間違えても引き返すことができない。いくつかの交差点を曲がっているうちに方向感覚が麻痺して、つい迷ってしまうはめになる。

しかし運転者と共に、同乗客も方向感覚を失っていて、道に迷ったことに気づかない。そこで私は迷っても、客が気づくまで黙っていようと考えた。ただでさえ私の運転に不安げな客を、一層不安におちいらせることはないのだ。
考え方を変えれば、こんなことができるのも、パリの道路の良さなのかもしれない。
道が分らなくなった時に慌てることは禁物である。「お陰で新しい街に出くわした」と気楽に考えるのが良い。パリの街はそれぞれが個性豊かで、異なった味わいがあるのだ。もちろんその分行動時間にゆとりが必要ではある。
また、いかに道に迷っても、そのうち必ず見知りの広場に出ることができる。これは放射状道路網の良い点である。
しかし何と言っても迷わないに越したことはない。そこで慣れない間は、毎日曜日が道路下見の日となる。その週に行かねばならない事務所やホテルまでの道を、あらかじめ運転して覚えておく配慮である。

アメリカのベストセラー『ヨーロッパ5ドルの旅』にも「パリに入る時には車を市外に預けなさい」と書かれている。パリはそれほど世界に名高い、運転の難所なのだ。
だが「パリは運転マナーが悪い」と単純に割切る説には、すぐさま賛成はできない。いささか問題は複雑で、それなりに合理的と思われる考え方が、その背景に入り交じっているからである。

第一に、ここの人は自動車を普段履きの下駄程度に考えていて、多少接触し合って傷ができても余り意に介さない。
好対照なのはドイツで、ドイツ人はちょっとした傷や汚れに異常と思われるほど神経質だ。車は自分の分身であり、あるいは全生活のシンボルなのだろう。
外国からやって来る人は、パリの自動車の凹んだり傷だらけの姿に驚きかつ軽蔑する。だがフランス人は全く平気。ドイツの車を見て「彼らは乗るためでなく、磨くために車を買うのだ」と、馬鹿にする。
パリで路上で駐車する場合、すでに駐車している車のわずかな隙間をねらって、前後の車に当てながら、次第に自分のスペースを生み出して行く。こんなことをドイツでやったら大変だ。
つまりパリジャンは、「バンパーは、車を接触し合うための道具」と、その存在理由を前向き(?)に捕らえている。そのために駐車時にハンドブレーキを掛けたり、ギヤを入れっぱなしにすることは厳禁である。

街の中のプライオリティー(優先)は、極めてシンプルに「右優先」である。(最近優先のはっきりした交差点が生まれた)道路の太い細いや、交通量の多い少ないは関係ない。
「それでうまく治まっているのがフランスの良さだ」
と、フランス贔屓は言う。そして
「ドイツならばトラブルが絶えないだろう」
と、つけ加える。ドイツは交差点ごとに優先が明快に決まっているのだ。
一般にフランスでは
「フランス人は現実的で実利を尊重する。あるいは思考が柔らかくて融通性に富む」
「それに反してドイツ人はたてまえを重んじ、かたくなである」
と言われている。

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