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<br /><br /><br />友人と一ヶ月の欧州行きの旅に出た時の友人が遭遇した恐怖のお馬鹿体験話。<br /><br /> <br />フランクフルトのユースホステルで友人と別れ、二週間後にパリのユースホステルで落ち合う約束で、その晩、私はライン川沿いの古城のユースホステルに向かった。泊り客が真冬で私一人しか居ないという薄気味悪い古城のユースホステルに滞在中の深夜、とても妙な奴と遭遇し特異な体験をしていた時とまったく同じ晩にミュンヘンに滞在していた友人が遭遇したやばかった体験話です。<br /><br />私はこの友人Kの話を二週間後に落ち合ったパリ郊外のユースホステルの一室でKの巧みな話術とあまりに定番なお馬鹿の王道を行くような話の展開ぶりの所為もあり腹を抱える程に大笑いしながら聞いたものだった。 その話とは、、、<br /><br />・・・・・・・・・・・・・・・・・<br />ミュンヘンのユースホステルで荷を解いた友人Kは今夜、列車でミュンヘンを離れるという大阪の学生Yとユースホステルで一緒になり、日本人同士の気安さから、一緒に街に繰り出すことになった。改札も車掌も居ないトラムに当然の如く彼らは無賃乗車を決め込み市内に向かった。午前11時になると機械仕掛けの人形が動き出す事で知られる市庁舎ホールの脇をすり抜け、細い路地を入っていくとかってナチスドイツが結団式をやったことでも知られる世界最大のビヤホール<ホーフブロイハウス>が有る.<br /><br /><br />私の友人、Kはここで本場の生ビールを飲むのが長年の夢だったという。しかし、この時点で彼はまだ20歳だった。きっと十代の頃からの夢だったのだろう。夕方過ぎだったが黒光りした歴史を感じる長いテーブルが何十も並ぶホール内は5000人収容の所為か、人影はまばらに感じた。1Lの陶製のジョッキになみなみと注がれる生ビールの旨さは積年の想いとその雰囲気の良さもあり格別だったらしい。<br />彼らのテーブルには酔いも手伝うのか、物珍しさもあるのか様々な酔客がやってきては彼らにビールを振舞ってくれたという。自分の金で飲んだビールは最初の一杯だけだった。彼等は振る舞われるビールジョッキを嬉しそうにひたすら空けた。ただ残念なことに彼らのテーブルにやってくるのは最初のうちは老人ばかりであるのが、寂しくもあり哀しくもあったと、後にKは私に述懐する。ところが!、、ところが〜〜である////<br /><br /><br />そんな彼らのテーブルにまるで旧知の友達を見つけたが如く、<br />親しげな微笑みを浮かべながら近づいてきた二人連れの妙齢の女性が居た。K曰く、一人はオリビア・ニュートンジョン似の美形、もう一人はマギー・ミネンコ似のファニーな娘だったという。<br />その話を後に聞いた私はマギー・ミネンコじゃときめかないぞと笑った。しかし彼らは違った。彼らは大いにトキメイタ! <br /><br />俺たちは何てツキがあるんだと! Kは心の中で誓った。<br />今夜はユースホステルに帰らないぞ! と、、(*^_^*)<br />一方、大阪の学生Yは思った。夜行に乗らないでもう一泊、ミュンヘンに滞在だぁ。彼らはあまりにも短絡していた。旅先で、そんな僥倖など、まず有り得ないという事を学習していなかった。確かにKはその夜、ユースホステルに泊まる事はなかった。 しかし、それは彼らが願った事と異なる事情で、、、<br />彼らは自ら地獄と恐怖の階段を歩み始めたとはその時、知る由もなかった。<br />     VOL-2<br /><br />ホーフブロイハウスで大いに意気投合したと大いに錯覚していた実にめでたく幸せな彼らだった。河岸を代えよう、違うところで飲みなおそうと提案したのは彼らの方だった。ビヤホールを出た二組の即席カップルはビヤホールから程近い大きなホテルの地下バーに向かった。<br />しかし、ホテルのバーは彼らには敷居が高かったのかもしれない。<br />もともと言葉の通じないものが静かなバーで会話など楽しめるはずもなかった。<br /><br />オリビア・ニュートンジョン似の自称ポーランドからの旅行者が<br />私の友人のKに耳元で息を吹きかけるように囁いたと云う。<br />「私の知ってる良い店があるの。そこにいきましょう」<br />英語をほとんど解する事の出来ぬ友人Kはこの言葉を理解するのに15分はかかったと述懐する。その言葉を聞いて私は驚くのだ。15分もかけても阿呆な日本人達を、篭絡しよう、引きずり込もうとするニュートン嬢の粘りには狙った獲物は絶対に逃がさないという凄みすら感じる話ではないか。<br /><br />お馬鹿で助平で下心に満ち溢れた、この二人がその言葉に篭絡されホイホイ付いて行くのも当然の成り行きだった。この際、ポーランドからの旅行者が何故ミュンヘンに良い店があるということを知っているのだ、、などの辻褄の合わぬ疑念や野暮なことは一切とも考えないのが下心に溢れた男の哀しい性(さが)なのだと云うしかない。彼等はトラップにかかる男達の王道というか花道を歩み始めた。<br /> <br />友人Kの相方が成り行きからオリビア・ニュートンジョン風となり、マギー・ミネンコ風と相方に成らざるを得なかった大阪出身のYはブツブツ言っていたが、彼らの共通認識は今夜はユースホステルには絶対に戻らない、夜行には乗らない、ということで一致していた。ホテルのバーを出ると、外は既に黄昏から暗闇が辺りを支配していた。<br /><br />街外れにあるという、その彼女の知っているという店に彼らはタクシーで向かった。<br />タクシーの中でも彼女達はこの助平でお馬鹿な日本人達がこの期に及んで、翻意なぞせぬように、心変わりなどしないようにとばかり、Kの腕に手を絡ませ身体をすり寄せてきたという。なんと詰めの巧みさを感じる話ではないか。この時、この二人の日本人は「なんて俺達はツイテイルんだ〜 今夜は何処のホテルに泊まろうか?」「駅前にホテルがあったぞ」などと呑気に話していたらしい。 タクシーはやがて街外れの赤い看板の出ているバーの前で静かに停まった。嵐の前の静けさだった。<br />         <br />      VOL-3<br /><br />店の扉を開けると、薄暗い店内に客は誰も居なかった。彼等は入り口の近くのハンガーにコートを掛けるように促され、あまり洒落ているとは云い難いバーカウンターが置かれた傍の四人掛けのテーブルに座った。殺風景な店だった。バーカウンターには悪漢面の中年の男が射るような目付きでお馬鹿日本人二人の値踏みを始めていた。女達は勝手しったお店という雰囲気の中で飲み物を次々と注文していく。オリビア・ニュートンジョン似も、マギーミネンコ似もここまで彼等を引っ張ってきたら、もうお愛想を振り撒く必要も無いとばかり、少しずつ冷やかな表情を見せ始め距離を置き始めていた。お馬鹿な二人も何となく妙な雰囲気だなあと遅まきながら気が付き始めていた。 <br />嗚呼<君子危うきに近寄りすぎた>と云うしかない。<br /><br />店に入って小一時間もしないうちに、バーカウンターの悪漢面が無造作に彼等のテーブルに勘定書を二枚置いた。<br />それぞれに下手な手書きで1000マルク<当時の邦貨換算で12万円>と書かれていた。一人12万!!女達はシレッとした表情でカウンターの止まり木に移動してカウンター内の悪漢面と話している。<br /><br />友人Kはこの一ヶ月の欧州滞在費用として9万円しか持参していなかったと云う。一日三千円の予算で飲み食い+宿泊代まで賄うつもりで日本を飛び出してきていた。 いつの間にか、彼等の座るソファの脇にはカウンタの悪漢面とは別の、プロレスラーの様な体躯をした男が、腕組みをしながら彼等を見下ろして立っている。大阪の学生Yが、Kにどうする?と震えがちな声で尋ねた。Kは即座に云う。<逃げるしかないだろ!><br />日本語が判らないことを良いことに、彼等は震えがちな声で計略を練った。2月の寒い時期なのに、自らの心拍音を感じ背中を冷や汗が止め処なく落ちるのを感じたと後にKは私に語った。ドア出口付近の自分達のコートからお金を支払う振りをして近づき、そのまま一気に逃げよう。<br /><br />店内を奇妙な静けさが支配していた。KとYは勘定書を手にすると、了解したとばかりに相手を油断させるように顔を引き攣らせながらもにこやかに振る舞い、ドア近くのコートに手を掛けた。店の連中はまさか逃げるとは思いもしないのか、彼等に近づいて来ない。 彼等はコートのポケットの中に財布が有るが如く、まさぐるような手つきをしつつ、いっきにドアに近づいた。Yがドアノブに手を掛ける。<br />「あ、開かねぇよ!」 Kが怒鳴る 「ドアを引くんじゃない!押すんだ!」<br />ドアは文字通り押し出されるように開いた。背後から叫び声と怒声が響く。後からドアの外に出たKの衣服が背後から強い力で引っ張られる、Kは必死の力で身体をよじり、振りほどく。怒声を背後から浴びながら後ろを振り返る余裕もなく、彼等は必死に走り続けた。数百メートル走って大通りに出た。追っ手の気配はもうなかった。 <br />大通りに出ると彼等はそれぞれにタクシーを見つけ飛び乗った。<br />流しのタクシーなぞ西ドイツには無いと思うのに、よくタクシーが捕まったなぁと私が問うとKは云った「クモの糸が上から1本だけ降りてきて俺達を救ってくれたような気がする」<br /><br />Kの行く先はユースホステルだった。タクシーをユースホステル前に待たせたまま、Kはひたすらチェックアウト、チェックアウトと叫んだという。一泊もしていないのに、チェックアウトである。女達にユースホステルに滞在していると話した所為で、必要以上に身の危険を感じていた。Kはユースホステルの受付の男が怪訝そうな表情を浮かべているのも気にすることなく、ユースホステルのコインロッカーに預けていたザックを取り出すと、待たせていたタクシーに再び飛び乗って、ミュンヘンの中央駅に向かった。<br /><br />この街から一刻も早く逃げ出したかった。もしかしたら奴等が駅に張り込んでいるかもしれないという恐怖感があった。逃げる時、背中を掴まれた恐怖心が蘇る。 駅に到着しタクシーから降りると、辺りを見回しすばやく構内に入り込んだ。行く先は何処でも良かった。ユーレイルパスを持っているので何処にでも自由に行けるのだ。数十本もあるホームの中から一番端のホームにいつの間にか入っていった。構内から一番離れたホームの一番先まで身を隠すように下を向いて歩いていった。 ここまで来たら見つかる事はないだろうと、思った刹那だった。<br />「お〜い、、お〜い、、、」と、押し殺すような日本語が柱の影から聞こえてきた。<br /><br />ふと振り返るとホームの柱の影に身を潜めるようにしゃがみこんで隠れていたのは、お馬鹿仲間の大阪の学生Yだった。<br />           <br /><br /><br /><br /><br /><br />

ミュンヘン・キャッチバー篭絡事件/友人編

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kio

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友人と一ヶ月の欧州行きの旅に出た時の友人が遭遇した恐怖のお馬鹿体験話。

 
フランクフルトのユースホステルで友人と別れ、二週間後にパリのユースホステルで落ち合う約束で、その晩、私はライン川沿いの古城のユースホステルに向かった。泊り客が真冬で私一人しか居ないという薄気味悪い古城のユースホステルに滞在中の深夜、とても妙な奴と遭遇し特異な体験をしていた時とまったく同じ晩にミュンヘンに滞在していた友人が遭遇したやばかった体験話です。

私はこの友人Kの話を二週間後に落ち合ったパリ郊外のユースホステルの一室でKの巧みな話術とあまりに定番なお馬鹿の王道を行くような話の展開ぶりの所為もあり腹を抱える程に大笑いしながら聞いたものだった。 その話とは、、、

・・・・・・・・・・・・・・・・・
ミュンヘンのユースホステルで荷を解いた友人Kは今夜、列車でミュンヘンを離れるという大阪の学生Yとユースホステルで一緒になり、日本人同士の気安さから、一緒に街に繰り出すことになった。改札も車掌も居ないトラムに当然の如く彼らは無賃乗車を決め込み市内に向かった。午前11時になると機械仕掛けの人形が動き出す事で知られる市庁舎ホールの脇をすり抜け、細い路地を入っていくとかってナチスドイツが結団式をやったことでも知られる世界最大のビヤホール<ホーフブロイハウス>が有る.


私の友人、Kはここで本場の生ビールを飲むのが長年の夢だったという。しかし、この時点で彼はまだ20歳だった。きっと十代の頃からの夢だったのだろう。夕方過ぎだったが黒光りした歴史を感じる長いテーブルが何十も並ぶホール内は5000人収容の所為か、人影はまばらに感じた。1Lの陶製のジョッキになみなみと注がれる生ビールの旨さは積年の想いとその雰囲気の良さもあり格別だったらしい。
彼らのテーブルには酔いも手伝うのか、物珍しさもあるのか様々な酔客がやってきては彼らにビールを振舞ってくれたという。自分の金で飲んだビールは最初の一杯だけだった。彼等は振る舞われるビールジョッキを嬉しそうにひたすら空けた。ただ残念なことに彼らのテーブルにやってくるのは最初のうちは老人ばかりであるのが、寂しくもあり哀しくもあったと、後にKは私に述懐する。ところが!、、ところが〜〜である////


そんな彼らのテーブルにまるで旧知の友達を見つけたが如く、
親しげな微笑みを浮かべながら近づいてきた二人連れの妙齢の女性が居た。K曰く、一人はオリビア・ニュートンジョン似の美形、もう一人はマギー・ミネンコ似のファニーな娘だったという。
その話を後に聞いた私はマギー・ミネンコじゃときめかないぞと笑った。しかし彼らは違った。彼らは大いにトキメイタ! 

俺たちは何てツキがあるんだと! Kは心の中で誓った。
今夜はユースホステルに帰らないぞ! と、、(*^_^*)
一方、大阪の学生Yは思った。夜行に乗らないでもう一泊、ミュンヘンに滞在だぁ。彼らはあまりにも短絡していた。旅先で、そんな僥倖など、まず有り得ないという事を学習していなかった。確かにKはその夜、ユースホステルに泊まる事はなかった。 しかし、それは彼らが願った事と異なる事情で、、、
彼らは自ら地獄と恐怖の階段を歩み始めたとはその時、知る由もなかった。
     VOL-2

ホーフブロイハウスで大いに意気投合したと大いに錯覚していた実にめでたく幸せな彼らだった。河岸を代えよう、違うところで飲みなおそうと提案したのは彼らの方だった。ビヤホールを出た二組の即席カップルはビヤホールから程近い大きなホテルの地下バーに向かった。
しかし、ホテルのバーは彼らには敷居が高かったのかもしれない。
もともと言葉の通じないものが静かなバーで会話など楽しめるはずもなかった。

オリビア・ニュートンジョン似の自称ポーランドからの旅行者が
私の友人のKに耳元で息を吹きかけるように囁いたと云う。
「私の知ってる良い店があるの。そこにいきましょう」
英語をほとんど解する事の出来ぬ友人Kはこの言葉を理解するのに15分はかかったと述懐する。その言葉を聞いて私は驚くのだ。15分もかけても阿呆な日本人達を、篭絡しよう、引きずり込もうとするニュートン嬢の粘りには狙った獲物は絶対に逃がさないという凄みすら感じる話ではないか。

お馬鹿で助平で下心に満ち溢れた、この二人がその言葉に篭絡されホイホイ付いて行くのも当然の成り行きだった。この際、ポーランドからの旅行者が何故ミュンヘンに良い店があるということを知っているのだ、、などの辻褄の合わぬ疑念や野暮なことは一切とも考えないのが下心に溢れた男の哀しい性(さが)なのだと云うしかない。彼等はトラップにかかる男達の王道というか花道を歩み始めた。
 
友人Kの相方が成り行きからオリビア・ニュートンジョン風となり、マギー・ミネンコ風と相方に成らざるを得なかった大阪出身のYはブツブツ言っていたが、彼らの共通認識は今夜はユースホステルには絶対に戻らない、夜行には乗らない、ということで一致していた。ホテルのバーを出ると、外は既に黄昏から暗闇が辺りを支配していた。

街外れにあるという、その彼女の知っているという店に彼らはタクシーで向かった。
タクシーの中でも彼女達はこの助平でお馬鹿な日本人達がこの期に及んで、翻意なぞせぬように、心変わりなどしないようにとばかり、Kの腕に手を絡ませ身体をすり寄せてきたという。なんと詰めの巧みさを感じる話ではないか。この時、この二人の日本人は「なんて俺達はツイテイルんだ〜 今夜は何処のホテルに泊まろうか?」「駅前にホテルがあったぞ」などと呑気に話していたらしい。 タクシーはやがて街外れの赤い看板の出ているバーの前で静かに停まった。嵐の前の静けさだった。
         
      VOL-3

店の扉を開けると、薄暗い店内に客は誰も居なかった。彼等は入り口の近くのハンガーにコートを掛けるように促され、あまり洒落ているとは云い難いバーカウンターが置かれた傍の四人掛けのテーブルに座った。殺風景な店だった。バーカウンターには悪漢面の中年の男が射るような目付きでお馬鹿日本人二人の値踏みを始めていた。女達は勝手しったお店という雰囲気の中で飲み物を次々と注文していく。オリビア・ニュートンジョン似も、マギーミネンコ似もここまで彼等を引っ張ってきたら、もうお愛想を振り撒く必要も無いとばかり、少しずつ冷やかな表情を見せ始め距離を置き始めていた。お馬鹿な二人も何となく妙な雰囲気だなあと遅まきながら気が付き始めていた。 
嗚呼<君子危うきに近寄りすぎた>と云うしかない。

店に入って小一時間もしないうちに、バーカウンターの悪漢面が無造作に彼等のテーブルに勘定書を二枚置いた。
それぞれに下手な手書きで1000マルク<当時の邦貨換算で12万円>と書かれていた。一人12万!!女達はシレッとした表情でカウンターの止まり木に移動してカウンター内の悪漢面と話している。

友人Kはこの一ヶ月の欧州滞在費用として9万円しか持参していなかったと云う。一日三千円の予算で飲み食い+宿泊代まで賄うつもりで日本を飛び出してきていた。 いつの間にか、彼等の座るソファの脇にはカウンタの悪漢面とは別の、プロレスラーの様な体躯をした男が、腕組みをしながら彼等を見下ろして立っている。大阪の学生Yが、Kにどうする?と震えがちな声で尋ねた。Kは即座に云う。<逃げるしかないだろ!>
日本語が判らないことを良いことに、彼等は震えがちな声で計略を練った。2月の寒い時期なのに、自らの心拍音を感じ背中を冷や汗が止め処なく落ちるのを感じたと後にKは私に語った。ドア出口付近の自分達のコートからお金を支払う振りをして近づき、そのまま一気に逃げよう。

店内を奇妙な静けさが支配していた。KとYは勘定書を手にすると、了解したとばかりに相手を油断させるように顔を引き攣らせながらもにこやかに振る舞い、ドア近くのコートに手を掛けた。店の連中はまさか逃げるとは思いもしないのか、彼等に近づいて来ない。 彼等はコートのポケットの中に財布が有るが如く、まさぐるような手つきをしつつ、いっきにドアに近づいた。Yがドアノブに手を掛ける。
「あ、開かねぇよ!」 Kが怒鳴る 「ドアを引くんじゃない!押すんだ!」
ドアは文字通り押し出されるように開いた。背後から叫び声と怒声が響く。後からドアの外に出たKの衣服が背後から強い力で引っ張られる、Kは必死の力で身体をよじり、振りほどく。怒声を背後から浴びながら後ろを振り返る余裕もなく、彼等は必死に走り続けた。数百メートル走って大通りに出た。追っ手の気配はもうなかった。 
大通りに出ると彼等はそれぞれにタクシーを見つけ飛び乗った。
流しのタクシーなぞ西ドイツには無いと思うのに、よくタクシーが捕まったなぁと私が問うとKは云った「クモの糸が上から1本だけ降りてきて俺達を救ってくれたような気がする」

Kの行く先はユースホステルだった。タクシーをユースホステル前に待たせたまま、Kはひたすらチェックアウト、チェックアウトと叫んだという。一泊もしていないのに、チェックアウトである。女達にユースホステルに滞在していると話した所為で、必要以上に身の危険を感じていた。Kはユースホステルの受付の男が怪訝そうな表情を浮かべているのも気にすることなく、ユースホステルのコインロッカーに預けていたザックを取り出すと、待たせていたタクシーに再び飛び乗って、ミュンヘンの中央駅に向かった。

この街から一刻も早く逃げ出したかった。もしかしたら奴等が駅に張り込んでいるかもしれないという恐怖感があった。逃げる時、背中を掴まれた恐怖心が蘇る。 駅に到着しタクシーから降りると、辺りを見回しすばやく構内に入り込んだ。行く先は何処でも良かった。ユーレイルパスを持っているので何処にでも自由に行けるのだ。数十本もあるホームの中から一番端のホームにいつの間にか入っていった。構内から一番離れたホームの一番先まで身を隠すように下を向いて歩いていった。 ここまで来たら見つかる事はないだろうと、思った刹那だった。
「お〜い、、お〜い、、、」と、押し殺すような日本語が柱の影から聞こえてきた。

ふと振り返るとホームの柱の影に身を潜めるようにしゃがみこんで隠れていたのは、お馬鹿仲間の大阪の学生Yだった。
           





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この旅行記へのコメント (19)

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  • M-koku1さん 2008/10/26 08:58:43
    本当にひっかかってる人がいるんだ!
    kioさん

    外務省からのお知らせで、
    こういう事件のご注意がよく回ってきますが、
    どうしてひっかかるのかなあと本当に不思議に思っていました。

    男性の心理状態がよ〜くわかる旅行記で、
    大変参考になりました。
    今度から連れて行く男性陣に、この旅行記のコピーを渡そうかな?

    まったくもう ブツブツブツ です。
    こんな事件を起こされたら、
    連れて行った私の責任、大騒ぎになってしまいます。
    やめてくれ〜

    いい教訓を有難うございました。

    ではまた M

    kio

    kioさん からの返信 2008/10/26 23:09:45
    旅の開放感かも?
    m−kokuさん お久しぶりです。

    ミュンヘンでのお馬鹿体験談を読んで頂いたんですね
    投票まで頂き有り難うございます。

    > 男性の心理状態がよ〜くわかる旅行記で、
    > 大変参考になりました。
    > 今度から連れて行く男性陣に、この旅行記のコピーを渡そうかな?

    旅先での女性絡みの僥倖など滅多に有り得ないと普段は考えていても
    もしや これは超ラッキー〜♪なのかも〜〜などと旅の開放感から
    大いなる考え違いで、奈落の底にはまっていく日本の♂は後を絶ちません。

    日本女性は海外では間違いなく、もてますから問題ないけど
    日本男性がもしも もてたとしたら、きっと裏に何かあるとすぐには
    考えられないんですよねえ これが・・・(爆)
    騙された後で、騙されたと初めて気が付く。



    > まったくもう ブツブツブツ です。
    > こんな事件を起こされたら、
    > 連れて行った私の責任、大騒ぎになってしまいます。

    いい大人なんですからこんな事に巻き込まれたとしても
    自己責任の極みですよん
    m−kokuさんにはなんら責任などありませんってば〜
    引っかかる奴が悪いと思いますけど・・・普通に。

    M-koku1

    M-koku1さん からの返信 2008/10/28 07:12:58
    RE: 旅の開放感かも?
    >
    > いい大人なんですからこんな事に巻き込まれたとしても
    > 自己責任の極みですよん
    > m−kokuさんにはなんら責任などありませんってば〜
    > 引っかかる奴が悪いと思いますけど・・・普通に。

    kioさん

    そうでもないんですよ。
    どうせみんな英語が達者じゃないんですから
    結局私が面倒を見なくちゃならないんです。

    損な役回りです。

    では M  (TへT)
  • SUR SHANGHAIさん 2007/02/05 15:53:42
    お色仕掛け(?)のお勘定には色が付く? (^○^)
    いや〜、昨年末の台湾地震以来、ネットがボロボロになってました。
    自分の編集画面には到達できていたのでアップはしてましたが。

    一ヶ月を経過し、やっとほかのトラベラーさんのページにもサクサクとお邪魔できるように。(^_^)v


    男の人は、この旅行記のような手に引っかかりやすいんですね〜。
    そういう所があると言うのはあちこちで見聞きしてるはずなのに、それでも古今東西後が絶たないのは、男の人たちは下心(?)の持ち具合が違うんでしょうね。(^○^)

    下心にくだる鉄槌、おそろしや〜、と、よく出張に行く旦那にも釘を刺しておきますです。

    kio

    kioさん からの返信 2007/02/06 21:32:31
    RE: お色仕掛け(?)のお勘定には色が付く? (^○^)
    sur shanghaiさん お久しぶりでっす!

    >男の人は、この旅行記のような手に引っかかりやすいんですね〜。
    そういう所があると言うのはあちこちで見聞きしてるはずなのに、それでも古今東西後が絶たないのは、男の人たちは下心(?)の持ち具合が違うんでしょうね。(^○^)

    <ミュンヘン・キャッチバー籠絡事件>編を読んで貰えたのですね
    下心、スケベ心 一杯に膨らませてはトラップ<罠>に引っかかる
    男達の王道を行くようなあまりに定番なストーリー展開でした(*^_^*)
    彼等は逃げ切る事が出来たから笑い話で済みますが捕まっていたら
    かなり悲惨な事になっていたでしょう。



    >下心にくだる鉄槌、おそろしや〜、と、よく出張に行く旦那にも釘を刺しておきますです。

    旅先の解放感はスベテを凌駕してしまうもんです・・(-。-) ボソッ

    ここで一句、、

    色仕掛け
    男は急に
    止まれない(*^_^*)

    SUR SHANGHAI

    SUR SHANGHAIさん からの返信 2007/02/06 22:26:33
    RE: お色仕掛け(?)のお勘定には色が付く? (^○^)
    >旅先の解放感はスベテを凌駕してしまうもんです・・(-。-) ボソッ


    そうかもです。
    「男の人たちは下心(?)の持ち具合が違うんでしょうね。(^○^)」
    とは申しましたが、女の人の下心については言及しませんでした。
    旅先の解放感はスベテを凌駕してしまうものなのよ…。(-。-)ヒソッ
    …ということも、可能性としてはありえます。


    念のため、上の五行は冗談ですよん。(^○^)(^○^)
    こういう冗談を言うから、私は誤解されやすい。(^^ゞ

    kio

    kioさん からの返信 2007/02/06 22:43:37
    RE: お色仕掛け(?)のお勘定には色が付く? (^○^)
    >男の人たちは下心(?)の持ち具合が違うんでしょうね。(^○^)」
    とは申しましたが、女の人の下心については言及しませんでした。
    旅先の解放感はスベテを凌駕してしまうものなのよ…。(-。-)ヒソッ
    …ということも、可能性としてはありえます。

    もう仰る通り、、実に核心を突いていると思いますよん

    旅の空
    男も女も
    羽<はね>ひろげ〜  ←字余り(^-^;

    >念のため、上の五行は冗談ですよん。(^○^)(^○^)
    こういう冗談を言うから、私は誤解されやすい。(^^

    えっ? 冗談だったんですかぁ〜〜? (´ヘ`;)ハァ
  • さすらいおじさんさん 2007/01/28 23:47:27
    ミュンヘン
    kioさん

    私もザルツブルクのあと、ミュンヘンのYHに泊まって、市庁舎の人形も見に行ったし、駅前に歓楽街があるのを見て歩いたので、イメージが浮かびます。
    1976年の12万といったら今の30万くらいでしょう。
    良く逃げられたものですね。
    私は海外で暴力バーにだまされたことは無いけれど、もし私なら、逃げ足に自信ないし、警察に電話したら助けてくれるだろうか? など我が事のように想像しました。
    日本人はいい鴨だから、気をつけねばなりませんね。
    役に立つ警鐘、感謝です。

    kio

    kioさん からの返信 2007/01/29 20:50:19
    RE: ミュンヘン

    さすらいおじさん殿 <ミュンヘンキャッチバー篭絡編>に
    投票まで頂戴しありがとうございます

    >1976年の12万といったら今の30万くらいでしょう。
    良く逃げられたものですね。

    もし捕まったら大変な目に遭ったのではないかと
    思いますよん。有り金すべて巻き上げられて 多分、、、

    当時 ドイツのユースホステルが朝食付で邦貨換算で700〜800円でしたからね
    15日間有効のユーレイルパスが
    でも当時、利用した旧ソビエトのモスクワ経由のアエロフロートで
    欧州往復が168000円でした。航空券に関しては今のほうが
    はるかに安いですよね。

    >日本人はいい鴨だから、気をつけねばなりませんね。

    まさしく! 旅先での思いもよらぬ僥倖なぞ滅多に有るものでは無い!
    これ 私がバックパッカー時代に得た教訓でっす(笑)

    kio

    kioさん からの返信 2007/01/29 20:54:15
    RE: ミュンヘン


    ユーレイルパスは当時の倍になっていますね。
    15日間有効のパスで4万円ちょっとだったですからね
  • ちょめたんさん 2006/05/26 23:07:24
    御馬鹿な友人編!?
    kioさんでは無いんですね(*゜ヘ゜*)ふ〜む(・_・?;)
    私も知らずにカードキーを挿しておかないと電気の消えるホテルで突然電気が消えたときには焦ってドアを押していました、開かない、開かない、・・
    電話で助けをと思っても番号が押せません゜゜(´O`。)゜ ゜。
    何のことは無い、引けば良かったんですね(*^∀^*)

    kio

    kioさん からの返信 2006/05/28 10:42:14
    違いますねん 
    >kioさんでは無いんですね(*゜ヘ゜*)ふ〜む(・_・?;)

    ん? 疑っているご様子(笑)
    でも旅行記にとても載せられないような旅先での超ド級なドジ話を
    おいらも幾つか抱えています(*^_^*)
    でも絶対に載せませんよん(^-^;

    >私も知らずにカードキーを挿しておかないと電気の消えるホテルで突然電気が消えたときには焦ってドアを押していました、開かない、開かない、・・
    電話で助けをと思っても番号が押せません゜゜(´O`。)゜ ゜。
    何のことは無い、引けば良かったんですね(*^∀^*)

    パニクルと当たり前の判断が出来なくなるのは人間の常ですね
    まして見知らぬ異国だったりすると、パニック度は果てしなく
    加速していくもんですよね┐(\'〜`;)┌


    ちょめたん

    ちょめたんさん からの返信 2006/05/28 13:58:40
    RE: 違いますねん 
    ドサクサにまぎれて本編入れてください。主役はなんと言っても、恐ろしげな{{{{(+_+)}}}}バッグの持ち主kioさんなんですから!!
  • kyokosa-nさん 2006/05/20 21:07:59
    名文に引き込まれて一気に読みました。
    S氏の事。
    林君のこと
    パスポートの事、拝見しました。
    一枚の写真が物語る語りの名文に引き込まれるように
    読ませていただきました。
    体験とストーリーの組み立て、そしてドラマの完結と
    素晴らしいです。
    読んだ後にもう一度写真を眺めました。
    やっぱり名文です。
    一枚の写真が物語る」名文に。
    これからも楽しませていただきます。

    kio

    kioさん からの返信 2006/05/21 20:15:24
    kyokosa-nさん  こんばんわ!
    >S氏の事。
    林君のこと
    パスポートの事、拝見しました。
    一枚の写真が物語る語りの名文に引き込まれるように
    読ませていただきました。
    体験とストーリーの組み立て、そしてドラマの完結と
    素晴らしいです。

    何篇も読んで頂きありがとうございますm(._.)m ペコッ
    過分なお言葉まで頂戴し恐縮でっす。

    風来坊な観光とは程遠いような一年に渡る旅の日々でした。
    非日常の旅の移動の日々の中で、毎日が出逢いと別れの繰り返しでした。
    思うに独り旅でいたからこそ、彼等と出逢ったという事も理解できます。

    あれから随分と齢を重ねましたが、今なら一期一会の本当の意味を理解
    出来るような気がします。

    リスボンの林君も、パリの理髪師S氏も、マニラの怪しげ自称ガイド
    ダニーも、今 この瞬間、それぞれのポジションで世界の何処かで
    生きているんだろうなと思うと、彼等に軽いエールを送りたい気分にすら
    なりますよ。

    PS 多分、私が20代の頃、ヒマラヤの谷間の村でスルジュ館というロッジを
    経営していたバックパッカー上がりの日本人の生活の日々を綴った本を
    読んだ事がありました。元々はそのロッジは彼の嫁さんになるネパール人が
    経営していたものだったんですが、とても興味深く、ワクワクするような
    気分で一晩で読み切った記憶があります。 
    kyokosa-nさんは多分ご存知でもしれませんけど。






    kyokosa-n

    kyokosa-nさん からの返信 2006/05/21 21:18:11
    RE: kyokosa-nさん  こんばんわ!
    こんばんわ。今日は5月の久しぶりの爽やかな風に誘われて箱根の神山を歩いて来ました。新緑の山肌にはつつじが咲き、コイワカガミの群落に「可愛い!\(-o-)/」と歓声を上げ久々に山を堪能しました。

    ネパールのスルジュ館の本読みました。偶然にもご主人の平尾和男氏のネパール語教室に3年ほど前に通ったことがあります。本の内容と現実の平尾さんと重ねあわすことが出来なかったことを覚えています。

    若き日の思い出の写真から素晴らしき思い出を語られるkioさん。
    これからも名文をご披露下さい。楽しみにしています。
                  
                  kyokosa-nさんより

    kio

    kioさん からの返信 2006/05/21 21:45:10
    ネパール語のこと kyokosa-nへ
    >今日は5月の久しぶりの爽やかな風に誘われて箱根の神山を歩いて来ました。新緑の山肌にはつつじが咲き、コイワカガミの群落に「可愛い!\(-o-)/」と歓声を上げ久々に山を堪能しました。

    今の時期、箱根の山歩きは最高でしょうね♪ 
    旧道の石畳を踏みしめるように歩くとナニゲに江戸時代の山越えに
    思いが至る私はヘンでしょうか?(*^o^*)

    >ネパールのスルジュ館の本読みました。偶然にもご主人の平尾和男氏のネパール語教室に3年ほど前に通ったことがあります。本の内容と現実の平尾さんと重ねあわすことが出来なかったことを覚えています。

    ああ そうだったんですか〜 私が平尾氏の名前を旅行記を読んで、その後
    何十年ぶりくらい唐突に見たのは新聞の社会面でした。
    ネパールでは日常的な事でも国内ではイリーガルなモノでちょっと
    躓いてしまったんですね。

    ネパール語、勉強されているんですね。とてもあやふやな記憶ですが
    さる言語学者曰く、日本語のルーツはネパール語にあり、という
    話を何処かで聞いたことがあります。
    同じ発音で同じ意味の言葉が幾つもあるとか? 
    もしそうだとしたら、かなりロマンがありますね
    仏教ルートで伝わってきたのかなあ、、、(・_・?)ハテ


  • enyasuさん 2005/06/08 10:30:19
    kioさんの旅行記面白い!
    ミュンヘンでの捕獲、逃げる、東大生の話・・・

    順番にみさせてもらっています。実話は本当に面白いです。

    はらはらする旅行記、今後も楽しみにしてます。

    kio

    kioさん からの返信 2005/06/08 23:29:46
    RE: kioさんの旅行記面白い! enyasu様 ありがとうございます〜〜
    enyasuさん はじめまして〜書き込みありがとうございます。


    enyasuさんと自分は誕生日が同じでした(笑)
    でも多分、私のほうが爺様だとおもいますが(^^;
    中国在住なのですね。今度、じっくりとenyasuさんの旅記を読ませて
    頂きます。その時に改めて書き込みさせて頂きます。

kioさんのトラベラーページ

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