桶川飛行学校 平和祈念館（隠れた戦争遺産）

2024/11/28 - 2024/11/28

桶川の荒川ホンダエアポート対岸、太郎右衛門橋近くの旧日本陸軍飛行学校桶川分教場平和祈念館を訪れてみました。
　正式名称は、「熊谷陸軍飛行学校桶川分教場」で1937年(昭和12年)に設置され全国から操縦訓練を受けるために集まった生徒がこの分教場で寝食を共にして陸軍航空兵となり、戦地に赴任しました。1945年に飛行学校閉校となった以降は「特別攻撃隊」の訓練施設として利用され、知覧から特攻として散華され、いわば「隠れた戦争遺産」と感じました。
　戦後にこの陸軍飛行学校の建物は大陸からの引き上げ者や熊谷空襲等により家を失くした人のため桶川市営住宅として使用され、2016年(平成28年)桶川市文化財に指定され2018年(平成30年)～2020年(令和2年)にかけて建物の復原工事が施工されて、展示品も整備され2020年(令和2年)桶川飛行学校平和祈念館が開館された。

エリア 鴻巣・桶川・北本(埼玉)

• 旅行の満足度: 4.5
• 観光: 4.0

• 交通手段: 自家用車

熊谷陸軍飛行学校桶川分教場（桶川飛行学校）として1937年(昭和12年)に開校しました。(無料駐車場の案内)

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

桶川飛行学校平和祈念館　施設案内

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

「正面ゲート」　ゲートを通ってすぐ左側に市文化財に指定された「守衛棟」、右側に「車庫棟」、正面に「兵舎棟」があります。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

当時の桶川飛行学校分教場には、教室棟・兵舎棟・車庫棟・洗面便所棟など複数棟がありました。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

車庫棟内に「兵舎棟」の模型が展示されています。木造平屋建て切妻造りの建物です。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

「兵舎棟」は、木造平屋、切妻造りの建物で主に生徒が居住していた建物です。朝は午前5：30に起床し、乾布摩擦や清掃、食事のあと6：30に飛行場(現在のホンダエアポート)へ移動して飛行機の操縦訓練を開始しました。
操縦訓練等終了後、午後9：00には将校がそれぞれの寝室へ点呼を行い就寝しました。
寝室は寝る場所であること以外に銃や刀の手入れをしたり毎夜、「軍人勅諭」を読み上げる場所でもありました。
簡易な建物だったため、寒さ対策に天井裏に藁が敷かれていたそうです。
５つの寝室のうち、最も西側に位置する部屋は、1943年(昭和18年)生徒の増員に伴い増築されたものです。建物には、「事務室」や「医務室」もあったことがわかっているそうです。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

「兵舎棟」棟内には学校生活の様子を展示しています。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

「兵舎棟展示品」
飛行手帳・飛行眼鏡・航法計算盤・飯盒・弾薬盒(弾薬を入れる鞄)・三角航法要図・飛行操縦習得下士官章・熊谷陸軍飛行学校記念ペンダント

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

「兵舎棟展示品」
飛行機学教程・空中航法教程・整備之参考・飛行訓練学習記・地形学教程・工術手簿・衛生学教程

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飛行学校誕生までの歩み

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当時の訓練写真：(滑走路は現在のホンダエアポートと思われる)

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

左側1921年撮影：陸軍航空学校（のちの所沢陸軍学校）右側1935年(昭和10年)撮影：熊谷陸軍飛行学校

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熊谷陸軍飛行学校日誌：昭和16年 橋本陸軍伍長作成
日誌には訓練の様子や学習の内容、行事など桶川飛行学校分教場で行われていた教育の内容が詳細に記されています。

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「橋本久氏の日記」
21歳の時に満州歩兵国境守備隊へ入隊し、２年後航空兵へ転属します。その後桶川文教場へ入校します。1941年(昭和16年)8月から翌年の10月にかけて「熊谷陸軍飛行学校日誌」を書き残しています。

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復原整備された生徒が寝泊まりした寄宿舎内の展示

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

１部屋に18台の木製ベットが置かれていたが隣との間隔が狭いことから、頭の位置を互い違いになるように配置されていた。棚には各自の銃や服、帽子、水筒などが整理整頓して置かれた。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

戦闘服の複製が展示

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日中戦争の出展
1937年(昭和12年)に始まった日中戦争は戦線を全国に拡大しながら長期化の様相を呈していた。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

展示品
ビルマ航空図・腹巻(千人針)・水筒・キー84操縦かん・カメラ・戦時貯蓄債権(7円50銭)

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1944年(昭和19年)と1945年(昭和20年)：太平洋戦争の画像

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熊谷空襲は、ポツダム宣言受託を決定した1945年(昭和20年)8月14日の午後11：30頃から15日未明にかけての出来事で埼玉県下最大の空襲と記録されています。
この空襲による死者は266名、被災者は15,390名

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1945年(昭和20年)の熊谷空襲後の画像

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

伍井芳夫氏、第79振武隊、山田 孝氏の画像

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熊谷陸軍飛行学校の廃止と特攻隊
不足する戦力を補う目的で飛行学校の機能が停止され第52航空師団第6練習飛行隊として改編される。
伍井芳夫氏　模型飛行機と操縦練習台を用いて飛行機の操縦訓練をする様子。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

伍井芳夫　第23振武隊長
伍井大尉は、1912年(明治45年)7月現在の加須市に生まれ、豊野小学校、旧制不動岡中学に通いました。
若いころから飛行機に憧れ中学校卒業後は航空士官学校を経て熊谷陸軍飛行学校桶川分教場にて教官を務めました。

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1945年(昭和20年)3月27日、鹿児島の知覧飛行場へ向かうため他の隊員11名と共に途中、桶川上空を通った時に２度旋回し翼を左右に振って桶川にいた家族に分かれを告げました。当時、桶川には妻と幼い3人の子供が暮らしていたそうです。

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1945年(昭和20年)4月1日、満32歳で特別攻撃隊第23振武隊の隊長として知覧飛行場より出撃し敵艦隊に突撃し帰れぬ人となりました。
当時４か月の長男(物の道理が分かる年になったら見せよとの但し書き付)と３歳の長女・１歳の次女に書いた遺書（複製）が展示されています。

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「父は名誉を持って散華するが、子供達の成長を見ることはできなく残念である。大義に生きて姿こそ見えなくても護国でいつも生きています。」

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第79振武隊
12名の隊員で編成され1945年(昭和20年)に桶川飛行場で特攻の訓練を受けて鹿児島の知覧飛行場へ出発しました。
4月16日に知覧飛行場から出撃しうち2機は機体の故障で戻りましたが、1機は22日に再出撃して沖縄の海に消えました。

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山田 孝 准尉
1918年(大正7年)に福岡県で生まれ、1938年(昭和15年)に熊谷陸軍飛行学校へ入校しました。1940年(昭和18年)に卒業後、満州ハイラル基地へ配属されその後ラバウルやニューギニア島などの南方戦線に転属されました。
1945年(昭和20年)8月15日玉音放送2日後に特攻出撃命令が山田氏に下されます。結果として出撃前に命令は中止されますが、終戦後の混乱を今に伝える資料。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

平和への道のり
３年8か月に渡った太平洋戦争は、1945年(昭和20年)9月2日降伏文書の調印が行われ終結した。桶川分教場は大陸からの引き上げ者を対象とした市営住宅として利用された。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

戦後の旧飛行学校分教場　引き上げ者寮　「若宮寮」としての利用
引き揚げ援護住宅として建物を利用した。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

桶川分教場は町が仲介する大陸からの引揚者寮(若宮寮)として又、熊谷空襲等で家を失った人たちへの住宅として活用された。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

若宮寮では最大64世帯、約300人ほどが共に生活していたそう。
その後、若宮寮は2007年(平成19年)3月に最後の住人が転出したことに伴い約60年の歴史に幕を閉じた。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

1945年(昭和20年)に終戦を迎えた後、戦闘機に用いられた技術がさまざまな分野で平和利用図られるようになる。
飛行技術の平和利用(宇宙開発)
日本の宇宙開発の父と呼ばれる、市川英夫氏の開発したペンシルロケット
日本における宇宙開発の基礎を築いた。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

飛行技術の平和利用(新幹線)
1964年(昭和39年)10月に開業した新幹線の開発にもかつて戦闘機を開発していた技術者達が多く関わっていた。
　当時、高速で走行する際に発生する振動が問題となっていたが、この振動を抑えるために戦闘機に使われた技術が新幹線の土台に採用された。また空気抵抗を少なくする形状や高速運転時に浮き上がりを防止する航空力学も応用された。

桶川飛行学校平和祈念館 美術館・博物館

この旅行記へのコメント （2）

• ondine24さん 2025/01/27 08:29:08

  戦争遺産

  harusu さん、こんにちは。
  
  桶川市の平和記念館の記事、沢山の写真と丁寧な解説で、とても分かりやすかったです（エラそうですみません💦素直な感想です）。
  伍井大尉が知覧飛行場に向かう途中、家族の住む上空で翼を左右に振ってお別れを告げるくだり、通勤電車の中で読んでましたが涙が溢れてきました。
  終戦の年私の父は15歳でした。純粋な少年らしく飛行機乗りに憧れていたそうです。あと数年戦争が続いていたら、命を落としていたかもしれません。
  
  平和記念館といえば、鹿児島の知覧にもあり、私は二度訪問しました。harusuさんも行かれた事はありますか？
  桶川の記念館と同様、特攻隊員の写真や遺書等が沢山展示されていました。
  展示室の一画に、引揚げられた海軍の零戦が展示されていました。胴体の鉄板の薄さに衝撃を受けました（長年海の中だったから劣化したのかな？）。
  戦争の事実はは辛い過去ではあるけれど、やはり次世代に伝え続けていくべき記憶遺産ですよね。
  
  また、色々教えて下さい。
  ではまた！
  
  ondine24

  harusuさん からの返信 2025/01/27 13:35:09

  Re: 戦争遺産

  ondine24さん　いつもいいねの『♡ポチッ！』を頂きありがとうございます。また、「高齢（恒例）行事」の旅行記も楽しく拝見しております。
  　
  　鹿児島の知覧茶は大好物なのですが「知覧特攻平和会館」には残念ながら機会がなくて行ったことがありません。若干17歳の最年少特攻隊員も伍井大尉のように家族のある特攻隊員もいたことは気持ちが重くなります。
  千代田区九段の「靖国神社」に太平洋戦争で亡くなられた戦死者の慰霊が祀られており併設の「遊就館」に特攻隊員の像や使用されたゼロ戦、彗星も展示されていましたが、靖国の森を歩いているときに意味もなく怖くなり写真も撮らずに早々に帰りました。
  　生前の父親は、数代続く農家の長男で一人っ子だったために、いわゆる後継ぎで戦地への赴任命令はなかったそうですが、今思えば幼い子供心に聞いていた話の中には何かしら後ろめたさがある雰囲気を感じました。ただ、おかげで自分が生まれて平和の中に生きています。
  2024年のノーベル平和賞は、日本原水爆被害者団体協議会（被団協）が受賞され『核兵器は人類と共存できない』と訴えたそうですが、願わくば、個人的に日本国憲法9条の『戦争の永久放棄』も世界に広く知って貰いノーベル平和賞を受賞すれば幸いと思っております。内容が重い事柄になって恐縮ですが要は、「平和」であれば「安全・安心・安価」に好きな時に好きなところへ旅行に行ける。と勝手に考えてます。 あっ！それともう少し「円高」も…。 　by harusu