那須周辺の明治の元勲の別荘めぐり

2023/07/22 - 2023/07/22

那須周辺には明治時代の元勲が開拓した農場に別邸が多くありました。
現在でもいくつかの元勲たちの別荘は残っています。
今回、その別荘のいくつかをまわってみました。

https://www.youtube.com/watch?v=MkGxLr-Z2HE

エリア 黒磯(栃木)

• 旅行の満足度: 4.0
• 観光: 4.0
• 交通: 3.0

• 同行者: 一人旅
• 一人あたり費用: 1万円未満
• 交通手段: レンタカー JRローカル
• 旅行の手配内容: 個別手配

２０２３年夏の「１８きっぷ」を使って、東北本線（宇都宮線）で北上します。
栃木県の県都・宇都宮までは１５両、グリーン車つきの電車が走っていますが、宇都宮からはワンマン電車に乗り換えです。
その終点黒磯駅までやってきました。

JR東北本線 乗り物

黒磯駅です。
かつては那須への玄関口として、那須御用邸に向かう天皇陛下も利用されていた駅ですが、東北新幹線の那須塩原駅が開業すると那須の玄関口は那須塩原駅になってしまい、黒磯駅はさびれてしまいました。
今では駅にある観光案内所も閉鎖されてしまいました。
駅前でレンタカーを借りて出発します。

黒磯駅 駅

まずは黒磯駅から１０キロ、約２０分。
道の駅「明治の森　黒磯」へ。
道の駅は現在工事中でしたが、この道の駅に併設して、旧青木家那須別邸があります。
旧青木家那須別邸周辺の農場が広がり、何人かの人が農作業をしていました。

道の駅 明治の森 黒磯 道の駅

森の中に旧青木家那須別邸があります。
この別邸は長州藩出身、ドイツ公使や外務大臣になった青木周蔵の別邸です。
彼はドイツびいきだったからか、西洋風の建物です。

とちぎ明治の森記念館―旧青木家那須別邸 名所・史跡

旧青木家那須別邸の全景です。

旧青木家那須別邸 名所・史跡

旧青木家那須別邸は一般公開され、資料館にもなっています。
「応接室」から中に入ります。

青木周蔵は長州藩の出身です。
幕末には志士活動を行い、明治後は外交官になってドイツ大使になりました。
ドイツではドイツ人女性を妻にしています。
その後同じ長州藩の山縣有朋内閣で外務大臣になり、子爵を与えられました。

ただ、ドイツびいきすぎて外交官としての能力はいま一つだったようで、同時期の外交官と比較すると、日清戦争時の外務大臣だった陸奥宗光は子爵→伯爵、榎本武揚や土方歳三等とともに五稜郭で最後まで明治政府に抵抗した経歴を持つ林薫は男爵→子爵→伯爵、さらに日露戦争時の外務大臣だった小村寿太郎は平民→男爵→子爵→伯爵→侯爵と「ランクアップ」しているのに対して、子爵のままで終わりました。

応接室には青木周蔵夫婦の衣装などが展示されています。

１階の青木周蔵の部屋。
ピアノや家具などが展示されていました。

その隣が食堂です。
ここで家族やお客と一緒に食事をしていたのでしょう。

２階に上がると「寝室」
寝室は２つあり、１つの部屋は応接セットが置いてあります。

２階のベランダからは先ほど通ってきた林や広がっていた農場がよく見えました。

旧青木家別邸からはしばらく進んで塩原温泉郷へ入ります。
ちょうど塩原ビジターセンターがあったので、ちょっと寄り道。
このあたりは紅葉の時期は素晴らしいのですが、前にドライブに来た時はすさまじい渋滞に巻き込まれました。
周辺は渓谷のハイキングコースが多くあり、今度の紅葉の時期はドライブではなく、ハイキングに来ようと思います。

塩原温泉ビジターセンター 美術館・博物館

ビジターセンターのすぐ近くにある「天皇の間　記念公園」へ

天皇の間記念公園 美術館・博物館

ここにはかつて大正天皇の御用邸がありました。
その後昭和天皇が那須に御用邸を建てられたので、ここは取り壊されましたが、「天皇の間」だけは保存、公開されています。

この屋敷はもともと三島通庸子爵の別邸でしたが、大正天皇がこの地を気に行ったこともあり献上されました。

三島通庸は薩摩藩志士出身。
早くから志士活動を行っていましたが、性格にやや難があったのか（例えば薩摩藩邸に来ていた渋沢栄一を襲撃しようとして、西郷隆盛に止められたり。大河ドラマ「青天を衝け」でもやっていました）、中央政界では出世できず各県知事を歴任しました。
自由民権運動の時期には自由党を敵視し、福島県知事時代は河野広中らを弾圧した福島事件や警視総監のときは尾崎行雄、中江兆民などを東京から追放する保安条例事件などを起こしました。
なお、彼の次男は日本初のオリンピック選手だった三島弥彦です。
大河ドラマ「いだてん」では生田斗真さんが演じていました。

建物の中には大正天皇の使用した家具や使用した日用品などが展示されています。

道の駅 湯の香しおばら 道の駅

次は道の駅「那須野が原博物館」へ。
道の駅と言ってもレストランや特産品店がある普通の道の駅と異なり、博物館です。

かつてここは三島子爵家の開拓した農場が広がっていました。

道の駅那須野が原博物館 道の駅

博物館には明治の元勲たちの展示説明や縄文時代の遺跡などがありましたが、私が興味を持ったのは那須人車軌道の車両です。
明治時代から大正時代には「人車鉄道」が日本各地にありました。
乗客７～８人をこの客車に乗せて、人が押していく鉄道です。
那須から大田原市まで５キロを１時間かけて走っていました。

黒磯駅の駅弁の包装紙も展示されていました。
黒磯駅前の「煙草屋」という旅館が駅弁を販売していたそうです。

この博物館の少し南、現在のJR西那須野駅周辺は、西郷従道の別邸と農場が広がっていました。
西郷従道は西郷隆盛の弟です。
兄・隆盛が鹿児島に帰り西南戦争を起こしたときも明治政府に残り、兄・隆盛を滅ぼす側にまわってしまいました。
最初は陸軍でしたが、その後海軍にまわり、日本海軍を創設した人です。
元勲として何度か総理大臣に推挙されましたが、兄・隆盛への思いからか、総理大臣を受けることはありませんでした。
その功績により侯爵になりました。

なお、西郷従道の東京の本宅の建物は明治村に移設されて重要文化財として保存されています。

この博物館から少し北に行ったところには千本松牧場があります。
観光地として開放されている牧場で家族連れでにぎわっていますが、その牧場内には旧松方正義の別邸があります。
ただ、この建物は一般開放されておらず、遠くから眺めるだけでした。

千本松牧場 テーマパーク

松方正義は薩摩藩志士の出身です。
ただ志士活動ではさほどの功績はなく、明治政府では主に財政を担当しました。
西南戦争で人材を多く失った薩摩藩の代表として総理大臣にも２度なっています（第４代、第６代）。
長生きしたこともあり、最高位の公爵にまでなりました。
１８３５年生まれで総理大臣としては最も早く生まれた人です（初代総理大臣伊藤博文より６歳上）。
１９２４年８９歳でなくなりましたが、その寸前に現在元総理大臣で最年長で健在の村山富市さんが生まれています。
故人を含めた元総理大臣最年長の人と現在健在の最年長の人の人生が重なっているのはなんか不思議な気がします。

「女好き」で子どもも多く、明治天皇から「お前はこどもは何人いるのだ？」と聞かれて「調べまして報告いたします」と答えたエピソードがあります。

松方正義別邸から東に向かい、隣の矢板市には旧山縣有朋別邸が残っています。
現在は山縣有朋記念館です。
２色の色になっているのは、もともとは青い部分が山縣有朋の小田原にあった別邸で、山縣の死後、山縣家のこの地の農場に移築され、さらに白い部分が増築されたものです。

残念ながら、建物内写真撮影禁止でした。
２階にはかつて山縣有朋をはじめ、伊藤博文など元勲なども訪れたであろう応接室がありました。
他に山縣有朋の幕末の志士時代の手紙や勲章なども展示されています。

山縣有朋記念館 名所・史跡

山縣有朋は長州藩志士の出身、伊藤博文と同じく吉田松陰の松下村塾の出身です。
足軽という下級武士以下の出身でしたが、幕末には高杉晋作の奇兵隊の幹部として活躍し、明治維新後は日本陸軍創設に尽力しました。
内閣総理大臣にも２度就任し、最高位の公爵までになりました。
明治政府には大きな功績のある人でしたが、内務大臣として自由民権運動を弾圧し、また政党政治を敵視したことなどから、国民からは憎まれ、彼の国葬は実にさびしいものだったと伝えられます。

ちなみに彼の東京の本邸が、東京目白の椿山荘です。

山縣有朋旧別邸から再度那須に戻り、西那須野駅の南には乃木神社があります。
この神社には乃木希典陸軍大将、伯爵を祀っています。
乃木希典は日露戦争を代表する陸軍軍人としてもっとも有名な人です。
東京の乃木の自宅のあったところは、「乃木坂」と名付けられています。
つまり「乃木坂４６」の名称の由来の人でもあります。

乃木神社 花見

乃木神社の境内には乃木の那須の別邸が保存されています。
他の元勲の別邸は西洋風の建物なのに対して、彼の別邸は質素な彼の性格からか純和風の建物です。

彼は軍人を引退して、この周辺の農場で余生を過ごしていましたが、日露戦争がはじまると、軍司令官として引っ張り出され、日露戦争でもっとも凄惨な戦いである旅順攻防戦の指揮を執りました。
息子２人をはじめ、多くの兵士を死なせたことで彼は苦しみ、明治天皇崩御の際に、切腹して殉死しました。
乃木は世界でも有名な軍人だったため、彼の殉死、切腹は世界中に衝撃を与えました。
外国人が日本にイメージする「フジヤマ、サムライ、ハラキリ、ゲイシャ、ニンジャ」のハラキリのイメージはこの乃木の切腹が印象的だったからかもしれません。