2019/08/19 - 2019/08/19
181位(同エリア711件中)
玄白さん
退職前の15年間ほど一緒に仕事をした仲間と半年ぶりの飲み会で上京。ついでに以前から一度訪れてみたいと思っていた東京都庭園美術館に行ってみた。戦前の皇族の一人、朝香宮殿下夫妻の邸宅だった建物である。戦後まもなく、吉田茂首相の公邸、迎賓館として利用され、その後西武鉄道に売却され、1981年に東京都が取得し1983年より美術館として公開という数奇な経緯を辿っている。
フランスに滞在したことがある朝香宮夫妻は、20世紀初頭のフランスで流行していたアール・デコ様式に傾倒し、邸宅の内装をアール・デコ様式で飾った。ルネ・ラリックやアンリ・ラパンと言ったアール・デコを代表する作家の作品が至る所に取り入れられていて、わざわざフランスに出掛けなくとも、本格的なアール・デコに触れることができる。
このところ、東京に行くのはもっぱら飲み会のため、ついでにどこかの美術館・博物館や写真展を見ていくという状況が続いている。(笑)
- 旅行の満足度
- 4.5
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- JRローカル 徒歩
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目黒駅から徒歩で10分弱、国立科学博物館自然教育園の広大な敷地の一角に東京都庭園美術館がある。受付でチケットを購入し、美術館に向かう途中に、猛暑対策のミストが盛大に噴き出ていた。入場料は企画展示内容により変動するが、この日は¥900、ただし、65歳以上の高齢者ということで、身分証明書は持参していなかったが、半額にしてもらえた。
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名前の通り、洋風、和風の庭園があり、庭園だけ見学することもできる。日差しが暑いが、まず、庭園を巡ってみよう。建物の南側に面している芝生広場。
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真夏の花、キョウチクトウが、暑さを一層強調しているようだ。
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庭園の南側部分が洋風庭園である。花が植えられているわけではなく、深緑の木々に囲まれた芝生の庭である。東京のど真ん中とは思えない緑豊かなところである。
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洋風庭園の西側が和風庭園である。規模は小さいが、池の周りを巡る回遊式庭園になっている。
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池の畔に「光華」と名付けられた茶室がある。武者小路千家の茶人、那珂川砂村という人が設計、大阪の数寄屋大工、平田雅哉が施工し1936年に完成した比較的新しい茶室である。「光華」という茶室名は朝香宮殿下自らの命名だそうだ。
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小間、広間、立礼席と三つの茶席があり、立礼席まで立ち入ることができる。立礼席から広間を見た写真である。右側が水屋になっている。茶道をたしなむ連れ合いが見たら、こんなところで茶事をしたいと思うかもしれないが、「光華」は一般に貸し出しはされておらず、美術館主催の茶会、呈茶で使用されるだけである。
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こけら葺きの中門
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ざっと、庭園を巡ったあと、美術館内部へ。内部に入るとアール・デコ装飾満載だが、建物の外観からは、右側の円筒形の出窓がわずかにアール・デコの雰囲気があるのみ。
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それよりも、目を引くのは玄関両サイドに置かれた狛犬。どうみても洋館とは不釣り合いで違和感がある。建築当時(1930年代)、関係者のだれもが玄関両脇に狛犬を配することに大反対したが、朝香宮殿下が頑として譲らず設置したという経緯がある。どういう気持ちだったのだろうか?
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イチオシ
玄関に入ると、出迎えてくれるのが、スリムな女性像がレリーフのガラス扉。全く同じガラスレリーフが4枚並んでいる。フランスのアール・ヌーボー、アール・デコ二つの流行時期に活躍した宝飾デザイナー、金細工職人、かつガラス工芸家のルネ・ラリックの作品である。4枚のうち、一枚は朝香宮殿下の次男が割ってしまい、急遽スペアのガラスが使われたという逸話が残っている。
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女性像の一部を拡大。鋳鉄製の鋳型でプレス成型する方法で制作されている。近代工業生産技術を装飾作品に利用する点ではアール・デコ様式であるが、植物や女性の曲線美をモチーフとする19世紀末のアール・ヌーヴォーのテイストが感じられる点で、両方の様式に取り組んできたルネ・ラリックらしい作品と言える。
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女性像のガラスレリーフの玄関ドアの床は、精緻なモザイク模様になっている。一見すると、タイル張りのようだが、カラフルな大理石を組み合わせて作られている。どこか、古代ローマや古代エジプトのモザイク画を彷彿とさせるデザインだが、当時は、考古学発展の時代でもあり、古代ローマ、エジプトの遺品が盛んに発掘された時代である。そんな時代背景を反映しているのかもしれない。
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玄関の天井ライト。照明一つとっても、各部屋ごとにことなる意匠で、一つ一つが作品になっている。
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第一応接室。玄関の左側直ぐ脇にある。大広間からは見られないので、玄関から室内を除いたところ。来客のお供の従僕の控えの間として使われていた。室内の木材はカエデで統一されていて、床はケヤキの寄せ木細工になっている。
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イチオシ
受付を通って内部に入ると、そこは大広間である。格子縁の中に半円状の照明ライトが規則正しく配置されているのが印象的。大量生産の工業製品を巧みに利用した装飾がアール・デコの神髄なのである。
2つのアーチの間には大きな鏡が置かれ、背後のルネ・ラリックのガラスドアと撮影している自分の姿が映り込んでいる。 -
鏡の前に置かれた花瓶。古代ギリシャの黒絵様式の壺に似たデザインである。作者はジャン・マヨドンという人物である。
工業製品的な無機質で繰り返しのリズム感を生かした美意識とともに、古代エジプト、ギリシャ、ローマやアステカの文化、日本、中国の東洋美術の要素をも柔軟に(無節操ともいえる)取り入れているのが、もう一つのアール・デコ様式の特徴なのである。 -
鏡の右側の壁に飾られたアンリ・ラパン作の油絵。「サント・ヴィクトワール山麓 2人の子どものいるプロヴァンス地方の風景」という長ったらしいタイトルがついている。サント・ヴィクトワール山と言えば、すぐに思いだされるのが、セザンヌの一連の作品である。
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鏡に向かって右手に2階に上がる階段がある。第1階段と呼ばれている。右側手摺りのジグザグのデザインもまた、アール・デコの特徴的デザインである。
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階段の直ぐ横にある大理石のレリーフ。フランス、ボルドー出身の画家、彫刻家のイヴァン・レオン・アレクサンドル・ブランショの作品「戯れる子供たち」
彼はフランス滞在中に允子妃の水彩画を教えていて、その縁で朝香宮邸建築に関わったという。 -
イチオシ
大広間を横切り庭に向かって進むと、次室と呼ばれている小部屋がある。右隣りが大客室という大きな部屋があるので、いわばこの部屋は次の間といったところだ。ここで目を引くのが、部屋の中央に置かれた大きな白磁の置物である。中に水を流す仕掛けが施されていて、室内噴水の機能を持っていたので、旧宮内省の図面には噴水塔と記されているという。朝香宮夫妻は、照明部分に香水を垂らし、香りを楽しんでいたと伝えられており、今では香水塔と呼ばれている。
噴水塔に香水・・フーム! そういえば6年前のスイスに一ヵ月滞在中、ヌーシャテルという小さな街を訪れた時、17世紀にこの町を支配していたオルレアン公が、街の噴水塔にワインを流させたという逸話があったことをふと思い出した。 -
次室の隣が大客室。朝香宮邸を訪れる賓客と面談する部屋として使われた。天井のデザイン、壁や柱のシコモール材使用など部屋全体のデザインはアンリ・ルパンによる。
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大広間に通じる扉。マックス・アングラン作のフロスト仕上げのエッチングガラスの扉である。モチーフは花のようだが幾何学的に抽象化されているのが、アール・デコ風。
上部のタンパン装飾は、レイモン・シュブという人物の作。 -
大客室から見た次室の香水塔。仕切りの扉は、大広間に通じる扉と同じマックス・アングラン作のエッティングガラス。一個一個が手作りではなく、大量生産工業的手法が使われているところがアール・デコならではある。
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マックス・アングランのエッチングガラスのデザインをアップで。
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扉の横の壁上部を飾るモノトーンの絵。誰の作だったかな?(記録を撮るのを忘れた)
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天井のシャンデリアは、ルネ・ラリックによる。「ブカレスト」という作品名がついている。ライトを支える下の部分は、普通のシャンデリアのようなシャラシャラした飾りではなく、分厚いガラスで、花弁をモチーフにしているようだが、どこか歯車を連想させる。こんなところもアール・デコ様式ならではだ。
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大理石製のマントルピース
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ストーブにかぶせるラジエーターカバーのデザインもアール・デコ風
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イチオシ
大客室より隣の大食堂を望む。正面に大理石製の豪華なサイドテーブルが置かれている。
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イチオシ
大食堂。来客との会食に使われた。南側の庭園に大きく張り出した作りが解放感を演出している。内装設計は、大客室と同様アンリ・ラパンである。
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豪華な大理石のサイドテーブル。ここに、高級ワインやシャンパンが並んでいたのだろうか?
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サイドテーブルに置かれたガラスの置物。ルネ・ラリックによるもので、「TOKYO」という銘が付けられている。
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暖炉の上の壁画はアンリ・ラパン作の油絵で、赤いパーゴラと泉が描かれている。
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照明はやはり、ルネ・ラリックによる。ライトのガラス製カバーはパイナップルとザクロのレリーフで、市松模様に配置されている。
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サザエやオウム貝が飾られたテーブルセッティング。当時の豪華な食事を連想させる。
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イチオシ
大広間の階段から2階に上がる。2階は朝香宮家の家族のプライベートな空間になっている。階段を上り切ったところが2階広間になっている。
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書斎。戦後間もなくの頃、宰相吉田茂が執務室として使っていた部屋である。部屋の四隅に飾り棚が置かれ、円形の空間になっている。ここに置かれていた書斎机は、新館の展示会場に移されていた。
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飾り棚の一つに置かれていた花瓶。これもアンリ・ラパンのデザインにより制作されたリモージュ磁器である。
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朝香宮殿下の居間。2階の部屋はアンリ・ラパンではなく、宮内省匠寮で設計されたものだという。円筒形の天井は解放感がある。全体に装飾は少なめで落ち着いた雰囲気である。壁紙は当時のものと同じデザインで5年前に復元されたものが使われている。
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朝香宮妃殿下の居間との間にある浴室兼トイレ。場所がら余計な装飾はないが、当時の日本からすれば、各段に近代的な設備だっただろう。
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允子妃殿下の寝室。允子妃殿下は明治天皇の第8皇女で、大正天皇は異母兄、昭和天皇の叔母にあたる。1910年に朝香宮と結婚した。1923年にパリに留学していた夫が交通事故で重傷を負い、看護のため、允子妃もパリに2年間滞在していた。その間に、当時フランスで流行していたアール・デコに傾倒し、帰国後に宮邸を新築する際、アール・デコ様式を取り入れることに尽力した。だが、朝香宮邸が竣工後わずか一年で、重篤な腎臓病を患い亡くなった。
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部屋の片隅に、妃殿下愛用のブレスレットとハンカチが展示されていた。
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允子妃殿下の居間。どの部屋も趣向を凝らした独特の照明になっているが、この部屋の5つのボール状のライトが目を引く。大きな鏡が設えられていて、女性の部屋らしい作りになっている。
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朝香宮夫妻の寝室・居間の間の庭に面して白黒の大理石が敷き詰められたベランダ。夫妻の居間からのみ出入りできるプライベートな空間で、芝庭や和風庭園が望める。
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姫宮居間。朝香宮夫妻には2男2女の子供がいて、2人の娘は、紀久子女王、湛子(きよこ)女王という名前であった。この部屋はどちらの娘が使っていたのだろうか?
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2階から、狭い階段で3階に通じている。ここを通るときだけは、階段登り口に係の人が居て、人数制限をしている。
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3階に行く階段の手前の天井のカラフルな照明。
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3階はウィンターガーデンと呼ばれている部屋で、温室として利用されていた。水道の蛇口、排水溝、花台が設えてある。
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本館の見学が終わってから、新館に移動。ここでは9月23日まで「1933年の室内装飾」という企画展が行われている。本館でも新館でも、平日は基本的に撮影自由となっている。特定の展示物のみ撮影禁止である。
写真はアンリ・ラパンのデザインでフランスのセーブル制陶所で制作された蓋蓋付壺。ラパンNo21というカタログ番号(?)がついている。 -
書斎に置かれていた机。戦後まもなく吉田茂首相が、この机で執務していた。
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ルネ・ラリック作の装飾ガラスの器。作品名「オラン」
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これもまたルネ・ラリック作の装飾ガラスの花瓶。作品名「インコ」
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允子妃殿下自筆の水彩画。指導していたイヴァン・レオン・アレクサンドル・ブランショによると、允子妃は絵の才能に大変恵まれていたと評している。
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允子妃の彫像。
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新館内に併設された「カフェ・ド・パレ」。ガラス張りのモダンなカフェである。このカフェオリジナルのシフォンケーキが人気だそうだが、これから飲み会があるし、オジサン一人で入るのも気が引けるので、そとから外観写真を一枚撮っただけ。
一時間半ほど見学したが、まだ見逃したものが色々ありそうだ。連れ合いも行ってみたいと言っているので、また機会があれば再訪しようと思う。和風庭園の紅葉もきれいらしい。
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