2025/09/17 - 2025/10/28
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Pメテオラさん
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2025年の9月から10月にかけて、スペインのサンチアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路のひとつ「フランス人の道」を歩き通しました。フランスのサンジャン・ピエ・ドゥ・ポールからサンチアゴ・デ・コンポステーラまでの779㎞です。厳しいけれど、とても楽しい旅でした。
サンチアゴ・デ・コンポステーラの巡礼は、日本のお遍路さんに似ています。信仰心に根差した修行でもあり、日常生活から完全に離れた楽しい長旅でもあります。ユニークな内容のスペイン体験であることは間違いありません。
誰もが異口同音に言っているように、巡礼者が千人いれば千通りの実体験と感動があります。それを語らずには居られない衝動にかられることも事実だと思いました。私も、そうした巡礼者のひとりとして体験したこと、感じたことを書いてみました。けれども人生観や人格は変わっていないようで、この部分は他の多くの巡礼者と異なっています。私の心構えがなっていないのか、他の方が感化されすぎなのか真偽のほどは永遠に分からないでしょう。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 同行者
- 一人旅
- 一人あたり費用
- 50万円 - 100万円
- 交通手段
- 鉄道 高速・路線バス 徒歩
- 航空会社
- エールフランス
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
【スペイン巡礼は普通の日本人でも可能でしょうか】
はっきり言って「NO:できません」です。
理由は明快です。「休暇がない」、「語学苦手でコミュ能力がない」、「円安で金がない」からです。特に、十分な休暇が取れないことは致命的です。私も退職前に有給休暇全部消化を強く宣言して巡礼日数を確保しました。ですから、上司の目を気にしつつ1週間か10日ほど休む普通の日本人サラリーマンがスペイン巡礼をするのは事実上不可能です。
このため、日本でスペイン巡礼が「はやる」ことは、まず考えられないと思います。ただし、100㎞コースの巡礼旅に出る方が増える可能性はゼロではないと思います。(写真は100㎞コースの出発地サリアの夕暮れ) -
【日本人巡礼者は、社会の”はみ出し者”です】
日本人巡礼者数は年間1500人ほどなので、私も1カ月の道中で4-5人の日本人に会った程度です。ほとんどゼロと言っていいでしょう。
数少ない会話などから感じたのは、日本人巡礼者は、日本人社会の”はみ出し者”だということ。会社をやめて巡礼に出てきた、世界一周旅行の一部だ、退職後の趣味が高じて、などなど一般人には実行できない事情で巡礼に来ていると感じました。
このような人たちがスペイン巡礼の魅力を声高にアピールしても、普通の日本人はついて来られませんね。 -
【日本人巡礼者は気負い過ぎです】
前記のようなので、私の感じた限り、”はみ出し日本人の方”は相当、気負っています。スペイン巡礼や世界漫遊そのものが自分の存在価値だという意識になっているのでしょう。私からすれば、「そんなに気負わずとも、毎日、歩いていれば、そのうちサンチアゴ・デ・コンポステーラくらいには着きます」程度のほうが、ずっと話しやすい雰囲気になると思いました。(写真のように観光ツアーで来るのもよし) -
【私は、今のところ、人生観も性格も変わっていないです】
日本人巡礼者のブログや日記の大半が「人生観が変わった」という趣旨の話を書いていますが、私に限っては巡礼前後で変わった気がまったくしません。めったにできないスペイン体験ができて楽しかったとは思いましたが、人生観云々という心理にはなりませんでした。
もしかしたら、人生観が変わったのではなく、人生観を変えたいと内心思っていた人が、スペイン巡礼を理由にして「人生観変わった」と後付け論法でアピールしているのではないのでしょうか。(写真は大聖堂での巡礼者ミサが終わったところ) -
【巡礼者にみる、お国柄】
1カ月てくてく歩き、いろいろな国の人たちと会話していると、それぞれお国柄があるんだなと感じました。差別や個人攻撃をする気はまったくないことを理解いただいたうえで、エスニック・ジョーク的に強く感じた順に紹介します。
フランス人:フランス語が通じなくなった途端、借りてきた猫状態になる。
アメリカ人:世界の中心にいることを疑わず開放的で陽気そのもの。
オーストラリア人:開放的で陽気。日本人に一番、親近感を示してくれる。
カナダ人:開放的ながらも礼儀正しく謙虚で親切。巡礼者の鏡みたいな雰囲気。
ドイツ人:最初はちょっと強面ながらも、話し出せば陽気で開放的。
イギリス人:いい奴もいるが、少しお高くとまっていて付き合いにくい。
スペイン人:片言ながらスペイン語で話すと、とっても親切で人なつっこい。
韓国人:数人で固まり声も大きめなので少し不気味。日本語ができる人が多い。
日本人:無用にハイ・テンション、あるいは無口なので、やっぱり不気味。
普通の巡礼記ではこんなこと書いていないようですが、いかがでしょうか。
(写真のように、巡礼友達の友達を呼び合うと多国籍化は当然) -
【いつも日の出頃にはいない韓国人たち】
韓国人巡礼者は、けっこうワンパターンで行動していました。社会の同調圧力が強い点は日本人と似ているなと思いました。
① 早朝に起床し、いつでもどこでも暗いうちに宿屋を出て行く。
② 自炊している人がけっこう多い。
③ しょっちゅうスマホで写真撮影。ミサの最中でも撮りかねない。
④ たいてい2~3人で、しゃべりながら歩いている。
⑤ 小規模な集落、小さなアルベルゲや予約不可の宿にはいない。
あるとき、のんびり派に見える中年の韓国人巡礼者に、上記に関する疑問をぶつけてみました。その人の説を紹介します。
① 韓国人用巡礼アプリに、早朝出立が有利とのアドバイスが書いてある。
② 予算不足および巡礼アプリのノウハウが自炊を薦めている。
③ 有名女優が巡礼してブームになったので、インスタ映えのする画像を撮ることが競争のようになっている。
④ 1人行動は何となく不安という潜在心理があるのではないか。
⑤ 皆んなそうしているし、宿屋は予約するのが当たり前と思っている。
個別事情こそ異なるものの、スペイン巡礼のあるべきイメージと称する内容に引っ張られて行動しがちなところは日本人と似ていますね。
念のため申し添えておきますが、スペイン巡礼はサンチアゴ・デ・コンポステーラに行き着きさえすれば、外形、内容はいっさい不問です。我らが空海様も、四国巡礼に形式や順序など不要と言っていたのですが、いつのまにか「型」ができてしまったようです。キリスト様や空海様の御心は、とてつもなく大らかだったのに、その理念を阻害しているのは「生身の人間」のようです。 -
【サンジャン・ピエ・ドゥ・ポールは、やっぱりフランスだった】
私が泊まったのは、どうやらフランス人が集まりやすいアルベルゲ(フランス語ではオーベルジュ)だったらしく、後日、振り返るとフランスっぽい雰囲気でした(写真が外観)。夕食朝食込みの宿屋でしたが、夕食のメイン料理に続き、最初は、少量ながらもチーズを盛った皿が回され、次に果物が乗った皿が出てきました。「おおっフランス流!」と感動してしまいました。
また、夕食前にフランス人オーナーの指揮でフランス人たちが巡礼賛歌(※)のような歌を合唱していました。初日だったので何が起こっているのか理解できず、とても面くらいました。その後のスペイン領内では、このメロディーは1回も聞いていませんので、フランス式巡礼マナーとして強く記憶に残っています。
(※後日、ウルトレーヤという賛歌だったことが分かりました) -
【巡礼道とは「食う寝る歩く」と見つけたり】
徒歩巡礼の日々は、「食う寝る歩く」に尽きます。実に単純明快でしょう。
それでは身もフタもないので少し付け加えますと、衣類を「洗う」、巡礼仲間と「しゃべる」、スマホを「いじる」などでしょう。ブログなどでは、間髪をおかずに、すべったころんだと事態が変わっていくように読めますがウソです。歩き疲れた体をベッドやバルで”ぼおっと”休ませる時間がだらだらと過ぎて行くと言って差し支えありません。 -
【巡礼路の景色も気分も単調】
フランス人の道の沿道風景は概して単調です。中程の2週間くらいは、広々としたメセタの麦畑のなかの一本道をひたすら歩いている感じです。時速4~5kmの足では、風景もほとんど変わりません。砂利道の巡礼路と並行する立派な舗装道路をクルマがびゅんびゅん走り抜けていくのを見ていて虚しくなったのは一度や二度ではありませんでした。
「巡礼旅で大切なのは、一に体力、二に忍耐力だね」と巡礼仲間の誰かが言っていましたが、そのとおりです。信仰心とか、人生について自問する、などは当面、不要です。 -
【馬で来た巡礼者】
スペイン巡礼は、徒歩(車イスなどを含む)の他、自転車、馬やロバでの移動が認められています。自転車利用の巡礼者には1日に何組も追い越されますが、馬やロバの巡礼者を自分の眼で見たことはありませんでした。ただ、ログローニョを過ぎた村のアルベルゲで同宿となったフランス人のお姉さん(写真右端)は、「馬で来たのですが予想以上に道が悪いので、今日限りで馬を返すの。いま、トラックを手配しているんだけれど、業者から、うんともすんとも言ってこない」とブウブウ言いながら、馬上の凛々しいお姿の写真を見せてくれました。何でも、パリ郊外の牧場で馬10頭ほどを飼っていて、愛馬に乗って巡礼に出たはいいが、愛馬は勝手に牧草地に入るし、山道は起伏が多く狭いので嫌気がさしたとのこと。しっかりとした品のよいお姉さんと、もっとお近づきになれば良かったと悔やんでも悔やみきれません。 -
【巡礼する国民と、しない国民】
徒歩巡礼をする人たちの出身国は、かなり偏っている印象でした。アフリカ、中近東、ロシア、インド出身者にはまったく会いませんでした。中国人(大陸)も2-3人見かけただけです。肌の色の濃い方々ともお話しましたが、一様にアメリカ人、フランス人、ドイツ人とかでした。こういう事実からも、国や民族ごとに巡礼に対する考え方の差があるんだなということが肌で感じられます。
日本人が少ないのは、ハイ・テンションの方々の説では「スペイン巡礼の魅力が十分知られていないから(だから、自分が帰国したら広める努力をする)」、私の説では「お遍路さんや、お伊勢まいりの伝統があるので、わざわざスペインまで行く酔狂なことはしない」ですが、どちらが説得力あると思いますか。 -
【徒歩巡礼は一人旅に限る】
私は独り歩きがとっても好きでした。歩行中に他の巡礼者と出会って10分、20分程度会話をしたあと、「ブエン・カミーノ」と言い合って離れていくスタイルが一番ストレスが少ないからです。半分くらいの巡礼者は独り歩きですが、だいたい私と同じ気持ちのようでした。
その一方、二人か三人で、おしゃべりしながらゆっくりした足取りで進んでいた巡礼者もいました。みんな、あーでもない、こーでもないと、他愛ない話題でおしゃべりをしていることでストレス解消となっているようです。
日本人は、言葉の不安感からグループで巡礼する傾向が強いようですが、私はお勧めしません。「3人寄れば社会ができる」のことわざどおり、せっかくのスピリチュアルな旅の楽しさを、同行者との人間関係に気を遣って削ぐのは、かなりもったいないと思います。ガイジン巡礼者のほとんどは、最初で最後の初心者巡礼者ですから、日本人同様にスペイン語やスペイン流の日々に不安感があります。ですから、もともと不気味な雰囲気の日本人が徒党を組んで歩いていたら、近寄るなと無言で宣言しているようなもの。誰も声掛けなどしてくれませんよ。 -
【お泊り保育のような巡礼者専用アルベルゲに呆然】
教会付属の巡礼者専用アルベルゲは、独特の雰囲気を持つ場所が多かった気がします。私も、巡礼者しか泊まれないアルベルゲ体験をしようと興味津々でした。
いちばん印象に残ったのが、グラニョンという、やや大きめの村の「サンファン・バウティスタ」というアルベルゲでした。宿泊料や食事代は任意の寄付制でした。 -
まず、受付からして3階で、古い建物にありがちな狭くて急な石造りの階段を荷物を背負って上がります。疲れた体に応えることは言うまでもありません。そして、チェックイン後、再び地上まで降りて大部屋1室限りの寝室へ案内されました。室内に入った途端、はっきり言って呆然です。ベッドは、青いマットレスを隙間なく並べただけ。枕もなく、当然、枕カバーやシーツ類の支給もありません。巡礼者は、ここまでの手続きで引っ張り回されているので、もう声を出す気力も残っていません。私も、顔見知りの巡礼仲間を見つけて目を合わせましたが、苦笑いするしかありませんでした。
これだけでも貴重な体験ですが、宿泊者全員で食べる合同夕食会(英語訳コミュニティ・ディナー)は、さらにユニークでした。 -
【いわゆる合同夕食会(コミュニティ・ディナー)】
夕食は、受付で使っていた大きな机やイスをスタッフたちが並べ替えて大食堂にレイアウト変更したホールで食べました。当日は40人ほどの宿泊者があり、午後7時スタートでした。まず、館長の歓迎の辞(写真)と祈りのあと、スペイン風の巡礼賛歌と国別の歌の披露タイム。その後にサラダとパスタの大皿を回しあっての夕食会でした。味は普通、量も十分でした。 -
ただ、館長の夕食メニューの説明とは異なり、菜食者向けパスタと、肉入りパスタの具の差がほとんどなく、私の周りの宿泊者も「どこが違うんだ」と言っていましたが、これは、お愛嬌でしょう。
人間、腹が満たされれば、多少のことには目をつぶるものですと、私も納得していました。 -
3品目には、スペイン食文化の意地にかけて、パイナップルを賽の目に切ったデザートが出ました。
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【BGMに乗って宿泊者みんなで食器洗い】
デザートを食べ終えたころ、やおら館長が立ち上がり「片付けのため、数人のお手伝いをお願いします」と声を張り上げました。続いて、「食器はテーブルの奥の方で揃えてまとめてください」。みるみるうちに、私と隣人たちの席あたりに食器の山ができました。すると、厨房から、先ほどのボランティア数名とスタッフが、液体の入った大きなタライを1テーブル3つずつ運んでくるではありませんか。「洗剤の入っている金属のボウルで、お皿を洗い、次のタライで洗剤を落とし、3番目のタライで”すすぎ”、そのあと拭いて、重ね置きしてください」という声がしました。なんとなく、皿を差し出す者、洗剤をつけたスポンジで洗う者などに分かれて作業開始です。私は、お皿差出し役となりました。食器洗いが始まったとみるや、スタッフがアメリカン・ポップス調のBGMを大音量で流し始め、ホール内は食器洗いイベント会場化。私たちは、”教会直営アルベルゲなら、あるある”と悟って黙々と皿洗いを続けるしかありません。
そのとき、私の頭をよぎったのは、30数年前、我が家の長男が通っていた幼稚園での「お泊り保育」イベントでした。大部屋で雑魚寝、食後はみんなでお片付け、お当番さん、などの発想がそっくりなのです。 -
「はい、巡礼者ならではの貴重な体験をさせていただきました」
「大昔の巡礼者は、教会に身を寄せて、こうやって協力し合いながら旅を続けさせてもらっていたんでしょうね」
「ちゃんと相場額の寄付も置いてきました」
余談になりますが、夕食前にいた男女数人が、就寝時にいなくなっていました。村内の別の宿屋に空きベッドを見つけて移動したからだと翌朝、誰かが言っていましたが、その方々を責める気には到底なれませんでした。 -
【瞑想アルベルゲは映画の一コマみたい】
まさに字のごとくスピリチャルなアルベルゲに当たったことがありました。カストロヘリスという村の小さな巡礼宿です。
受付早々にハーブティーが出され、インテリアが曼荼羅風でしたので、ここはちょっと違うなと感じたことは言うまでもありません。利用方法の説明を聞くと、午後6時から瞑想タイム、それに続いてベジタリアンメニューの夕食という内容でした。それ以外は、どこにでもあるアルベルゲの雰囲気です。 -
【瞑想タイムにはビジターも加わる】
階上の寝室も、木の床に畳を置き、その上に青いマットレスを乗せて低床ベッドとした仕様。ベッド間も離れていて清潔で居心地のよい空間でした。
午後6時になると、同宿者の他に4、5人のビジターもやってきて、1階の広間の床に「ロ」の字型になって座りました。合計で15人くらいです。そのうち、オーナーで司会役のマダム、受付担当のお兄さん、同宿者ながらギターの心得があるイタリア人のお兄さんの3人が主催者側に回り、瞑想タイム(メディテーション)が始まりました。イタリア人お兄さんはギターで讃美歌みたいなメロディーを奏でてくれ、瞑想気分づくりに超貢献していました。(写真は撮れる雰囲気ではなかったので、ありません) -
【涙ぐんだオランダ人巡礼者】
瞑想タイム(メディテーション)はインド風ヨガ修行の感じ。マダムが鈴をチーンと鳴らして開始、終了の合図。瞑想時間は30分でした。その後、お守りみたいなものを手渡しで持ち回りしながら自己紹介と感想の一言。スピリチャルな雰囲気いっぱいです。
讃美歌や説教で、いつも声が響いているキリスト教のミサ体験と比較すると、無言の行は、めちゃくちゃ新鮮味があるようです。自己紹介数人目の若いオランダ人女性巡礼者が涙ぐみながら身の上話か何かを語っていたのが、とっても印象的。私はセリフがよく聞き取れなかったので、あとで彼女の近くに座っていた同宿者に尋ねたところ、「子育てに自信を失いかけていたので、小さな子連れで巡礼していましたが、瞑想しているうちに、『こんな弱い母親ではダメだ。子供のためにも頑張らなければ』いう気持ちになり、感動のあまり涙が出た」とのこと。
とても素晴らしい話なのですが、映画の中のお決まりの場面のような気もしてしまったのは、おそらく私だけだと思います。
「私がスペイン巡礼映画を作ることになったら、是非、採用したい原風景のひとつです」 -
【教会付属のアルベルゲはユニークなところが多い】
教会や修道会が運営しているアルベルゲでは、俗生活では体験できない内容が多めです。
巡礼中間を過ぎたあたりのレオンという都市の「カルバハラス巡礼者専用宿(Carbajalas)」も、有名アルベルゲのひとつのよう。レオン手前で歩調が合ったスペイン人巡礼者のおじさんが「カルバハラスの巡礼者ミサの聖歌隊は美しい歌声で有名なんだ。俺も今日はそこへ泊まるから」と言うので、いっしょについて行くと、めでたく宿泊できました。(黄色っぽい壁の建物がアルベルゲ・カルバハラス) -
受付付近の情報版(写真右の青い板)にも、「ベネディクト修道会による巡礼者のためのミサ、19時開始!」と修道女聖歌隊の写真を添えた手作りポスターが貼ってあるではありませんか。スペイン人おじさんも「ニッポン人の友よ、これだよ、これ」などと言って指さしてくれました。
-
巡礼者ミサは、アルベルゲに隣接した礼拝堂で行なわれました。(宗教儀式のため写真はありません) 司祭こそ男性ですが、ポスターに違わず聖歌隊メンバーは全員シニアの修道女。美しい歌声を次々と披露してくれました。
そのうえ、なんと、巡礼宿泊者である私たちは祭壇に近い、いわゆる聖職者席へ座らせてくれたのです。仏教徒の私も、生まれて初めて、そして最初で最後でしょうが信者席より格上の席に座ることができました。
「やっぱ、巡礼は論より実行、はるばる歩いてきた甲斐があった」です。
それなのに、くだんのスペイン人おじさんはミサ不参加。ベッドが近かったので、就寝前に「さっき、いなかったですよね」と聞いたら、「メシ食って来た。お休み」。
う~ん、おじさんは「ミサは有名だ」と言ったけれど、「俺も出る」とは言っていなかったな。 -
【リピーターこそ大罪者】
巡礼開始1週間目くらいのころでした。どこかのアルベルゲで逢ったイギリス人かフランス人の巡礼者は、なかなか博識で、しかも徒歩巡礼は10回目くらいとのこと。食卓を囲んだ私たち数人のウブな巡礼者に、英語で巡礼のあれこれを話してくれました。
その中のひとつが、
「交通も医療も未発達だった数百年も前から生死をかけてでも巡礼が絶えることがなかったのは、聖地巡礼をすることで罪が許されると考えられていたからなんだ」という解説。
すると、すかさず、たぶんオーストラリア人が、
「じゃあ、君は10回も巡礼しないと許されないくらいの大罪を犯したんだ。いったい何したの?」
と、にやりとしながら突っ込んでいました。
「それはね、懺悔室でしか言えないんだよ」 -
【巡礼者だって観光客】
フランス人の道は、数ある巡礼ルートのなかで最多の巡礼者数を誇っています。それでも、アルベルゲやバルが1軒か2軒しかないような小さな集落では、人の気配が全くないことが多かったです。集落の外に造られた高速道路や国道にもクルマの数は多くありません。日本でもスペインでも、過疎地帯では公共事業ばっかりやってるんだなあと、俗事が気になっていました。 -
そんなことを思っていたのは私ばかりではないようでした。トリアカステラという村で評判のバル兼レストラン(写真)にいっしょに入った巡礼仲間も、「こうやって巡礼者がいるから、この店も続いているんだろうね」と、ぼそっと言ったのです。
そのとおりなんです。巡礼者は1日あたり20-30ユーロしか支出しなくてもガリシア州内に7日、10日と居てくれるので支出総額は150ユーロとか300ユーロになります。サンチアゴ・デ・コンポステーラ1泊2日の滞在でマドリードに帰ってしまう日本人ツアー客より多くのお金を落とすのかもしれません。
少な目に見積もっても、年間50万人 X 7日州内滞在 X 40ユーロ/日=1.4億ユーロ/年=約250億円もの直接的な経済効果があります。巡礼路や宿屋はすでにあるので、ほとんど設備投資が不要なことを考えると、「そりゃ、巡礼者に親切になるわ」の世界です。 -
【空腹に、まずいものなし】
皆さんの巡礼日記の内容の共通点のひとつが、巡礼中の食事の美味しさです。旅先の食べ物が美味しいと、旅の印象が確実にワンランク良くなります。
「でも、そこまで褒めちぎるほど、美味しかったっけ?」というのが私の感想。現実は、「空腹に、まずいものなし」だったのではありませんか。
体重プラス10㎏弱の荷物を背負って起伏のある道を5~6時間歩くと、日常生活の倍くらいのカロリーを消費します。普段よりお腹が空きます。ちょっと気温が上がると、もう汗だくで、水やコーラをのどから手がでるほど飲みたくなってきます。
このような状態で、日本人の想定内で出てくるスペインのランチやディナー、軽食などを食べれば、美味しいに決まっています。またまた、身もフタもないことを言ってすみません。 -
【人気のトルティーヤとボカディーヤ】
トルティーヤ(コン・パタータ)(じゃがいも入り分厚いオムレツ)と、ボカディーヤ(バケットに具をはさんだサンドイッチ)は、日本人の2大人気軽食です。皆さんも私も、バルに入ってたくさん食べたことと思います。
バルに入ると、日本のデコレーションケーキのような姿の直径20㎝くらいのトルティーヤが、最初はまるごとガラスケースの中に置かれています。注文すると三角形に切り取りパン一切れを添えて出してくれます。お店によって、トルティーヤの厚みと切り分け方にばらつきがありました。 -
一番大きかったのは、最後の難所、標高1335mのポイオ峠近くのバル「エル・プエルト」(写真)のトルティーヤ(前のページの写真)でした。心臓破りの急坂を登りきった場所で、ふらふらになった巡礼客を一網打尽に取り込もうという魂胆で店を構えている不埒なバルと思っていたら、おじさんが笑顔で、でっかなトルティーヤ1切れ4ユーロ也を切り分けてくれました。味は普通でした。良心的なサービスに、「疑っていてごめんなさい」と心の中であやまりました。
-
【カフェ・コン・レーチェよりコーラだ】
9月中は暑かったので、朝9時ごろになると汗が噴き出してきました。そのため、私の注文したバルの飲み物はスペイン人愛飲のカフェ・コン・レーチェではなく、コーラか炭酸水。とにかく飲んでも飲んでも、汗になって体外へ水分が出て行くような感じでした。
スペインでも、巡礼路上か否かを問わずバルでコーラを注文すると平均2.5ユーロ、高いバルは3ユーロもします。それに、クロワッサンとか、ナポリターナという菓子パンをつけると5ユーロ超えでした。
巡礼者は観光客の一部なので、カネがかかるのです。 -
【アルベルゲの食事はサラダ、メイン、デザートを死守】
私は、なるべく巡礼者しかできない体験をすることにしていましたので、食事を出すアルベルゲでは1泊2食付きで泊まっていました。料金は夕食10~12ユーロ、朝食3~5ユーロ程度でした。
体験を整理すると、アルベルゲの夕食は公営私営の別なく、ほぼワンパターンでした。食材コストや配膳効率を考えた結果でしょう。2品プラス、デザートが痩せても枯れても絶対条件で、1品目は大皿で出される新鮮なミックスサラダで決まりでした。刻んだ”ゆで卵”入りの場合もありました。2品目も大皿で出しやすい料理が多く、パスタ、パエーヤ、肉とマメの煮込みなどが大半でした。私営アルベルゲで時折、一人分ずつに分けられた鶏肉やソーセージ料理が出てきました。 -
歩き疲れた体に、フレッシュな色合いのサラダは干天の慈雨のように浸み込んできました。1品目、2品目とも多めに配膳されるので、大食いの人はお代わりもできるし、小食の人は、自分の皿にあまり取り分けなければよいので、ほとんど食べ残しゼロでした。
最後の写真のように、2品目がかなり質素な献立のアルベルゲもありました。辛み入りスペイン風ソーセージ1本に、おじや風炊き込み飯です。味は普通でしたが、このようなケースも含めて総論として、「スペイン巡礼は、食事が美味しいのも魅力」と主張するのは盛りすぎた表現のような気がします。
そのため、やっぱり、「空腹に、まずいものなし」だと思います。
おいしい料理を食べたかったら、街中の評判の良いレストランやバルにいきましょう。 -
【名物に美味いものなし、その1:タコ料理】
実際の巡礼者の会話や巡礼日記で、ほぼ必ず話題になるのがメリデ(Melide)のタコ料理。メリデの町は、サンチアゴ・デ・コンポステーラから50㎞ほど手前のところにあります。てくてくと巡礼路を歩いてきてメリデ中心部に来たなと感じた道沿いに2軒のタコ料理店が100mくらいの間隔で店を出していました。立地上、手前の「ア・ガルナーチャ」(A Garnacha) にお客が偏るようですが、いったんメリデの宿に荷物をおいてタコを食べにくるときは中心部に近い「エセキエル」(Ezequiel)利用が便利でしょう。お店のサイトをご紹介しておきます。
https://pulperiaagarnacha.com/
https://www.pulperiaezequiel.com/ -
前の写真が、ア・ガルナーチャの店構え、2枚目の写真がエセキエルの店構えです。
-
私は、道順のとおり、ア・ガルナーチャの方に吸い込まれるように入りました。午後3時ごろだったのでランチタイム混雑のピークは過ぎていて、「適当に空いているところに座っていいよ」と店員さんに言われました。いかにも、巡礼客は扱い慣れているという対応でした。
写真のとおり、長椅子がたくさん並んだ大きなお店でした。 -
各テーブルには、お品書きが立て掛けてありました。名物のタコ料理は、最上段右の方で1皿13ユーロです。タコ料理以外にも、いっぱい料理があり「ほんとに『タコ料理専門店:pulperia』なのか」という品揃えです。
当然のごとく、タコ料理、パンと飲み物を注文しました。そして待つこと10分くらいで、名物、ガリシア風ゆでタコのぶつ切りパプリカまぶし、が運ばれてきました。茹でたタコの足1本を、はさみでブツ切りした料理です。いっしょに持ってくるツマヨウジで刺して食べます。 -
味の方は、申し訳ないのですが、口に入れても風味があんまりにじんでこない、単なる柔らか茹でダコでした。サリアで食べた、同じ調理法の茹でダコの方がコリコリ感と風味があって美味しかったです。
メリデのタコ料理は、普段、タコを食べない方々にとっては珍しい料理体験でしょう。けれどもタコに馴染んだ日本人全員にアピールする味ではないと思います。その後、偶然に会話した中国人のお姉さんも「評判ほど美味しくなかった」と言っていました。
”名物に美味いものなし”と言いますが、1回きりの体験談で判断していいものかどうか迷っています。私としては、みんなが「メリデでは、ヨーロッパでは珍しくタコ料理が食べられる」程度で言っていた台詞を、「メリデのタコ料理は、ガリシア州の中でも特に美味しい。巡礼がてら食べられるのだから、是非、食べよう」と薦めてくれたのだと勘違いしていたと思って気持ちを鎮めました。 -
【名物に美味いものなし、その2:サンチアゴ・ケーキ】
こちらの通称「サンチアゴ・ケーキ」(十字架の描かれた白いケーキ:スペイン語では、タルタ・デ・サンチアゴなどの呼称)も、どちらかというと知名度倒れの方。カステラ地に白く細かい砂糖をまぶしただけの、ふわっとしたケーキで、味も香りもありませんでした。普通のバルやレストランで注文しただけなので、あんまり上質ではなかったかも知れません。 -
【最初と最後は最先端】
2025年現在、先進国の俗生活ではキャッシュレス、タッチ決済、カメラ監視が当たり前です。私の巡礼旅も、初日のロンセスバーエス泊では、現代生活を地で行くよう場面からスタートしました。スマホ等で事前予約するとQRコード返信に続いて巡礼者プログラム登録要求があり、当日のチェックインは、たった10秒で終了でした。 -
そして、事前に予約者別にセットされていたベッド番号カードと夕食朝食券(写真)を渡され、勝手に寝室に行くよう言われておしまい。聞きしにまさるIT化時代の手続きだなと感心したものです。
けれども、その後の宿屋の手続きは、ほぼ中世のまんま。スタッフが手書きで、ばかでかい台帳にパスポート番号や名前を書き込むチェック・イン方式が多かった印象です。「政府からの『巡礼者の氏素性をデータ化できるように収集管理しなさい』というお触れはどうなってんの」のような場面が多々ありました。曰く、「読み取り装置が故障中なの」 -
そして、最後の巡礼証明書発行手続きで中世から一挙に2025年に戻った感じ。自分で巡礼事務所のパソコンに所要情報を入力します(写真)。入力内容を確認後、番号札を自分で印字したあと、証明書発行室に通じる廊下に出て順番待ちです。市役所の住民票申請手続きと何ら変わりません。
-
だいたい数分待ちのあと、スクリーン表示で指定された番号の受付ブースに進みます(写真)。市役所では、呼び出し番号はずっと点灯していますが、巡礼事務所では2~3分で出頭しないと、番号案内が消えてしまいます。そのときは、もう一度、パソコン入力からやり直しとなります。中庭で記念撮影なんかしていてはだめです。
-
指定のブースに進んで番号札を渡します。係員は私をチラ見するとクレデンシャルに最後のスタンプを押し、距離証明書の発行希望の有無を口頭で確認します。そして、番号札を読み取らせる機器のボタンを押すと、ものの5秒くらいで2通の証明書が印字されてきておしまいです。「お参り、ご苦労様でした」のような定型の一言もありません。
「くどくど、スタンプの数をチェックされても困るけれど、これほど、あっさり手続きされるのもねえ」と、サンチアゴ・デ・コンポステーラに到着した感慨にひたっているガイジン巡礼者は、ちょっと魂を抜かれたような気分で巡礼事務所を後にしました。
「半年で50万人もの巡礼者に証明書を発行するんだから仕方ないでしょ。計算してごらんなさい。約3000人/日、1日8時間営業の平均10ブース対応でも1人の巡礼者と実際に対面できる時間は1~2分なのよ!」 -
【巡礼者の日課は禅寺風】
巡礼者の平均的な日課は、スペイン人の生活時間より2~3時間前倒しです。
① 朝6時から7時起床、8時までに宿屋から出発。日の出は8時以降。
② 13時から16時ごろに当日の宿泊地に到着。シャワーと洗濯などをする。
③ 18時から20時ごろに夕食
④ 22時に門限かつ消灯。それ以前に半分くらいの人が寝ている。
⑤ 巡礼者カレンダーは、月月火水木金金。
そのため、14時~16時ごろのランチタイムには歩いているかシャワー中。20時か21時スタートの夕食を取っていると門限に間に合わない。必然的に、巡礼者の生活タイムに合わせて営業しているバルやアルベルゲで時間つぶし。週末とか休日の概念を忘れ、日曜日なのに「なんでスーパー閉店してんだ!」と機嫌が悪くなる。
私もゴール地点のサンチアゴ・デ・コンポステーラのレストランで巡礼友達と美味しい夕食を食べていて、偶然に時計を見たら21時40分。思わず「おまえ、今夜はアルベルゲに泊まっているんだろ。門限いいのか?」と言って、相手に大笑いされてしまいました。サンチアゴ・デ・コンポステーラでは、もう門限22時の呪縛霊からは解き放たれているのです。 -
【旅は道連れ、世は情け】
巡礼者は、一般スペイン人の前を、かげろうのように横切って行きます。日長いちにちベンチに座っているジジババだけが巡礼者に声掛けできます。一般市民との会話もあんまりないので、巡礼者どうしで話すことが日常化。ウマが合った者どうしが仲良くなりやすい環境です。
巡礼中は写真のような多国籍状態になりやすいです。そのうえ、歩き疲れた後だからこそ、みんなで、わいわいがやがや食事しているときの幸福感、安心感が際立つのだと思います。細かいことも気にしなくなります。 -
【人生観や悟りは、求めるものではなさそう】
誰かが言っていましたが、数日前までに2~3回会っていても、もっと前に2~3回会った巡礼者と混同してしまい、あんまり名前覚えていないのだとか。
思わず「Me too!」。改めて自己紹介しあい、また仲良くなって、めでたし、めでたしでした。
私も楽しくゴールしましたが、冒頭直後に書いたように、人生観に響いたとか、悟りの境地になったとかの場面は行程を通してありませんでした。今後、しばらくしてから心境が変わるかも知れませんが、「人生観変わった」などと自分から言い出すものではないような気がします。 了
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