広島城と縮景園

2023/12/28 - 2023/12/28

江戸の六大都市の一つだった広島。城と城下町も、それなりに立派なものでした。今は本丸しか残っていませんが、資料を片手に、明治/昭和初期まで残っていた当時の城内を辿ってみます。併せて、山まゆ織りも紹介します。
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エリア 広島市(広島)

• 旅行の満足度: 5.0

前史
承久の乱(1221)の軍功で安芸国守護を務めたのは、武田氏です。３００年以上地域を支配しました。広島市街を流れる太田川の上流の銀山城を本拠地とします。当時は山陽道が通っていたので、好立地でした。

銀山城跡 名所・史跡

足利尊氏は、各国に安国寺を建設します。安芸国の安国寺は武田氏の庇護で栄えます。現在は不動院となっています。武田氏滅亡後は、毛利氏使僧の安国寺恵瓊により再興されました。彼は武田氏の出身であると言われています。

不動院 寺・神社・教会

大内氏配下の毛利元就は、山陽と山陰を結ぶ出雲石見街道沿いの郡山城を拠点に活躍します。郡山城は、南北朝時代より毛利氏の本拠地でした。元就は、1541年に銀山城を攻略して武田氏を滅ぼします。そして主君大内氏の滅亡後、中国地方を統一します。

郡山城跡 名所・史跡

広島城
毛利輝元は、山城の郡山よりも海に近い太田川三角州(五ヶ庄)に本拠地を移転することにします。現在の広島城です。1589年に輝元の命で鍬入れがなされ、1591年に入城します。豊臣政権下で9か国120万石を治める本拠地にふさわしい城を目指します。

広島城 名所・史跡

築城当時の地形
築城前の太田川三角州は五ヶ庄(鍛冶塚/平塚/在間/広瀬/白島(箱島)庄)といわれ、輝元は在間庄を選定して、島普請と呼ばれる地盤改良工事を行って築城します。三角州のうち、最も広い島に建てたので｢広島｣と命名します。
石材運搬のために西堂川/木材運搬のために平田屋川と、２本の運河を建設します。
※広島の語源は諸説ありますが、広島城の博物館は上記の説を採用しています。

福島正則(1600-19)
関ヶ原で西軍総大将を務めた毛利輝元は、徳川政権下で防長へ左遷、代わりに福島正則が入府します。秀吉子飼いだった経歴ゆえに、1619年に改易させられます。正則は、西国街道(山陽道)を城下町を通るルート(上図：破線)に変更し、出雲石見街道も広瀬で分岐するようにしました。唯一の史跡は、八剣神社です。
※中世の西国街道は、不動院近くの西原で太田川を渡っていました。

八剣神社 寺・神社・教会

八剣神社(1617)
城下を流れる太田川は、何度堤防を築いても洪水を防げず、人柱を入れるしかないという結論に達します。それを不憫に思った正則は、代わりに自身秘蔵の名剣八本を差し出します。現在も京橋川沿いの堤防に沿って鎮座します。ちなみに改易の原因は、洪水で損傷した城の石垣修理の申請不首尾です。

浅野氏(1619-)
福島正則の改易に伴い、浅野長晟(ながあきら)が40万石の領主として入府します。秀吉の五奉行の一人、浅野長政の息子で、浅野氏は明治維新まで広島藩主を務めます。幕末に広島は、三都(江戸/京/大坂)/名古屋/金沢に次ぐ、６番目の大都市になります。

現在の広島城へ潜入します。現存するのは内堀のみで、外堀等は埋立てられました。

土橋を渡ります。南側には、西国街道が通っています。

内堀に面した裏御門跡の石垣を越えると、本丸跡です。
明治維新以降、広島城は陸軍の重要拠点として機能しました。

広島大本営跡(1894-95)
交戦中等の有事に組織される大本営が、唯一東京以外に設置されたのが広島です。日清戦争時、鉄道網の西端は広島だったので、最先端の平坦地でした。大本営のトップである天皇及び帝国議会も、広島へ移転しました。

大本営の入った建物は被爆に伴い、土台以外は失われたので、現在は土地割を示した石碑のみが残ります。

軍都の中核
大本営はイレギュラーですが、明治6年制定の６鎮台/6軍管では第５、全14の歩兵連隊の第11番が鎮座し、黎明期から重要な軍事拠点でした。師団制では第5師団および地域の諸軍を統括します。原爆投下の理由の一つは、広島がコテコテの軍都だったからです。

鯉城(りじょう)
広島は鯉城とも呼ばれますが、古来の地名が己斐(こい)浦なので、転じて鯉になったと言われます。広島カープは、この鯉(carp)に因んで名づけられたものです。本丸北西角には、毛利輝元以来鎮座する天守閣が。国宝指定でしたが、原爆で消失。1958年に、鉄筋コンクリート造で外観のみ忠実に復元されています。

天守閣は、高さ12.4mの石垣の上に5層から成る26.6mの建物が建ち、39mの高さがあります。閣内は歴史博物館になっていますが、展示物は撮影禁止となっています。

南北に260mの長さのある本丸の南西角には、護国神社が建ちます。戦争で命を落とした将兵も、ここで祀られています。

広島護国神社 寺・神社・教会

境内には、中国軍管区司令部防空作戦室(写真：入口)が遺っています。

爆心地から７００ｍの距離に位置し、学徒動員された比治山高等女学校の女学生も働いていました。原爆投下で市内の電信電話網は破壊されましたが、軍事専用電話を使って、女学生が広島壊滅の第一報を伝えました。
側面から見ると、作戦室は半地下構造だと分かります。

老朽化によるコンクリートの剥落の危険性があることから内部の見学はできませんが、現地パネルの写真や、ネット上の映像で公開されています。
中御門跡/橋を渡って、二の丸へ移動します。

二の丸
本丸に次ぐポジションですが、広島城では本丸の馬出し程度の小さな区画です。戦災で失われた３つの櫓が復元されています。
本丸/二の丸は、内堀の内側です。

表御門
写真は、二の丸を出た瞬間に後ろを振り返った構図です。表御門は二の丸の表玄関で、手前に架かる表御門橋で三の丸と繋がっています。
手前は三の丸です。

三の丸
内堀と中堀に挟まれたUの字の区画です。中堀は、東西南３面に掘られました。

中堀跡
内堀が完全な姿で残っているのとは対照的に、中堀は現存しません。写真は、広島中央庭球場西面に位置する中堀跡の写真付きパネルです。
三の丸跡には、テニス場/高裁/基町小学校等のパブリックな施設が建ちます。

外堀の北面は、城北通りの南側に位置しました。

大手郭(外郭)跡
中堀と外堀跡に挟まれたエリアで、図のようにJ字型をしています。家老/重臣の屋敷が並びました。外堀跡より内側が城内で、一辺は１kmに及びます。写真は、県庁前にある展示パネルです。このエリアは官庁街になっています。

外堀跡
外堀西面は、太田川をそのまま用いています。北面は、現在の城北通りの南側に通っていました。現在の広島拘置所付近で南進し、東面は八丁(872ｍ)堀と呼ばれます。

広島拘置所の壁画 名所・史跡

外堀跡
大通り同士(相生通/白鳥通)が交差する八丁堀交差点(写真左)ではなく、写真中央の八丁堀西交差点が、南進する外堀が西方向へ右折するポイントです。
路面電車の本線が通る相生通りは、明治末に外堀を埋め立てて誕生しました。福屋百貨店は、外堀が折れ曲がる相生通北側に開業し、1938年に現在地へ移転しました。福屋本館が戦後に誕生した大通り(白鳥通)ではなく、金座商店街に面して立地しているのは、このような歴史的背景があります。

外堀内は旧城内ということで、専ら官庁/公共施設が建ちます。内堀と太田川の間に住宅がありますが(写真)、市営住宅なので土地は市の所有です。八丁堀/相生通りに沿うように民有の土地があります。

明治維新～終戦までの土地利用
旧城内は、本丸は第５師団司令部、内堀東側は歩兵第１１連隊/師団兵器庫/監獄、西側は野砲兵第５連隊/輜重兵第５連隊/陸軍病院/火薬庫、南側は西練兵場/憲兵隊と、全て軍用地です。憲兵隊以外は、何れも第５師団関連の組織/施設です。

水路/運河
外堀からは、築城時に開削された西堂川/平田屋川、城の東にある縮景園からは流川/薬研堀といった水路が、海へ向けて伸びています。

平田屋川跡
築城時に木材を運搬するために建設された運河で、建設した商人の名前を付しています。八丁堀の延長線上に該当し、並木通りは昭和３０年代に埋立てられた平田屋川の名残です。

藩政時代に干拓が進み、広島大跡で左へ屈折して、現在の御幸橋付近で京橋川と合流しました。

大手門
大手門は紙屋町交差点付近に位置していたようです。付近はそごうを中心としたカジュアル系一大ショッピングエリアで、地下街も存在します。八丁堀は福屋/三越といったフォーマル系、パルコ/商店街群といったアイコンです。

紙屋町シャレオ 市場・商店街

西堂川跡
紙屋町交差点から南下する鯉城通り(電車通り)は、1912年に埋立てられた西堂川の跡地です。

沿道の白神社は、築城時の海岸線です。面影を残す岩礁が遺っています。
藩政時代に干拓が進み、西堂川は現在の南大橋まで伸張し、元安川に合流しています。

白神社 寺・神社・教会

縮景園
本丸の東方には、浅野氏入府と同時に造営された大名庭園があります。

鬼門
風水で艮/丑寅(うしとら:北東方向)は東北鬼門に当たり、魔力を封じ込める必要がありました。広島城の鬼門には二葉山が位置し、神社仏閣が林立して守護します。
饒津(にぎつ)神社
初代藩主浅野長政(広島移封前の真壁藩主)の位牌を祀っています。

境内には、最後の藩主を顕彰した石碑もあります。
饒は土地が肥えている/物が豊か、津は港を意味し、広島の町が物が豊かな水の都となるようにという意味が込められています。

明星院
毛利輝元生母の位牌所として始まり、浅野家の庇護を受けて藩の祈願寺になります。藩主改易ごとに宗派を変え、浅野家では仁和寺の末寺です。

鶴羽根神社
いわゆる八幡神社で、武士の守り神です。名称は、二葉山が羽を伸ばした鶴の形状をしていることに由来します。

武家政権下で饒津/鶴羽根神社は、別当寺の明星院の一部でした。写真のように、明星院は広い境内を持ち、300石という破格の寺領も藩から賜りました。明治政府の神仏分離政策により、現在のように神社として独立(土地も含む)しました。

東照宮
1620年に広島に入府した浅野長晟は、妻として家康の三女を娶りました。養女ではなく、実子です。息子の藩主光晟は、祖父家康を祀るために1646年に建立します。

二葉山の東側の嶺に位置し、双葉山は権現山とも呼ばれます。

二葉山には、現在都市高速の長大トンネルを掘っていますが、意外と難航しています。建設反対派住民の中には、鬼門のたたりだと叫ぶ人もいます。
東照宮には、金光稲荷神社があります。

社殿前には、亥の石が。イノシシということで、撫でると多産/安産の御利益が。発展して豊穣/商売繁盛も網羅し、城下町の信仰を集めました。
広島駅北口に該当する当エリアは、第五師団隷属の騎兵第５連隊/東練兵場といった広大な軍用地でした。現在は、再開発でピカピカしたエリアです。広島駅は、日清戦争開戦に間に合うよう東京方面から急ピッチで線路を繋げ、宇品港まで伸張しました。

最後に、縮景園を散策します。
浅野長晟が大名庭園として1620年に造営しました。

回遊式庭園として、妙景を楽しめます。

池に架かる石橋は、大陸的景観そのものです。

ズームするとこんな感じですが、

難点は、園内どこからでも視界に入るタワマンの存在。

漢詩と水墨画のイメージで、憧れの中国を再現しています。

中国のシンボルである竹林も見事です。

谷や山間部も、見事に再現しています。

7代目藩主は『縮景園記』(ガイドブック　庭園の鑑賞の仕方を解説)を残しています。　

鶴や亀に見立てた奇岩も、あちこちに配置されます。

目に付くタワマン
2003年に竣工したアーバンビューグランドタワーと言います。
長らく中国地方で最も高いタワマンでしたが、
シティタワー広島に抜かれました。

海岸も表現されます。

原爆で被災しましたが、70年かけて復元されました。

細部にも、こだわりが。

見る角度で、景観が変化します。

中国の西湖をイメージして造園されました。

冬らしい光景
続いて、郷土資料館から市域での伝統産業を紹介します。

山まゆ織り
養蚕は有名ですが、こちらはカイコガ科ではなくヤママユガ科の山繭蛾の繭を用いた織物です。

産業史

山繭蛾は、クヌギ/ナラ/カシワ/カシの木に卵を産み付けます。１匹で130-230個ほどの卵を１箇所にまとめて産み付けます。

幼虫
緑色をしています。蚕蛾の幼虫の表面はスベスベですが、こちらは毛が生えています。卵を産み付けられた椚/楢/柏/樫の葉を餌にします。

山繭
４回脱皮すると、蛹になります。蚕の繭より一回り大きく、緑色をしています。一個の繭から600-700mの糸が取れます(蚕繭は1200-1300ｍ)。絹糸よりも太い繊維です。
取れた糸は緑色で光沢を持ち、絹糸よりも軽い/柔らかい暖かい/丈夫(弾力性)/シワになりにくいといった特徴があります。

山まゆカゴ
繭をまとめて運ぶ時や、短期保存する際に用いられました。2300粒ほどの容量があり、反物一反(和服一着分)に相当します。

成虫
成虫になって2-3日後に交尾します。幼虫の写真の右下に写る産卵かごに、採取した成虫を入れて交尾を促し、駕籠に卵を産み付けるようにします。

1881(明治14)年のデフレで、家内工業の山繭生産は大打撃を受け、1884年に政府主導で生産者組合を結成しました。

山繭問屋入江家
可部や安佐地区では、こうした問屋を通して出荷されましたが、飼育できないことと希少なことが相まって生産性が低く、昭和２年に地域から消滅しました。

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