2023/03/17 - 2023/03/17
98位(同エリア624件中)
ばねおさん
日本に一時帰国中の3月、柴又近くに住む40年来の友人と久々に会うことになった。
毎年欠かさず寄越してくれる賀状には、「今年はぜひとも会いたい」と書かれ、自分も同様の返事をするのだが、結局、実現しないまま何度も年を重ねてしまった。最後に会ったのは、10年前のことだ。
今年は、3ヶ月間の長い「一時帰国」なので会える時間ができると約束していたのだが、あっという間に2ヶ月が過ぎ、フランスに戻るカウントダウンが始まってしまった。このままでは空約束に終わりかねず、ようやく二人の都合が一致する日時を取り決めた。
自分が居る横浜まで友人はやってくるつもりでいたのだが、今回は柴又を案内してもらうことになった。
さて、当日待ち合わせたのは京成高砂駅の改札付近。
横浜から運よく京急の特急高砂行きに乗ることができて無事に到着。
初めての地ながら迷うこともなく、約束の時間通りに改札までやって来た。
律儀な友人の性格から、すでに到着しているはずだろうと見込んでいたのだが、高齢の男性が一人いるだけで姿が見えない。
10分過ぎても現れないので電話をしてみたが応答がない。
何度か繰り返しているうちに、その友人から着信があった。
手元の操作を誤り、着信を拒否してしまったため、こちらから掛け直した。
ようやく友人が応答したので現在地を聞いたら、改札にいると言う。
だが、改札には先ほどの高齢男性がいるだけで見当たらない。
改札は複数あるのか?と聞き直したら一つだけだという。
変だなあ、とお互いにああでもないこうでもないと言い合っているうちに、耳にあてているスマホとは別方向から同じやりとりが聞こえてきた。
振り返ってみると、先ほどから改札近くにいる高齢男性がスマホを手にして同じセリフを口にしていた。
えっ?!もしかしたら…
近づいてよくよくみると待ち合わせの相手である。
肩を叩いて自分であることを知らせたが、今度は相手が自分を認識していない。顔だけでは通じないので名乗りを上げたが、しばらく絶句。
友人は自分よりだいぶ年長なのだが、正直なところその変貌ぶりには驚いた。もっとも自分のほうも即座に認識してもらえなかったのだから同様なのだろう。まさに10年ひと昔だ。
それでもお互いが分かると時間の空白はあっという間に埋められ、二人とも以前と同じに立ち返っていた。
- 同行者
- 友人
- 交通手段
- 私鉄 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
PR
-
ちょっと手間取ったけれど、お互いに、お互いが認識できて高砂から柴又へ移動。
時間帯にもよるのだろうが、柴又駅で乗り降りする人はずいぶんと少ない。 -
駅頭には寅さんの立像が。
「私生まれも育ちも葛飾柴又です。 帝釈天でうぶ湯を使い、姓は車、 名は寅次郎、人呼んで フーテンの寅と発します」
そうそう、車 寅次郎が姓名だった。 -
そしてその先にはさくらもいた。
「(フーテンの寅を)見送るさくら」というシチュエーションだという。 -
二人の立像の先には帝釈天の参道が始まっている。
まずは先に食事をしようと、帝釈天とは反対方向の店に案内された。
このあと食事が終わり、参道に引き返してくるまで、お互い話に夢中で写真をすっかり撮り忘れていた。 -
こじんまりとした参道の両側には名物の草団子の店や、せんべいや、川魚料理の店などが軒を連ねている。
観光客は居るにはいるが、数は少ない。 -
ここは高木屋。
寅さんの映画をそれほど多く見ているわけでもないが、さくらの働くこの店は、まさに「男はつらいよ」の主要舞台だ。
店頭には名物の草団子が並んでいる。 -
友人のイチ押しは、その先にある「吉野家」。屋号は同じだが牛丼ではない。
ここの草団子は、数多くの他店とは格段に違うという。
但し、残念ながら営業日は限られ、平日は開店していない。 -
その先の「亀家」で串に刺した草団子を友人が買い求め、手渡してくれた。
歩きながら柴又の草団子を初めて味わう。
どの店も草団子にあんこを添えているのが定番のようだ。
かすかにヨモギの香りがする。 -
「亀屋」の少し先、参道の突き当たりが帝釈天だ。
-
柴又帝釈天こと経栄山題経寺は日蓮宗のお寺であることを初めて知った。
-
本堂前の松は、「瑞龍の松」といって、名高いそうな。
正面の本堂に靴を脱いで上がり、参拝。 -
参拝後、一旦本堂を出て観覧入り口へ向かう。
横手に回ると本堂の一部がガラスのショーケースのように囲われていた。
寺の事情に通じている友人の説明では、先々代の住職がフランスに行って文化財の保護の方法に感心して同様なものを設置したのだという。
友人の意見では、これが景観を台無しにしていると言う。
たしかに見た目はあまり調和してるとは言い難い。 -
観覧の回廊沿いに眺められる庭はなかなか広く、手入れも十分行き届いている。
-
一室に横山大観の作品が展示されていた。
題は『群猿遊戯図』とある。 -
ここでも見学者はずいぶんと少ない。
というよりもほとんどいない。
京急で高砂まで来る途中の浅草では多くの外国人観光客が降りていったが、ここまで足を延ばす人は限られるのだろう。 -
庭園の中央を横切るように設けられている長い渡り廊下は、変化もあってなかなかよろしい。
途中に物見台やセルフサービスのお茶が用意されているので、適宜休憩もできる仕組みになっている。 -
日本庭園にお決まりの池があり、これもまたお決まりの鯉が泳いでいる。
平凡と言えばその通りだが、季節によっては植栽が楽しめるのだろう。 -
庭園は「邃渓園(すいけいえん)」と名付けられていた。
-
庭園をぐるりと見学した後は本堂の裏手へ向かう。
こうした木造の長廊下を維持するのは大変だろうと思う。 -
先ほど外から眺めたガラススケースの内部に入った。
なるほど、木彫りの彫刻を保護するためにガラス囲いは必要だったのか。 -
友人の評価はあまり芳しくなかったが、やはり木彫り彫刻を野ざらしにしておくことはできまい。
-
とにかく彫刻の多さには圧倒される。
入り口に「彫刻ギャラリー」とあるのもうなづける。
ギャラリーというよりも、まるで建物全体が彫刻群で構成されているようで、これも珍しい。
いずれも法華経説話を題材に刻んだものであるが、作品を見て、説明文を読むと一通りの勉強になりそうだ。 -
数多くの作品の中から、こちらは加府藤正一作『千載給仕の図 提婆達多品第十二』
説明文をそのまま以下に引用する。
ー 阿私仙という仙人が、「法華経」という尊い教えを持っていました。この仙人について私は千年の間、給仕のまことを捧げ、水を汲み、薪を拾い、果の実を採り、ある時には仙人の腰掛になりました。法華経を知りたいための修行でした。ー -
こちらは横谷光一作『法師修行の図 法師品第十』
説明文
ー インドでは、法師たちは森の中や洞窟の中で独り静かに修行しています。しかし、虎や狼の危険があり、心淋しく、修行はきびしいものです。その修行者を励ますために、佛が立ち現れたり、像に乗った普賢ぼさつが姿を現すのです。ー -
帝釈天の次に向かったのは江戸川の「矢切の渡し」。
途中に「川甚」と書かれた建物があり、ぐるりとフェンスに囲まれていた。
江戸時代から230年間続いた老舗の川魚料亭であったが、コロナによる経営難からこの1月に閉店したのだという。
左手にあった建物はすでに取り壊され、現在は葛飾区が保有していて今後の活用を検討しているという。
区が買い取ったのは、マンションなどの不動産開発になる懸念があり、景観も保存する必要があったからである。この近辺は国の「重要文化的景観」に選定されているそうだ。
幸田露伴や漱石の小説にも登場する知られた存在であっただけに、まことに残念だと友人は語った。
そうそう、さくらの結婚披露宴もここで行われたはずだ。 -
「川甚」の横を流れる江戸川の土手沿いには芝桜が植えられ、間もなく見事な景観になるという。
-
土手の上に立ち、江戸川を挟んで千葉方向を眺めた。
写真中央の白い旗が矢切の渡し場である。
この日は気温も低く風も強いため渡し場まで行ってみることは諦めた。
渡船で向こう岸に渡り、伊藤左千夫の『野菊の墓』の舞台となった矢切も見てみたかったが、昔日の面影は失われているようなのでむしろ頭の中の情景だけのほうが良かったのかもしれない。 -
さらに土手沿いに進むと、寅さん記念館、山田洋次ミュージアムのある公園に出た。高低差があるのでエレベーターで下りたところが地下広場のようになっていて、ここに記念館、ミュージアム、土産コーナーなどが並んでいる。
閑散としていて人気のないのが寂しい。 -
広場の一隅に、〈映画「男はつらいよ」こころの旅の記録〉と題したプレートが並んでいた。各作品の概要などが記されている。
-
寅さん記念館の入り口。
館内からスタッフが出てきていて、入場を誘っているのが少々やるせない。
記念館もミュージアムも立ち寄って見学したいというほどの気持ちもなく、申し訳ないが通り過ぎた。
一度だけの印象で申すのも何だけれど、これらの施設がいつまで存続できるのだろうかと将来が危うくさえ思えた。
やはりこうしたものは時代の趨勢というものがあるね、と友人と印象を述べ合いながら後にした。 -
さて、寅さんはパリでは大々的にアッピールされている。
昨年2022年は寅年で、これにちなんでかパリの日本文化会館では「男はつらいよ」シリーズ全作品を上映するという試みが行われ、それなりに好評だったようだ。
映画の上映は、この1月にいったん終了しているはずだが、関連した企画が3月まで続いているとも聞いている。
セーヌ川に向かって、巨大な寅さんがTORASANの文字の下でにこちらに笑顔をみせている。 -
対岸の16区からもセーヌを行きかう観光船からもTORASANさんは見えるだろう。
TORASANって何? そうやってインプットされればしめたものかも知れない。
常に旅に出ていた寅さんだが、海外にはついに足を運ばなかったようだ。
「フーテンの寅さんパリを往く」作品でもあったら、さぞ面白かったろうにと思ってしまう。 -
さて、葛飾柴又で友人イチ押しの「吉野家」製には出会えなかったが、次点の「高木屋」製の草団子を家への土産とした。
次点でも満足、満足。
利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。
この旅行記へのコメント (4)
-
- yunさん 2023/03/31 10:03:35
- 初訪問はいつの日
- 桜咲く日本の日々
ご予定多忙でも、いろいろと楽しまれたことと思います。
寅さんの葛飾柴又
東京生まれ・在住ながらも未訪というyunでございます。
いつか、いつか…と先延ばし。
草団子に釣られて出掛けるのが最も効果的と考えていましたが
帝釈天の長廊下と彫刻群を全く知らず、大変に興味が湧きました。
お出かけ虫が「行こう!」と申しております。ご紹介に御礼。
ご友人との待ち合わせエピソードは、我が事の様に…。
己の脳内意識と、身体実態がかけ離れゆく一方の毎日。
気持ちばかりが世界を駆け巡る…です。
渡仏もうすぐ
何かと手を焼かせてくれるアパルトマンが、
大人しくお帰りを待っています様に。
パリの寅さん写真が同視線で嬉しかった yun
- ばねおさん からの返信 2023/04/01 21:56:27
- RE: 初訪問はいつの日
- パリで同じTORASANを眺めたことは偶然であったとしましても、やがて柴又の草団子につながっていくことは必然のように思われます。
そして、両手に串団子のお花見など(yunさんは、決してなさらないとは思いますが)は、とても絵になる柴又風景ではないかとさえ思えてきます。
柴又で行き損ねた場所がひとつあります。
帝釈天裏手の「山本亭」という和風建築&庭園で葛飾区で管理運営しているとのことです。興味があったのですが、道案内役の友人が後半少々おつかれの様子であったためカットしてしまいました。
間もなくパリに戻ります。
昨年暮れには、アパルトマンの水漏れというパリの代表的名物を味わうことができましたが、果たして今年はどんな出会いがあるやら
通りがかりにちょっとだけお花見をしたばねおより
-
- mistralさん 2023/03/27 13:51:34
- 葛飾柴又
- ばねおさん
コメント、お久しぶりとなります。
ばねおさんが葛飾柴又の旅行記を?と思って、前の旅行記から
拝見していきましたら、
日本に一時帰国されておられたんですね。
それで納得できました。
パリからのお便りも大好きですが、柴又の旅行記も堂に行っていて
日本ご在住と聞いても頷いてしまいます(笑)
矢切りの渡しの、江戸川を挟んだ千葉県側は夫の実家の近くです。
一度ぐらいは渡ってみたいと思っていましたが、すでに義理の両親も
亡くなってしまいました。
「川甚」閉店とのニュースがありましたが、老舗のお料理屋さんの閉店を
惜しむ声もたくさんあったとか。
無くなってしまってから、ああ、行っておけば良かった、と後悔ばかりです。
柴又、何度か行っていますが
いつも行き当たりばったりで、草団子の名店、知りませんでした。
今度行く折には「高木屋」を目指します。
もうすぐパリにお帰りの頃でしょうか。
道中、どうぞお気をつけて。
mistral
- ばねおさん からの返信 2023/03/27 23:34:39
- RE: 葛飾柴又
- mistralさん こんばんは
コメントお寄せいただきありがとうございます。
寅さんを通してしか知らなかった柴又の初訪問でしたが、昔日の面影が残る良いところですね。
> 矢切りの渡しの、江戸川を挟んだ千葉県側は夫の実家の近くです。
> 一度ぐらいは渡ってみたいと思っていましたが、すでに義理の両親も
> 亡くなってしまいました。
そうでしたか、ご縁のある地なんですね。
もう一度来る機会がありましたら、渡しを利用して旧矢切村を歩いてみたいと思います。
「川甚」は露伴、漱石以外にも数多くの文学作品に登場する店だったことを知りました。私が見たのは鉄筋コンクリート造りでしたが、以前は木造の建物もあったようです。
本当に一度は足を運んでみたかった店ですね。
> 柴又、何度か行っていますが
> いつも行き当たりばったりで、草団子の名店、知りませんでした。
> 今度行く折には「高木屋」を目指します。
高木屋製おいしかったですが、同行の友人の話では「吉野家」がダントツ一位のようです。ただ、土日祝日と庚申の日のみの営業ということなので今回は逃しました。ぜひこちらもお試しあれ。
> もうすぐパリにお帰りの頃でしょうか。
> 道中、どうぞお気をつけて。
ありがとうございます。
日本滞在も残すところ10余日となってしまいました。
どうして時間はこんなにも早く過ぎていくのでしょうか。
ばねお
コメントを投稿する前に
十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?
サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。
亀有・柴又(東京) の旅行記
旅の計画・記録
マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?
4
33