2017/09/15 - 2017/09/19
41位(同エリア442件中)
Pメテオラさん
- PメテオラさんTOP
- 旅行記51冊
- クチコミ18件
- Q&A回答20件
- 133,231アクセス
- フォロワー44人
スペインのバスク地方北部を走るウスコトレンとビルバオ・メトロは、今や世界最先端の狭軌鉄道。安全、正確、清潔で、旅客サービス、車内外のセンス、混雑の少なさ、安価な運賃水準など、どれをとっても素晴らしい。唯一の泣き所はスピードだろう。
私たち日本人が、日本の鉄道は世界一だとか、和風サービスこそお客様目線なんてうぬぼれているうちに、彼らに抜かれてしまったようだ。鉄道分野でも、日本の失われた20年があることを実体験できる。
そんなことを頭の隅に感じながら、異国の電車を楽しみ、車窓を眺め、訪問先を満喫した。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 交通
- 5.0
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 鉄道
- 航空会社
- エールフランス
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
Ⅰ 各駅停車の国際線
ウスコトレン:EUSKOTREN ことバスク鉄道の旅の始まりは、フランスのスペイン国境駅アンダイ。Hendayeと書いて「アンダイ」と発音する。難読地名で、アクセントは「ア」にある。薄いピンク色の化粧レンガをはめ込んだ駅舎はSNCF:フランス国鉄 のもの。ウスコトレンに乗るには、この駅舎を出て右に1分ほど歩かなければならない。 -
右がSNCFアンダイ駅、奥の青い看板がウスコトレンのエンダイア駅:Hendaia 。駅名からして、フランス領内にあるのに、バスク風あるいはスペイン風になっている。駅舎は海上貨物用コンテナ1個分くらいの小さくて簡易な造り。ウスコトレン全線およそ150Km中、唯一フランスにある駅だから、小なりといえども、当駅発着列車は、理論上すべて国際列車である。
けれども、実際は都市近郊電車の支線の終着駅みたいな感じだ。 -
エンダイア駅構内は、1面1線のこれ以上ない簡素な構造。朝6時ごろから夜11時前まで30分ごとに電車が到着しては折返して行く。
最新鋭の900型電車が到着した。折返し、ドノスティア・アマラ:Amara, Donostia-San Sebastian 経由、ラサルテ行きの各駅停車となる。 -
この900型電車は、ワンマン運転の4両固定編成。銀色のボディと、丸みを帯びた前面ガラス、窓周りの黒い縁取りが特徴。ドアは半自動の両開きで、座席の大半は4人がけクロスシート。地味な色合いで機能的なデザイン。車内外の落書きは、めったにないし、窓ガラスがほこりまみれということもない。車内やホームにゴミも落ちていない。一見しただけで、技術レベルが高く、効率的で手際よく運営管理されていることが分かる。
また、自動案内放送と、4カ国対応のLED文字案内機能が付いている。自動案内放送と言っても、基本的には、次の駅が近づくと「アマラ、ドノスティア」のように一回だけ駅名を言うだけだから、車内はいたって静か。日本の電車のように、駅に停まる度に「この電車はXX行きです。整理券をお取りください。車内は禁煙です。急ブレーキにご注意ください。休日往復きっぷがお得です。次は右側のドアが開きます」と、当たり前のような内容をくどくどと繰り返さない。 -
ウスコトレンは、エンダイア駅を定刻に発車した。300メートルほど走ると、フランスとスペイン国境のビダソア川を渡る。車窓のすぐ右側には、標準軌のSNCFと広軌のスペイン国鉄レンフェ:RENFE の軌間が異なる線路が敷かれている橋が見える。その背後に横たわる山の右手方向にあるのが、日本人にも人気上昇中のバスクムードが漂う村オンダリビア:Hondarribiaだ。
-
エンダイアからアマラまでは約40分かかる。
この区間は右側通行で、ドノスティアに近い数駅間を除いて単線である。スペイン国境の都市イルンからは15分間隔の運転、さらにドノスティアに近づくと区間運転電車があって7-8分ごとの運転になるので、単線区間では2、3駅ごとに反対方向の電車とすれ違う。
ドノスティア・サンセバスチャンのターミナル駅であるアマラ駅が近づくと、線路は直線的で真新しい高架複線区間に入いる。日本の大都市近郊の新興住宅街に敷かれた新線のイメージそっくりの光景が展開する。 -
バスク一帯は、山が海に迫る場所が多いので、駅と駅の間はトンネルばかりということも多い。線路改良と同時に移設した地下駅もある。駅前の高層マンションを左右に見ながら電車は順調に走る。
ウスコトレンの駅のデザインや色遣いは統一されていて、しかも銀色と青のシンプルなものが多い。リニューアルされた駅には必ずエレベーターがあり、バリアフリー度も完璧である。企業広告はもちろん、マナーポスター類も皆無だから、駅や電車内風景は、極めてすっきり。SF映画の宇宙船の中みたいな感じだ。当然、電車接近案内放送とか、マナーキャンペーン放送もない。電車が近づくと、発車案内表示横のランプが点滅する。 -
電車は、アマラ駅:Amara に着いた。この駅は、ドノスティア・サンセバスチャン新市街の南端にある折返し式のターミナル駅で、大半の乗客が入れ替わる。私も降りた。
日本人を含むガイジン旅行者にとっては、ドノスティア・サンセバスチャンの名前が入っていないので、本当にここで降りていいのか不安なようだ。「トーキョーに行きたい」って言っているのに、「ウエノ駅で降りろ」って言われている感じだと思ってほしい。 -
アマラ駅舎正面だ。青い看板が目印であるが、どこにも「アマラ」という駅名は書いていない。中央に書いてある字は、日本語にすると「ドノスティア近郊電車乗り場」という表記。
駅舎に降り立って、整然とした街並みを見ると、「わあーい、やっとグルメの町、ドノスティア・サンセバスチャンに来たあ」という歓びがふつふつと沸いてきた。バスク鉄道 鉄道系(地下鉄・モノレールなど)
-
Ⅱ 酔狂で乗るドノスティア、ビルバオ線
ウスコトレン唯一の泣き所はスピードである。
バスク地方を代表する二大観光都市ドノスティア・サンセバスチャンとビルバオ間の約100Kmを走るのにウスコトレンは2時間半もかかる。電車は1時間毎。ただし運賃は格安の片道6ユーロ。高速バスならば、30分に一本くらいの便があり、所要時間約1時間20分で10ユーロ以上。圧倒的多数の人が高速バスに乗るのは当然である。
アマラ駅は、ウスコトレンで最大の駅であると言っても過言ではない。ホームは1番線から7番線まであり、正面改札には写真のように自動改札機がずらりと並んでいる。車椅子や大型スーツケース用に幅の広い改札機もちゃんとある。 -
アマラ駅では、朝から晩まで電車の発着が絶えない。いつも半分以上のホームに電車が止まっている。留置線に旧型の青い電車を従え、各方面行きのプラットホームに新型電車がずらりと並ぶさまは壮観だ。
-
バスク人気質は、日本人に通じるところがあるので、高密度の電車運行管理ができる。大半の折り返し電車は4、5分停車しただけで、どんどん発車して行き、2、3分経つと、空いたばかりのホームに次の電車が入ってくる。
-
ウスコトレンは、軌間1000ミリメートルの狭軌鉄道。日本のJRや大半の私鉄、地下鉄の軌間が1067ミリメートルだから、線路を眺めた感じは日本のそれとほぼ同じ。おまけに、電車の床面とホームの高さを、ぴったり揃えてあることや、小ぶりな駅施設などの共通点が多いので、鉄道風景全体を見れば見るほど、ウスコトレンとJRや私鉄各線の雰囲気はそっくりである。しかも、サービスその他において、最近はウスコトレンの進歩が著しい。バスク州政府が、手を休めることなく、鉄道競争力維持のための次の一手を打ち、車社会に対する公共交通機関としての設備改善を行なっていることが、随所で伝わってくる。
日本の鉄道が、やや色あせ、いつの間にか時流に遅れた乗り物になっているような気がしてならなくなった。 -
アマラ駅を発車したビルバオのマティコ行き各駅停車は、時速60キロから90キロくらいで走る。スピードが遅いと言うと、手入れの悪い線路を古びた車両がガタゴト進むようなローカル線のイメージがあるが、ウスコトレンについてはあてはまらなかった。コンクリート枕木、ロングレール、簡易自動改札付き駅が標準仕様の単線電化路線を新型電車が許容速度いっぱいで走る。ただし、20世紀初頭の路線ゆえ、山間部では急カーブを切りながら線路がうねうね続くので徐行区間が多く、必然的に直線距離に対する鉄道の距離が長くなるので、直線的なルートを走る高速バスにスピードでは負ける。
その代わり、車窓には緑濃いバスクの山間風景や、小規模だけれども豊かな集落風景が絶えることなく展開する。海が見える駅も2、3あり、なんだか山陰本線の西側ローカル区間を電車で走っているような気分になった。
写真はDeba駅。駅周囲は湾に面した漁村風の小規模集落だ。 -
ドノスティア・サンセバスチャンとビルバオの中間付近の山間部は、ウスコトレン路線で一番ひなびた場所。築100年前後の駅舎は、手入れも良く、歴史の重みを醸し出している。自動改札機も、通行止め扉のない簡易式で、JRのSUICA用簡易改札機と同じ発想であることに、妙に親しみを覚えてしまう。
こういう場所にいると、ばっちりウスケラ、つまりバスク語が聞こえてきて、ベレー帽をかぶって背筋をピンと伸ばした翁が、駅の人に何か聞いたあと「エスケリーク・アスコ」などと原音のウスケラで「ありがとう」とお礼を言っているのを耳にする。
「すごいぞ!」 -
田舎の無人駅といえども、ウスコトレンの駅はきれいに整備、維持されている。近郊電車の駅というスタイルだ。駅のデザインは統一的で、落書きは殆んどない。電車は最低でも1時間に1本ある。
-
車窓の緑濃い山々。頂上付近は石灰岩が露出しているので、やや灰色。
いわゆるスペインのイメージとは全然違う風景が展開する。家々も立派で手入れがよく、地域一帯が豊かであることが実感できる。 -
電車がアマラを出て約2時間。リモアを過ぎると線路は再び複線になり、沿線に中層マンションも増えてきて、ビルバオが近くなったことが感じられる。
この系統は、2017年4月8日より、ビルバオ・メトロ3号線との相互乗入れを開始したので、新しい終点はビルバオ・マティコ:Matiko Bilbao である。従来のターミナル駅であったアチューリ駅には寄らない代わりに、ビルバオの都心部に近接したサスピカレアク/カスコビエホ駅に停車する。電車内の路線図は、ばっちり最新版になっているが、駅の路線図や案内文は、相互乗入開始前のままのものもある。一見の外国人旅行者は、あまり乗らないので、実害は少ないと思う。 -
ビルバオ・メトロ3号線への乗入地点ククヤーガ・エチェバリ駅:Kukullaga-Etxebarri のホーム風景。ウスケラ語感100%の地名だ。メトロ3号線は、既存メトロとは違ってウスコトレン社の運営なので、実質的にはウスコトレンの新線開通だ。また、将来はロイウにあるビルバオ空港までの延伸が予定されているので、1年、2年と経つうちに、運転系統や運転本数が変わってくるような気がする。
-
サスピカレアク / カスコビエホ駅:Zazpikaleak / Casco Viejo に着いた。意味は「旧市街」で、前者がウスケラ、つまりバスク語の呼称、後者がカステアーノ、つまりスペイン語の呼称。
まだ開業1年足らずなので、駅は壁も床もピッカピカ。思わずうっとり。
ここはメトロの一部なので、案内表示パターンは既存の1、2号線と同じであるが、基本カラーはウスコトレンの青だし、駅の構造も違う。1、2号線との乗換口には改札があるが、運賃はゾーン制なので二つの会社間を乗り継いでも高くならない。会社別完全縦割り主義のニッポンの運賃制度と大きく違う点の一つである。
今日のホテルに行くため、私もここで下車。長い長いローカル電車の旅を終えた。 -
Ⅲ ビルバオ近郊電車の旅
バリクカード:Barik card は、SUICAみたいなご当地版の交通系カード。ビルバオ市とビスカヤ県一帯の地下鉄、郊外電車、市電、バス、ケーブルカーで通用する。お買い物はできない。1枚3ユーロで、たぶん1ユーロ単位でチャージ可能。10人まで同時に使えるから、家族連れ、小グループでビルバオ観光の際は、記念品見合いも含めての購入をお薦めしたい。
右はじの指紋は、私の手あかではなく、カードそのものの図柄だ。
それではまず、ウスコトレンでゲルニカ、ベルメオ観光に出発だ。 -
ビルバオからゲルニカ、ベルメオ方面行きのウスコトレンは、旧来のターミナル駅アチューリ駅:Atxuri が始発だ。旧市街南端から500メートル南下したネルビオン川沿いにある。市電のトランヴィアとバスが通っている。駅舎は、茶褐色をした建物で、アーチ型玄関と小さな塔を持つ威風堂々とした造り。
ビルバオ アチュリ駅 駅
-
アチューリ駅も行止り式ホームの駅で、1番線から4番線まである。ちょうどウスコトレン電車3代が並んで停車中であるが、左側に停まっている一番古い青色の200形電車の左奥にもう一本ホームがある。
2017年4月のメトロ3号線の開通と、ウスコトレンとの相互乗入れ開始によりアチューリ駅発着電車は、ほぼ半減。土曜休日には1時間に1本ベルメオ行き各駅停車が発車するだけになってしまった。 -
右端が、アチューリ駅1番線。いま、新型900型電車4両編成による準急トラーニャ行きが発車中。電灯が付いているのが、次に出る各停ベルメオ行きだ。200型4両編成ワンマン運転の電車である。
左奥にネルビオン川や旧市街の南端が見える。 -
ウスコトレンは、ドノスティア・サンセバスチャン以西は全線左側通行。メトロもRENFEもビルバオ都市圏では左側通行だ。
駅のホーム先端に立って下り方向を見ると、ここでも、狭軌鉄道ニッポンの私鉄始発駅とそっくりな鉄道風景が展開する。相鉄の横浜とか西武新宿みたいな感じがするが、いかがだろう。 -
ビルバオ・アチューリ駅から約50分で電車はゲルニカ駅:Gernika に着く。電車の運転間隔は平日30分毎、土曜休日は1時間毎だ。平日の朝には通勤快速もある。
両都市間には郊外路線バスであるビスカイバス:Bizkaibus も同じような運転本数で走っていて、所要時間はバスが少し早い。
ゲルニカは、言わずと知れたピカソ作「ゲルニカ」のモデルになった町。バスク地方の小都市の魅力と、戦争の惨劇を心に刻むために降りる。ゲルニカ駅 駅
-
ウスコトレンの青い200型電車内部。1980年代の技術とデザインだが、それなりに落ち着きとカラーリングの工夫がある。ドアは半自動で、駅に着いたらボタンではなく、ドア中央に付いたハンドルを、ひねるように持ち上げて扉を開く。自動の駅名表示装置は追加装備してあるが、案内放送はない。
途中の駅から数駅乗ったり降りたりする人が多いけれども、たいていの電車は必ず座れる。体験的に言うと、このくらいがバスク標準、あるいは例外を除く欧州標準の混み方のような気がする。 -
ゲルニカ駅の上りホームへ通じる構内踏切にあったSLマークの注意標識。
最近、ウスコトレン社でも観光SL運転を始めたと何かに書いてあったから、その影響かも知れない。
このあたりも、バスク・オーラが高い地域なので、文字表示はウスケラ最優先でカステアーノ表示が次。世界的に有名はゲルニカなのに、鉄道関係設備に英語表示はほとんどない。
その代わり、どうしたものかとまごまごしていると、地元の人たちが「どうした、あっちだ」と親切にしてくれる。 -
再び電車の客となってベルメオまで乗り通す。ゲルニカを発車して15分ほどすると下り電車進行方向右に広大な湿地が見えてくる。ウルダイバイ自然保護区:Urdaibai だ。写真の右奥がゲルニカ付近。この湿地の端を電車はけっこう飛ばしながら走る。そして、湿地が尽きると海岸線に出て、いくつかのトンネルを抜けると終点ベルメオである。
-
ウスコトレン近郊電車の旅の終着駅ベルメオ:Bermeo 。
電車は、急峻な崖と造船所の間の狭い敷地に作られ、しかもカーブした駅にゴトゴトと入り込む。ここも1面1線の駅だ。アチューリから約1時間20分、ゲルニカから約30分である。 -
ベルメオ駅は半地下構造。写真正面の白い構造物が駅舎の入口で、内部にきっぷの販売機や改札口がる。
ベルメオは、その昔、クジラ漁で栄えた漁師町で、今でも漁港である。新旧の港を囲むように斜面に立ち並ぶカラフルなバスク風マンションが、ときどき観光用の宣伝写真に出てくる。
バルでピンチョス、リストランテで定食を取ろう。 -
Ⅳ ビルバオ・トランビアを眺める
ビルバオの市内電車はトランビア:Tranvia と言う。
この電車は、いわゆるニュートラムの市電で2002年開業。線路の幅は、ウスコトレンと同じ1000ミリメートル。ウスコトレン社が運行しているので、実態は、ウスコトレンのビルバオ市内線だ。ウスコトレンの路線図にも、黄緑色の線で書いてある。
起終点は、アチューリ:Atxuri とラ・カシーヤ: La Casilla 。ビルバオの新市街地区を北回りに取り囲むようにネルビオン川に沿って走っている。目の子で見たところ路線延長は約5Km。全線20分強の旅だ。
薄い灰色と黄緑色の3連接車体のモダンな車両が街中を往復している。
写真は、南の起点アチューリ駅前で、背後が近郊電車の駅舎。奥に線路が伸びていて、ずっと追って行くと、ウスコトレンの線路とつながり、さらに進むと簡易検修場のような建物が表れて終わる。
-
トランビアに乗ろう。均一運賃なのでバリクカードを停留所付近のカード読み取り機に1回タッチ。車内では、切符も売っていないし、カード読み取り機もない。
キセル発覚時の始末がどうなるかは、私も知らない。
線路はアチューリから4駅ほど先まで単線。市の中心アバンド停留所には双方向の電車がやってくる。右のアチューリ行きは5分待ち、左のラ・カシーヤ行きは7分待ちという表示が出ている。
道路上の線路は、バス以外通行禁止なので、電車はほとんど遅れないでやってくる。定時性はとても高い。
背後の赤いバスは、ビルバオ市内担当のビルボバス:Bilbobus 。 -
トランビア車内。開業以来15年目なのに、新車並みに清潔で、よおく手入れされている。蛍光灯切れや、落書き、ゴミも一切ない。走行中の音もほとんどなし。広告も一切なし。床の低いタイプの車両なので、車椅子でも簡単に乗降り可能。大半がクロスシート席で、やっぱり満員寿司詰めになることはない。
窓も大きいので、車内は明るい。外側がラッピング広告になっている編成が来ると、車内は採光が悪くなる分だけ少し暗い。 -
単線区間には、一カ所だけ交換駅がある。アリアーガ:Arriaga で、常に双方向の電車が入る。背後が、停留所名の由来のアリアーガ劇場だ。
トランビアは車と同じく右側通行。右の白いラッピング電車がラ・カシヤ行きだ。
かつて、ここには長距離バスターミナルがあって、周辺もごちゃごちゃしていた。いまは、再開発ですっきり。川沿いの出店などもなくなり、小ぎれいな遊歩道に変わっていた。
このトランビアに乗ると、ビルバオの再開発による大変身ぶりが驚くほど分かる。 -
ラ・カシーヤ行きトランビアは、アバンド駅前のビリビラ広場を右折。
-
ブエノス・アイレス通りの急坂を下ってネルビオン川左岸に達すると、線路は複線になり、しかも芝生付き専用軌道に大変身。環境にやさしい市内電車のイメージどおりの風景となる。
電車の左は、緩い台地でビルバオ都心部で最高級のマンション街だ。 -
やがてトランビアは、現代ビルバオのシンボル、ムセオ・グッグアイム:Museo Guggenheim 、つまりグッゲンハイム美術館の下をくぐる。たぶん、このあたりがトランビアで最高の風景だろう。
車窓には、ネルビオン川沿いの木立や、バスク風の窓枠が印象的なマンション、光り輝くタワービルが次々と現れては後方に去る。 -
ここは、アチューリから20分弱のサン・マメス停留所。スペイン・サッカーの名門のひとつアスレチック・ビルバオのスタジアムや、長距離バスの新しいターミナルへの最寄り停留所だ。背後は、バスク州立大学工学部校舎で、大通りの上を横切ってガラス張の建物が伸びている。
観光地区ではないが、勇躍するビルバオという都市の活力を感じられる場所だ。 -
終点ラ・カシーヤ停留所。複線の線路の片側をつぶしてホームが作ってある。トランビアは数分停車したのち、折返して行く。
-
トランビア全停留所に備えてある切符の自動販売機。バリクカードの読み取り機とは別の機械。定期的に職員が巡回して、動作確認や現金の回収などをしている。手入れもよく、故障はない。「自販機が故障していたので、切符が買えなかった」というキセルの言い訳が絶対に通用しないようになっている。
ビルバオには、まだ、そういうワルが少ないのも一方の事実だが・・・・。 -
終点ラ・カシーヤから線路の敷かれているアウトノミア通りの東方を眺めると、線路が延伸可能な雰囲気で途切れている。けれども、今のところトランビアの延伸予定はない。
-
Ⅴ 人気のビルバオ・メトロを楽しむ
これは、人気上昇中のビルバオ観光の名脇役、メトロの出入口だ。ガラスでできた芋虫がにょっきりと顔を出したユニークなデザインで、観光客の印象を鷲づかみにしている。
このガラス芋虫は、全駅とは言わないまでも、都心部の駅のそこそこの場所にある。モユア広場のものが一番目につくのは仕方がない。この写真は、次の駅インダウチュ駅:Indautxu の西側出口のもの。初秋の昼の陽光にきらりと輝く様子に、思わず見とれてしまう。柔らかい曲線美が私たちの目に優しい光景を醸し出している。手入れも大変よい。ガラスの割れやほこりもないし、落書きもなし。こういうところがビルバオの良さだ。 -
1995年に第一期区間が開業したメトロ・ビルバオも、ウスコトレンと同じ狭軌鉄道の仲間で1、2号線がある。線路の幅は1000ミリ、電車は全線で左側通行である。
つい、この前まではメトロと言ったら、メトロ・ビルバオのことだったが、2017年4月からはウスコトレン運行の3号線が走り始めたので、細かい説明が必要なときは使い分けが必要になった。
メトロ・ビルバオもビルバオ再生プロジェクトの一部なので、デザインも凝っている。建造物はイギリス人ノーマン・フォスターが設計し、ほぼ全駅で同じデザイン。ガラス芋虫は、彼のユニークなアイデアのほんの一部なのだ。
駅に入ると、2階吹き抜け状のトンネルの上が改札階、下がホームと線路だ。改札口はホーム前方と後方の二カ所にあり、通路上には切符の自動販売機、バリクカード販売機、その向かいに窓口兼駅事務室がある。色合いは、トンネル全体はグレー、駅名や乗り場案内などの重要事項表示はオレンジ色、その他は白。広告類は一切ない。SF映画に出てくる宇宙船の通路をカツカツと歩いている気分になる。また、ヨーロッパの地下鉄駅にしては照明が明るく、不安感を小さくしてくれる。電車が入ってくると、照明が一段明るくなり、足元注意喚起効果がある。マイクで「黄色い線の内側に下がれ」と、ぎゃあぎゃあ連呼するより、よっぽど大人びた対応だと思う。 -
ここは、ビルバオのメトロ初の地下鉄どうしの乗換駅サスピカレアク / カスコビエホ駅の1,2号線と3号線の乗換口兼出入口。奥の青い案内表示のスペースと、手前の自動改札機が、ウスコトレン運営の3号線の乗り場、エスカレータの下が従来からのメトロ1、2号線改札口や乗り場。この駅は、地形や周辺建物の制約のため、駅改札口付近のレイアウトが標準パターンではない。ガラス芋虫もいない。
けれども、全然迷うことはないので、ご安心あれ。 -
改札口にバリクカードをタッチすると初乗り運賃が引かれる。切符を入れた場合は、当然、改札機から出てきた切符をつまみ上げる。
そして、自分の行くべき方向の電車が来るホームへ降りる。バリアフリー希望者は、全駅、全ホームの端にエレベータが設置してあるので、それを使って改札階とホームを行き来する。
ホームは、全駅で方向別両側ホーム。終点の駅でも同じ。つまり、終点の駅で電車は、いったん引上げ線に入り、折返して反対側の発車ホームに入る。唯一の例外は、1、2号線が分岐するサン・イナシオ駅:San Inazio である。 -
どの駅も、日本人感覚からすると、あんまり混んでいない。中心駅のアバンドやモユア駅ではラッシュ時には、さすがに人の列が絶えないけれども、改札機を前に延々と長蛇の列が続くことは皆無。「人が多いな」程度。
メトロ・ビルバオのコーポレート・カラーはオレンジ。電車の車体下部にもオレンジ色のラインがある。
-
インダウチュ:Indautxu 駅名標と、駅周辺案内、運行案内や始発終電案内、会社からの告知板の統一デザイン。ちなみに、日本式の全列車の発車時刻を書いた時刻表はなく、運転間隔はXX時から△△時までは〇分おき、というように書いてある。ホーム上の列車接近案内も、2本分の電車が表示され、電車の行先と何分後に到着するかが刻々と告知される。
-
電車は、グレー地に窓枠部分が黒、下部にオレンジのラインが入った4両編成または5両編成。都心部を少し離れると高架区間があったりする。新しい路線なので、踏切は皆無。狭軌鉄道なので、電車の形さえ気にしなければ、実に日本っぽい鉄道風景が展開する。エンドレスに近いマイクによる案内放送がないこと、ワンマン運転、ホームはカメラ監視、全駅バリアフリー対応などでは、絶対にメトロ・ビルバオの方が日本の各種鉄道よりレベルが上。
-
車内照明は間接照明が原則。座席は、シンプルなクロスシートが基本の設計で、ドア付近は折り畳み椅子対応。車椅子スペースもところどころにある。開業から20年を経ても、車内の痛みが少なく、デザインも陳腐化していないのは、お見事の一言に尽きる。
-
朝8時前のエチェバリ駅:Etxebarri で始発電車待ち。電車は4,5分間隔でやってくる。ラッシュ時でも全員着席通勤を大原則にしているので、延々と二本目、三本目の始発電車を待つ必要は全くない。ビルバオは静岡、岡山くらいの人口規模の都市圏だが、日本では電車、バス通勤客はいつでも座れるのだろうか。
-
Ⅵ レンフェをちらっと見る
ビルバオの長距離列車は、2017年現在ほぼ絶滅状態である。遠くに行くには、まずクルマ。続いて高速バスか飛行機だ。
かつてビルバオ発着の長距離列車も相応の活躍をしていた時代を象徴するかのように、国鉄であるレンフェ:Renfe のビルバオ・アバンド駅は巨大である。BBVA銀行本店タワー東側に建つ時計塔付きの駅舎は、JR上野駅並み。現在、改修工事中。
余興で、ちょっぴり様子を見ておこう。ビルバオ アバンド駅 駅
-
国鉄アバンド駅の正面改札。自動改札機がずらりと並ぶ。近郊線は自転車持ち込み可。これもヨーロッパ中都市では、最近は標準サービス。
-
発着案内板と、下は近郊線の窓口きっぷ売場。自動販売機は右にあり写真の外。
時計の右側は長距離列車案内で、上が発車、下が到着列車。1日に5本しかなく、2本がマドリード往復、2本がバルセロナ往復、最後の1本がルーゴ往復。 -
今、国鉄アバンド駅の一番人気は、2階改札から一階に降りるエスカレーターの上にある大きなステンドグラスと、エスカレータ前のブロンズ製の顔の彫刻。ビルバオ都心のモダンアート・オブジェめぐりで立ち寄る人も多い。
到着した電車から降りて、正面改札に向かって歩いて行くと、目の前にステンドグラスが見えてきて、かなり圧巻。 -
1990年頃のビルバオ・アバンド駅構内。長距離列車も1日10本くらいあった。
あれから30年弱。背後のBBVAタワーは変わらず。けれども、スペインもバスクも日本も変わった。 -
運良くマドリード行き特急アルビアが停車中。乗客も少なめだ。
いま、バスク州では高速鉄道を鋭意建設中。ウスコトレン、メトロが、上質でセンスの良いサービスを提供しているので、高速列車も、きっと安全、正確、清潔で気持ちの良い電車になるはずだ。
食べ物も、景色も、電車も素敵なバスクよ、いつまでも。
利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。
この旅行記へのコメント (4)
-
- yukiさん 2018/03/19 01:12:25
- 海外と日本
- Pメテオラさま
本当にそうですね。
なんとなく何でも日本が最新技術で最先端かと思う人が多いように思います。。
私がいつも思うのは、日本の過剰包装と、過剰なサービス、過剰な車内放送に、トイレのフラッシュです。
トイレの水くらい自分のペースで流させてほしいと思うのです。
イオンも近頃は清算だけセルフの機械で操作するようになりましたが、清算を終えるまでに、一体、何回画面にタッチしなければならないのかと、そのサービスという選択肢の多さに便利どころか不便を感じています。
時にはカルチャーショックを受けに、外の世界へ出るのは良いことですね!
カメラちゃん
- Pメテオラさん からの返信 2018/03/19 06:35:57
- Re: 海外と日本
- カメラちゃんさま。コメントありがとうございました。世界と日本の、ちょっとした身の回りのいろいろな事柄を体験するのは、やはり、とてもよいことですね。イオンの例もおっしゃるとおりだと思います。
枯野どころか、緑の沃野に横たわるカルカッソンヌとミディ運河を、芭蕉の句に乗せて物語る作者さまに改めて拍手を送りつつ、御礼かたがた。
-
- junxさん 2017/12/27 03:41:37
- 鉄道からバスクの今が透けて見える
- バスクについて知っていることはほとんど何もないのですが、鉄道のお話からいまのバスクの空気が伝わってきました。車両基地のようなスポットにまで、わざわざ足を運んで撮影されているのですね。何気無く並べられている写真もよく見ればとても手慣れた感じで美しく、感心しました。
クリーンなウスコトレンとは対照的に前近代的かつ雑然としていますが、奇しくも同じメーターゲージのタイ国鉄のことも、いずれ書いてみたいと思います。そんな意味でも良い刺激になりました。
- Pメテオラさん からの返信 2017/12/27 06:34:03
- Re: 鉄道からバスクの今が透けて見える
- コメントありがとうございます。
鉄道のことは、忘れて、是非、バスクの旅もご計画ください。
タイ国鉄は、ちらりと見たことはありますが、ただ、それだけ。最近の経済発展で、国鉄もメトロも大きく躍進したと聞いています。是非、鋭くも楽しい物語ができますよう、お待ちしています。
コメントを投稿する前に
十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?
サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。
この旅行で行ったスポット
サンセバスチャン(スペイン) の旅行記
旅の計画・記録
マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?
4
57