銀座・有楽町・日比谷旅行記(ブログ) 一覧に戻る
 久しぶりに有楽町の駅を降りると、ひやりと冷たい風が吹き抜けた。<br /> 2月17日の土曜日の朝のことである。<br /> 有楽町は繁華街でありながら人通りは少なかった。<br /> 駅前を出るとすぐに会場に向かったのであるが、数歩あるくとテレビカメラに出くわした。カメラがレポーターを映し出しているのである。さすがにテレビ局も今日の世紀の一線を伝えるべく力が入っているなと思った。<br /> カメラに向かって話しているレポーターをよく見ると何処かで見かけた顔だ。そのとき、ハッと気付いた。新進気鋭の棋士・高見泰地六段ではないか。高見六段は藤井五段対羽生竜王の対戦を有楽町の駅前から興奮を伝えているのであった。しかし周りにあまり人はいなかったのだが・・・・・・。<br /> そうは云っても国民注視の対戦には違いなかった。そう思うとなんだかぼくも身震いがしてきた。<br /> 対戦会場である駅前に建つ有楽町マリオンに入った。かつては朝日新聞東京本社があった場所である。今は多くのテナントが入っている。丸の内ピカデリーの映画館、プラネタリウム、阪急MEN’S・TOKYO、ルミネなどの複合商業施設である。対戦会場は12階の朝日ホール、解説会場は11階の朝日スクエアとなっている。<br /> <br /> 朝日杯将棋トーナメントは朝日新聞が主催する将棋の棋戦である。これは名人戦や竜王戦などの八大タイトルに次ぐ大きな棋戦である。歴史的対局を見るべく、ぼくは和歌山から飛行機に乗り急遽かけつけたのであった。(前日泊)<br /> この棋戦は公開対局であり2月1日よりネットで申し込みをする。ぼくもネットがアクセス集中するなか3時間かけてやっとチケットを確保した。よってもちろん即日完売である。会場は二か所ある。藤井五段と羽生竜王の対局が行われる大ホールと、もうひとつは佐藤天彦名人の解説による解説会場である。ぼくは解説会場の方を申し込んだ。ここの料金は3000円。対局を見る大ホールの方は9600円から4000円まで各種ある。<br /> ぼくはヘボ将棋なのでとてもプロの対局を生で見るだけでは理解できない。そこで解説付きの会場を申し込んだのである。<br /><br /> 有楽町マリオンに入るとエレベーターで11階にある解説会場に向かった。<br /> 入り口に着くと、2時間前にもかかわらずファンが二重三重にも列を作っていた。報道陣も大勢詰めかけている。対局は10時半開始であるが解説は10時から始まる。しかし、もうこの盛況である。入場は9時20分となっていた。<br /> 会場前の列に並び1時間半以上待つと予定の時間が来た。しかし開場時間となっても入り口の扉はいっこうに開こうとしない。主催者が出てきて入場が遅れる理由を説明した。それによると解説の佐藤天彦名人と聞き手の山口江梨子女流二段のリハーサルが長引いているということである。しかし2時間近く立ったまま待たされると、足も痛く”もっと早くからリハーサルしておけよ!”とイライラが言葉になって出てきてしまいそうだ。<br /> 約30分遅れて解説会場に入ることになった。後ろの壁ぎわには中継するカメラの放列が見えた。ステージには司会のテレビ朝日・田端祐一アナウンサーが座っている。<br /> 田端アナは軽快なテンポで今日の進行の説明を始める。そんなところへ佐藤天彦名人と山口恵理子女流が登場した。二人の頭にマイク付のヘッドホンが掛けられると、いよいよ藤井五段と羽生竜王の対局が始まった。<br /><br /> 解説会場にはモニターが用意され対局の様子が映し出される。モニター画面を見ながら山口女流が質問をし、佐藤名人が指された手がどういう意味を持つのかを解説する形だ。<br /> 朝日杯は持ち時間40分、早指しである。佐藤名人の解説を聞きながら一手一手には深い意味があるのだなと、ヘボ将棋のぼくはさらに思いながらモニター画面を凝視していた。<br /> 対局が始まって、先に持ち時間が無くなったのは藤井五段である。持ち時間が無くなった後は一手1分以内に指さなければいけない。名人戦などは持ち時間が九時間、順位戦は八時間、朝日杯はこの早指しが特徴なのである。さらに公開対局というところも・・・・・。<br /> 対局が始まって1時間余り、局面が動いたのが79手目、藤井五段が1三歩と王手した場面であった。ここまではほぼ互角。やや羽生竜王が有利か!という形勢であった。この1三歩に羽生竜王が動揺したのであった。ただの歩取りなのであるが、これが羽生竜王の思考を狂わせた魔性の一手であったのである。これに戸惑いを覚えた羽生竜王はその後、9九銀と形勢を大いに変える悪手を放ってしまったのである。これ以後、藤井五段の攻めが始まった。それは鬼神を思わせる猛烈な攻めであった。そしてついに藤井五段は最後まで読みきったのである。119手目、4七桂としたところで羽生竜王は投了したのであった。<br /> 会場は大きな歓声と怒濤の拍手に見舞われた。<br /> 称賛と溜息、そして大きな感動が会場を包み込んでいったのである。<br /><br /> どよめきがまだ収まらない中15分後、藤井五段と羽生竜王が解説会場に現れる。会場全体が二人に惜しみない拍手を送った。佐藤名人からは労いの言葉が両対局者に掛けられた。藤井五段は「羽生竜王に勝てたことは望外の喜びであるが大きな自信にもなった」と述べた。<br /> 「むずかしい将棋であったが、あらためて藤井五段の強さと才能の素晴らしさを実感した」と羽生竜王は感想を述べた。<br /> 藤井五段は午後からの広瀬八段との決勝戦にも勝ち、朝日杯将棋トーナメントを優勝するとともに史上最年少で六段に昇段したのであった。<br /> <br /> この日、対戦会場や解説会場に参加した者には抽選で藤井五段や羽生竜王、佐藤名人等のサイン色紙や扇子が配られたが、藤井五段のサインが入った色紙は超レア物となってしまった。なぜなら”五段の在位期間”はわずかに16日、今日から藤井六段となったからである。当然、五段のサイン色紙は価値が上がるのは間違いないからである。<br /> ぼくの持っている『大志』と揮毫した四段当時の扇子はいったい幾らになるのだろうかと、下卑たことばかり考えながら僕は会場を後にしたのであった。<br /><br />

歴史的瞬間を見逃すな(藤井五段対羽生国民栄誉賞の対戦を見に行った)

7いいね!

2018/02/17 - 2018/02/18

1741位(同エリア2887件中)

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nakaohideki

nakaohidekiさん

 久しぶりに有楽町の駅を降りると、ひやりと冷たい風が吹き抜けた。
 2月17日の土曜日の朝のことである。
 有楽町は繁華街でありながら人通りは少なかった。
 駅前を出るとすぐに会場に向かったのであるが、数歩あるくとテレビカメラに出くわした。カメラがレポーターを映し出しているのである。さすがにテレビ局も今日の世紀の一線を伝えるべく力が入っているなと思った。
 カメラに向かって話しているレポーターをよく見ると何処かで見かけた顔だ。そのとき、ハッと気付いた。新進気鋭の棋士・高見泰地六段ではないか。高見六段は藤井五段対羽生竜王の対戦を有楽町の駅前から興奮を伝えているのであった。しかし周りにあまり人はいなかったのだが・・・・・・。
 そうは云っても国民注視の対戦には違いなかった。そう思うとなんだかぼくも身震いがしてきた。
 対戦会場である駅前に建つ有楽町マリオンに入った。かつては朝日新聞東京本社があった場所である。今は多くのテナントが入っている。丸の内ピカデリーの映画館、プラネタリウム、阪急MEN’S・TOKYO、ルミネなどの複合商業施設である。対戦会場は12階の朝日ホール、解説会場は11階の朝日スクエアとなっている。
 
 朝日杯将棋トーナメントは朝日新聞が主催する将棋の棋戦である。これは名人戦や竜王戦などの八大タイトルに次ぐ大きな棋戦である。歴史的対局を見るべく、ぼくは和歌山から飛行機に乗り急遽かけつけたのであった。(前日泊)
 この棋戦は公開対局であり2月1日よりネットで申し込みをする。ぼくもネットがアクセス集中するなか3時間かけてやっとチケットを確保した。よってもちろん即日完売である。会場は二か所ある。藤井五段と羽生竜王の対局が行われる大ホールと、もうひとつは佐藤天彦名人の解説による解説会場である。ぼくは解説会場の方を申し込んだ。ここの料金は3000円。対局を見る大ホールの方は9600円から4000円まで各種ある。
 ぼくはヘボ将棋なのでとてもプロの対局を生で見るだけでは理解できない。そこで解説付きの会場を申し込んだのである。

 有楽町マリオンに入るとエレベーターで11階にある解説会場に向かった。
 入り口に着くと、2時間前にもかかわらずファンが二重三重にも列を作っていた。報道陣も大勢詰めかけている。対局は10時半開始であるが解説は10時から始まる。しかし、もうこの盛況である。入場は9時20分となっていた。
 会場前の列に並び1時間半以上待つと予定の時間が来た。しかし開場時間となっても入り口の扉はいっこうに開こうとしない。主催者が出てきて入場が遅れる理由を説明した。それによると解説の佐藤天彦名人と聞き手の山口江梨子女流二段のリハーサルが長引いているということである。しかし2時間近く立ったまま待たされると、足も痛く”もっと早くからリハーサルしておけよ!”とイライラが言葉になって出てきてしまいそうだ。
 約30分遅れて解説会場に入ることになった。後ろの壁ぎわには中継するカメラの放列が見えた。ステージには司会のテレビ朝日・田端祐一アナウンサーが座っている。
 田端アナは軽快なテンポで今日の進行の説明を始める。そんなところへ佐藤天彦名人と山口恵理子女流が登場した。二人の頭にマイク付のヘッドホンが掛けられると、いよいよ藤井五段と羽生竜王の対局が始まった。

 解説会場にはモニターが用意され対局の様子が映し出される。モニター画面を見ながら山口女流が質問をし、佐藤名人が指された手がどういう意味を持つのかを解説する形だ。
 朝日杯は持ち時間40分、早指しである。佐藤名人の解説を聞きながら一手一手には深い意味があるのだなと、ヘボ将棋のぼくはさらに思いながらモニター画面を凝視していた。
 対局が始まって、先に持ち時間が無くなったのは藤井五段である。持ち時間が無くなった後は一手1分以内に指さなければいけない。名人戦などは持ち時間が九時間、順位戦は八時間、朝日杯はこの早指しが特徴なのである。さらに公開対局というところも・・・・・。
 対局が始まって1時間余り、局面が動いたのが79手目、藤井五段が1三歩と王手した場面であった。ここまではほぼ互角。やや羽生竜王が有利か!という形勢であった。この1三歩に羽生竜王が動揺したのであった。ただの歩取りなのであるが、これが羽生竜王の思考を狂わせた魔性の一手であったのである。これに戸惑いを覚えた羽生竜王はその後、9九銀と形勢を大いに変える悪手を放ってしまったのである。これ以後、藤井五段の攻めが始まった。それは鬼神を思わせる猛烈な攻めであった。そしてついに藤井五段は最後まで読みきったのである。119手目、4七桂としたところで羽生竜王は投了したのであった。
 会場は大きな歓声と怒濤の拍手に見舞われた。
 称賛と溜息、そして大きな感動が会場を包み込んでいったのである。

 どよめきがまだ収まらない中15分後、藤井五段と羽生竜王が解説会場に現れる。会場全体が二人に惜しみない拍手を送った。佐藤名人からは労いの言葉が両対局者に掛けられた。藤井五段は「羽生竜王に勝てたことは望外の喜びであるが大きな自信にもなった」と述べた。
 「むずかしい将棋であったが、あらためて藤井五段の強さと才能の素晴らしさを実感した」と羽生竜王は感想を述べた。
 藤井五段は午後からの広瀬八段との決勝戦にも勝ち、朝日杯将棋トーナメントを優勝するとともに史上最年少で六段に昇段したのであった。
 
 この日、対戦会場や解説会場に参加した者には抽選で藤井五段や羽生竜王、佐藤名人等のサイン色紙や扇子が配られたが、藤井五段のサインが入った色紙は超レア物となってしまった。なぜなら”五段の在位期間”はわずかに16日、今日から藤井六段となったからである。当然、五段のサイン色紙は価値が上がるのは間違いないからである。
 ぼくの持っている『大志』と揮毫した四段当時の扇子はいったい幾らになるのだろうかと、下卑たことばかり考えながら僕は会場を後にしたのであった。

旅行の満足度
5.0
一人あたり費用
3万円 - 5万円
交通手段
JRローカル 徒歩 スターフライヤー

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  • 会場入り口に集まっている報道陣。2時間以上まえである。<br />

    会場入り口に集まっている報道陣。2時間以上まえである。

  • 入り口でインタビューを受けている熱心なファンたち。<br />まだ2時間前である。<br />

    入り口でインタビューを受けている熱心なファンたち。
    まだ2時間前である。

  • 将来有望な若手三段もインタビューを受けていた。<br />次の藤井聡太と云われている少年である。

    将来有望な若手三段もインタビューを受けていた。
    次の藤井聡太と云われている少年である。

  • 解説会場の壁際に並ぶテレビカメラや報道陣。<br />

    解説会場の壁際に並ぶテレビカメラや報道陣。

  • テレビカメラが狙っている。<br />

    テレビカメラが狙っている。

  • 聞き手の山口女流と佐藤名人にマイクが付けられる。<br />(ボケていて済みません)<br />

    聞き手の山口女流と佐藤名人にマイクが付けられる。
    (ボケていて済みません)

  • 朝日杯将棋トーナメントの看板の下、いよいよ解説が始まる。<br />

    朝日杯将棋トーナメントの看板の下、いよいよ解説が始まる。

  • 僕の座っている場所から佐藤名人と山口女流を写す。<br />右端はテレビ朝日の田端アナ、左端は朝日新聞の観戦記者。<br />

    僕の座っている場所から佐藤名人と山口女流を写す。
    右端はテレビ朝日の田端アナ、左端は朝日新聞の観戦記者。

  • 僕の持っている『大志』と揮毫された四段当時の扇子。<br />四段で扇子を出すのは将棋連盟で初めてのこと。<br />普通は名人やタイトルなど。四段ではありえない。<br />しかしこれもいまとなっては貴重ななものとなった。<br />いったい、値段はいくらに?<br />

    僕の持っている『大志』と揮毫された四段当時の扇子。
    四段で扇子を出すのは将棋連盟で初めてのこと。
    普通は名人やタイトルなど。四段ではありえない。
    しかしこれもいまとなっては貴重ななものとなった。
    いったい、値段はいくらに?

  • 帰りがけ、有楽町の駅に行くと号外が配られた。<br />和歌山まで持って帰ったのでシワクチャになったがこれも大変貴重なものとなった!<br /><br />

    帰りがけ、有楽町の駅に行くと号外が配られた。
    和歌山まで持って帰ったのでシワクチャになったがこれも大変貴重なものとなった!

  • 藤井五段対羽生竜王。<br />対局会場の写真。<br />(ネットの写真拝借)<br />

    藤井五段対羽生竜王。
    対局会場の写真。
    (ネットの写真拝借)

  • 優勝戦の広瀬八段との対戦。<br />(ネットの写真拝借)<br />

    優勝戦の広瀬八段との対戦。
    (ネットの写真拝借)

  • 優勝した藤井聡太六段。<br />(ネットの写真拝借)<br />

    優勝した藤井聡太六段。
    (ネットの写真拝借)

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この旅行記へのコメント (2)

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  • ヒコにゃんさん 2018/03/01 20:50:17
    2/17の土曜日、この日、私はニコ生釘付けでした!
    ナカオさん、競争率の激しい入場チケットの入手、そして歴史的瞬間の生観戦をされ、旅行記をこうして書き上げて下さったこと、私も一将棋ファンとして、嬉しい限りです。楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。さて、ただ今、藤井六段は阿部八段と竜王戦5組ランキング戦を戦っている最中です。ニコ生、将棋中継カラ目が離せません。藤井六段の応援中毒症にかかってしまいました!今、タイにいるのですが、iPad 画面に釘付けです。旅行そっちのけ状態です。

    nakaohideki

    nakaohidekiさん からの返信 2018/03/01 22:58:51
    RE: 2/17の土曜日、この日、私はニコ生釘付けでした!
    さっそくメッセージありがとうございます。
    藤井聡太ファンとしてもこのようにご返事いただけて嬉しいかぎりです。
    いまはタイランドをご旅行中だとか。
    それにもかかわらず阿部八段の対局をご観戦中だとか。
    ぼくもいままでニコニコ生放送で見ていました。
    藤井六段がここでも勝ちましたね!
    来週の師匠・杉本七段との対局も楽しみですね!
    今後ともよろしくお願いいたします。
    タイランドのご旅行お気をつけて行ってきてください。
    まずはお礼まで!


    > ナカオさん、競争率の激しい入場チケットの入手、そして歴史的瞬間の生観戦をされ、旅行記をこうして書き上げて下さったこと、私も一将棋ファンとして、嬉しい限りです。楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。さて、ただ今、藤井六段は阿部八段と竜王戦5組ランキング戦を戦っている最中です。ニコ生、将棋中継カラ目が離せません。藤井六段の応援中毒症にかかってしまいました!今、タイにいるのですが、iPad 画面に釘付けです。旅行そっちのけ状態です。

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